StudyMed医師国家試験

したたる血が教える優先順位―指の切創でまず確かめるべきもの

第109回医師国家試験 F問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第109回 F問題 第21問

50歳の女性。料理中に包丁で指を切ったため来院した。左中指に巻いているハンカチから血液がしたたり落ちている。意識は清明。体温36.2℃。脈拍80/分,整。血圧106/78 mmHg。呼吸数12/分。左中指に1.5 cmの切創を認める。  まず確認すべきなのはどれか。

  1. a.異物
  2. b.腱損傷
  3. c.神経損傷
  4. d.指動脈損傷
  5. e.皮膚欠損範囲

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は手指の切創で「まず何を確認するか」という優先順位の問題だ。選択肢はどれも最終的には評価すべき項目ばかり。だからこそ、今この瞬間に一番差し迫っている問題は何か、という視点で考えてほしい。まずバイタルサインはどう読む?
医学生医学生
意識は清明で、頻脈や血圧低下もないので、ショックではなさそうです。全身管理より局所の評価が中心になりますね。
ドクタードクター
その通り。全身状態が安定していることを確認したうえで、局所に目を移す。では局所で一番目立つ所見は何だろう。
医学生医学生
ハンカチで押さえているのに血がしたたり落ちていることです。でも正直、手の外科的には腱が切れていないかのほうが大事な気がしていました。
ドクタードクター
腱の評価はもちろん大事だよ。ただ考えてみてほしい。血があふれている創の中を、きちんと観察できるかな。
医学生医学生
……見えないですね。止血しないと、腱も神経も評価できないし、洗浄や縫合にも進めません。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心なんだ。現在進行形の問題は止まらない出血で、その原因として指動脈が損傷されているかを確認し、止血の方針を立てることが最初になる。圧迫で済むのか、結紮や血管縫合が必要なのかは、動脈損傷の有無で変わるからね。
医学生医学生
解剖実習で、指の掌側の左右に動脈と神経が並んで走っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。固有掌側指動脈と固有掌側指神経が神経血管束として並走している。だから指動脈が切れていれば、すぐ隣の指神経も切れている可能性が高い。出血源を確かめることは、その後の神経評価にもつながるんだ。
医学生医学生
止血のときは、出血点を鉗子でつまめばいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だ。見えないまま鉗子で挟むと、隣の指神経を傷つけてしまうおそれがある。まずは直接圧迫と挙上が基本。出血点を確かめたいときは、指の基部に指用ターニケットを短時間使って無血野で観察することもある。鮮紅色で拍動性に噴き出す出血なら動脈性を疑うよ。
医学生医学生
神経損傷の評価は、止血のあとで大丈夫ですか。
ドクタードクター
順番としては出血の制御が先だけれど、神経の評価には大事なルールがある。局所麻酔をする前に行うことだ。麻酔をしてしまうと感覚が評価できなくなるからね。指先の左右の側面で感覚を比べ、二点識別覚の低下があれば損傷を疑う。損傷していれば早期の神経縫合が望ましい。
医学生医学生
OSCEの練習で、局所麻酔の前に感覚を確認するよう指導されました。腱の診察はどうやるんでしたっけ。
ドクタードクター
屈筋腱は2本を分けて調べる。中節骨を固定してDIP関節が自力で曲がれば深指屈筋腱は保たれている。他の指を伸展位に押さえた状態でPIP関節が曲がるかで浅指屈筋腱をみる。安静時の指の並び、屈曲カスケードの乱れも手がかりになるよ。見逃すと指が曲がらない後遺症を残すから、必ず評価してほしい。
医学生医学生
異物や皮膚欠損は、今回はあまり問題にならなさそうですね。包丁できれいに切れた傷なので。
ドクタードクター
その理解でいい。異物が問題になるのは、割れたガラスや木片、土砂で汚染された創だ。ガラスや金属ならエックス線で探すこともある。皮膚欠損が広くなりやすいのは機械への巻き込みや挫滅創で、植皮や皮弁が必要か判断する。鋭利な刃物による1.5 cmの線状の切創なら、どちらも可能性は低い。ただ包丁や食材は無菌ではないから、洗浄と破傷風予防の要否の判断は忘れずにね。
医学生医学生
実際の診療では、全部を一つずつ順番にやるわけではないんですよね。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。実臨床では圧迫・挙上で出血をコントロールしながら、腱や神経の機能をほぼ同時に診察するのが普通だ。この問題は「あえて一つ選ぶなら」という優先順位を問うていると考えるといい。最後に血流評価も触れておこう。指先の色調、毛細血管再充満時間、皮膚温をみる。片側の指動脈が切れても反対側が保たれていれば血流は通常維持されるけれど、両側とも切れて指先が蒼白なら血行再建が必要になることもあるんだ。
医学生医学生
止まらない出血を前にしたら、まず出血源と止血、そこから神経・腱・異物・欠損へ、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。救急外来ではありふれた外傷だけれど、優先順位と見落としやすいポイントを押さえておくと、指の機能をしっかり守れるよ。

まとめ

手指の切創では、最終的に出血源・神経・腱・異物・皮膚欠損のすべてを評価しますが、圧迫しても止まらない出血がある場合は、出血源の確認と止血が最優先です。指の掌側には固有掌側指動脈と指神経が神経血管束として並走するため、指動脈損傷を確認したら隣接する指神経の損傷も疑い、盲目的な鉗子操作は避けて直接圧迫・挙上で止血します。神経の評価は局所麻酔の前に行い、屈筋腱は深指屈筋腱と浅指屈筋腱を分けて診察します。鋭利な刃物による小さな切創では異物残存や広範な皮膚欠損は起こりにくい一方、洗浄と破傷風予防の判断は必要です。「今まさに進行している問題から対処する」という優先順位の考え方は、救急外来でのあらゆる外傷診療の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・受傷機転: 調理中、包丁で左中指を切った。鋭利な刃物による切創(切り傷)で、創縁はきれいであり、組織の挫滅(押しつぶされて傷むこと)や汚染は少ないと考えられる。 ・出血: 巻いたハンカチから血液がしたたり落ちるほどで、出血は止まっていない。 ・全身状態: 意識清明、脈拍80/分、血圧106/78 mmHg、呼吸数12/分。ショックを示す頻脈や血圧低下はなく、全身状態は安定している。 ・局所: 左中指に長さ1.5 cmの切創。

診断

左中指切創である。全身状態に問題はなく、課題は局所の評価と処置になる。

何を「まず」確認するか

手指の切創では、最終的に出血源・屈筋腱・指神経・異物・皮膚欠損(組織欠損)をすべて評価する。そのうえで優先順位を付けると、現在進行している問題は「圧迫しても止まらずにしたたるほどの出血」である。止血しなければ創内がよく見えず、腱や神経の評価、洗浄・縫合にも進めない。したがって最初に、出血の原因として指動脈(固有掌側指動脈)が損傷されているかを確認し、止血の方針を立てることになる。 指の掌側には左右それぞれに指動脈と指神経が並んで走る(神経血管束)。このため、指動脈から出血しているなら、すぐ隣の指神経も切れている可能性があり、出血源を確かめることはその後の神経評価にもつながる。 実際の診療では、創部を圧迫・挙上して出血をコントロールしながら、腱・神経の機能をほぼ同時に診察するのが普通であり、本問は「あえて一つ選ぶなら」という優先順位を問う問題と考えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  異物

    異物の残存が特に問題となるのは、割れたガラス・木片・金属片などによる創や、土砂で汚染された創である。そのような場合は肉眼での確認に加え、エックス線撮影(ガラスや金属は写りやすい)や超音波・CTを用いて探す。本例は調理中の包丁による単純な切創で、刃が欠けるなどの事情がない限り異物が残る可能性は低い。洗浄時に創内を観察すれば足り、出血の制御より先に確認すべき事項ではない。ただし包丁や食材は無菌ではないため、創の洗浄や破傷風予防の要否の判断は別途必要である。

  2. ×b.  腱損傷

    指の掌側を深く切ると屈筋腱(深指屈筋腱・浅指屈筋腱)が損傷されることがあり、見逃すと指が曲がらなくなる重大な後遺症を残すため、必ず評価する。診察では、中節骨を固定してDIP関節(遠位指節間関節)が自力で曲がるかで深指屈筋腱を、他の指を伸展位に押さえた状態でPIP関節(近位指節間関節)が曲がるかで浅指屈筋腱を調べる。ただし本例では運動障害の訴えはなく、現時点で最も差し迫った問題である止血に先立って確認するものではない。

  3. ×c.  神経損傷

    指神経は指動脈と並走するため、掌側の切創では損傷していないか必ず確認する。指先の感覚を左右の側面で比較し、二点識別覚(指尖部では通常おおむね5 mm前後で2点を区別できる)の低下があれば損傷を疑う。損傷していれば早期の神経縫合が望ましい。評価は重要だが、本例でしびれや感覚低下の訴えは示されておらず、出血が続いている状況では出血源の確認と止血が先になる。なお指動脈損傷が確認された場合は、隣接する指神経の損傷も強く疑って診察する必要がある。

  4. ○d.  指動脈損傷

    ハンカチで押さえていても血液がしたたり落ちるほど出血が続いており、動脈性出血の可能性がある。指の掌側には左右に固有掌側指動脈が走っており、切創で損傷されやすい。動脈損傷の有無によって止血の方法(圧迫止血で済むか、結紮・血管縫合が必要か)が決まり、止血ができなければ創の観察も、腱・神経の評価も、洗浄・縫合も行えない。したがってまず確認すべきなのは指動脈損傷である。拍動性に噴き出す鮮紅色の出血は動脈性を示唆する。止血はまず直接圧迫と挙上で行い、見えないまま鉗子で挟むことは隣を走る指神経を傷つけるおそれがあるため避ける。指の両側の指動脈が切れて指先への血流が途絶えた場合は、血行再建が必要となることもある。

  5. ×e.  皮膚欠損範囲

    皮膚欠損の範囲は、一次縫合で閉じられるか、皮弁や植皮が必要かを決めるために評価する。広い欠損が生じやすいのは、挫滅創(機械に巻き込まれる、重い物に挟まれるなど)や削ぎ取られるような損傷である。本例は鋭利な包丁による1.5 cmの線状の切創であり、皮膚の欠損はほとんどないと考えられる。最終的には確認するが、急いで優先すべき項目ではない。

手指切創の評価の流れ

1. 全身状態(バイタルサイン)の確認: ショックがあれば全身管理が優先される。 2. 止血: 直接圧迫・患肢挙上が基本である。出血点を確認する際は、指の基部に止血帯(ゴムなどによる指用ターニケット)を短時間用いて無血野で観察することがある。 3. 血流評価: 指先の色調、毛細血管再充満時間(爪を押して離し、赤みが戻るまでの時間。通常2秒以内)、皮膚温。 4. 神経評価: 指の両側面の感覚、二点識別覚。神経の評価は局所麻酔をする前に行う(麻酔後は感覚が評価できなくなるため)。 5. 腱評価: 深指屈筋腱(DIP関節の屈曲)、浅指屈筋腱(他の指を伸展位に固定してPIP関節の屈曲)、指背の創では伸筋腱。安静時の指の並び(屈曲カスケード)の乱れも手がかりになる。 6. 異物・汚染・組織欠損の評価: 必要に応じて画像検査を行う。 7. 洗浄・デブリドマン(壊死・汚染組織の除去)・縫合、破傷風予防の要否の判断。

指の神経血管束

指の掌側では、左右それぞれに固有掌側指動脈と固有掌側指神経が並んで走る。指動脈の損傷を見たら隣の指神経の損傷も疑い、また盲目的な止血操作で神経を傷つけないよう注意する。片側の指動脈が切れても、反対側の指動脈が保たれていれば指先の血流は通常維持される。

POINT

・止まらない出血がある外傷では、出血源の確認と止血がまず優先される。 ・手指切創では最終的に、動脈・神経・腱・異物・皮膚欠損のすべてを評価する。 ・指動脈と指神経は並走するため、指動脈損傷があれば指神経損傷も疑う。 ・神経の評価は局所麻酔の前に行う。 ・鋭利な刃物による切創は、異物残存や広範な皮膚欠損は起こりにくい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。