血小板はどこで消えている?―ITPを「破壊か産生か」で読み解く
第110回医師国家試験 A問題 第14問
国試問題にチャレンジ
免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉でみられるのはどれか。
- a.大球性貧血
- b.白血球減少
- c.網血小板比率低下
- d.トロンボポエチン値低下
- e.骨髄巨核球数正常または増加
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ITPは血小板に対する自己抗体により主に脾臓で血小板が破壊される疾患で、骨髄の造血能は保たれるため、骨髄巨核球は正常〜増加し、網血小板比率は増加します。TPOは巨核球に消費されるため正常〜軽度上昇にとどまり、巨核球が減少してTPOが著明に上昇する再生不良性貧血とは対照的です。白血球や赤血球は原則正常で、貧血を伴う場合は出血による鉄欠乏性の小球性貧血であり、大球性貧血や白血球減少をみたら他疾患を考えます。治療は成人ではピロリ菌陽性なら除菌、第一選択はステロイドで、TPO受容体作動薬やリツキシマブ、脾摘などが続きます。「破壊の亢進か産生の低下か」という視点は、血小板減少のあらゆる鑑別に応用できる基本的な考え方です。
解答・解説
正解はeです
免疫性血小板減少性紫斑病(immune thrombocytopenia:ITP、旧称 特発性血小板減少性紫斑病)の検査所見を問う問題である。 ITPは、血小板膜糖蛋白(GPIIb/IIIaなど)に対する自己抗体が血小板に結合し、主に脾臓のマクロファージに捕捉・破壊されることで血小板が減少する自己免疫疾患である。自己抗体は骨髄の巨核球にも作用して血小板産生をある程度抑制すると考えられているが、病態の中心は末梢での血小板破壊の亢進である。 この病態から、所見は次のように予測できる。 ・減少するのは血小板だけ:赤血球系・白血球系は原則として保たれる(出血が多ければ二次的に貧血を生じうる)。 ・骨髄は血小板を補おうとする:骨髄の巨核球数は正常か増加し、血中には産生されたばかりの幼若な血小板(網血小板)の割合が増える。 ・トロンボポエチン(TPO)は著しくは上昇しない:TPOは主に肝臓で一定量産生され、血小板や巨核球の表面受容体に結合して除去される。ITPでは巨核球量が保たれているため、TPOは正常〜軽度上昇にとどまる。 これは、骨髄での産生自体が低下している再生不良性貧血などとの対比で理解するとよい。再生不良性貧血では巨核球が減少し、網血小板比率は増えず、TPOは著明に上昇する。つまり「破壊の亢進」か「産生の低下」かを見分けることが、血小板減少の鑑別の鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 大球性貧血
ITPでは血小板以外の血球系は原則として障害されず、大球性貧血はみられない。大球性貧血はビタミンB12・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、肝疾患などで生じる。ITPでも出血(月経過多や消化管出血など)が持続すれば貧血をきたしうるが、その場合は鉄欠乏による小球性低色素性貧血となる。
- ×b. 白血球減少
ITPは血小板に対する自己抗体による疾患であり、白血球数・白血球分画は正常である。白血球減少を伴う血小板減少をみた場合は、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、急性白血病、巨赤芽球性貧血、脾機能亢進症、全身性エリテマトーデス(SLE)などを考える。ITPは2系統以上の血球減少がないことを確認する除外診断の側面をもつ。
- ×c. 網血小板比率低下
網血小板(reticulated platelet)は、骨髄から放出されて間もないRNAを多く含む幼若な血小板で、赤血球における網赤血球に相当する。ITPでは血小板が末梢で破壊されて寿命が短くなり、骨髄が代償的に産生を高めるため、網血小板比率は増加する。網赤血球が溶血性貧血で増え、再生不良性貧血で増えないのと同じ考え方である。一方、骨髄での産生が低下する再生不良性貧血などでは網血小板比率は増加しない。
- ×d. トロンボポエチン値低下
ITPの血中トロンボポエチン値は低下せず、正常〜軽度上昇を示す。TPOは肝臓で恒常的に産生され、血小板・巨核球のTPO受容体(c-Mpl)に結合して取り込まれることで血中濃度が調節される。ITPでは巨核球量が保たれているためTPOが消費され、血小板数が少ない割には上昇が目立たない。これに対し、巨核球が減少する再生不良性貧血ではTPOが著明に上昇する。血小板減少の程度の割にTPOの上昇が乏しいことは、TPO受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)がITPの治療に有効である根拠にもなっている。
- ○e. 骨髄巨核球数正常または増加
ITPでは血小板が末梢で破壊されるが、骨髄の造血能そのものは保たれている。血小板減少に反応して巨核球の産生が刺激されるため、骨髄の巨核球数は正常または増加を示す。ただし、自己抗体の作用により巨核球からの血小板の放出(血小板産生)は十分でなく、血小板付着像の乏しい巨核球が目立つことがある。巨核球が減少していれば、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群、白血病など産生低下をきたす疾患を考える必要がある。
ITPの概要
・小児型:ウイルス感染やワクチン接種の後に急性発症することが多く、多くは6か月以内に自然寛解する。 ・成人型:20〜40歳代の女性と高齢者に多く、慢性に経過しやすい。 ・症状:点状出血・紫斑などの皮膚粘膜出血、歯肉出血、鼻出血、月経過多。脾腫は通常みられない。
診断の考え方
血小板減少(10万/μL未満)があり、他の血球系に異常がなく、血小板減少をきたす他の疾患(偽性血小板減少症、薬剤性、SLE、肝硬変による脾機能亢進、骨髄疾患など)を除外して診断する。補助所見として、網血小板比率の増加、血漿TPOの軽度上昇にとどまること、骨髄巨核球の正常〜増加、抗GPIIb/IIIa抗体産生B細胞の増加などがある。なお血小板関連IgG(PAIgG)は他の病態でも上昇するため特異性が低い。
治療の概要(成人)
・Helicobacter pylori陽性例:まず除菌療法を行う(除菌により血小板数が回復する例がある)。 ・第一選択:副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)。 ・第二選択以降:TPO受容体作動薬、リツキシマブ(抗CD20抗体)、脾臓摘出術、脾チロシンキナーゼ阻害薬(ホスタマチニブ)など。 ・緊急時・手術前:免疫グロブリン大量療法、血小板輸血(効果は一時的)。
血小板減少の鑑別:破壊亢進か産生低下か
・破壊・消費の亢進(ITP、TTP、DICなど):骨髄巨核球は正常〜増加、網血小板比率は増加。 ・産生低下(再生不良性貧血、白血病、骨髄異形成症候群など):骨髄巨核球は減少(骨髄異形成症候群では異形成を伴い必ずしも減少しない)、網血小板比率は増加せず、TPOは著明に上昇。
POINT
・ITPは自己抗体による末梢での血小板破壊が主体で、血小板のみが減少する(白血球・赤血球は正常) ・骨髄巨核球数は正常〜増加、網血小板比率は増加 ・TPOは正常〜軽度上昇(再生不良性貧血では著明上昇) ・ITPに伴う貧血は出血による鉄欠乏性(小球性)で、大球性ではない ・成人ITPではH. pylori陽性なら除菌療法を最初に行う
