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神経が「ばらばらに」やられたら血管を疑え―多発単神経炎が語る血管炎のサイン

第109回医師国家試験 I問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第29問

血管炎に特異性の高い徴候はどれか。

  1. a.弛張熱
  2. b.結節性紅斑
  3. c.爪下線状出血
  4. d.多発単神経炎
  5. e.早朝の呼吸困難

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血管炎を疑う手がかりのうち「特異性が高い」ものを選ぶ問題だ。血管炎は発熱、皮疹、呼吸器症状など多彩な症状を出すけれど、その多くはほかの病気でもよくみられる。だから「血管炎でみられるか」ではなく「それがあれば血管炎を強く疑えるか」という視点で考えてほしい。
医学生医学生
血管炎の症状は全部それらしく見えてしまって、どれも正解に思えてきます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。まず血管炎とは何か確認しよう。血管壁そのものに炎症が起き、その血管が養う臓器が虚血や出血を起こす病気の集まりだ。障害される血管の太さで、大型、中型、小型に分ける。
医学生医学生
Chapel Hill分類ですね。大型が高安動脈炎と巨細胞性動脈炎、中型が結節性多発動脈炎と川崎病、小型がANCA関連血管炎やIgA血管炎と覚えました。
ドクタードクター
完璧だね。では熱から見ていこう。弛張熱は血管炎に特異的と言えるかな。
医学生医学生
弛張熱というと、感染症や成人Still病のイメージが強いです。
ドクタードクター
その通り。日内変動が1℃以上あって37℃以下まで下がらない熱型で、敗血症や膿瘍、悪性腫瘍、成人Still病など非常に多くの疾患でみられる。血管炎でも熱は出るけれど、熱型から血管炎を絞り込むことはできない。
医学生医学生
結節性紅斑は名前に「結節性」とつくので、結節性多発動脈炎と関係がありそうに感じました。
ドクタードクター
名前に引っ張られやすいところだね。結節性紅斑は下腿伸側にできる圧痛のある紅色の皮下結節で、病理的には皮下脂肪組織の隔壁に起こる脂肪織炎だ。原因不明のものが多く、レンサ球菌感染、結核、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、Behçet病、薬剤など背景はさまざま。血管炎そのものの所見ではないんだ。
医学生医学生
爪下線状出血は、循環器内科の実習で感染性心内膜炎の患者さんの爪を見せてもらいました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。splinter hemorrhageとも呼ばれ、感染性心内膜炎の所見として有名だ。ただ、爪をぶつけるなどの外傷でもよく生じるし、膠原病などでもみられる。血管炎で出ることもあるけれど、特異性は高くない。
医学生医学生
早朝の呼吸困難は気管支喘息っぽいです。でもEGPAでは喘息が先行するので、関係はありそうですよね。
ドクタードクター
鋭いね。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は喘息が先行するのが特徴だ。ただ、早朝の呼吸困難自体は喘息やCOPD、心不全の発作性夜間呼吸困難などでも起こるもので、血管炎に特異的な徴候ではない。
医学生医学生
残るのが多発単神経炎ですね。でもなぜ神経の症状が血管炎に特異的なのか、いまひとつピンときません。
ドクタードクター
そこが本問の核心だ。末梢神経にも、神経を養う細い動脈、vasa nervorumがある。血管炎でこの小動脈が炎症により閉塞すると、その神経が虚血に陥って麻痺する。血管炎は全身のあちこちの血管に飛び飛びに起こるから、たとえば片側の腓骨神経麻痺のあとに反対側の尺骨神経麻痺が出る、というように、別々の神経が非対称に、時間差で障害されるんだ。
医学生医学生
なるほど。糖尿病性神経障害のような手袋靴下型とは分布がまったく違うわけですね。神経内科の講義で、多発神経炎と多発単神経炎の違いを図で描かされたのを思い出しました。
ドクタードクター
その区別は大事だよ。手袋靴下型の左右対称な多発神経炎は代謝性や中毒性の原因が多い。一方、多発単神経炎は神経の虚血を示すので、血管炎を強く示唆する。ただし糖尿病でも起こりうるので、糖尿病を除外したうえで多発単神経炎があれば、まず血管炎症候群を考えよう。
医学生医学生
具体的にはどの血管炎で多いのでしょうか。
ドクタードクター
結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、リウマトイド血管炎などでみられ、特にEGPAでは頻度が高い。進行するといくつもの神経障害が重なって左右対称に近く見えることもあるから、発症の順番を丁寧に問診することが大切だ。確定には神経・筋生検で血管炎の所見を確認することを目指す。
医学生医学生
症状一つで決めるのではなく、特異性の高いサインを拾って、ほかの臓器症状と組み合わせるということですね。
ドクタードクター
その通り。ほかにも触知可能な紫斑、網状皮斑、急速進行性糸球体腎炎、肺胞出血などが同時にあれば血管炎の可能性はさらに高まる。ANCAなどの検査も組み合わせよう。原因不明の発熱に加えて足がしびれる、足首が上がらない、という訴えを聞いたら、血管炎を思い出してほしい。

まとめ

血管炎では発熱や皮疹、呼吸器症状など多彩な症状が出ますが、弛張熱は感染症や成人Still病、結節性紅斑は脂肪織炎として感染症やサルコイドーシス、爪下線状出血は感染性心内膜炎や外傷、早朝の呼吸困難は気管支喘息などで普通にみられ、血管炎に特異的とはいえません。これに対し多発単神経炎は、神経を養う小動脈(vasa nervorum)の炎症性閉塞による虚血で、複数の神経が非対称かつ時間差で障害される病態であり、糖尿病を除外できれば血管炎を強く示唆します。結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、特に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症で頻度が高く、確定には神経・筋生検を検討します。手袋靴下型の多発神経炎との区別を意識し、紫斑や腎炎、肺胞出血など多臓器の所見と組み合わせて血管炎を疑う姿勢が、早期診断と臓器障害の予防につながります。

解答・解説

正解はdです

血管炎症候群を疑う手がかりとなる徴候のうち、「特異性が高い」ものを選ぶ問題である。 血管炎は血管壁そのものに炎症が起こる疾患群で、障害される血管の太さによって大型血管炎(高安動脈炎、巨細胞性動脈炎)、中型血管炎(結節性多発動脈炎、川崎病)、小型血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、IgA血管炎など)に分けられる(Chapel Hill分類 2012)。発熱・体重減少・倦怠感などの全身症状に加え、皮膚、腎、肺、神経など多臓器に虚血や出血による症状を来す。 ここで注意したいのは、発熱や皮疹、呼吸器症状などの多くは血管炎でもみられるが、感染症・悪性腫瘍・他の膠原病などでも普通に起こり、それだけでは血管炎を疑う根拠として弱いという点である。 一方、多発単神経炎(多発性単神経炎)は、末梢神経を養う細い動脈(神経栄養血管:vasa nervorum)が炎症で閉塞し、別々の神経が時期をずらして次々と障害される病態であり、血管炎の存在を強く示唆する。原因として糖尿病などを除外できれば、まず血管炎症候群を考える。よって正解は多発単神経炎である。

選択肢考察

  1. ×a.  弛張熱

    弛張熱は体温の日内変動が1℃以上あり、最低体温が37℃以下まで下がらない熱型である。敗血症・膿瘍などの感染症、悪性腫瘍、成人Still病や若年性特発性関節炎(全身型)などの膠原病・自己炎症性疾患など、きわめて多くの疾患でみられる。血管炎でも発熱は起こるが、熱型は非特異的であり、血管炎に特異性が高いとはいえない。

  2. ×b.  結節性紅斑

    結節性紅斑は主に下腿伸側にできる、圧痛を伴う紅色の皮下結節で、病理学的には皮下脂肪組織の隔壁に生じる脂肪織炎である。原因不明のものが多く、ほかにレンサ球菌感染症、結核、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、Behçet病、薬剤(経口避妊薬など)など多様な背景で生じる。血管炎そのものの所見ではなく、血管炎に特異的とはいえない。

  3. ×c.  爪下線状出血

    爪下線状出血(splinter hemorrhage)は爪床の細い血管からの出血が爪の長軸方向に線状にみえるもので、微小塞栓や毛細血管の障害を反映する。感染性心内膜炎の所見として有名だが、外傷(爪への機械的刺激)でも頻繁に生じ、膠原病や悪性腫瘍などでもみられる。血管炎でも出現しうるが、特異性は高くない。

  4. ○d.  多発単神経炎

    多発単神経炎は、複数の末梢神経が非対称的・非同時的に障害される病態で、例えば一側の腓骨神経麻痺に続いて対側の尺骨神経麻痺が起こるといった経過をとる。神経を栄養する小動脈が炎症で閉塞し、神経が虚血に陥ることで生じるため、血管炎を強く示唆する徴候である。結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(特に高頻度)、多発血管炎性肉芽腫症、悪性関節リウマチ(リウマトイド血管炎)、全身性エリテマトーデスに伴う血管炎などでみられる。糖尿病でも起こりうるため、糖尿病を除外したうえで多発単神経炎があれば血管炎症候群を積極的に疑い、神経・筋生検などで確定を目指す。

  5. ×e.  早朝の呼吸困難

    夜間から早朝にかけての呼吸困難は、気道の炎症や過敏性が日内変動で悪化する気管支喘息に典型的である。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全(発作性夜間呼吸困難)などでもみられる。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA、旧名 Churg-Strauss症候群・アレルギー性肉芽腫性血管炎)では先行する気管支喘息を伴うが、早朝の呼吸困難自体は血管炎に特異的ではない。

血管炎を疑う手がかり

・原因不明の発熱・体重減少・倦怠感などの全身症状が続く。 ・多発単神経炎(末梢神経の虚血)。 ・触知可能な紫斑(palpable purpura、小型血管炎で多い)、皮膚潰瘍、網状皮斑(リベド)。 ・急速進行性糸球体腎炎(血尿・蛋白尿・腎機能の急速な悪化)。 ・肺胞出血、肺結節・空洞。 ・CRP・赤沈の上昇、ANCA(抗好中球細胞質抗体)陽性など。 複数の臓器にまたがる症状が同時にみられるときに血管炎を疑うことが重要である。

多発単神経炎の鑑別

・血管炎:結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫症、リウマトイド血管炎、クリオグロブリン血症性血管炎など。 ・その他:糖尿病、サルコイドーシス、Hansen病、HIV感染症、遺伝性圧脆弱性ニューロパチーなど。

多発単神経炎とほかの末梢神経障害の違い

・単神経障害:1本の神経のみ(手根管症候群など)。 ・多発単神経炎:複数の神経が非対称・時間差で障害される。進行すると融合して左右対称に近くみえることもある。 ・多発神経炎(多発ニューロパチー):四肢遠位優位・左右対称の手袋靴下型(糖尿病性多発神経障害、ビタミンB1欠乏など)。

血管炎の分類(Chapel Hill 2012)

・大型血管炎:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎。 ・中型血管炎:結節性多発動脈炎、川崎病。 ・小型血管炎:ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)と免疫複合体性血管炎(IgA血管炎、クリオグロブリン血症性血管炎、抗GBM病など)。

POINT

・多発単神経炎は神経栄養血管の炎症性閉塞による虚血で生じ、血管炎に特異性の高い徴候である(糖尿病を除外できれば血管炎を疑う)。 ・弛張熱、結節性紅斑、爪下線状出血、早朝の呼吸困難は、感染症・悪性腫瘍・他疾患でも生じる非特異的所見である。 ・爪下線状出血は感染性心内膜炎、早朝の呼吸困難は気管支喘息を想起する。 ・EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)は気管支喘息が先行し、多発単神経炎の頻度が特に高い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。