StudyMed医師国家試験

ドレーンは「先端」で読め―胃全摘術後の左横隔膜下とWinslow孔

第109回医師国家試験 E問題 第56問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第56問

82歳の男性。胃体上部の進行胃癌に対し,胃全摘術,リンパ節郭清術および空腸瘻造設術を行った。手術翌日の腹部エックス線写真を別に示す。  腹腔ドレーンの留置部位はどれか。2つ選べ。

第109回 E問題 第56問の問題画像
  1. a.右横隔膜下
  2. b.左横隔膜下
  3. c.Winslow孔
  4. d.左傍結腸溝
  5. e.直腸膀胱窩

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胃全摘術の翌日に撮った腹部エックス線写真から、腹腔ドレーンがどこに置かれているかを読み取る問題だ。ポイントは2つ。ドレーンの「先端」がどこにあるかを見ること、そして胃全摘術でどこに液体がたまりやすいかを術式から考えることだ。まずは、そもそもドレーンを何のために入れるのか、から確認しよう。
医学生医学生
術後にたまった血液や滲出液を外に出すため、ですよね。
ドクタードクター
それも大事な役割だね。もう一つ、外科の現場で重視されるのが「情報ドレーン」としての役割だ。排液が血性になれば出血、胆汁様なら十二指腸断端の縫合不全、混濁なら感染や縫合不全、乳び様ならリンパ漏、というように、お腹の中で起きていることをいち早く教えてくれる窓になるんだ。
医学生医学生
臨床実習で消化器外科を回ったとき、毎朝の回診でドレーンバッグの色と量を真っ先にチェックしていたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
その通り。だから先端は、合併症が起きたら液体がたまりそうな場所に置く。では胃全摘術の再建法と、その後に「弱点」になる場所はどこだろう。
医学生医学生
再建はRoux-en-Y法が一般的なので、食道空腸吻合と、十二指腸の断端閉鎖と、空腸空腸吻合がありますね。
ドクタードクター
よく整理できている。このうち縫合不全が起こると重篤になりやすいのが、左上腹部の横隔膜近くにある食道空腸吻合部と、右上腹部にある十二指腸断端だ。前者から漏れれば左横隔膜下に、後者から漏れた胆汁や膵液は肝下面からWinslow孔周囲にたまりやすい。さらに膵上縁や脾門部の郭清で生じる膵液瘻やリンパ漏も、この2か所でとらえられる。
医学生医学生
ということは、左右それぞれの上腹部に1本ずつ、という配置になるわけですね。写真ではどう見えるんでしょうか。
ドクタードクター
左のドレーンは左下腹部から入って左側腹部を頭側に上がり、先端が左横隔膜ドームの直下に達している。これは左横隔膜下だ。右のドレーンは右下腹部から入って右側腹部を上行したあと内側へ曲がり、先端は肝右葉の下縁より尾側で、脊椎の右側寄りにある。肝下面で正中寄りのこの位置がWinslow孔に相当するんだ。
医学生医学生
右は横隔膜の下まで届いていないから、右横隔膜下ではないということですね。右横隔膜下はどんな手術で置くんでしょう。
ドクタードクター
肝切除術などで、肝右葉の上面と横隔膜の間に液体がたまるのを見張るために使われることが多い。今回は先端がそこまで上がっていないので該当しない。次に、左傍結腸溝はどうかな。
医学生医学生
左のドレーンは下行結腸の外側を通っていますよね。正直、そこも留置部位に入るのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。ドレーンの留置部位は、通り道ではなく、実際にドレナージをしている先端の位置で呼ぶ。左のドレーンは左傍結腸溝を「通過」しているだけで、先端は左横隔膜下にあるから、留置部位としては左横隔膜下なんだ。
医学生医学生
経路と留置部位を混同しない、ですね。直腸膀胱窩は男性で腹膜腔の一番低いところなので、液体がたまりやすい場所としてCBTで覚えました。
ドクタードクター
解剖としてはその理解で正しい。直腸切除などの下部消化管手術や、腹膜炎の術後には置くことがある。でも今回は上腹部の手術で、写真でも骨盤腔にドレーン先端は見えない。だから正解は左横隔膜下とWinslow孔の2つになる。
医学生医学生
Winslow孔って、解剖実習で指を入れてみた網嚢の入り口ですよね。境界も聞かれそうです。
ドクタードクター
よく覚えているね。前方は門脈・固有肝動脈・総胆管を含む肝十二指腸間膜、後方は下大静脈、上方は肝尾状葉、下方は十二指腸上部だ。肝切除で肝十二指腸間膜を一時的に遮断するPringle法では、ここに指を通す。ドレーン先端を孔に差し込むと位置がずれにくいという利点もあるんだ。
医学生医学生
空腸瘻を作ってあるのは、高齢なので術後早く経腸栄養を始めるため、という理解でいいですか。
ドクタードクター
そう考えていい。経口摂取の再開が遅れそうな場合に、早期から腸を使って栄養を入れるルートになる。最後に臨床での注意点。ドレーン排液の性状と量の変化を毎日追うこと、膵液瘻が疑われたら排液のアミラーゼ値を測ること、そして先端位置がずれていないかを術後の写真で確認することが大切だ。写真を見るときは、入口から先端まで一本ずつ追いかける癖をつけよう。

まとめ

胃全摘術後の腹腔ドレーンは、食道空腸吻合部に近い左横隔膜下と、十二指腸断端に近いWinslow孔(右肝下面)に先端を置くのが典型です。これらは縫合不全や膵液瘻、リンパ漏、出血の際に液体がたまりやすい部位であり、排液の性状と量から合併症を早期に発見する情報ドレーンとして機能します。留置部位は経路ではなく先端の位置で判断するため、左傍結腸溝を通過していても先端が横隔膜直下なら左横隔膜下となります。右横隔膜下は肝切除術、直腸膀胱窩は下部消化管手術や腹膜炎術後など、術式によって留置部位が変わることも押さえておきましょう。術式から液体のたまり場を予測し、画像で先端を確認する考え方は、術後管理を担う臨床の基本になります。

解答・解説

正解はb, cです

状況の整理

82歳男性、胃体上部の進行胃癌に対して胃全摘術、リンパ節郭清術、空腸瘻造設術(術後の経腸栄養ルート)が行われた。手術翌日の腹部エックス線写真で、腹腔ドレーンの先端がどこにあるかを読み取る問題である。

画像所見

・右側のドレーン:右下腹部の皮膚から腹腔内に入り、右側腹部を上行したのち内側(正中側)へ向かい、先端は肝右葉の下縁より尾側で、脊椎の右側近くに位置している。肝の下面で正中寄りのこの部位は、肝十二指腸間膜の背側にあるWinslow孔(網嚢孔)に相当する。右横隔膜の直下までは達していない。 ・左側のドレーン:左下腹部から腹腔内に入り、左側腹部(下行結腸の外側)を頭側へ走行し、先端は左横隔膜ドームの直下に達している。すなわち先端は左横隔膜下にある。

ドレーン留置部位の考え方

ドレーンは、術後に液体(血液、リンパ液、消化液)が貯留しやすい部位や、縫合不全が起こった際に漏出液がたまる部位に先端を置く。胃全摘術の再建は通常Roux-en-Y法で、食道空腸吻合と十二指腸断端の閉鎖が行われる。 ・食道空腸吻合部は左上腹部の横隔膜近くにあり、ここからの漏出は左横隔膜下に貯留しやすい → 左横隔膜下ドレーン。 ・十二指腸断端は右上腹部にあり、漏出液(胆汁・膵液を含む)は肝下面〜Winslow孔周囲に貯留しやすい → Winslow孔ドレーン。 さらに膵上縁などのリンパ節郭清部からのリンパ液・膵液の漏出もこれらのドレーンで観察・排出できる。仰臥位で液体がたまりやすい部位であることも、これらの部位が選ばれる理由である。 ドレーンの位置は、経路ではなく「先端がどこにあるか」で判断する点が重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  右横隔膜下

    右側のドレーンの先端は肝右葉の下縁より尾側にあり、内側に向かって脊椎の近くに位置している。右横隔膜ドームの直下(肝右葉の上面と横隔膜の間)までは達していないため、右横隔膜下とはいえない。右横隔膜下ドレーンは肝切除術などで用いられることが多い。

  2. ○b.  左横隔膜下

    左側のドレーンは左側腹部を上行し、先端が左横隔膜ドームの直下に達している。胃全摘術では食道空腸吻合部が左上腹部の横隔膜近くにあり、吻合部の縫合不全による漏出液や、脾門部・膵尾部周囲の郭清に伴う滲出液が左横隔膜下に貯留しやすい。このため、情報ドレーン(異常の早期発見)および治療ドレーンとして左横隔膜下に先端を置くのが一般的である。

  3. ○c.  Winslow孔

    右側のドレーンは右側腹部から上行したのち内側へ曲がり、先端は肝下面で正中寄り、すなわちWinslow孔(網嚢孔)に相当する位置にある。Winslow孔は肝十二指腸間膜の背側にある網嚢への入口で、十二指腸断端に近い。十二指腸断端の縫合不全による漏出液(胆汁・膵液を含む)や幽門下・肝十二指腸間膜周囲の郭清部からの滲出液がこの周囲(右肝下面)に貯留しやすく、また孔に先端を差し込むことでドレーンが移動しにくいという利点もある。

  4. ×d.  左傍結腸溝

    左側のドレーンは走行の途中で下行結腸の外側、すなわち左傍結腸溝を通過している。しかしドレーンの留置部位はドレナージを行う先端の位置で表すものであり、本例の先端は左横隔膜下にある。経路と留置部位を混同しないよう注意する。

  5. ×e.  直腸膀胱窩

    直腸膀胱窩(男性で腹膜腔の最も低い部位。女性では直腸子宮窩=Douglas窩)は、下部消化管手術(直腸切除など)や腹膜炎術後に液体がたまりやすいためドレーンを置くことがある。しかし本例の写真では骨盤腔内にドレーン先端は見られず、上腹部手術である胃全摘術の通常の留置部位でもない。

胃全摘術と再建

・胃上部(胃体上部・噴門部)の進行癌では胃全摘術とD2リンパ節郭清が標準的に行われる。 ・再建はRoux-en-Y法(食道空腸吻合+十二指腸断端閉鎖+空腸空腸吻合)が一般的である。 ・高齢者や術後の経口摂取が遅れる可能性がある場合、術後早期からの経腸栄養のため空腸瘻を造設することがある。

胃全摘術後の主な合併症とドレーンの役割

・食道空腸吻合部の縫合不全 → 左横隔膜下に膿瘍を形成しうる。 ・十二指腸断端の縫合不全 → 右肝下〜Winslow孔周囲に胆汁・膵液が貯留。 ・膵液瘻(膵上縁・脾門部の郭清による) → ドレーン排液のアミラーゼ値で評価。 ・リンパ漏、術後出血。 ドレーン排液の性状(血性、胆汁様、混濁、乳び様)と量を観察することで、これらの合併症を早期に発見できる(情報ドレーン)。

ドレーンの目的による分類

・予防的(情報)ドレーン:術後の出血・縫合不全などの早期発見と予防的排液。 ・治療的ドレーン:膿瘍や貯留液の排出。 ・その他:減圧目的(胆道ドレナージなど)。

腹腔内で液体が貯留しやすい部位

・仰臥位で低い位置:右肝下面(Morison窩=肝腎陥凹)、横隔膜下、直腸膀胱窩(Douglas窩)、傍結腸溝。 ・術式に応じ、吻合部や郭清部位の近くでかつ液体が集まりやすい部位に先端を留置する。

Winslow孔(網嚢孔)の境界

・前方:肝十二指腸間膜(門脈、固有肝動脈、総胆管を含む) ・後方:下大静脈(およびそれを覆う壁側腹膜) ・上方:肝尾状葉 ・下方:十二指腸上部 Pringle法(肝十二指腸間膜の一時的遮断)を行う際に指を入れる部位としても知られる。

POINT

・胃全摘術後の腹腔ドレーンは、食道空腸吻合部近くの左横隔膜下と、十二指腸断端近くのWinslow孔(右肝下)に留置するのが典型である。 ・ドレーンの留置部位は経路ではなく先端の位置で判断する。 ・ドレーンは縫合不全・出血・膵液瘻・リンパ漏の早期発見(情報ドレーン)と排液に役立つ。 ・Winslow孔の前方は肝十二指腸間膜、後方は下大静脈、上方は尾状葉、下方は十二指腸上部。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。