「どこが壊れたか」より「いま何が破綻しているか」―防ぎ得た外傷死をなくす初期診療の鉄則
第109回医師国家試験 G問題 第16問
国試問題にチャレンジ
生命をおびやかす外傷の診療の原則で誤っているのはどれか。
- a.迅速性を重視する。
- b.緊急度の高い病態から対処する。
- c.手技による侵襲は最小限にとどめる。
- d.生理学的徴候より損傷部位の評価を優先する。
- e.確定診断は生命の危機を回避してからでよい。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生
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医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
生命を脅かす外傷の初期診療は、防ぎ得た外傷死をなくすことを目的にJATECで標準化されており、迅速性の重視、緊急度の高い病態からの対処、手技による侵襲の最小化、確定診断よりも救命の優先が原則です。最も重要なのは、損傷部位という解剖学的評価よりも、気道・呼吸・循環・意識などの生理学的徴候の評価と安定化を優先することで、「生理学的徴候より損傷部位の評価を優先する」は優先順位が逆の誤った記述です。実際にはプライマリーサーベイでABCDEを評価して蘇生を行い、安定してからセカンダリーサーベイで全身を系統的に診察し、CTなどで損傷を検索します。緊張性気胸をX線を待たずに臨床診断で脱気することや、外傷死の三徴を避けるダメージコントロール手術も同じ考え方に基づいており、この優先順位の感覚は救急に限らずあらゆる急変対応の土台となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、生命を脅かす重症外傷の初期診療において何を優先するかという基本原則を問う一般問題であり、「誤っているもの」を選ぶ形式である。 日本の外傷初期診療は、JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care:外傷初期診療ガイドライン)に基づいて標準化されている。その中心にある考え方は「防ぎ得た外傷死(PTD:preventable trauma death)をなくす」ことであり、そのために次のような原則が掲げられている。 ・生命維持を最優先し、迅速に対応する ・解剖学的な損傷の診断よりも、生理学的徴候(気道・呼吸・循環・意識・体温)の異常の把握と安定化を優先する ・緊急度の高い病態から順に対処する ・確定診断に固執せず、生命の危機を回避してから詳しい診断を行う ・時間経過とともに病態は変化するので、繰り返し評価する ・不必要な侵襲を加えない(損傷を増やさない) 具体的には、まずプライマリーサーベイ(primary survey)でABCDE〔A:気道(Airway)、B:呼吸(Breathing)、C:循環(Circulation)、D:中枢神経障害(Dysfunction of CNS)、E:脱衣と体温管理(Exposure and Environmental control)〕を評価し、異常があればその場で蘇生処置を行う。生理学的徴候が安定してから、セカンダリーサーベイ(secondary survey)として頭から足先まで系統的に診察し、損傷部位を詳しく評価・診断する。 したがって、「生理学的徴候より損傷部位の評価を優先する」は優先順位が逆であり、誤りである。
選択肢考察
- ×a. 迅速性を重視する。
正しい記述である。重症外傷では、出血性ショックや気道閉塞、緊張性気胸などにより短時間で心停止に至りうる。受傷から根本的治療までの時間が短いほど救命率が高まるため、評価と処置は迅速に行う必要がある。
- ×b. 緊急度の高い病態から対処する。
正しい記述である。気道閉塞は数分で、呼吸障害や大量出血による循環不全もごく短時間で致命的となるため、プライマリーサーベイではA→B→C→D→Eの順に、放置すると早く死に至る病態から評価・処置を行う。治療を待てる損傷(四肢の単純骨折など)は後回しにする。
- ×c. 手技による侵襲は最小限にとどめる。
正しい記述である。重症外傷患者は生理学的予備能が低下しており、侵襲の大きな処置そのものが状態を悪化させる危険がある。救命に必要な処置(気管挿管、胸腔ドレナージ、止血術など)はためらわずに行うべきだが、その侵襲は必要最小限にとどめる。この考え方を手術に応用したものが、初回手術では止血と汚染回避のみを行い、全身状態の改善後に根本的修復を行うダメージコントロール手術である。
- ○d. 生理学的徴候より損傷部位の評価を優先する。
誤った記述であり、これが正解である。外傷初期診療では、損傷部位(解剖学的異常)の評価よりも、気道・呼吸・循環・意識などの生理学的徴候の評価と安定化を優先する。患者の生死を直接左右するのはバイタルサインの破綻であり、損傷部位の詳しい検索(CTなど)は、プライマリーサーベイと蘇生により生理学的徴候が安定してから、セカンダリーサーベイで行う。循環が不安定な患者をCT室へ移動させることは危険である。
- ×e. 確定診断は生命の危機を回避してからでよい。
正しい記述である。重症外傷では確定診断を得るための検査に時間をかけると、その間に病態が進行して救命の機会を失う。例えば緊張性気胸は胸部X線撮影を待たずに臨床所見から診断し、ただちに胸腔穿刺・ドレナージを行う。まず蘇生処置で生命の危機を回避し、確定診断はその後に行えばよい。
JATECにおける外傷初期診療の流れ
1. 病院前情報に基づく準備(人員・物品の確保、標準予防策) 2. 第一印象:数秒で気道・呼吸・循環・意識・外見を把握し、重症感をつかむ 3. プライマリーサーベイと蘇生:ABCDEの順に生理学的徴候を評価し、異常があれば直ちに処置する。補助検査として胸部・骨盤X線、FAST(focused assessment with sonography for trauma:心嚢・胸腔・腹腔内の液体貯留を迅速に検索する超音波検査)を行う。 4. セカンダリーサーベイ:生理学的徴候が安定してから、受傷機転・既往歴の聴取、頭から足先までの系統的診察、CTなどの精密検査で損傷を検索する 5. 根本治療の決定、必要に応じて転院 6. 見落としを防ぐためのターシャリーサーベイ(入院後の再評価)
プライマリーサーベイでの主な処置
A:気道確保(用手的気道確保、気管挿管、輪状甲状靱帯切開)。頸椎保護を併せて行う。 B:酸素投与、補助換気、緊張性気胸に対する胸腔穿刺・胸腔ドレナージ C:外出血の圧迫止血、静脈路確保と初期輸液・輸血、心タンポナーデへの対応、止血術の決定 D:意識レベル(GCS)、瞳孔、麻痺の評価。「切迫するD」(GCS8以下、急速な意識低下、脳ヘルニア徴候)があれば頭部CTをセカンダリーサーベイの最初に行う E:脱衣による全身観察と保温(低体温の予防)
外傷死の三徴
低体温・アシドーシス・凝固障害は互いに悪循環を形成し、致死的となる。これを避けるため、長時間の根治手術を避けるダメージコントロールの概念が重要となる。
POINT
・外傷初期診療の原則:生命維持最優先、迅速性、緊急度の高い病態から対処、侵襲は最小限 ・解剖学的評価(損傷部位の診断)よりも生理学的徴候(ABCDE)の評価と安定化を優先する ・確定診断は生命の危機を回避してから(例:緊張性気胸はX線を待たずに臨床診断で脱気) ・プライマリーサーベイ(ABCDE+蘇生)→安定化→セカンダリーサーベイ(損傷部位の系統的検索)の順
