StudyMed医師国家試験

夕方につらくなる首と肩―画像が正常なら、まず机の上を見よ

第109回医師国家試験 G問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第50問

50歳の男性。3か月続く後頸部痛と肩こりとを主訴に来院した。症状は夕方に強いが,増悪はしておらず仕事に支障があるほどではない。市販の消炎鎮痛薬を貼付している。半年前に職場を変わり,仕事でほぼ1日中パソコンに向かってデスクワークを行っている。職場での人間関係は問題ない。後頸部から両肩にかけて筋緊張を認める。頸椎エックス線写真と頸部MRIとに異常を認めない。  まず行うのはどれか。

  1. a.頸椎の牽引を行う。
  2. b.星状神経節ブロックを行う。
  3. c.トリプタンの皮下注射を行う。
  4. d.配置転換の希望を会社に出すように伝える。
  5. e.作業時間,パソコンの位置および姿勢を確認する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性的な後頸部痛と肩こりを訴える会社員に、まず何をするかを問う問題だ。ポイントは三つ。職業歴、症状が強まる時間帯、そして画像検査で器質的異常が否定されていることだ。この組み合わせから、痛みの原因がどこにあると考えるかな。
医学生医学生
半年前からほぼ1日中パソコン作業ということなので、姿勢や作業そのものが原因でしょうか。
ドクタードクター
いい着眼点だね。同じ姿勢を長時間続けると頸部から肩の筋が持続的に緊張し、疲労がたまる。だから作業が積み重なる夕方に症状が強くなる。触診で後頸部から両肩の筋緊張があるのもそれを裏づけている。こうした病態は頸肩腕症候群、あるいはVDT障害、最近の言い方では情報機器作業による健康障害と呼ばれるんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、VDT作業は作業関連疾患の代表例として出てきました。
ドクタードクター
そうだね。ただし、こうした診断をつける前提として、頸椎症や椎間板ヘルニア、腫瘍、炎症などの器質的疾患を除外しておく必要がある。本例はエックス線もMRIも正常で、神経症状の記載もなく、増悪や全身症状といった危険な徴候もない。だから「作業との関連」に焦点を絞っていい段階なんだ。
医学生医学生
それなら、まず作業時間やパソコンの位置、姿勢を確認するのが正解ですね。
ドクタードクター
正解。1日の作業時間と休憩の取り方、ディスプレイの高さや距離、キーボードの位置、椅子と机の高さ、作業中の姿勢を具体的に聴き取って問題点を見つけ、休憩やストレッチ、作業環境の調整を指導して経過をみる。原因に直接はたらきかける、いちばん理にかなった一手だね。
医学生医学生
整形外科の外来実習で頸椎牽引をしている患者さんを見ましたが、今回は使わないのでしょうか。
ドクタードクター
頸椎牽引は、頸椎症性神経根症など頸椎の変性で神経根が圧迫されている場合に行われることがある保存療法だ。画像に異常がなく神経根症状もない今回は、牽引をする根拠がないんだよ。
医学生医学生
星状神経節ブロックは、麻酔科の実習でペインクリニックの患者さんに行っていました。肩こりにも効くと聞いたことがあります。
ドクタードクター
交感神経を遮断して血流を改善し、筋緊張を和らげる目的で、頑固な頸肩部痛や緊張型頭痛に使われることはある。でも局所麻酔薬中毒や血腫、反回神経麻痺といった合併症もありうる侵襲的手技だ。仕事に支障もない軽い症状に、作業状況の確認より先に行うものではないね。
医学生医学生
トリプタンは片頭痛の薬なので、そもそも合わないですよね。
ドクタードクター
その通り。トリプタンはセロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬で片頭痛の急性期治療薬、スマトリプタン皮下注は群発頭痛の発作にも使う。拍動性の頭痛や悪心、光過敏もなく、筋緊張による痛みの今回は適応がない。
医学生医学生
配置転換の希望を出すのは、少し極端な気がします。
ドクタードクター
そう。人間関係に問題はなく、症状も軽い。職場内で作業時間や姿勢を調整する前に、職業生活に大きく影響する配置転換を勧めるのは過剰だ。改善しても症状が続くなら、産業医と連携して作業内容の調整を検討すればいい。
医学生医学生
原因が分かっているなら、薬や処置よりまず原因を取り除く、という順番ですね。
ドクタードクター
まさにそれ。発展として、厚生労働省の情報機器作業ガイドラインの目安も覚えておこう。一連続作業時間は1時間を超えないようにし、次の作業までに10~15分の休止を入れ、作業中にも1~2回の小休止をとる。ディスプレイはおおむね40cm以上離し、画面上端が眼の高さとほぼ同じかやや下になるようにする。椅子は足裏全体が床に着く高さにするんだ。
医学生医学生
眼精疲労やドライアイも、VDT作業の健康障害に含まれるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、眼症状や精神的ストレスも含まれる。また、同じ頭頸部の筋緊張が頭の締めつけ感として出れば緊張型頭痛になる。両側性・非拍動性で、日常動作で悪化せず悪心も伴わない点が片頭痛との違いで、治療の基本はやはり姿勢改善や休憩、ストレッチなどの生活指導だ。臨床では、しびれや筋力低下、進行性の痛み、発熱や体重減少が出てきたら、改めて器質的疾患を疑い直すことも忘れないでほしい。

まとめ

長時間のパソコン作業に従事し、夕方に強まる後頸部痛・肩こりと頸肩部の筋緊張を認め、画像検査で器質的異常がない場合は、頸肩腕症候群(VDT障害)を考えます。まず行うべきは、作業時間や休憩の取り方、ディスプレイ・キーボードの位置、椅子や机の高さ、作業姿勢を確認し、作業環境と作業方法を改善することです。頸椎牽引は神経根症など頸椎病変が疑われる場合、星状神経節ブロックは侵襲的で保存的対応が無効な場合の選択肢であり、トリプタンは片頭痛や群発頭痛の薬で筋緊張による痛みには用いず、配置転換も最初の対応としては過剰です。情報機器作業では一連続作業を1時間以内とし10~15分の休止を挟むことが目安で、同じ筋緊張が頭痛として現れれば緊張型頭痛となります。器質的疾患を除外したうえで原因となる生活・作業環境に働きかけるという考え方は、産業保健や日常診療で繰り返し求められる基本姿勢です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・50歳男性。3か月続く後頸部痛と肩こり。 ・症状は夕方に強いが、進行性の増悪はなく、仕事に支障をきたすほどではない。市販の消炎鎮痛薬の貼付で対処している。 ・半年前に職場が変わり、ほぼ1日中パソコンに向かうデスクワークに従事している。職場の人間関係には問題がない。 ・後頸部から両肩にかけて筋緊張を認める。 ・頸椎エックス線写真と頸部MRIに異常はない。

診断の考え方

長時間のパソコン作業(VDT作業、情報機器作業)という職業歴、作業が積み重なる夕方に強まる症状、後頸部から両肩の筋緊張という所見から、同一姿勢の持続による頸肩部の筋疲労・筋緊張が症状の主因と考えられる。こうした病態は頸肩腕症候群(頸肩腕障害)、あるいはVDT障害(情報機器作業による健康障害)と呼ばれる。なお、同様の頭頸部筋の緊張が頭痛として現れれば緊張型頭痛となる。 頸肩部痛を診る際には、まず頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、腫瘍、炎症などの器質的疾患(症候性のもの)を除外する必要があるが、本例では画像検査に異常がなく、神経症状の記載もない。また、症状の進行や発熱・体重減少などの危険な徴候(レッドフラッグ)もうかがえない。

まず何をすべきか

器質的疾患が除外され、作業内容と症状の関連が強く疑われる以上、最初に行うべきは原因と考えられる作業状況の具体的な把握である。1日の作業時間や休憩の取り方、ディスプレイやキーボードの位置・高さ、椅子や机の高さ、作業中の姿勢などを確認し、問題があれば作業環境と作業方法を改善するよう指導して、症状の推移を観察する。侵襲的な処置や薬物療法を優先する段階ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  頸椎の牽引を行う。

    頸椎牽引は、頸椎症性神経根症や頸椎椎間板ヘルニアなど、頸椎の変性による神経根の圧迫が疑われる場合に用いられることがある保存療法である。本例は頸椎エックス線写真・頸部MRIともに異常がなく、神経根症状もないため、牽引を行う根拠がない。原因と考えられる作業状況を確認する前に行う処置ではない。

  2. ×b.  星状神経節ブロックを行う。

    星状神経節ブロックは、頸部交感神経節(星状神経節)に局所麻酔薬を注入して交感神経を遮断し、血流改善や筋緊張の緩和を図る神経ブロックである。頑固な頸肩部痛や緊張型頭痛に用いられることはあるが、侵襲的な手技であり、頻度は低いながら局所麻酔薬中毒、血腫、反回神経麻痺などの合併症もありうる。症状が軽度で仕事にも支障がない段階で、生活・作業環境の確認より先に行うものではない。

  3. ×c.  トリプタンの皮下注射を行う。

    トリプタン(セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬)は片頭痛の急性期治療薬であり、スマトリプタンの皮下注射は群発頭痛の発作にも用いられる。本例は拍動性頭痛や悪心、光・音過敏といった片頭痛の特徴も、一側眼窩周囲の激痛と自律神経症状を伴う群発頭痛の特徴もなく、慢性的な頸肩部の筋緊張による痛みであるため適応にならない。

  4. ×d.  配置転換の希望を会社に出すように伝える。

    症状は軽度で仕事に支障はなく、職場の人間関係にも問題はない。作業時間や作業姿勢の調整といった職場内での改善を試みる前に、配置転換という本人の職業生活に大きく影響する選択を勧めるのは過剰であり、まず行う対応とはいえない。作業環境の改善を行っても症状が続く場合に、産業医などと連携して作業内容の調整を検討する。

  5. ○e.  作業時間,パソコンの位置および姿勢を確認する。

    本例の症状は、長時間のパソコン作業に伴う同一姿勢の持続による頸肩部の筋緊張が原因と考えられる。1日の作業時間と休憩の取り方、ディスプレイの高さや距離、キーボードの位置、椅子・机の高さ、作業姿勢を具体的に聴き取って問題点を明らかにし、作業の合間の休憩やストレッチ、作業環境の調整を指導して経過をみることが、最初に行うべき対応である。

頸肩腕症候群(頸肩腕障害)

後頸部から肩、上肢にかけての痛み、こり、しびれ、だるさなどを訴えるが、それを説明できる明らかな器質的異常(頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群、腫瘍など)を認めないものを指す。キーボード操作などの上肢を反復して使う作業や、同じ姿勢を長時間続ける作業に従事する人に生じやすく、職業性の健康障害として扱われる。若年者にもみられ、女性に多いとされる。心理的ストレスが症状を修飾することもある。 診断にはまず器質的疾患の除外が必要であり、病歴・神経学的診察・画像検査で症候性のものを否定する。治療は作業環境・作業方法の改善が基本で、頸部・肩の運動療法やストレッチ、温熱療法、マッサージなどを組み合わせ、必要に応じて消炎鎮痛薬や筋弛緩薬を併用する。

情報機器作業(VDT作業)の労働衛生管理

VDT(visual display terminal)とは、パソコンなどの画面表示装置のことである。厚生労働省は「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(2019年、旧VDT作業ガイドラインを改定)で、次のような対策を示している。 ・作業時間:一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10~15分の作業休止時間を設ける。一連続作業時間内にも1~2回程度の小休止を設ける。 ・ディスプレイ:おおむね40cm以上の視距離を確保し、画面の上端が眼の高さとほぼ同じかやや下になるようにする。 ・椅子・机:足裏全体が床に接する高さに調整し、無理のない姿勢をとれるようにする。 ・健康管理:配置前および定期の健康診断で、眼の症状や筋骨格系の症状を確認する。 VDT作業による健康障害には、頸肩腕部の痛みやこりのほか、眼精疲労やドライアイなどの眼症状、精神的ストレスなどがある。

緊張型頭痛との関係

頭頸部・肩の筋緊張が頭部の締めつけ感や圧迫感として現れると緊張型頭痛となる。緊張型頭痛は両側性の非拍動性頭痛で、日常動作による悪化がなく、悪心・嘔吐を伴わない点で片頭痛と区別される。治療の基本は、姿勢の改善、ストレッチ、休憩の確保などの生活指導であり、トリプタンは無効である。

POINT

・長時間のパソコン作業+夕方に強まる後頸部痛・肩こり+頸肩部の筋緊張+画像正常 → 頸肩腕症候群(VDT障害)を考える。 ・器質的疾患を除外したら、まず作業時間・休憩・ディスプレイの位置・姿勢などの作業状況を確認し、作業環境と作業方法を改善する。 ・情報機器作業では一連続作業を1時間以内とし、10~15分の休止を挟む。 ・トリプタンは片頭痛(皮下注は群発頭痛にも)の薬であり、筋緊張による痛みには用いない。 ・頸椎牽引や神経ブロック、配置転換は、まず行う対応ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。