ライブの翌朝、右耳に残った「谷」―オージオグラムで読み解く急性音響性難聴
第109回医師国家試験 G問題 第52問
国試問題にチャレンジ
21歳の男性。右耳鳴を主訴に来院した。昨夜,ロックコンサートに行き,最前列で大音量の音楽を聴いた。コンサート終了直後から右耳鳴があり,今朝から右難聴も自覚したため受診した。 別に示すオージオグラム(①~⑤)のうち,この患者に最も考えられるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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医学生
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ドクターまとめ
大音量の音楽などに曝露した直後から生じる耳鳴・難聴は急性音響性難聴で、内耳の外有毛細胞が障害される感音難聴です。オージオグラムでは気骨導差を伴わず、4,000Hz付近に限局して聴力が落ち込むc5-dipが特徴で、外耳道の共鳴による増幅や基底回転付近の有毛細胞の脆弱性が関係すると考えられています。低音障害型の感音難聴は内リンパ水腫、気骨導差があれば伝音難聴または混合性難聴と読み分け、患側・難聴の型・障害周波数の3点で判断します。早期のステロイド治療で改善が期待できる一方、遅れると後遺症が残りうるため早期受診が重要で、長期曝露による騒音性難聴の早期発見にもこの読み方が役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・21歳男性。ロックコンサートの最前列で大音量の音楽を聴いた。 ・終了直後から右耳鳴が出現し、翌朝には右難聴も自覚した。
診断
強大な音に曝露した直後から発症した一側性の耳鳴・難聴であり、急性音響性難聴(広義の音響外傷)と考えられる。強い音響エネルギーにより内耳蝸牛の有毛細胞(特に外有毛細胞)が障害されるため、難聴は感音難聴(内耳性難聴)となる。 音響による内耳障害では、4,000Hz付近の聴力が選択的に低下し、オージオグラム上でその周波数だけが谷のように落ち込む「c5-dip(4kHzディップ)」を示すのが特徴である。
オージオグラムの読み方
・気導聴力:右は○を実線で、左は×を破線で結ぶ。 ・骨導聴力:右は「⊏」、左は「⊐」で示す。 ・記号に付いた矢印(↘)は、検査機器の最大出力でも反応がなかったこと(スケールアウト)を示す。 ・気導と骨導がともに同程度低下していれば感音難聴、骨導が正常で気導のみ低下(気骨導差あり)していれば伝音難聴、骨導も低下しつつ気骨導差もあれば混合性難聴である。
本問の考え方
したがって、患側が右であること、感音難聴であること(気導・骨導がともに低下し気骨導差がない)、4,000Hzに限局した落ち込み(c5-dip)があること、の3点を満たすオージオグラムを選べばよい。これに合致するのは④である。
選択肢考察
- ×a. ①
右耳の気導聴力が125~500Hzで45~55dB程度に低下し、1,000Hzで25dB、2,000Hz以上は正常である。骨導も低音域で気導と同程度に低下しており気骨導差はないため、右の低音障害型感音難聴である。左耳は正常。低音障害型感音難聴は内リンパ水腫が関与すると考えられ、急性低音障害型感音難聴やMénière病でみられる。音響による内耳障害では高音域(4,000Hz付近)が障害されるため、本例には合致しない。
- ×b. ②
右耳は気導聴力がほぼ正常(8,000Hzで軽度低下)である。左耳は気導聴力が全周波数で50~65dB程度に低下し、骨導も25~40dB程度に低下しているが、気導との間に気骨導差がある。すなわち左の混合性難聴である。患側が左であり、障害型も本例と異なる。
- ×c. ③
右耳の気導聴力が全周波数でおよそ25~35dBに平坦に低下しているが、骨導聴力は正常範囲であり、大きな気骨導差を認める。右の伝音難聴であり、外耳・中耳の障害(耳垢栓塞、滲出性中耳炎、鼓膜穿孔など)で生じるパターンである。左耳は正常。患側は右だが、大音響による内耳障害であれば感音難聴となるはずであり、本例に合致しない。
- ○d. ④
右耳の気導聴力は125~2,000Hzでほぼ正常(5~15dB)だが、4,000Hzで約50dBに急峻に低下し、8,000Hzでは約30dBまで回復している。4,000Hzの骨導も気導と同程度に低下しており気骨導差はないため、4,000Hzに限局した右の感音難聴、すなわちc5-dipである。左耳はほぼ正常範囲である。大音響曝露後に発症した右耳鳴・右難聴という病歴とよく一致し、急性音響性難聴に典型的な所見である。
- ×e. ⑤
右耳は気導聴力が30~55dBに低下しているが、骨導聴力は正常(10dB程度)で気骨導差が大きく、右の伝音難聴である。左耳は気導・骨導ともに最大出力でも反応がなく(スケールアウトを示す矢印付き)、高度の感音難聴(聾)である。両側に異常があり、右が感音難聴でない点からも本例には合致しない。
音響性難聴の分類
強大音への曝露による内耳障害を総称して音響外傷(広義)あるいは音響性難聴という。 ・狭義の音響外傷:爆発音や銃声など、非常に強大な衝撃音に一瞬曝露して起こるもの。鼓膜穿孔や耳小骨障害を伴うこともある。 ・急性音響性難聴:ロックコンサート、ヘッドホンでの大音量の音楽、ディスコなど、強大な音に数分~数時間曝露して起こるもの。本例はこれに該当する。 ・騒音性難聴(慢性音響性難聴):工場や建設現場などで長期間(数年以上)騒音に曝露されて徐々に進行するもの。職業性疾患として重要で、通常は両側性である。
c5-dipの機序と意味
c5-dipとは、オージオグラム上で4,000Hz付近の聴力だけが選択的に低下する所見である。名称は、4,096Hzが音楽の音名でc5(5点ハ音)に当たることに由来する。外耳道の共鳴(約3,000~4,000Hz)により、この帯域の音が増幅されて内耳に強く伝わること、およびこの周波数を担当する蝸牛基底回転付近の外有毛細胞が音響負荷に弱いことなどが原因と考えられている。騒音性難聴では初期にc5-dipが生じ、曝露が続くと難聴が周囲の周波数(会話音域を含む)へ広がっていく。初期のc5-dipは会話音域の聴力が保たれるため自覚されにくく、健診のオージオメトリで発見されることが多い。
急性音響性難聴の治療と予後
発症早期であれば、副腎皮質ステロイドの全身投与などにより改善が期待できるが、治療開始が遅れたり障害が高度だったりすると難聴や耳鳴が残ることがある。音響曝露を避けて安静を保つことも大切である。予防には、大音量環境での耳栓の使用や曝露時間の短縮が有効である。
難聴の型とオージオグラムの特徴
・伝音難聴:骨導正常、気導のみ低下(気骨導差あり)。外耳・中耳の障害。 ・感音難聴:気導・骨導ともに同程度に低下(気骨導差なし)。内耳・後迷路(蝸牛神経・中枢)の障害。 ・混合性難聴:骨導も低下し、さらに気骨導差もある。 代表的な感音難聴のパターン:低音障害型(急性低音障害型感音難聴、Ménière病)、高音漸傾型(加齢性難聴)、c5-dip(音響性難聴・騒音性難聴)、高度難聴・聾(突発性難聴の重症例など)。
POINT
・大音響曝露直後からの耳鳴・難聴 → 急性音響性難聴(音響外傷)。内耳障害による感音難聴である。 ・オージオグラムの特徴は4,000Hzに限局した落ち込み(c5-dip)で、気骨導差はない。 ・記号:右気導○(実線)、左気導×(破線)、右骨導⊏、左骨導⊐、矢印はスケールアウト。 ・低音障害型感音難聴は内リンパ水腫(急性低音障害型感音難聴、Ménière病)、気骨導差があれば伝音難聴または混合性難聴。 ・急性音響性難聴は早期のステロイド治療で改善が期待できる。騒音性難聴(慢性)の初期もc5-dipを示す。
