足りないなら補えばいい―新生児呼吸窮迫症候群とサーファクタント補充療法
第109回医師国家試験 I問題 第1問
国試問題にチャレンジ
新生児呼吸窮迫症候群の初期治療で適切なのはどれか。
- a.一酸化窒素吸入
- b.気管支拡張薬吸入
- c.肺サーファクタント気管内注入
- d.抗菌薬静注
- e.プロスタグランディンE1持続静注
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児呼吸窮迫症候群は、II型肺胞上皮細胞の未熟によるサーファクタント欠乏で肺胞が虚脱する疾患で、主に在胎34週未満の早産児に発症します。初期治療の中心は人工肺サーファクタントの気管内注入で、酸素投与とnasal CPAPや人工呼吸による陽圧換気を併用します。一酸化窒素吸入は新生児遷延性肺高血圧症、プロスタグランジンE1は動脈管依存性先天性心疾患の治療であり、RDSに合併する動脈管開存症ではむしろインドメタシンやイブプロフェンで閉鎖を図ります。GBS感染症はRDSとの鑑別・合併に注意が必要で、予防としては切迫早産時の母体ステロイド投与が重要です。「何が足りないのか」という病態から治療を導く考え方は、新生児医療に限らず治療選択の基本になります。
解答・解説
正解はcです
テーマの要点
新生児呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome: RDS。新生児の病態であることを示してIRDSとも書く)は、肺サーファクタント(肺表面活性物質)の欠乏によって肺胞が虚脱し、呼吸不全をきたす疾患である。肺サーファクタントはII型肺胞上皮細胞が産生するリン脂質(主成分はジパルミトイルホスファチジルコリン)と特異的蛋白質の複合体で、肺胞内面の表面張力を下げて呼気終末に肺胞がつぶれるのを防いでいる。産生が十分になるのは在胎34週前後以降であるため、主に早産児に発症する。
正解を導く考え方
治療は病態に直結させて考える。原因が「サーファクタントの不足」なのだから、根本的な治療は外から補うこと、すなわち人工肺サーファクタントの気管内注入である。気管挿管下で気管内に投与すると、肺胞が開きやすくなって肺のコンプライアンス(膨らみやすさ)と酸素化が速やかに改善する。これに加えて、酸素投与と、経鼻持続陽圧呼吸(nasal CPAP)や人工呼吸による陽圧換気で肺胞の虚脱を防ぐことが、初期治療の基本となる。 他の選択肢は、肺高血圧、気道過敏性、感染、動脈管依存性の先天性心疾患といった、RDSとは別の病態に対する治療であり、RDSの病態そのものを改善するものではない。
選択肢考察
- ×a. 一酸化窒素吸入
吸入された一酸化窒素(NO)は、換気されている肺胞の周囲の肺血管平滑筋を選択的に弛緩させ、肺血管抵抗を下げる。新生児では、胎便吸引症候群や重症仮死、横隔膜ヘルニアなどに伴う新生児遷延性肺高血圧症(PPHN: 出生後も肺血管抵抗が下がらず、卵円孔や動脈管を通して右左短絡が持続する状態)による低酸素性呼吸不全に用いる。RDSに肺高血圧を合併した場合には考慮されることがあるが、サーファクタント欠乏という基本病態を治すものではなく、初期治療ではない。
- ×b. 気管支拡張薬吸入
気管支拡張薬(β2刺激薬など)は、気管支平滑筋の収縮による気道狭窄(気管支喘息の発作など)を改善する薬剤である。RDSの問題は肺胞の虚脱であり、気道の過敏性や気管支攣縮によるものではないため、効果は期待できない。
- ○c. 肺サーファクタント気管内注入
RDSの本態はII型肺胞上皮細胞の未熟性によるサーファクタントの欠乏であり、人工肺サーファクタントを気管内に注入して補充することが病因に対する治療となる。投与後は肺胞の表面張力が低下して虚脱が改善し、酸素化と肺コンプライアンスが速やかに改善する。早期に投与するほど人工呼吸の期間短縮や、気胸などのエアリーク、死亡の減少に有効とされる。酸素投与、nasal CPAPや人工呼吸器による陽圧換気とともに、RDSの初期治療の中心である。
- ×d. 抗菌薬静注
抗菌薬は細菌感染症の治療薬であり、RDSの病態(サーファクタント欠乏)には作用しない。ただし、B群溶血性レンサ球菌(GBS)による早発型の肺炎・敗血症は、臨床症状や胸部X線所見がRDSとよく似ることがあり、前期破水、母体発熱、絨毛膜羊膜炎などの感染のリスクがある場合や炎症反応が高い場合には、血液培養を採取したうえで抗菌薬の投与を考慮する。これは感染の合併・鑑別への対応であり、RDS自体の初期治療ではない。
- ×e. プロスタグランディンE1持続静注
プロスタグランジンE1(PGE1)は動脈管を拡張させて開存を維持する薬剤であり、肺動脈閉鎖や大動脈縮窄・離断、左心低形成症候群など、体循環または肺循環を動脈管に依存する先天性心疾患(動脈管依存性心疾患)に用いる。早産児のRDSではむしろ動脈管開存症(PDA)を合併しやすく、肺血流の増加により呼吸状態を悪化させることがある。この場合は動脈管を閉じる目的でインドメタシンやイブプロフェン(プロスタグランジン合成を阻害する薬剤)を用いるため、PGE1は逆の作用をもち不適切である。
新生児呼吸窮迫症候群(RDS)の概要
・病態: サーファクタント欠乏 → 肺胞表面張力の上昇 → 呼気時の肺胞虚脱(無気肺)→ 換気血流不均衡・右左シャントによる低酸素血症、肺コンプライアンス低下。 ・危険因子: 早産(在胎週数が短いほど高率)、母体糖尿病(高インスリン血症がサーファクタント産生を抑制する)、陣痛発来前の帝王切開、男児、新生児仮死など。 ・症状: 出生直後から数時間以内に、多呼吸、呻吟(呼気時のうなり声。声門を狭めて呼気終末の肺胞虚脱を防ごうとする代償反応)、陥没呼吸、鼻翼呼吸、チアノーゼが出現し、生後数十時間にかけて進行する。進行性の経過をとるため、時間とともに診断は明確になる。 ・胸部X線: 肺野の細かい網状顆粒状陰影、気管支透亮像(air bronchogram)、すりガラス様陰影、重症例では心陰影が不明瞭なほどの透過性低下(white out)。重症度分類としてBomsel分類(I〜IV度)がある。 ・肺成熟の評価: 羊水や胃液を用いたマイクロバブルテスト(stable microbubble test)、羊水のレシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比。2以上で成熟の目安)など。
予防と治療
・予防: 早産が差し迫っている場合(概ね在胎34週未満)に母体へ副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンなど)を投与し、胎児の肺成熟を促進する。 ・治療: 人工肺サーファクタントの気管内投与、酸素投与、nasal CPAPや人工呼吸による陽圧換気、体温・循環・栄養などの全身管理。挿管してサーファクタントを投与し、速やかに抜管してCPAPに移行する方法も行われる。
合併症
気胸などのエアリーク、動脈管開存症、脳室内出血、慢性肺疾患(気管支肺異形成)、未熟児網膜症(高濃度酸素の影響を含む)など。
鑑別疾患
新生児一過性多呼吸(肺水の吸収遅延。正期産・帝王切開児に多く、軽症で数日以内に改善)、胎便吸引症候群(正期産・過期産児で、羊水混濁を伴う)、GBSなどによる新生児肺炎・敗血症、先天性心疾患など。
POINT
・RDSの原因はII型肺胞上皮細胞の未熟によるサーファクタント欠乏で、主に在胎34週未満の早産児に起こる。 ・初期治療の柱: 人工肺サーファクタントの気管内注入 + 酸素投与 + 陽圧換気(nasal CPAP・人工呼吸)。 ・予防: 早産が予想されるときの母体ステロイド投与。 ・症状は多呼吸・呻吟・陥没呼吸・チアノーゼ。X線では網状顆粒状陰影とair bronchogram。 ・NO吸入は新生児遷延性肺高血圧症、PGE1は動脈管依存性心疾患の治療。RDSに合併するPDAには閉鎖目的でインドメタシン・イブプロフェンを用いる。
