「女性は少量でも危ない」―飲酒の疫学と性差を正しく押さえる
第109回医師国家試験 I問題 第32問
国試問題にチャレンジ
飲酒について正しいのはどれか。
- a.我が国のアルコール消費量は近年,増加傾向を示している。
- b.適度な飲酒の量は純アルコールで1日平均40 gとされている。
- c.飲酒開始年齢とアルコール依存症の発症リスクとは関係がない。
- d.女性は男性と比較してアルコールによる臓器障害を起こしやすい。
- e.1日平均飲酒量が増えるとともに虚血性心疾患の罹患率は直線的に上昇する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
我が国のアルコール消費量は1990年代半ばをピークに減少傾向にあり、健康日本21では「節度ある適度な飲酒」を1日平均純アルコール約20g程度、男性40g以上・女性20g以上を「生活習慣病のリスクを高める量」としています。飲酒開始年齢が早いほどアルコール依存症のリスクは高く、女性は体内水分量の少なさや胃でのアルコール分解能の低さなどから、男性より少量・短期間で臓器障害を起こしやすいとされます。虚血性心疾患は従来Jカーブ型とされてきましたが、近年は少量飲酒の予防効果は疑問視され、2024年の国のガイドラインでも飲酒量はできるだけ少ないほうがよいとされています。純アルコール量の計算法や、ALDH2低活性者・高齢者・若年者など影響を受けやすい人を押さえておくことは、試験対策にとどまらず、日常診療での飲酒指導の土台になります。
解答・解説
正解はdです
本問は、飲酒に関する疫学と健康影響、および国の健康施策での飲酒量の目安についての基本的知識を問う問題である。 押さえるべき論点は次のとおりである。 ・国内のアルコール消費量の推移(1990年代半ばをピークに減少傾向) ・国の健康づくり施策(健康日本21)で示された飲酒量の目安(「節度ある適度な飲酒」は1日平均純アルコール約20g程度) ・アルコール依存症の危険因子としての飲酒開始年齢(早いほどリスクが高い) ・アルコールの影響の性差(女性は少ない量・短い期間で臓器障害を起こしやすい) ・飲酒量と疾患リスクの関係の型(量に比例して直線的に上がるものと、少量飲酒でリスクがやや低く見えるJカーブ型を示すとされてきたもの) これらを一つずつ照合すると、正しい記述は女性の臓器障害の起こしやすさに関するものだけである。 なお本問は、飲酒と健康に関する知見や指針がその後更新されたこともあり、現在の国試対策としての有用性は高くないとされる設問である。特に、少量飲酒が虚血性心疾患を予防するというJカーブ型の解釈は、近年の研究(遺伝的要因を利用した解析など)で疑問視されるようになり、2024年に厚生労働省が公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」でも、飲酒量はできるだけ少ない方がよいという立場が示されている。
選択肢考察
- ×a. 我が国のアルコール消費量は近年,増加傾向を示している。
国税庁の統計によれば、我が国の酒類消費量は1990年代半ば(平成8年度前後)をピークとして、その後は減少傾向にある。成人1人当たりの消費量も長期的に低下している。背景には人口の高齢化や若年層の飲酒離れなどが挙げられる。増加傾向ではないので誤りである。
- ×b. 適度な飲酒の量は純アルコールで1日平均40 gとされている。
健康日本21では「節度ある適度な飲酒」を1日平均純アルコールで約20g程度としている。これはビール中瓶1本(500mL)、日本酒1合、ウイスキーダブル1杯程度に相当する。一方、1日平均純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上は「生活習慣病のリスクを高める量」と位置付けられており、40gは適度な量ではなくリスクの指標となる値である。誤り。
- ×c. 飲酒開始年齢とアルコール依存症の発症リスクとは関係がない。
飲酒を始める年齢が若いほど、将来アルコール依存症になるリスクが高いことが知られている。成長期の脳はアルコールの影響を受けやすく、また早期から飲酒習慣が形成されることで長期・大量飲酒につながりやすい。未成年者の飲酒が法律で禁止されている理由の一つでもある。関係がないとする記述は誤りである。
- ○d. 女性は男性と比較してアルコールによる臓器障害を起こしやすい。
女性は男性に比べ、より少ない飲酒量かつより短い飲酒期間でアルコール性肝障害などの臓器障害やアルコール依存症に至りやすい。理由として、体格が小さく体内の水分量が少ないため同じ量を飲んでも血中アルコール濃度が高くなりやすいこと、胃でのアルコール分解(胃のアルコール脱水素酵素活性)が低いこと、女性ホルモンがアルコールの影響を受けやすくすることなどが挙げられる。このため「生活習慣病のリスクを高める量」も女性は男性の半分(純アルコール20g以上)に設定されている。正しい。
- ×e. 1日平均飲酒量が増えるとともに虚血性心疾患の罹患率は直線的に上昇する。
本問作成当時の疫学研究では、虚血性心疾患は非飲酒者に比べて少量飲酒者でリスクがやや低く、飲酒量が増えるとリスクが上がるJカーブ型の関係を示すとされていた。脳梗塞や2型糖尿病も同様の型をとると報告されてきた。したがって「直線的に上昇する」とする記述は誤りとされる。ただし近年は、少量飲酒者の見かけ上の低リスクは、健康上の理由で飲酒をやめた人が非飲酒者群に含まれることなどによる偏りの影響が大きいと指摘されており、少量飲酒に心疾患予防効果があるという解釈は支持されなくなってきている。
純アルコール量の計算
純アルコール量(g) = 飲酒量(mL) × アルコール度数(%)/100 × 0.8(アルコールの比重) 例: ビール500mL(5%)では 500 × 0.05 × 0.8 = 20g となる。
健康日本21における飲酒量の目安
・節度ある適度な飲酒: 1日平均純アルコール約20g程度(女性、高齢者、飲酒で顔が赤くなりやすい人はより少量が望ましい) ・生活習慣病のリスクを高める量: 1日平均純アルコール男性40g以上、女性20g以上 ・健康日本21(第三次)でも、この量を飲酒する者の割合の減少が目標とされている。
飲酒量と疾患リスクの型
・量に比例してリスクが上昇する(直線型): 高血圧、脳出血、乳癌、食道癌などの多くの癌、肝疾患など ・従来Jカーブ型とされてきたもの: 虚血性心疾患、脳梗塞、2型糖尿病(前述のとおり、現在はその解釈に慎重な見方が強い)
アルコールの影響を受けやすい人
・女性(体内水分量が少ない、胃でのアルコール分解能が低いなど) ・高齢者(体内水分量の減少、代謝能の低下) ・若年者(脳の発達途上、依存症リスクが高い) ・ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)の活性が低い人: 少量の飲酒で顔が赤くなる体質で、日本人に多い。アセトアルデヒドが蓄積しやすく、飲酒を続けると食道癌などのリスクが高まる。
POINT
・我が国のアルコール消費量は1990年代半ばをピークに減少傾向 ・節度ある適度な飲酒は1日平均純アルコール約20g程度、男性40g以上・女性20g以上は生活習慣病のリスクを高める量 ・飲酒開始年齢が早いほどアルコール依存症のリスクが高い ・女性は男性より少量・短期間で臓器障害を起こしやすい ・虚血性心疾患は従来Jカーブ型とされたが、近年は少量飲酒の予防効果は疑問視されている
