狭いのか、漏れるのか―「時相」と「形」で読み解く心雑音の地図
第109回医師国家試験 H問題 第5問
国試問題にチャレンジ
心臓の聴診所見と疑われる疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.心膜摩擦音 ―― 収縮性心膜炎
- b.opening snap ―― 僧帽弁閉鎖不全症
- c.汎〈全〉収縮期雑音 ―― 僧帽弁狭窄症
- d.収縮期駆出性雑音 ―― 大動脈弁狭窄症
- e.拡張期輪転様雑音 ―― 大動脈弁閉鎖不全症
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
心雑音は、時相(収縮期か拡張期か)、形(駆出性・汎収縮期・ランブル・灌水様)、血流の向き(開くべき弁が狭いのか、閉じるべき弁から漏れるのか)の3点で整理できます。大動脈弁狭窄症では、狭い弁口を通る駆出血流によりダイヤモンド型の収縮期駆出性雑音が胸骨右縁第2肋間に聴かれ、頸部へ放散します。汎収縮期雑音は僧帽弁閉鎖不全症・三尖弁閉鎖不全症・心室中隔欠損症、opening snapと拡張期ランブルは僧帽弁狭窄症、拡張期灌水様雑音は大動脈弁閉鎖不全症に対応し、心膜摩擦音は急性心膜炎、心膜ノック音は収縮性心膜炎の所見です。弁の開閉と血流から理屈で雑音を導く考え方は、聴診技能の向上と、心エコーへつなげる臨床推論の土台になります。
解答・解説
正解はdです
心臓の聴診所見と、それを生じる代表的な疾患との対応を問う問題である。 心雑音を考えるときは、次の3点を順に押さえると整理しやすい。 1. 時相:収縮期か拡張期か(Ⅰ音とⅡ音の間が収縮期、Ⅱ音から次のⅠ音までが拡張期)。 2. 雑音の形・性状:駆出性(ダイヤモンド型に強まって弱まる)か、逆流性(全収縮期にわたり平坦)か、低調なランブルか、高調な灌水様か。 3. 血流の向き:その時相に「開いているべき弁が狭い(狭窄)」のか、「閉じているべき弁から漏れる(閉鎖不全)」のか。 この考え方を当てはめると、収縮期に開く大動脈弁・肺動脈弁の狭窄は収縮期駆出性雑音、収縮期に閉じるべき僧帽弁・三尖弁の閉鎖不全は汎収縮期(全収縮期)雑音、拡張期に開く僧帽弁・三尖弁の狭窄は拡張期ランブル(輪転様雑音)、拡張期に閉じるべき大動脈弁・肺動脈弁の閉鎖不全は拡張期灌水様雑音となる。また、雑音以外の過剰心音として、opening snap(僧帽弁開放音)は僧帽弁狭窄症、心膜摩擦音は急性心膜炎、心膜ノック音は収縮性心膜炎に対応する。 選択肢のうち、この対応が正しく成り立つのは「収縮期駆出性雑音―大動脈弁狭窄症」である。
選択肢考察
- ×a. 心膜摩擦音 ―― 収縮性心膜炎
誤り。心膜摩擦音(pericardial friction rub)は、炎症で粗くなった臓側・壁側心膜が擦れ合って生じる、引っかくような高調の音で、急性心膜炎の代表的所見である。胸骨左縁下部で、患者に座位で前かがみの姿勢をとらせると聴き取りやすい。心周期の中で心房収縮期・心室収縮期・心室拡張早期の3相成分をもつことがある。収縮性心膜炎は心膜が線維化・肥厚(ときに石灰化)して心臓の拡張を妨げる慢性病態であり、特徴的な聴診所見は拡張早期に急激な心室充満が突然止められて生じる心膜ノック音(pericardial knock)である。
- ×b. opening snap ―― 僧帽弁閉鎖不全症
誤り。opening snap(OS、僧帽弁開放音)は、拡張早期に左房圧が高い状態で、硬くなりつつも可動性の残った僧帽弁尖が急に開放して張りつめるときに生じる高調な短い音で、僧帽弁狭窄症に特徴的である。Ⅱ音の直後(心尖部〜胸骨左縁下部)に聴かれ、Ⅱ音とOSの間隔が短いほど左房圧が高く狭窄が高度であることを示す。ただし弁が高度に石灰化して動かなくなるとOSは消失する。僧帽弁閉鎖不全症では、心尖部の汎収縮期雑音とⅠ音減弱、左室への容量負荷によるⅢ音が典型的である。
- ×c. 汎〈全〉収縮期雑音 ―― 僧帽弁狭窄症
誤り。汎収縮期雑音(全収縮期逆流性雑音)は、収縮期の全体を通じて高圧の心腔から低圧の部位へ血液が漏れ続けるために、Ⅰ音からⅡ音まで強さがほぼ一定で続く雑音である。代表は僧帽弁閉鎖不全症(心尖部、腋窩へ放散)、三尖弁閉鎖不全症(胸骨左縁下部、吸気で増強:Rivero-Carvallo徴候)、心室中隔欠損症(胸骨左縁第3〜4肋間)であり、いずれであっても病的と判断される。僧帽弁狭窄症では拡張期に左房から左室への流入が妨げられるため、Ⅰ音亢進、opening snap、拡張期ランブル(輪転様雑音)、洞調律時の前収縮期増強が特徴であり、収縮期の雑音は本来の所見ではない。
- ○d. 収縮期駆出性雑音 ―― 大動脈弁狭窄症
正しい。大動脈弁狭窄症では、収縮期に左室から大動脈へ駆出される血流が狭い弁口を通過して乱流となる。駆出血流は収縮中期にピークを迎えるため、Ⅰ音から少し遅れて始まり、中期に最強となってⅡ音の前に終わるダイヤモンド型(漸増漸減型)の収縮期駆出性雑音となる。最強点は胸骨右縁第2肋間で、頸部(頸動脈)へ放散するのが特徴である。重症化すると雑音のピークが収縮後期へずれ、Ⅱ音(大動脈成分)が減弱し、頸動脈の立ち上がりが遅く小さい脈(遅脈・小脈)を伴う。なお収縮期駆出性雑音は大動脈弁狭窄症に限らず、肺動脈弁狭窄症、心房中隔欠損症(右室からの肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄)、閉塞性肥大型心筋症、貧血・発熱などの高心拍出状態や無害性雑音でも聴かれる。
- ×e. 拡張期輪転様雑音 ―― 大動脈弁閉鎖不全症
誤り。拡張期輪転様雑音(拡張期ランブル)は、拡張期に心房から心室へ血液が流れ込む際、狭くなった房室弁を通過して生じる低調で「ゴロゴロ」と響く充満性の雑音である。代表は僧帽弁狭窄症(心尖部で、左側臥位・ベル型で聴きやすい)で、三尖弁狭窄症でも生じる。大動脈弁閉鎖不全症の典型的な雑音は、Ⅱ音の直後から始まり徐々に小さくなる高調な拡張期灌水様雑音(拡張早期の漸減性逆流性雑音)で、胸骨左縁第3肋間(Erb領域)で座位・前傾・呼気止めにすると聴き取りやすい。ただし高度の大動脈弁閉鎖不全症では、逆流ジェットが僧帽弁前尖の開放を妨げることで心尖部に拡張中期のランブルを生じることがあり、これをAustin Flint雑音と呼ぶ。これは二次的な所見であり、拡張期輪転様雑音から第一に疑うべき疾患は僧帽弁狭窄症である。
心雑音の整理
収縮期駆出性雑音:大動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、心房中隔欠損症(相対的肺動脈弁狭窄)、閉塞性肥大型心筋症、無害性雑音。 汎収縮期(逆流性)雑音:僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症。 拡張期ランブル(輪転様雑音):僧帽弁狭窄症、三尖弁狭窄症、Austin Flint雑音(高度大動脈弁閉鎖不全症)、左右短絡による房室弁の相対的狭窄(大きな心室中隔欠損症・動脈管開存症での僧帽弁血流増加、心房中隔欠損症での三尖弁血流増加)。 拡張期灌水様(逆流性)雑音:大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症(肺高血圧症に伴うものはGraham Steell雑音)。 連続性雑音:動脈管開存症、冠動静脈瘻、Valsalva洞動脈瘤破裂など。
雑音以外の心音・過剰心音
opening snap:僧帽弁狭窄症。 心膜摩擦音:急性心膜炎(心筋梗塞後の心膜炎、尿毒症性心膜炎なども含む)。 心膜ノック音:収縮性心膜炎。 収縮中期クリック:僧帽弁逸脱症(後に収縮後期雑音を伴う)。 駆出音(駆出性クリック):大動脈弁・肺動脈弁の狭窄(弁性)、大動脈・肺動脈の拡張。
雑音の強さ
雑音の大きさはLevine分類(Ⅰ〜Ⅵ度)で表す。Ⅰ度は注意深く聴いてようやく聴こえる程度、Ⅳ度以上は振戦(thrill)を触れ、Ⅵ度は聴診器を胸壁から離しても聴こえる。
POINT
・収縮期駆出性雑音(ダイヤモンド型)=大動脈弁狭窄症が代表。胸骨右縁第2肋間、頸部へ放散。 ・汎収縮期雑音=僧帽弁閉鎖不全症・三尖弁閉鎖不全症・心室中隔欠損症。 ・opening snap+拡張期ランブル(輪転様雑音)=僧帽弁狭窄症。 ・拡張期灌水様雑音=大動脈弁閉鎖不全症(高度ならAustin Flint雑音を伴うことあり)。 ・心膜摩擦音=急性心膜炎、心膜ノック音=収縮性心膜炎。
