「とびひ」の水疱はなぜ破れやすい?―表皮剝脱毒素とデスモグレイン1の関係
第109回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
黄色ブドウ球菌が産生する表皮剝脱毒素〈exfoliative toxin〉によって生じる疾患はどれか。
- a.伝染性膿痂疹
- b.壊疽性膿皮症
- c.尋常性痤瘡
- d.皮膚腺病
- e.丹毒
対話形式の解説
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ドクターまとめ
黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素は、表皮上層に多いデスモグレイン1を切断するセリンプロテアーゼで、顆粒層直下に裂隙をつくり破れやすい弛緩性水疱を生じさせます。毒素が局所で働けば水疱性膿痂疹(伝染性膿痂疹、とびひ)、血流に乗って全身に作用すればNikolsky現象陽性のブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)となります。一方、痂皮性膿痂疹や丹毒はA群β溶血性レンサ球菌、尋常性痤瘡はアクネ菌、皮膚腺病は結核菌が関与し、壊疽性膿皮症は炎症性腸疾患などに合併する無菌性の好中球性皮膚症です。同じデスモグレイン1を標的とする落葉状天疱瘡と組み合わせて理解すると、「標的分子の局在が水疱の深さと臨床像を決める」という水疱性疾患全体の見方が身につきます。
解答・解説
正解はaです
本問は、黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素(exfoliative toxin:ET)の作用と、それによって起こる皮膚疾患を問う問題である。
表皮剝脱毒素の作用
表皮の角化細胞どうしは、デスモソームという接着装置で強く結びついている。デスモソームを構成する接着分子の一つがデスモグレイン1(Dsg1)であり、表皮の上層(顆粒層付近)に多く分布する。表皮剝脱毒素(主にETA、ETB)は、このDsg1を特異的に切断するセリンプロテアーゼである。その結果、表皮の浅い層(顆粒層直下)で細胞間の接着が外れ(棘融解)、薄く破れやすい弛緩性水疱やびらんが生じる。
毒素が作用する範囲による病型の違い
・毒素が感染巣の局所で作用する場合:水疱性膿痂疹(伝染性膿痂疹の水疱型、いわゆる「とびひ」)。 ・毒素が血流に乗って全身の皮膚に作用する場合:ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS:staphylococcal scalded skin syndrome)。主に乳幼児にみられ、全身の発赤と表皮剝離を生じる。
設問の考え方
選択肢のうち、黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素が発症機序の中心となるのは伝染性膿痂疹である。他の選択肢は、無菌性の好中球性皮膚症(壊疽性膿皮症)、毛包脂腺系の慢性炎症(尋常性痤瘡)、結核菌感染(皮膚腺病)、レンサ球菌感染(丹毒)であり、原因や病態を整理しておけば消去できる。
選択肢考察
- ○a. 伝染性膿痂疹
伝染性膿痂疹は、細菌が表皮の浅い層に感染して水疱・膿疱・びらん・痂皮を生じる疾患で、掻いた手を介して他の部位や他人へ飛び火するように広がるため「とびひ」と呼ばれる。夏季に乳幼児に多い水疱性膿痂疹は黄色ブドウ球菌によるもので、菌が産生する表皮剝脱毒素がデスモグレイン1を切断し、表皮上層で細胞間の接着が失われることで弛緩性の水疱が生じる。水疱は破れやすく、びらんとなって周囲へ拡大する。近年はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による例も少なくない。治療は病変部の洗浄と抗菌薬の外用・内服である。なお、厚い痂皮を主体とし、年齢や季節を問わず発症する痂皮性膿痂疹は主にA群β溶血性レンサ球菌によるもので、まれに急性糸球体腎炎を続発することがある。
- ×b. 壊疽性膿皮症
壊疽性膿皮症は、名称に「膿皮症」とあるが細菌感染症ではなく、好中球の異常な活性化による無菌性の好中球性皮膚症である。膿疱や結節から始まり、辺縁が堤防状に隆起して暗紫色を呈する、急速に拡大する有痛性の潰瘍を形成する。下腿に好発し、針刺しや外科的処置などの軽い外傷を契機に新たな病変が生じたり悪化したりする現象(パテルギー)がみられる。潰瘍性大腸炎やCrohn病などの炎症性腸疾患、関節リウマチ、骨髄異形成症候群などの血液疾患、高安動脈炎などとの合併が知られる。治療は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬、生物学的製剤であり、表皮剝脱毒素とは無関係である。
- ×c. 尋常性痤瘡
尋常性痤瘡はいわゆる「にきび」で、思春期以降に顔面、前胸部、背部など皮脂腺の発達した部位に生じる毛包脂腺系の慢性炎症性疾患である。アンドロゲンによる皮脂分泌の増加と毛包の出口の角化異常によって毛穴が詰まり、面皰(コメド)が形成される。そこで皮膚常在菌であるアクネ菌(Cutibacterium acnes、旧名Propionibacterium acnes)が増殖して炎症を起こし、紅色丘疹や膿疱となる。治療にはアダパレンや過酸化ベンゾイルの外用、抗菌薬などが用いられる。黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素によるものではない。
- ×d. 皮膚腺病
皮膚腺病は、皮膚組織内に結核菌が存在する真性皮膚結核の一病型である。頸部などのリンパ節結核や骨・関節の結核病巣から、結核菌が連続性に皮膚へ波及して生じる。皮下に硬い結節ができ、やがて軟化・自潰して瘻孔や潰瘍を形成し、治癒後には索状の瘢痕を残す。頸部リンパ節に好発する。原因は結核菌であり、治療は抗結核薬の多剤併用療法である。黄色ブドウ球菌の毒素とは関係しない。
- ×e. 丹毒
丹毒は、主にA群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)が真皮の浅い層に感染して起こる急性の細菌感染症である。顔面や下腿に好発し、境界が明瞭でやや隆起した、熱感と圧痛を伴う鮮紅色の浮腫性紅斑が急速に広がる。悪寒・発熱などの全身症状を伴うことが多く、同じ部位に繰り返す習慣性丹毒もある。治療はペニシリン系抗菌薬が第一選択である。より深い真皮から皮下脂肪織に及ぶ蜂窩織炎は黄色ブドウ球菌が原因のことも多いが、丹毒は表皮剝脱毒素による水疱形成を主病態とするものではない。
黄色ブドウ球菌の毒素と疾患
・表皮剝脱毒素(ETA、ETB):デスモグレイン1を切断する。水疱性膿痂疹(局所)、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS、全身)。 ・毒素性ショック症候群毒素-1(TSST-1):スーパー抗原としてT細胞を非特異的に大量活性化し、発熱、びまん性紅斑、血圧低下、多臓器障害、回復期の落屑を特徴とする毒素性ショック症候群(TSS)を起こす。タンポンの長時間使用や術後創部感染などが契機となる。 ・エンテロトキシン:耐熱性で、食品中で産生された毒素の摂取により、摂取後数時間で嘔吐を主体とする毒素型食中毒を起こす。 ・Panton-Valentine leukocidin(PVL):白血球を破壊する毒素で、再発性の癤・癰や壊死性肺炎との関連が知られる。
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)
主に乳幼児にみられる。咽頭や鼻腔などの感染巣で産生された表皮剝脱毒素が血流に乗って全身の皮膚に達し、口囲や眼囲の発赤・痂皮から始まり、全身の潮紅、表皮の剝離が生じる。一見正常な皮膚を擦ると表皮が剝がれるNikolsky現象が陽性となる。成人は毒素に対する抗体をもち、腎臓からの毒素排泄能も高いため発症しにくい(腎機能障害や免疫不全があると成人でもみられる)。剝離は表皮の浅い層で起こるため、通常は瘢痕を残さず治癒する。
デスモグレインと水疱症の関係
デスモグレイン1は表皮の上層に多く、デスモグレイン3は表皮の下層や粘膜上皮に多い。このため、Dsg1が障害される水疱性膿痂疹、SSSS、落葉状天疱瘡(Dsg1に対する自己抗体)では表皮上層に裂隙が生じ、粘膜症状はみられない。一方、尋常性天疱瘡(主にDsg3に対する自己抗体)では表皮基底層直上に裂隙が生じ、口腔粘膜のびらんがみられる。原因(細菌毒素か自己抗体か)は異なっても、同じ分子が障害されれば似た組織像になる点が重要である。
伝染性膿痂疹の二つの病型
・水疱性膿痂疹:黄色ブドウ球菌。夏季、乳幼児に多い。弛緩性水疱とびらん。 ・痂皮性膿痂疹:主にA群β溶血性レンサ球菌。季節・年齢を問わない。紅斑、膿疱から厚い痂皮を形成し、発熱やリンパ節腫脹を伴うことがある。続発症として急性糸球体腎炎に注意が必要である。
POINT
・黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素はデスモグレイン1を切断し、表皮上層に弛緩性水疱をつくる。 ・局所で作用すると水疱性膿痂疹(とびひ)、全身に作用するとブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)。 ・痂皮性膿痂疹は主にA群β溶血性レンサ球菌が原因で、急性糸球体腎炎の続発に注意する。 ・壊疽性膿皮症は無菌性の好中球性皮膚症で炎症性腸疾患に合併しやすい。 ・尋常性痤瘡はアクネ菌、皮膚腺病は結核菌、丹毒はA群β溶血性レンサ球菌が関与する。
