神経が「ばらばらに」やられたら血管を疑え―多発単神経炎が語る血管炎のサイン
第109回医師国家試験 I問題 第29問
国試問題にチャレンジ
血管炎に特異性の高い徴候はどれか。
- a.弛張熱
- b.結節性紅斑
- c.爪下線状出血
- d.多発単神経炎
- e.早朝の呼吸困難
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血管炎では発熱や皮疹、呼吸器症状など多彩な症状が出ますが、弛張熱は感染症や成人Still病、結節性紅斑は脂肪織炎として感染症やサルコイドーシス、爪下線状出血は感染性心内膜炎や外傷、早朝の呼吸困難は気管支喘息などで普通にみられ、血管炎に特異的とはいえません。これに対し多発単神経炎は、神経を養う小動脈(vasa nervorum)の炎症性閉塞による虚血で、複数の神経が非対称かつ時間差で障害される病態であり、糖尿病を除外できれば血管炎を強く示唆します。結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、特に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症で頻度が高く、確定には神経・筋生検を検討します。手袋靴下型の多発神経炎との区別を意識し、紫斑や腎炎、肺胞出血など多臓器の所見と組み合わせて血管炎を疑う姿勢が、早期診断と臓器障害の予防につながります。
解答・解説
正解はdです
血管炎症候群を疑う手がかりとなる徴候のうち、「特異性が高い」ものを選ぶ問題である。 血管炎は血管壁そのものに炎症が起こる疾患群で、障害される血管の太さによって大型血管炎(高安動脈炎、巨細胞性動脈炎)、中型血管炎(結節性多発動脈炎、川崎病)、小型血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、IgA血管炎など)に分けられる(Chapel Hill分類 2012)。発熱・体重減少・倦怠感などの全身症状に加え、皮膚、腎、肺、神経など多臓器に虚血や出血による症状を来す。 ここで注意したいのは、発熱や皮疹、呼吸器症状などの多くは血管炎でもみられるが、感染症・悪性腫瘍・他の膠原病などでも普通に起こり、それだけでは血管炎を疑う根拠として弱いという点である。 一方、多発単神経炎(多発性単神経炎)は、末梢神経を養う細い動脈(神経栄養血管:vasa nervorum)が炎症で閉塞し、別々の神経が時期をずらして次々と障害される病態であり、血管炎の存在を強く示唆する。原因として糖尿病などを除外できれば、まず血管炎症候群を考える。よって正解は多発単神経炎である。
選択肢考察
- ×a. 弛張熱
弛張熱は体温の日内変動が1℃以上あり、最低体温が37℃以下まで下がらない熱型である。敗血症・膿瘍などの感染症、悪性腫瘍、成人Still病や若年性特発性関節炎(全身型)などの膠原病・自己炎症性疾患など、きわめて多くの疾患でみられる。血管炎でも発熱は起こるが、熱型は非特異的であり、血管炎に特異性が高いとはいえない。
- ×b. 結節性紅斑
結節性紅斑は主に下腿伸側にできる、圧痛を伴う紅色の皮下結節で、病理学的には皮下脂肪組織の隔壁に生じる脂肪織炎である。原因不明のものが多く、ほかにレンサ球菌感染症、結核、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、Behçet病、薬剤(経口避妊薬など)など多様な背景で生じる。血管炎そのものの所見ではなく、血管炎に特異的とはいえない。
- ×c. 爪下線状出血
爪下線状出血(splinter hemorrhage)は爪床の細い血管からの出血が爪の長軸方向に線状にみえるもので、微小塞栓や毛細血管の障害を反映する。感染性心内膜炎の所見として有名だが、外傷(爪への機械的刺激)でも頻繁に生じ、膠原病や悪性腫瘍などでもみられる。血管炎でも出現しうるが、特異性は高くない。
- ○d. 多発単神経炎
多発単神経炎は、複数の末梢神経が非対称的・非同時的に障害される病態で、例えば一側の腓骨神経麻痺に続いて対側の尺骨神経麻痺が起こるといった経過をとる。神経を栄養する小動脈が炎症で閉塞し、神経が虚血に陥ることで生じるため、血管炎を強く示唆する徴候である。結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(特に高頻度)、多発血管炎性肉芽腫症、悪性関節リウマチ(リウマトイド血管炎)、全身性エリテマトーデスに伴う血管炎などでみられる。糖尿病でも起こりうるため、糖尿病を除外したうえで多発単神経炎があれば血管炎症候群を積極的に疑い、神経・筋生検などで確定を目指す。
- ×e. 早朝の呼吸困難
夜間から早朝にかけての呼吸困難は、気道の炎症や過敏性が日内変動で悪化する気管支喘息に典型的である。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全(発作性夜間呼吸困難)などでもみられる。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA、旧名 Churg-Strauss症候群・アレルギー性肉芽腫性血管炎)では先行する気管支喘息を伴うが、早朝の呼吸困難自体は血管炎に特異的ではない。
血管炎を疑う手がかり
・原因不明の発熱・体重減少・倦怠感などの全身症状が続く。 ・多発単神経炎(末梢神経の虚血)。 ・触知可能な紫斑(palpable purpura、小型血管炎で多い)、皮膚潰瘍、網状皮斑(リベド)。 ・急速進行性糸球体腎炎(血尿・蛋白尿・腎機能の急速な悪化)。 ・肺胞出血、肺結節・空洞。 ・CRP・赤沈の上昇、ANCA(抗好中球細胞質抗体)陽性など。 複数の臓器にまたがる症状が同時にみられるときに血管炎を疑うことが重要である。
多発単神経炎の鑑別
・血管炎:結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫症、リウマトイド血管炎、クリオグロブリン血症性血管炎など。 ・その他:糖尿病、サルコイドーシス、Hansen病、HIV感染症、遺伝性圧脆弱性ニューロパチーなど。
多発単神経炎とほかの末梢神経障害の違い
・単神経障害:1本の神経のみ(手根管症候群など)。 ・多発単神経炎:複数の神経が非対称・時間差で障害される。進行すると融合して左右対称に近くみえることもある。 ・多発神経炎(多発ニューロパチー):四肢遠位優位・左右対称の手袋靴下型(糖尿病性多発神経障害、ビタミンB1欠乏など)。
血管炎の分類(Chapel Hill 2012)
・大型血管炎:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎。 ・中型血管炎:結節性多発動脈炎、川崎病。 ・小型血管炎:ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)と免疫複合体性血管炎(IgA血管炎、クリオグロブリン血症性血管炎、抗GBM病など)。
POINT
・多発単神経炎は神経栄養血管の炎症性閉塞による虚血で生じ、血管炎に特異性の高い徴候である(糖尿病を除外できれば血管炎を疑う)。 ・弛張熱、結節性紅斑、爪下線状出血、早朝の呼吸困難は、感染症・悪性腫瘍・他疾患でも生じる非特異的所見である。 ・爪下線状出血は感染性心内膜炎、早朝の呼吸困難は気管支喘息を想起する。 ・EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)は気管支喘息が先行し、多発単神経炎の頻度が特に高い。
