StudyMed医師国家試験

黄色い便と元気な体重増加―1か月健診の黄疸は「母乳の力」を知るチャンス

第109回医師国家試験 E問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第45問

1か月の乳児。健康診査のため母親に連れられて来院した。母親の妊娠・分娩経過に異常はなく,母乳栄養で体重は27 g/日増加している。便は黄色である。皮膚はやや黄染している。胸腹部に異常を認めない。  この児で正しいのはどれか。

  1. a.便はアルカリ性を示す。
  2. b.体重増加は不良である。
  3. c.人工栄養児より便は硬い。
  4. d.黄疸のため母乳を中止する。
  5. e.腸内細菌叢としてビフィズス菌が多い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は1か月健診で黄疸が残っている乳児の問題だ。考えるべきことは2つ。まず、この黄疸が心配な病気のサインなのか、それとも良性のものなのか。次に、母乳栄養児の便や腸内細菌叢の特徴を正しく理解しているか。まず、生後1か月で黄疸が残っていると聞いて何を考える?
医学生医学生
生後2週を過ぎても続く黄疸なので遷延性黄疸ですね。小児科の講義で、胆道閉鎖症だけは見逃すなと繰り返し言われました。
ドクタードクター
まさにそこが出発点だ。胆道閉鎖症や新生児肝炎のような胆汁うっ滞では直接ビリルビンが上がり、灰白色便、濃い尿、肝腫大、体重増加不良を伴いやすい。この子の所見をそれに照らすとどうかな。
医学生医学生
便は黄色で、胸腹部にも異常がない。体重も1日27 g増えているので…胆汁はちゃんと腸に流れていそうです。
ドクタードクター
その通り。黄色い便は胆汁が腸管に届いている証拠だ。甲状腺機能低下症なら体重増加不良や便秘、活気の低下が、溶血性疾患なら貧血や脾腫が出やすいけれど、それらもない。母乳栄養で元気、発育良好、黄疸以外に異常がない。となると何が一番自然だろう。
医学生医学生
母乳性黄疸ですね。でも正直、27 g/日って少なくないのかな、と一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこは数字で押さえておこう。生後0〜3か月の体重増加の目安は1日25〜30 g程度。27 gは正常範囲で、1か月にすると約800 gになる。だから体重増加不良という見方は誤りだ。出生体重は生後3〜4か月で約2倍、1年で約3倍になる、というのもセットで覚えておきたい。
医学生医学生
母乳性黄疸なら、いったん母乳を止めたほうがいいんでしょうか。止めるとビリルビンが下がるって聞いたことがあります。
ドクタードクター
よくある誤解だね。確かに母乳を1〜2日中止するとビリルビンが下がることはあるが、母乳性黄疸は間接ビリルビン優位で、生後2〜3か月ごろまでに自然に消えていく良性の状態だ。核黄疸を起こすほどになることはまれだから、母乳は続けるのが基本。母乳育児の利点を損なってまで中止する必要はない。
医学生医学生
黄疸を理由に母乳を中止する、という対応は誤りなんですね。次は便の性状ですが、母乳栄養児の便は硬いのか軟らかいのか、自信がありません。
ドクタードクター
母乳栄養児の便は卵黄色〜黄色で水分が多く、軟膏状から泥状の軟らかい便で、回数も多い。人工栄養児の便は淡黄色でやや硬く、有形に近いことが多い。だから「人工栄養児より便は硬い」は逆だ。
医学生医学生
pHはどうですか。アルカリ性と言われると、なんとなくそんな気もしてしまって。
ドクタードクター
ここが今回の核心につながる。母乳栄養児の便は弱酸性で、甘酸っぱいにおいがする。母乳に含まれる乳糖やヒトミルクオリゴ糖をビフィズス菌が発酵し、乳酸や酢酸などの有機酸をつくるからだ。人工栄養児の便はそれよりpHが高く、中性から弱アルカリ性に傾きやすい。
医学生医学生
ということは、母乳栄養児の腸内ではビフィズス菌が多い、というのが正しい記述ですね。
ドクタードクター
正解。ヒトミルクオリゴ糖はビフィズス菌を増やす因子として働き、母乳栄養児ではビフィズス菌が圧倒的に優位になる。その有機酸で腸内が酸性に保たれ、大腸菌などの病原菌の増殖が抑えられる。人工栄養児ではビフィズス菌が相対的に少なく、大腸菌や腸球菌が多くなる。
医学生医学生
微生物学で習った腸内細菌叢の話と、便の色・硬さ・pHが一本の線でつながりました。
ドクタードクター
いいね。母乳性黄疸の機序も少し触れておこう。母乳中の成分が肝臓のグルクロン酸抱合酵素の働きを妨げることや、腸管でビリルビンが再吸収される腸肝循環が増えることなどが考えられている。それと、母乳栄養児の便は空気に触れて緑色に変わることがあるけれど、これは異常ではない。
医学生医学生
逆に、注意しなければいけない便の色は白っぽい便ですよね。母子健康手帳に便色カードがあるのを、小児科実習で見ました。
ドクタードクター
その通り。灰白色便や黄疸の増強があれば、直接ビリルビンを測って胆汁うっ滞を除外する。胆道閉鎖症は生後60日以内のできるだけ早い葛西手術が予後を左右するから、母乳性黄疸と決めつけて経過を見すぎないことも大切だ。健診では便の色、体重の増え方、肝腫大の有無を必ず確認しよう。
医学生医学生
元気で黄色い便なら母乳継続、白っぽい便や肝腫大があればすぐ精査、という使い分けですね。
ドクタードクター
完璧だ。その判断ができれば、お母さんにも安心と注意点の両方をきちんと伝えられるよ。

まとめ

母乳栄養で元気、体重増加が良好(生後早期の目安は25〜30 g/日)、黄色便で肝腫大のない遷延性黄疸は母乳性黄疸と考え、間接ビリルビン優位で生後2〜3か月ごろまでに自然消退するため母乳は中止せずに継続します。母乳栄養児の便は黄色で軟らかく弱酸性であり、母乳中のヒトミルクオリゴ糖によってビフィズス菌が優位な腸内細菌叢が形成され、その有機酸が病原菌の増殖を抑えます。人工栄養児の便はやや硬く、pHが高めで、ビフィズス菌が相対的に少ない点が対照的です。一方、灰白色便・肝腫大・直接ビリルビン上昇を伴う場合は胆道閉鎖症など胆汁うっ滞性疾患を疑い、早急な精査が必要です。良性の黄疸と見逃してはならない黄疸を見分ける視点は、乳児健診での保護者への説明や早期発見に直結する大切な知識です。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・1か月の乳児で、妊娠・分娩経過に異常はない。 ・母乳栄養で、体重増加は27 g/日である。生後0〜3か月ごろの乳児の標準的な体重増加は1日あたり25〜30 g程度であり、良好な発育といえる。 ・便は黄色で、灰白色便(胆汁が腸管に流れていないことを示す白っぽい便)ではない。 ・皮膚の軽い黄染があるが、胸腹部に異常はなく、肝腫大や脾腫を示唆する記載もない。

診断へのプロセス

生後2週を過ぎても黄疸が残る状態を遷延性黄疸という。遷延性黄疸で最も見逃してはならないのは、直接(抱合型)ビリルビンが上昇する胆汁うっ滞性疾患、特に胆道閉鎖症である。胆道閉鎖症や新生児肝炎では、灰白色便、濃い尿、肝腫大、体重増加不良を伴うことが多い。本児は便が黄色で、肝腫大がなく、体重増加も良好であり、これらの疾患は考えにくい。 また、甲状腺機能低下症(体重増加不良、便秘、活気の低下などを伴う)や溶血性疾患(貧血、脾腫を伴う)を示唆する所見もない。 母乳栄養児で、元気で発育良好、黄疸以外に異常所見がない遷延性黄疸であることから、母乳性黄疸と考えるのが最も自然である。母乳性黄疸は間接(非抱合型)ビリルビン優位の黄疸で、生後2〜3か月ごろまでに自然に消退する良性の状態である。

設問の考え方

本問は、本児が「異常のない母乳栄養児」であると判断したうえで、母乳栄養児の便の性状(色・硬さ・pH)、腸内細菌叢、体重増加の正常値、母乳性黄疸への対応を正しく理解しているかを問うている。

選択肢考察

  1. ×a.  便はアルカリ性を示す。

    誤り。母乳栄養児の便は弱酸性(pH 5〜6程度)で、甘酸っぱい酸臭がある。母乳中の乳糖やヒトミルクオリゴ糖をビフィズス菌が発酵し、乳酸や酢酸などの有機酸をつくるためである。人工栄養児の便は母乳栄養児より pH が高く、中性〜弱アルカリ性に傾きやすい。

  2. ×b.  体重増加は不良である。

    誤り。生後0〜3か月ごろの体重増加の目安は1日あたり25〜30 g程度であり、27 g/日は正常範囲である(1か月に換算すると約800 g)。体重増加不良は胆道閉鎖症や新生児肝炎、甲状腺機能低下症、哺乳量不足などを疑う手がかりになるが、本児には当てはまらない。

  3. ×c.  人工栄養児より便は硬い。

    誤り。母乳栄養児の便は卵黄色〜黄色で、水分が多く軟膏状〜泥状の軟らかい便であり、回数も多い傾向がある。人工栄養児の便は淡黄色でやや硬く、有形に近いことが多い。母乳は消化吸収がよく、有機酸による腸管刺激もあるため軟便になりやすい。

  4. ×d.  黄疸のため母乳を中止する。

    誤り。本児は母乳性黄疸と考えられ、元気で体重増加も良好である。母乳性黄疸は生後2〜3か月ごろまでに自然に消退し、核黄疸(ビリルビン脳症)を起こすほどの高ビリルビン血症になることはまれであるため、母乳は中止せず継続する。母乳を1〜2日中止すると血清ビリルビン値が下がることは診断の参考になるが、母乳育児の利点を損なうので、診断目的でもルーチンには行わない。ただし、便色の変化(灰白色化)や黄疸の増強があれば、直接ビリルビンを測定して胆汁うっ滞性疾患を除外する。

  5. ○e.  腸内細菌叢としてビフィズス菌が多い。

    正しい。母乳に含まれるヒトミルクオリゴ糖はビフィズス菌の増殖因子(ビフィズス因子)としてはたらき、母乳栄養児の腸内ではビフィズス菌が圧倒的に優位になる。ビフィズス菌がつくる有機酸で腸内が酸性に保たれ、大腸菌などの病原菌の増殖が抑えられる。人工栄養児では、ビフィズス菌の割合が相対的に少なく、大腸菌や腸球菌などが多くなる。

母乳性黄疸

・母乳栄養児にみられる、間接ビリルビン優位の遷延性黄疸である。生後1〜2週ごろから目立ち、2〜3か月ごろまでに自然に消退する。 ・機序としては、母乳中の成分(遊離脂肪酸、プレグナンジオールなど)による肝臓のグルクロン酸抱合酵素(UGT1A1)の阻害や、母乳中・腸管内のβグルクロニダーゼによりビリルビンが腸管から再吸収される量(腸肝循環)が増えることなどが考えられている。 ・児は元気で哺乳・体重増加が良好であり、便は黄色、肝脾腫はない。 ・母乳は継続し、経過を観察する。

遷延性黄疸の鑑別

・間接ビリルビン優位:母乳性黄疸、先天性甲状腺機能低下症、溶血性疾患(遺伝性球状赤血球症など)、Crigler-Najjar症候群など ・直接ビリルビン優位(胆汁うっ滞):胆道閉鎖症、新生児肝炎、先天性胆道拡張症、Alagille症候群など ・胆道閉鎖症は灰白色便・濃い黄色尿・肝腫大を示し、生後60日以内(できるだけ早期)の葛西手術(肝門部空腸吻合術)が予後を左右する。母子健康手帳の便色カードは早期発見のための道具である。

母乳栄養児と人工栄養児の便の比較

・母乳栄養児:卵黄色〜黄色、軟らかい(軟膏状〜泥状)、弱酸性で酸臭、回数が多い、ビフィズス菌優位 ・人工栄養児:淡黄色、やや硬い、pHは母乳栄養児より高い、ビフィズス菌は相対的に少なく大腸菌・腸球菌などが多い ・母乳栄養児の便は空気にふれて緑色に変わることがあるが、異常ではない。

乳児の体重増加の目安

・生後0〜3か月:25〜30 g/日程度 ・出生時体重は生後3〜4か月で約2倍、1年で約3倍になる。

POINT

・母乳栄養で元気、体重増加良好、黄色便、肝腫大なしの遷延性黄疸は母乳性黄疸と考え、母乳は中止しない。 ・母乳栄養児の便は黄色・軟らかい・弱酸性で、腸内細菌叢はビフィズス菌が優位である。 ・乳児早期の体重増加の目安は25〜30 g/日である。 ・遷延性黄疸では、灰白色便・肝腫大・直接ビリルビン上昇の有無を確認し、胆道閉鎖症を見逃さない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。