カテーテルはどこから入れる?―「中心静脈にたどり着けるか」で選ぶ穿刺部位
第109回医師国家試験 G問題 第11問
国試問題にチャレンジ
中心静脈栄養法を行うための穿刺部位として適切でない血管はどれか。
- a.内頸静脈
- b.大腿静脈
- c.大伏在静脈
- d.鎖骨下静脈
- e.肘正中皮静脈
対話形式の解説
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ドクターまとめ
中心静脈栄養法では高浸透圧の輸液を投与するため、カテーテル先端を血流の多い上大静脈または下大静脈に置く必要があり、穿刺部位は「そこから中心静脈に到達しやすいか」で選びます。内頸静脈・鎖骨下静脈・大腿静脈のほか、肘正中皮静脈など上肢の静脈から挿入するPICCも用いられますが、細く長い下肢表在静脈である大伏在静脈は用いません。鎖骨下静脈は感染が少ない一方で気胸やピンチオフに注意し、大腿静脈は緊急時に有用だが感染・血栓が多く、PICCは重篤な挿入時合併症がほとんどないなど、部位ごとの利点と欠点を整理しておくことが大切です。挿入後の胸部エックス線写真での確認や、TPN施行中のビタミンB1投与も臨床で欠かせないポイントです。穿刺部位の特徴を理解しておくことは、患者ごとに安全なルートを選ぶ判断の土台になります。
解答・解説
正解はcです
中心静脈栄養法(TPN:total parenteral nutrition)は、高濃度のブドウ糖・アミノ酸・脂肪乳剤などを含む高浸透圧の輸液を投与する方法である。高浸透圧の輸液を細い末梢静脈に入れると血管痛や静脈炎を起こすため(末梢から安全に投与できるのは浸透圧比がおよそ3以下の輸液とされる)、血流量が多く輸液がすぐに希釈される中心静脈(上大静脈または下大静脈)にカテーテルの先端を置く必要がある。 したがって穿刺部位として適切なのは、そこからカテーテルを進めて上大静脈または下大静脈に到達させやすい静脈である。 ・上大静脈に先端を置くルート:内頸静脈、鎖骨下静脈、上肢の静脈(尺側皮静脈、上腕静脈、肘正中皮静脈など)からのPICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル) ・下大静脈に先端を置くルート:大腿静脈 これらはいずれも臨床で実際に用いられており、それぞれ合併症の起こりやすさに特徴がある。一方、下肢の表在静脈である大伏在静脈は、中心静脈栄養のためのカテーテル挿入部位としては用いられない。
選択肢考察
- ×a. 内頸静脈
内頸静脈は頸部で総頸動脈の外側を走る太い静脈で、右内頸静脈からは腕頭静脈を経てほぼ直線的に上大静脈へ到達できる。超音波ガイド下で血管を直接見ながら穿刺しやすく、気胸の危険も鎖骨下静脈より低いため、急性期・集中治療などで広く選択される。誤って総頸動脈を穿刺しても圧迫止血が可能である。欠点は頸部の動きでカテーテルの固定が不安定になりやすいこと、患者の不快感、鎖骨下静脈よりカテーテル関連血流感染がやや多い点である。適切な穿刺部位である。
- ×b. 大腿静脈
大腿静脈は鼠径靱帯の直下で大腿動脈の内側を走り、体表から触知しやすい大腿動脈の拍動を目印に比較的容易に穿刺できる。カテーテル先端は総腸骨静脈を経て下大静脈に置かれる。気胸の危険がなく、心肺蘇生中や緊急時にも確保しやすい利点がある。一方、陰部に近く汚染されやすいため感染のリスクが高く、深部静脈血栓症も起こしやすい。また股関節の屈曲が制限され歩行の妨げになるため長期留置には向かないが、穿刺部位としては用いられる。
- ○c. 大伏在静脈
大伏在静脈は足背の内側から下腿・大腿の内側の皮下を上行し、鼠径部で大腿静脈に合流する下肢の表在静脈である。ここから下大静脈まではカテーテルの走行距離が長く、細く蛇行した表在静脈であるうえ、下肢の静脈はうっ滞しやすく血栓性静脈炎を起こしやすい。歩行などの体動の妨げにもなる。下肢から中心静脈へアクセスする必要があれば太い大腿静脈を直接穿刺すればよく、中心静脈栄養のための穿刺部位として大伏在静脈を選ぶことはない。なお大伏在静脈は、冠動脈バイパス術のグラフト材料として利用される血管として知られる。
- ×d. 鎖骨下静脈
鎖骨下静脈は鎖骨の裏側を走り、腕頭静脈を経て上大静脈につながる。カテーテルを前胸部に固定しやすく、患者が動いてもずれにくい。カテーテル関連血流感染や血栓症の発生率が他の部位より低いとされ、長期の中心静脈栄養に適した部位として古くから第一選択とされてきた。一方、肺尖部に近いため気胸を起こす危険があり、誤って鎖骨下動脈を穿刺した場合は鎖骨に遮られて圧迫止血が難しい。また鎖骨と第1肋骨の間でカテーテルが挟まれて損傷・断裂する(ピンチオフ)ことがある。適切な穿刺部位である。
- ×e. 肘正中皮静脈
肘正中皮静脈は肘窩で橈側皮静脈と尺側皮静脈を結ぶ表在静脈である。上肢の静脈から細く長いカテーテルを挿入し、腋窩静脈・鎖骨下静脈を経て先端を上大静脈に置く方法をPICC(peripherally inserted central venous catheter:末梢挿入型中心静脈カテーテル)といい、肘正中皮静脈はその挿入部位の一つである。現在は上腕の尺側皮静脈や上腕静脈を超音波ガイド下で穿刺することも多い。頸部・胸部を穿刺しないため気胸や動脈誤穿刺などの重篤な合併症がほとんどなく、安全性が高い。適切な穿刺部位である。
中心静脈栄養法の適応
消化管が使えない、または経腸栄養だけでは必要量を満たせない状態が長期(おおむね2週間以上)にわたると見込まれる場合に用いる。短期間であれば末梢静脈栄養(PPN)で対応する。栄養投与の原則は「腸が使えるなら腸を使う」であり、経腸栄養が可能であればそちらを優先する。
カテーテル先端の位置
上大静脈から挿入する場合は、先端を上大静脈の下部(右房との接合部付近)に置く。挿入後は胸部エックス線写真で先端位置と気胸の有無を確認する。大腿静脈から挿入した場合は先端を下大静脈に置く。
挿入部位ごとの特徴の整理
・鎖骨下静脈:固定が容易、感染・血栓が少ない/気胸、動脈誤穿刺時の止血困難、ピンチオフ。 ・内頸静脈:超音波ガイド下で穿刺しやすい、気胸が少ない/固定がやや不安定。 ・大腿静脈:穿刺が容易で緊急時に有用、気胸なし/感染・深部静脈血栓症が多い、体動制限。 ・PICC(上肢):重篤な挿入時合併症がほとんどない/静脈炎や血栓、カテーテル閉塞が起こることがある。
中心静脈カテーテルの主な合併症
・挿入時:気胸、血胸、動脈誤穿刺、空気塞栓、不整脈(ガイドワイヤーやカテーテルの心内への進入による)。 ・留置中:カテーテル関連血流感染症(CRBSI)、静脈血栓症、カテーテルの位置異常・閉塞。 ・代謝性:高血糖、リフィーディング症候群(低リン血症など)、ビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシス(Wernicke脳症も起こりうるため、TPN施行中はビタミンB1を必ず投与する)、肝機能障害。
POINT
・中心静脈栄養は高浸透圧輸液を投与するため、カテーテル先端を上大静脈または下大静脈に置く。 ・穿刺部位:内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈、上肢の静脈(PICC:肘正中皮静脈、尺側皮静脈、上腕静脈など)。 ・大伏在静脈は用いない。 ・鎖骨下静脈は感染が少ないが気胸に注意、大腿静脈は感染・血栓が多い。 ・PICCは気胸などの重篤な挿入時合併症がほとんどない。 ・TPN施行中はビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスに注意する。
