甘草が起こすのは腎炎ではなく「偽アルドステロン症」―障害部位で整理する薬剤性腎障害
第110回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
疾病と原因物質の組合せで誤っているのはどれか。
- a.Fanconi症候群 ―― カドミウム
- b.急性間質性腎炎 ―― 甘草
- c.急性尿細管壊死 ―― アミノグリコシド系抗菌薬
- d.腎性尿崩症 ―― リチウム
- e.慢性間質性腎炎 ―― 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
薬剤・毒物による腎障害は、障害部位で整理すると理解しやすくなります。カドミウムは近位尿細管を障害してFanconi症候群(イタイイタイ病)を、アミノグリコシド系抗菌薬は用量依存性に急性尿細管壊死を、リチウムは集合管でアクアポリン2を抑制して腎性尿崩症を、NSAIDsは長期多用で腎乳頭壊死を伴う慢性間質性腎炎を起こします。一方、甘草は11β-HSD2阻害によって低レニン・低アルドステロンを特徴とする偽アルドステロン症を起こすのが典型で、急性間質性腎炎の原因物質とするのは誤りです。急性間質性腎炎はβラクタム系抗菌薬やNSAIDs、PPIなどによるアレルギー機序が中心です。原因物質と障害部位・機序を結び付けて覚えることは、病棟で薬剤性の腎機能低下や電解質異常に気づくための基盤になります。
解答・解説
正解はbです
薬剤や化学物質による腎障害(腎毒性)と、その原因物質の対応を問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。 薬物・毒物による腎障害は、障害される部位によって整理すると覚えやすい。 ・近位尿細管:再吸収機能が障害され、糖・アミノ酸・リン・重炭酸・低分子量蛋白などが尿中に漏れ出る(Fanconi症候群)。カドミウム、鉛、期限切れのテトラサイクリン、イホスファミドなど。 ・尿細管上皮の壊死:急性尿細管壊死(ATN)として急性腎障害を起こす。アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチン、ヨード造影剤など。 ・集合管:抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)への反応性が低下し、腎性尿崩症を起こす。リチウムなど。 ・尿細管間質:アレルギー機序による急性間質性腎炎(βラクタム系抗菌薬、NSAIDs、プロトンポンプ阻害薬など)や、長期曝露による慢性間質性腎炎(NSAIDsを含む鎮痛薬の長期多用、アリストロキア酸など)。 甘草は漢方薬の多くに含まれる生薬で、副作用として有名なのは偽アルドステロン症(低カリウム血症、高血圧、代謝性アルカローシス)である。急性間質性腎炎の原因物質として結び付けるのは誤りであり、これが本問の正解となる。
選択肢考察
- ×a. Fanconi症候群 ―― カドミウム
正しい組合せである。カドミウムは近位尿細管上皮に蓄積して障害し、低分子量蛋白尿(β2-ミクログロブリン尿など)、腎性糖尿、アミノ酸尿、リン酸の再吸収障害、重炭酸の再吸収障害(近位尿細管性アシドーシス)といった広範な近位尿細管機能異常を起こす。これらがそろうとFanconi症候群と診断される。慢性カドミウム中毒であるイタイイタイ病では、腎からのリン喪失やビタミンD活性化障害により骨軟化症をきたし、強い骨痛を生じた。
- ○b. 急性間質性腎炎 ―― 甘草
誤った組合せであり、これが正解である。甘草の主成分グリチルリチンは体内で代謝されてグリチルレチン酸となり、腎の11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)を阻害する。この酵素は通常、コルチゾールを鉱質コルチコイド受容体に結合しにくいコルチゾンへ変換している。阻害されると大量のコルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を刺激し、アルドステロン過剰と同様の状態(ナトリウム貯留・高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシス)となる。血漿レニン活性とアルドステロンはともに低下するのが特徴で、これを偽アルドステロン症という。低カリウム血症が長期に続くと尿細管の空胞変性や多尿を生じることはあるが、甘草は急性間質性腎炎の典型的な原因物質ではない。
- ×c. 急性尿細管壊死 ―― アミノグリコシド系抗菌薬
正しい組合せである。ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシン、ストレプトマイシン、カナマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬は糸球体で濾過された後、近位尿細管上皮に取り込まれて蓄積し、細胞障害から急性尿細管壊死を起こす。腎毒性は投与量・投与期間・トラフ濃度に依存するため、血中濃度モニタリング(TDM)を行い、必要最小限の期間で投与を終えることが原則である。乏尿を伴わない非乏尿性の急性腎障害となることが多い。第8脳神経障害(聴覚・平衡覚障害)も代表的な副作用である。
- ×d. 腎性尿崩症 ―― リチウム
正しい組合せである。炭酸リチウムは双極性障害の治療薬で、集合管主細胞の上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)を通って細胞内に取り込まれる。細胞内でADHのシグナル伝達を妨げ、水チャネルであるアクアポリン2の発現・管腔側膜への移動を抑制するため、ADHが十分にあっても尿を濃縮できなくなる(腎性尿崩症)。多尿・口渇・多飲で発症し、デスモプレシンを投与しても尿浸透圧は上昇しない。長期使用では慢性間質性腎炎による腎機能低下も起こりうる。
- ×e. 慢性間質性腎炎 ―― 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉
正しい組合せである。NSAIDsを含む鎮痛薬を長期にわたり大量に使用すると、腎乳頭壊死を伴う慢性間質性腎炎(鎮痛薬腎症)をきたすことがある。NSAIDsはこのほか、プロスタグランジン合成抑制による腎血流低下(腎前性の急性腎障害)、急性間質性腎炎(ネフローゼ症候群を合併することがある)、高カリウム血症など多彩な腎障害を起こす。腰痛症や関節リウマチなどで長期投与する際には、尿中β2-ミクログロブリンやNAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ)など尿細管障害のマーカーや腎機能を定期的に確認する。
尿細管間質性腎炎
腎間質に炎症細胞浸潤と浮腫・線維化を生じる疾患で、原因として最も多いのは薬剤である。 ・急性間質性腎炎:薬剤に対するアレルギー反応が主体。βラクタム系抗菌薬、NSAIDs、プロトンポンプ阻害薬、抗結核薬などが原因となる。発熱・皮疹・関節痛、末梢血好酸球増多、尿中好酸球、無菌性膿尿などを伴うことがある。原因薬の中止が基本で、改善が乏しければ副腎皮質ステロイドを用いる。近年は免疫チェックポイント阻害薬による例も注目されている。 ・慢性間質性腎炎:鎮痛薬の長期多用、リチウム、鉛・カドミウムなどの重金属、アリストロキア酸(一部の生薬に含まれる)、高尿酸血症、低カリウム血症、Sjögren症候群などで生じる。尿濃縮力低下や尿細管性アシドーシスなど尿細管機能障害が目立ち、蛋白尿は軽度にとどまることが多い。
偽アルドステロン症(甘草)
高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスに加え、低カリウム血症による脱力やミオパチー(CK上昇)を生じる。原発性アルドステロン症との違いは、血漿アルドステロン濃度が低いことである。原因となった甘草含有製剤(芍薬甘草湯など)や甘草を含む食品を中止すれば改善する。
薬剤による腎性尿崩症
リチウムのほか、テトラサイクリン系のデメクロサイクリンもADH作用を抑制する(SIADHの治療に利用されることがある)。高カルシウム血症・低カリウム血症も尿濃縮力を低下させる。
POINT
・カドミウム → 近位尿細管障害、Fanconi症候群(イタイイタイ病) ・アミノグリコシド系 → 急性尿細管壊死(用量依存性)、聴覚障害 ・リチウム → 腎性尿崩症(アクアポリン2の抑制) ・NSAIDs → 腎血流低下による急性腎障害、急性・慢性間質性腎炎、腎乳頭壊死 ・甘草 → 11β-HSD2阻害による偽アルドステロン症(低レニン・低アルドステロン)
