上気道炎のあとに響く「ヒュー」―鉛筆の先が教えるクループ症候群
第109回医師国家試験 E問題 第52問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児。息が荒く喘鳴があることに気付いた母親に連れられて来院した。2日前から発熱と咳とがあり近くの診療所で上気道炎として治療されていたが喘鳴が出現したため救急外来を受診した。体温37.5℃。咽頭に軽度の発赤を認める。胸部聴診で吸気時に喘鳴を認める。頸部エックス線写真の正面像(A)と側面像(B)を別に示す。 考えられる疾患はどれか。

- a.アデノイド
- b.喉頭軟化症
- c.急性喉頭蓋炎
- d.気管喉頭異物
- e.クループ症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
幼児で上気道炎に続いて吸気性喘鳴が出現した場合は、胸郭外の上気道狭窄を考え、まずクループ症候群を念頭に置きます。クループ症候群は主にパラインフルエンザウイルスによる声門下の炎症性浮腫で、犬吠様咳嗽・嗄声・吸気性喘鳴を示し、頸部エックス線正面像で声門下が先細りになるpencil sign(steeple sign)が特徴です。側面像で喉頭蓋が腫大するthumb signは急性喉頭蓋炎を示し、高熱・流涎・前傾姿勢を伴う緊急疾患として区別します。新生児期からの喘鳴なら喉頭軟化症、突然のむせこみなら気道異物、慢性の鼻閉やいびきならアデノイドと、発症時期と経過で鑑別を進めます。治療はステロイドが中心で中等症以上にはアドレナリン吸入を加え、喘鳴の減弱を改善と誤認しないことが小児救急での大切な視点です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・2歳の男児。2日前から発熱と咳があり、上気道炎として治療されていたが、息が荒くなり喘鳴が出現した。 ・体温37.5℃と微熱程度で、咽頭は軽度に発赤している。重い全身症状や中毒的な外観の記載はない。 ・胸部聴診で吸気時の喘鳴(吸気性喘鳴:stridor)を聴取する。吸気時に目立つ喘鳴は、胸郭の外にある上気道(喉頭・声門下・頸部気管)が狭くなっていることを示す。呼気時に目立つ喘鳴(wheeze)が気管支喘息や細気管支炎など下気道の狭窄を示すのと対照的である。
画像所見
・頸部正面像(A):声門下の気管の空気の帯が、上方に向かって先細りになっている。左右の壁が内側から狭まり、鉛筆の先のような形(pencil sign/steeple sign:尖塔のような形)を示す。声門下の粘膜が腫れて内腔が狭くなった像で、クループに特徴的である。 ・頸部側面像(B):喉頭蓋は細く保たれ、急性喉頭蓋炎でみられる親指のような腫大(thumb sign)はない。上咽頭のアデノイドによる気道の圧排や、咽頭後壁の腫脹もない。気道内に、異物を示すX線不透過の陰影も見当たらない。
診断
上気道炎に続いて発症し、吸気性喘鳴を伴う。発熱は軽度で、正面像でpencil signを示し、側面像で喉頭蓋の腫大がない。以上から、ウイルス感染による声門下喉頭炎、すなわちクループ症候群が最も考えられる。典型例では、犬が吠えるような咳(犬吠様咳嗽)や嗄声(声がれ)も伴う。
選択肢考察
- ×a. アデノイド
アデノイド(咽頭扁桃)の増殖は3〜6歳ごろに目立ち、鼻閉、口呼吸、いびき、睡眠時無呼吸、滲出性中耳炎などの原因になる。側面像では、上咽頭の後上壁から前方へ張り出す軟部組織の影として写る。本症例の側面像にこのような所見はない。また、アデノイドは慢性の鼻・上咽頭の通過障害を起こすもので、数日の経過で急に吸気性喘鳴をきたす病態ではない。
- ×b. 喉頭軟化症
喉頭軟化症は、喉頭蓋や披裂部の軟骨が未熟で軟らかいため、吸気時に喉頭の入口が内側へ引き込まれて吸気性喘鳴を起こす疾患である。新生児・乳児の先天性喘鳴の原因として最も多い。生後まもなく(多くは生後数週以内)から喘鳴がみられ、泣いたときや仰向けで強まる。成長とともに軟骨がしっかりし、多くは1〜2歳ごろまでに自然に改善する。本症例は2歳になってから、発熱や咳とともに急に喘鳴が始まっており、合わない。
- ×c. 急性喉頭蓋炎
急性喉頭蓋炎は、主にインフルエンザ菌b型(Hib)などの細菌感染で喉頭蓋が急激に腫れ、短時間で気道が完全に閉塞しうる緊急疾患である。高熱、強い咽頭痛、嚥下困難と流涎(よだれ)、こもった声(含み声)を示し、前かがみで顎を突き出す姿勢(三脚位・スニッフィング位)をとる。犬吠様咳嗽はあまりみられない。側面像で喉頭蓋が親指のように腫れる(thumb sign)のが特徴だが、本症例ではみられない。微熱で全身状態も保たれており、合わない。Hibワクチンの定期接種化により、小児での発症は大きく減っている。
- ×d. 気管喉頭異物
喉頭・気管の異物は、ピーナッツなどの豆類や小さな玩具を口に入れやすい1〜3歳に多い。食事中や遊んでいる最中に突然むせこみ、その後に喘鳴や呼吸困難が出るのが典型である。本症例は発熱と咳が先行して徐々に喘鳴が出ており、感染症の経過である。画像にも異物の陰影はない。ただし、豆類などX線を通す異物は写らないため、異物の否定には病歴の聴取が重要である。
- ○e. クループ症候群
クループ症候群は、喉頭、とくに声門下の炎症性の腫れによって上気道が狭くなり、犬吠様咳嗽、嗄声、吸気性喘鳴を示す病態の総称である。代表はパラインフルエンザウイルスなどによるウイルス性喉頭気管炎で、生後6か月〜3歳ごろに多い。上気道炎症状に続いて、夜間に症状が悪化しやすい。本症例は、上気道炎に続く吸気性喘鳴と軽度の発熱がそろっており、頸部正面像で声門下の先細り(pencil sign)を示し、側面像で喉頭蓋の腫大がない。これらはいずれも本症に合致する。
クループ症候群の概要
・定義:喉頭(とくに声門下)を中心とする上気道の狭窄により、犬吠様咳嗽、嗄声、吸気性喘鳴、吸気性呼吸困難を示す病態の総称である。 ・原因:大部分はウイルス性(ウイルス性喉頭気管炎)で、パラインフルエンザウイルスが最も多い。このほか、RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、新型コロナウイルスなどが原因になる。秋〜冬に多い。 ・非感染性:明らかな感染症状がなく、夜間に突然犬吠様咳嗽で発症し、短時間で改善しやすく、繰り返す型(痙性クループ)もある。アレルギーや胃食道逆流の関与が考えられている。 ・注意すべき細菌性疾患:急性喉頭蓋炎、細菌性気管炎(ウイルス性クループに続いて黄色ブドウ球菌などが感染し、気管内に膿性の偽膜ができる)、喉頭ジフテリア(予防接種の普及で現在はまれ)。いずれも頻度は低いが、致死的になりうるため見逃してはならない。
症状と重症度
軽症では、ときどきの犬吠様咳嗽と、泣いたときだけの吸気性喘鳴がみられる程度である。狭窄が進むと安静時にも喘鳴が出て、胸骨上窩・鎖骨上窩・肋間などの陥没呼吸、多呼吸、頻脈が出現する。さらに進むと、不穏、意識レベルの低下、チアノーゼを示す。重症度の評価には、喘鳴・陥没呼吸・呼吸音・チアノーゼ・意識状態を点数化するWestleyのクループスコアがよく用いられる。なお、呼吸が弱まって喘鳴が小さくなるのは、改善ではなく呼吸不全の進行のことがあり、注意を要する。
検査
診断は基本的に臨床症状で行う。頸部X線正面像の声門下狭窄(pencil sign/steeple sign)は特徴的な所見だが、必須ではない。非典型例で急性喉頭蓋炎・異物・咽後膿瘍などとの鑑別が必要なときに撮影する。
治療
・副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンの単回内服または注射など):軽症例を含めて投与し、声門下の浮腫を軽減する。症状の改善と、再受診や入院の減少に効果がある。 ・アドレナリン吸入:中等症〜重症例に用いる。血管を収縮させて粘膜の腫れを速やかに軽くするが、効果は数時間で切れ、症状が再び悪化すること(リバウンド)がある。そのため、吸入後は一定時間の経過観察が必要である。 ・酸素投与、必要時の気道確保(気管挿管)。 ・ウイルス性が大部分のため、抗菌薬は原則不要である。細菌感染が疑われる場合に限って用いる。 ・加湿(ミスト)療法は従来行われてきたが、有効性を示す根拠は乏しい。現在はステロイドが治療の中心である。患児を泣かせず落ち着かせることも、気道狭窄の悪化を防ぐうえで大切である。
吸気性喘鳴と呼気性喘鳴
・吸気性喘鳴(stridor):胸郭外の上気道狭窄。クループ、急性喉頭蓋炎、喉頭軟化症、喉頭・気管異物、声帯麻痺、声門下狭窄など。 ・呼気性喘鳴(wheeze):胸郭内の下気道狭窄。気管支喘息、細気管支炎、気管支異物など。
POINT
・幼児の上気道炎に続く犬吠様咳嗽・嗄声・吸気性喘鳴はクループ症候群を考える。原因の多くはパラインフルエンザウイルスである。 ・頸部X線正面像で声門下の先細り(pencil sign/steeple sign)がみられる。 ・急性喉頭蓋炎は、高熱・流涎・嚥下困難・前傾姿勢を示し、側面像でthumb signがみられる。咽頭の診察や刺激で気道が閉塞するおそれがある緊急疾患である。 ・喉頭軟化症は新生児・乳児期から続く吸気性喘鳴で、多くは自然に治る。 ・クループの治療の中心はステロイド(デキサメタゾン)で、中等症以上にはアドレナリン吸入を加える。抗菌薬は原則不要である。
