StudyMed医師国家試験

押しても戻る「むくみ」―非圧痕性浮腫が示す粘液水腫の正体

第109回医師国家試験 H問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第9問

非圧痕性浮腫をきたすのはどれか。

  1. a.慢性腎不全
  2. b.慢性心不全
  3. c.特発性浮腫
  4. d.非代償性肝硬変
  5. e.甲状腺機能低下症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は浮腫を「押して跡が残るかどうか」で分ける問題だ。ポイントは、間質に何がたまっているのか、という視点。その違いが、指で押したときの反応にそのまま表れるんだ。まず、浮腫の定義から確認しておこう。
医学生医学生
間質、つまり細胞と細胞の間に過剰な液体がたまった状態ですよね。
ドクタードクター
その通り。間質にたまっているのが主にタンパク質の少ない水分なら、押すと水が周りに逃げて、指を離してもしばらくへこみが残る。これが圧痕性浮腫だ。一方、水以外の物質、たとえばムコ多糖やタンパク質に富む液、線維成分がたまっていると、組織がゲル状や硬い状態になって水が動きにくく、へこみが残らない。これが非圧痕性浮腫だよ。
医学生医学生
臨床実習の身体診察で、脛の前を押してへこみを確認するのは習いました。でも、全部の浮腫でへこむものだと思っていました。
ドクタードクター
全身性浮腫の多くは圧痕性だから、そう感じるのも無理はないね。脛骨前面や足背など骨の上を10秒くらいしっかり押して確認するのが基本だ。では選択肢を見ていこう。慢性腎不全はどうかな。
医学生医学生
腎臓からナトリウムと水を出せなくなって体液が増えるので、水がたまる圧痕性だと思います。
ドクタードクター
正解。体液過剰で毛細血管の静水圧が上がり、水分が間質へ漏れ出す。腎性浮腫は組織圧の低い顔面や上眼瞼に、朝方目立ちやすいのが特徴とされる。ネフローゼ症候群を合併すれば、低アルブミン血症による膠質浸透圧低下も加わるね。慢性心不全はどうだろう。
医学生医学生
循環器内科で、下腿を押すとくっきり跡が残る患者さんを診ました。右心系のうっ血で静脈圧が上がるからですよね。
ドクタードクター
そう。さらに心拍出量の低下でレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性化し、ナトリウムと水が貯留する。重力の影響を受けやすいから、歩ける人なら下腿や足背、寝たきりの人なら背部や仙骨部に出やすい。寝ている患者さんでは背中側も忘れずに確認してほしい。
医学生医学生
非代償性肝硬変は、アルブミンが作れなくなって膠質浸透圧が下がる、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。門脈圧亢進や、有効循環血漿量の減少による二次性アルドステロン症も重なって、腹水や下腿浮腫が出る。たまっているのはやはり水分だから圧痕性だ。特発性浮腫はどうかな。
医学生医学生
名前からは原因不明というだけで、どちらか見当がつきません。
ドクタードクター
心・腎・肝・内分泌などに明らかな原因がないのに浮腫を繰り返す病態で、生殖年齢から中年の女性に多い。立位で増悪し、朝と夕で体重が大きく変わるのが特徴で、利尿薬の乱用が関わる例もある。ただ、たまっているのは水分だから圧痕性だよ。
医学生医学生
となると、残る甲状腺機能低下症が正解ですね。粘液水腫という名前を内分泌の講義で聞きました。
ドクタードクター
正解。甲状腺機能低下症では、皮膚の間質にヒアルロン酸などのムコ多糖、つまりグリコサミノグリカンが沈着する。ムコ多糖は親水性が高く、水やタンパク質と結合してゲル状の物質をつくるうえ、組織の膠質浸透圧を上げて水を引き込む。水がゲルに保持されて自由に動けないから、押してもへこまないんだ。顔面、特に眼瞼周囲や四肢にみられる。
医学生医学生
水そのものではなく、水を抱え込んだゲルがたまっているから跡が残らない、ということですね。
ドクタードクター
うまくまとめたね。ただ、甲状腺機能低下症に心不全などが合併すると、別の機序で圧痕性浮腫が加わることもあるから、所見が混在しうる点は頭に入れておこう。ほかの非圧痕性浮腫も知っているかな。
医学生医学生
バセドウ病の前脛骨粘液水腫もそうでしょうか。機能亢進なのに粘液水腫というのが不思議でした。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。前脛骨粘液水腫は甲状腺ホルモン過剰そのものではなく、自己免疫機序で下腿前面にムコ多糖が沈着して起こる。ほかに、乳癌手術後のリンパ節郭清などによるリンパ浮腫は、タンパク質に富むリンパ液がたまり、初期は圧痕を残すこともあるけれど、慢性化して線維化すると硬く非圧痕性になる。強皮症の初期の浮腫期や、蜂巣炎などの局所炎症も非圧痕性になりうるよ。
医学生医学生
片側だけの浮腫なら、深部静脈血栓症やリンパ浮腫、蜂巣炎を考えるんですよね。
ドクタードクター
その通り。全身性か局所性か、圧痕があるかないか、この2つの軸で整理すると鑑別がぐっと楽になる。もう一つ、カルシウム拮抗薬やNSAIDs、ステロイドなどによる薬剤性浮腫も圧痕性で、外来ではよく出会うから問診で薬歴を確認する習慣をつけておこう。

まとめ

浮腫は、指で押した跡が残る圧痕性浮腫と、残らない非圧痕性浮腫に分けられ、その違いは間質にたまっている物質の性質を反映します。心不全・腎不全・肝硬変・ネフローゼ症候群・特発性浮腫などは、静水圧上昇や膠質浸透圧低下、ナトリウム・水貯留により水分がたまるため圧痕性浮腫を呈します。甲状腺機能低下症ではムコ多糖が間質に沈着して水をゲル状に保持するため、押してもへこまない粘液水腫となり、これが非圧痕性浮腫の代表です。ほかにバセドウ病の前脛骨粘液水腫、慢性化したリンパ浮腫、強皮症初期、局所炎症も非圧痕性となりえます。全身性か局所性か、圧痕の有無はどうかという2軸で浮腫を整理することは、ベッドサイドでの鑑別診断の第一歩になります。

解答・解説

正解はeです

浮腫とは、間質(細胞と細胞の間の組織)に過剰な液体が貯留した状態である。指で数秒間押したあとにへこみ(圧痕)が残るかどうかで、圧痕性浮腫(pitting edema)と非圧痕性浮腫(non-pitting edema)に分けられる。

圧痕性浮腫

間質にたまっているのが主に水分(タンパク質の少ない漏出液)である場合、押すと水が周囲へ逃げるため、へこみがしばらく残る。毛細血管の静水圧の上昇(心不全、腎不全による体液過剰、静脈閉塞など)、血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症をきたす肝硬変・ネフローゼ症候群・低栄養など)、ナトリウムと水の貯留が主な機序であり、全身性浮腫の多くはこちらに属する。

非圧痕性浮腫

間質に水以外の物質(ムコ多糖、タンパク質に富む液、線維成分など)が蓄積し、組織がゲル状あるいは硬くなっている場合、押しても水が移動しにくく、へこみが残らない。代表が甲状腺機能低下症による粘液水腫である。 本問では、選択肢のうち間質へのムコ多糖沈着という「水以外の物質の蓄積」を機序とする疾患を選べばよい。腎・心・肝の疾患や特発性浮腫はいずれも水分の貯留が主体で、圧痕性浮腫を呈する。

選択肢考察

  1. ×a.  慢性腎不全

    腎機能が低下すると、ナトリウムと水を十分に排泄できなくなり体液量が増える。その結果、毛細血管内の静水圧が上がって水分が間質へ漏れ出す。たまっているのは水分なので圧痕性浮腫となる。腎疾患による浮腫は、組織圧の低い顔面や上眼瞼に朝方目立ちやすいのが特徴とされる。ネフローゼ症候群を合併して低アルブミン血症があれば、膠質浸透圧の低下も浮腫を増強させる。

  2. ×b.  慢性心不全

    右心系のうっ血により静脈圧が上がり、さらに心拍出量低下に伴うレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化でナトリウムと水が貯留する。毛細血管の静水圧上昇によって水分が間質へ移動するため、圧痕性浮腫となる。浮腫は重力の影響を受けやすく、歩行している患者では下腿・足背に、臥床している患者では背部や仙骨部に出やすい。

  3. ×c.  特発性浮腫

    特発性浮腫は、心・腎・肝・内分泌などに明らかな原因疾患がないのに浮腫を繰り返す病態で、生殖年齢から中年の女性に多く、肥満傾向のある人にみられやすい。立位で増悪し、朝と夕で体重が大きく変動するのが特徴である。利尿薬の乱用が関与している例もある。間質にたまるのは水分であり、圧痕性浮腫を呈する。

  4. ×d.  非代償性肝硬変

    肝臓でのアルブミン合成能が低下して低アルブミン血症となり、血漿膠質浸透圧が下がることで水分が血管外へ移動する。加えて門脈圧亢進や、有効循環血漿量の減少に伴う二次性アルドステロン症によるナトリウム・水貯留も加わる。腹水を伴うことが多く、下腿の浮腫は水分の貯留なので圧痕性である。

  5. ○e.  甲状腺機能低下症

    甲状腺機能低下症では、皮膚の間質にヒアルロン酸などのムコ多糖(グリコサミノグリカン)が沈着する。ムコ多糖は親水性が高く、アルブミンなどのタンパク質や水と結合してゲル状の物質をつくる。また組織の膠質浸透圧が上がるため水分が間質に引き込まれる。水がゲルに保持されて自由に移動できないため、指で押してもへこみが残らない非圧痕性浮腫となる。これを粘液水腫(myxedema)と呼び、顔面(特に眼瞼周囲)や四肢にみられる。なお、甲状腺機能低下症に心不全などが合併すると、別の機序で圧痕性浮腫が加わることがある。

浮腫の分類と主な原因

1. 圧痕性浮腫(間質の水分貯留) ・静水圧の上昇: 心不全、腎不全(体液過剰)、深部静脈血栓症などの静脈閉塞、妊娠 ・膠質浸透圧の低下: ネフローゼ症候群、肝硬変、低栄養、タンパク漏出性胃腸症 ・薬剤性: カルシウム拮抗薬(特にジヒドロピリジン系)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ステロイド、チアゾリジン系糖尿病薬など ・特発性浮腫 2. 非圧痕性浮腫(水以外の物質の蓄積や組織の硬化) ・甲状腺機能低下症(粘液水腫) ・バセドウ病の前脛骨粘液水腫(甲状腺機能亢進症でも、自己免疫機序により下腿前面にムコ多糖が沈着する) ・リンパ浮腫(乳癌手術後のリンパ節郭清後など。タンパク質に富むリンパ液が貯留し、慢性化すると線維化して硬くなる) ・強皮症の初期(浮腫期) ・局所の炎症(蜂巣炎〈蜂窩織炎〉、虫刺されなど)

圧痕の確認方法

脛骨前面や足背など骨の上の皮膚を、指で10秒程度しっかり押し、離したあとにへこみが残るかを確認する。

全身性と局所性

全身性浮腫は心・腎・肝・内分泌・低栄養・薬剤などが原因となり、通常両側性である。片側性の局所性浮腫では、深部静脈血栓症、リンパ浮腫、蜂巣炎などを考える。

POINT

・浮腫は圧痕の有無で分類し、全身性浮腫の多くは圧痕性である。 ・非圧痕性浮腫の代表は甲状腺機能低下症の粘液水腫(ムコ多糖の沈着)である。 ・その他の非圧痕性浮腫: 前脛骨粘液水腫(バセドウ病)、リンパ浮腫、強皮症初期、局所炎症。 ・心不全・腎不全・肝硬変・ネフローゼ症候群・特発性浮腫は圧痕性浮腫を呈する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。