押しても戻る「むくみ」―非圧痕性浮腫が示す粘液水腫の正体
第109回医師国家試験 H問題 第9問
国試問題にチャレンジ
非圧痕性浮腫をきたすのはどれか。
- a.慢性腎不全
- b.慢性心不全
- c.特発性浮腫
- d.非代償性肝硬変
- e.甲状腺機能低下症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
浮腫は、指で押した跡が残る圧痕性浮腫と、残らない非圧痕性浮腫に分けられ、その違いは間質にたまっている物質の性質を反映します。心不全・腎不全・肝硬変・ネフローゼ症候群・特発性浮腫などは、静水圧上昇や膠質浸透圧低下、ナトリウム・水貯留により水分がたまるため圧痕性浮腫を呈します。甲状腺機能低下症ではムコ多糖が間質に沈着して水をゲル状に保持するため、押してもへこまない粘液水腫となり、これが非圧痕性浮腫の代表です。ほかにバセドウ病の前脛骨粘液水腫、慢性化したリンパ浮腫、強皮症初期、局所炎症も非圧痕性となりえます。全身性か局所性か、圧痕の有無はどうかという2軸で浮腫を整理することは、ベッドサイドでの鑑別診断の第一歩になります。
解答・解説
正解はeです
浮腫とは、間質(細胞と細胞の間の組織)に過剰な液体が貯留した状態である。指で数秒間押したあとにへこみ(圧痕)が残るかどうかで、圧痕性浮腫(pitting edema)と非圧痕性浮腫(non-pitting edema)に分けられる。
圧痕性浮腫
間質にたまっているのが主に水分(タンパク質の少ない漏出液)である場合、押すと水が周囲へ逃げるため、へこみがしばらく残る。毛細血管の静水圧の上昇(心不全、腎不全による体液過剰、静脈閉塞など)、血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症をきたす肝硬変・ネフローゼ症候群・低栄養など)、ナトリウムと水の貯留が主な機序であり、全身性浮腫の多くはこちらに属する。
非圧痕性浮腫
間質に水以外の物質(ムコ多糖、タンパク質に富む液、線維成分など)が蓄積し、組織がゲル状あるいは硬くなっている場合、押しても水が移動しにくく、へこみが残らない。代表が甲状腺機能低下症による粘液水腫である。 本問では、選択肢のうち間質へのムコ多糖沈着という「水以外の物質の蓄積」を機序とする疾患を選べばよい。腎・心・肝の疾患や特発性浮腫はいずれも水分の貯留が主体で、圧痕性浮腫を呈する。
選択肢考察
- ×a. 慢性腎不全
腎機能が低下すると、ナトリウムと水を十分に排泄できなくなり体液量が増える。その結果、毛細血管内の静水圧が上がって水分が間質へ漏れ出す。たまっているのは水分なので圧痕性浮腫となる。腎疾患による浮腫は、組織圧の低い顔面や上眼瞼に朝方目立ちやすいのが特徴とされる。ネフローゼ症候群を合併して低アルブミン血症があれば、膠質浸透圧の低下も浮腫を増強させる。
- ×b. 慢性心不全
右心系のうっ血により静脈圧が上がり、さらに心拍出量低下に伴うレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化でナトリウムと水が貯留する。毛細血管の静水圧上昇によって水分が間質へ移動するため、圧痕性浮腫となる。浮腫は重力の影響を受けやすく、歩行している患者では下腿・足背に、臥床している患者では背部や仙骨部に出やすい。
- ×c. 特発性浮腫
特発性浮腫は、心・腎・肝・内分泌などに明らかな原因疾患がないのに浮腫を繰り返す病態で、生殖年齢から中年の女性に多く、肥満傾向のある人にみられやすい。立位で増悪し、朝と夕で体重が大きく変動するのが特徴である。利尿薬の乱用が関与している例もある。間質にたまるのは水分であり、圧痕性浮腫を呈する。
- ×d. 非代償性肝硬変
肝臓でのアルブミン合成能が低下して低アルブミン血症となり、血漿膠質浸透圧が下がることで水分が血管外へ移動する。加えて門脈圧亢進や、有効循環血漿量の減少に伴う二次性アルドステロン症によるナトリウム・水貯留も加わる。腹水を伴うことが多く、下腿の浮腫は水分の貯留なので圧痕性である。
- ○e. 甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症では、皮膚の間質にヒアルロン酸などのムコ多糖(グリコサミノグリカン)が沈着する。ムコ多糖は親水性が高く、アルブミンなどのタンパク質や水と結合してゲル状の物質をつくる。また組織の膠質浸透圧が上がるため水分が間質に引き込まれる。水がゲルに保持されて自由に移動できないため、指で押してもへこみが残らない非圧痕性浮腫となる。これを粘液水腫(myxedema)と呼び、顔面(特に眼瞼周囲)や四肢にみられる。なお、甲状腺機能低下症に心不全などが合併すると、別の機序で圧痕性浮腫が加わることがある。
浮腫の分類と主な原因
1. 圧痕性浮腫(間質の水分貯留) ・静水圧の上昇: 心不全、腎不全(体液過剰)、深部静脈血栓症などの静脈閉塞、妊娠 ・膠質浸透圧の低下: ネフローゼ症候群、肝硬変、低栄養、タンパク漏出性胃腸症 ・薬剤性: カルシウム拮抗薬(特にジヒドロピリジン系)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ステロイド、チアゾリジン系糖尿病薬など ・特発性浮腫 2. 非圧痕性浮腫(水以外の物質の蓄積や組織の硬化) ・甲状腺機能低下症(粘液水腫) ・バセドウ病の前脛骨粘液水腫(甲状腺機能亢進症でも、自己免疫機序により下腿前面にムコ多糖が沈着する) ・リンパ浮腫(乳癌手術後のリンパ節郭清後など。タンパク質に富むリンパ液が貯留し、慢性化すると線維化して硬くなる) ・強皮症の初期(浮腫期) ・局所の炎症(蜂巣炎〈蜂窩織炎〉、虫刺されなど)
圧痕の確認方法
脛骨前面や足背など骨の上の皮膚を、指で10秒程度しっかり押し、離したあとにへこみが残るかを確認する。
全身性と局所性
全身性浮腫は心・腎・肝・内分泌・低栄養・薬剤などが原因となり、通常両側性である。片側性の局所性浮腫では、深部静脈血栓症、リンパ浮腫、蜂巣炎などを考える。
POINT
・浮腫は圧痕の有無で分類し、全身性浮腫の多くは圧痕性である。 ・非圧痕性浮腫の代表は甲状腺機能低下症の粘液水腫(ムコ多糖の沈着)である。 ・その他の非圧痕性浮腫: 前脛骨粘液水腫(バセドウ病)、リンパ浮腫、強皮症初期、局所炎症。 ・心不全・腎不全・肝硬変・ネフローゼ症候群・特発性浮腫は圧痕性浮腫を呈する。
