円錐か円柱か―電子顕微鏡で見分ける錐体と色覚のつながり
第109回医師国家試験 G問題 第10問
国試問題にチャレンジ
網膜外層の走査型電子顕微鏡写真を別に示す。 矢印の構造に関係が深いのはどれか。

- a.夜盲
- b.霧視
- c.色覚異常
- d.視野狭窄
- e.両眼視機能障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
網膜の視細胞は色素上皮側の最外層に位置し、外節が細長い円柱状の杆体と、太く先細りの円錐状の錐体に分けられ、走査型電子顕微鏡でも形で区別できます。錐体は黄斑・中心窩に密集して明所視、高い視力、色覚を担い、3種類の錐体オプシンの反応の比較で色を知覚するため、その障害では色覚異常が生じます。一方、杆体は周辺網膜に多く暗所視を担うため、障害では夜盲や求心性視野狭窄が起こり、網膜色素変性がその代表です。霧視は透光体の混濁、両眼視機能障害は斜視・不同視などが主な原因で、視細胞とは直接関係しません。視細胞の形と分布と機能を結びつけて理解すると、網膜色素変性や錐体ジストロフィ、先天色覚異常など多くの疾患の症状を論理的に説明できるようになります。
解答・解説
正解はcです
網膜は10層からなり、光を受容する視細胞(光受容細胞)は最外層側、すなわち網膜色素上皮に接する側に並んでいる。視細胞には杆体(桿体)と錐体の2種類があり、走査型電子顕微鏡では外節(光を受け取る視物質が詰まった部分)の形の違いで区別できる。 ・杆体:外節が細長い円柱状で、数が多く密に並ぶ。 ・錐体:外節が短く、根元が太く先端に向かって細くなる円錐状を呈する。 矢印が示すのは、周囲の細長い杆体の間に点在する、太く先細りの形をした構造であり、錐体(錐体外節)である。なお、電子顕微鏡写真では外節側(色素上皮側)が下向きに配置されることもあり、教科書の模式図と上下が逆に見える場合がある点に注意する。 設問は、錐体の機能とその障害で生じる症状を問うている。 ・錐体:明所視を担い、高い視力(解像力)と色の識別に関わる。視物質は3種類の錐体オプシン(青・緑・赤に感度のピークをもつ)で、どの錐体がどの程度反応したかの比較によって色が知覚される。網膜中心の黄斑部、特に中心窩に高密度に存在する。 ・杆体:暗所視を担い、弱い光の検出(明暗の識別)に優れるが色は識別しない。視物質はロドプシン。中心窩には存在せず、網膜周辺部に広く分布する。 したがって、錐体と最も関係が深い症状は色覚異常である。
選択肢考察
- ×a. 夜盲
夜盲は暗い場所で物が見えにくくなる症状で、暗所視を担う杆体の機能低下によって起こる。代表的な原因は網膜色素変性(杆体が先に障害されることが多い)、ビタミンA欠乏症(ロドプシンの再合成が障害される)、小口病・白点状眼底などの先天停在性夜盲である。錐体ではなく杆体と関係が深い。
- ×b. 霧視
霧視は霧がかかったように全体がかすんで見える症状である。角膜浮腫(急性緑内障発作など)、前房の炎症(ぶどう膜炎)、白内障、硝子体出血・混濁など、光の通り道である透光体の混濁によって光が散乱することで生じるのが典型であり、特定の視細胞の障害と直接結びつく症状ではない。錐体が障害される錐体ジストロフィでは、霧視よりも視力低下・羞明・昼盲(明るい所でかえって見えにくい)・色覚異常が目立つ。
- ○c. 色覚異常
色の識別は錐体が担っている。ヒトの錐体は感度のピークが異なる3種類(S錐体:青、M錐体:緑、L錐体:赤)に分かれ、それぞれ異なるオプシンをもつ。いずれかのオプシンの欠損や異常、あるいは錐体そのものの障害(錐体ジストロフィ、黄斑疾患など)が起こると色覚異常が生じる。最も多い先天赤緑色覚異常は、X染色体上にあるL・Mオプシン遺伝子の異常によるX連鎖潜性(劣性)遺伝で、日本人男性の約5%、女性の約0.2%にみられる。したがって矢印の構造(錐体)と最も関係が深い。
- ×d. 視野狭窄
視野狭窄は見える範囲が狭くなる状態で、周辺部から狭くなる求心性視野狭窄が代表的である。網膜周辺部に多く分布する杆体の障害が主体となる網膜色素変性で典型的にみられ、錐体が多い中心部の視機能は末期まで比較的保たれる。また、緑内障(網膜神経節細胞・視神経の障害)、視路の障害(半盲など)でも視野異常が生じる。錐体の障害ではむしろ中心暗点が問題となり、周辺からの視野狭窄とは結びつかない。
- ×e. 両眼視機能障害
両眼視機能は、左右の眼で見た像を脳で一つに融合し、立体感・遠近感を得る機能である。斜視、不同視(左右の屈折度数の差が大きい状態)、弱視などで障害される。視細胞のレベルの問題ではなく、眼位や両眼の視力差、中枢での融像の問題であり、錐体とは直接関係しない。
網膜の層構造
硝子体側から順に、内境界膜、神経線維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層(視細胞の核)、外境界膜、視細胞層(内節・外節)、網膜色素上皮の10層からなる。光は硝子体側から入り、網膜の全層を通過して最外層の視細胞に到達する。
杆体と錐体の比較
・数:杆体は約1億2,000万個、錐体は約600万個とされ、杆体のほうがはるかに多い。 ・分布:錐体は中心窩に最も密に分布し、中心窩には杆体が存在しない。杆体は中心窩から離れた周辺部に多い。 ・視物質:杆体はロドプシン(ビタミンA由来のレチナールとオプシンからなる)、錐体は3種類の錐体オプシン。 ・機能:杆体は暗所視(高感度、色覚なし、解像力は低い)、錐体は明所視(感度は低いが、高い視力と色覚を担う)。 ・暗順応:明所から暗所に移ると、まず錐体の、続いて杆体の感度が上昇する。杆体による暗順応の完成には30分程度を要する。
視細胞が関わる主な疾患
・網膜色素変性:多くは杆体から障害され、夜盲・求心性視野狭窄・輪状暗点で発症し、進行すると中心視力も低下する。網膜電図(ERG)で振幅が著しく低下(消失型)する。 ・錐体ジストロフィ:錐体が主に障害され、視力低下、羞明、昼盲、色覚異常、中心暗点を呈する。 ・先天色覚異常:大部分は赤緑色覚異常(1型:L錐体の異常、2型:M錐体の異常)でX連鎖潜性遺伝。青錐体の異常による3型はまれ。石原色覚検査表などでスクリーニングし、アノマロスコープで確定診断する。
POINT
・視細胞は網膜の最外層側にあり、外節が円柱状の杆体と円錐状の錐体がある。 ・錐体:黄斑・中心窩に多い、明所視・高い視力・色覚を担う → 障害で色覚異常、視力低下、羞明、昼盲。 ・杆体:周辺部に多い、暗所視を担う(ロドプシン)→ 障害で夜盲、求心性視野狭窄(網膜色素変性)。 ・霧視は透光体の混濁、両眼視機能障害は斜視・不同視が主な原因。 ・先天赤緑色覚異常はX連鎖潜性遺伝で、日本人男性の約5%。
