外した瞬間に走る激痛―コンタクトの「つけっぱなし睡眠」で角膜に何が起きたか
第109回医師国家試験 E問題 第46問
国試問題にチャレンジ
21歳の女性。両眼痛と流涙とを主訴に来院した。昨晩,ハードコンタクトレンズを装用したまま就寝し,午前4時ころコンタクトレンズを外した。その直後から強い眼痛が生じたため家族に付き添われて受診した。 まず行うべき検査はどれか。
- a.角膜知覚検査
- b.涙液分泌検査
- c.角膜曲率測定
- d.角膜擦過培養検査
- e.フルオレセイン染色検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
コンタクトレンズを装用したまま就寝すると、閉瞼とレンズによって角膜が低酸素となり、上皮が浮腫を起こして脆くなります。レンズを外した直後に強い眼痛・流涙が出現した場合は角膜上皮剥離(オーバーウェア症候群)を疑い、まずフルオレセイン染色検査で上皮欠損の部位と範囲を確認します。角膜知覚検査はヘルペスや神経麻痺性角膜症、Schirmer試験はドライアイ、角膜曲率測定は乱視やレンズ処方に用いる検査であり、角膜擦過培養は浸潤など感染を疑う所見があるときに追加します。治療はレンズ中止と点眼が中心で、点眼麻酔薬は上皮修復を妨げるため患者に処方してはいけません。外眼部検査それぞれの目的を整理しておくことは、救急外来で多い眼痛への適切な初期対応につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・21歳の女性で、両眼の強い痛みと流涙を訴えている。 ・前夜にハードコンタクトレンズ(HCL)を装用したまま眠り、明け方に外した直後から強い眼痛が出現した。 ・家族の付き添いで来院しており、痛みで目を開けていられないほどの状態と推測される。 ・就寝前は異常がなく、発症が急で、両眼に同時に起きている。
診断へのプロセス
角膜は血管をもたず、酸素の大部分を涙液を介して大気から得ている。閉瞼した睡眠中はもともと角膜への酸素供給が減るうえ、酸素透過性の低いレンズが角膜を覆うと角膜上皮は強い低酸素状態になり、浮腫を起こして脆くなる。この状態でレンズを外すと、レンズに付着していた上皮がはがれたり、乾燥した上皮が傷ついたりして、角膜上皮びらん・上皮剥離が生じる。角膜には知覚神経(三叉神経第1枝の枝)が非常に密に分布しているため、上皮が欠損すると激しい痛み、流涙、羞明、開瞼困難が起こる。このようなコンタクトレンズの過剰装用による角膜障害は「オーバーウェア症候群」と呼ばれる。 強い眼痛をきたす疾患としては、角膜異物、細菌性角膜炎、眼外傷、紫外線角膜炎(雪眼炎・電気性眼炎)、急性緑内障発作、強膜炎なども挙げられる。しかし、本症例は「レンズ装用のまま就寝 → 外した直後から両眼痛」という経過が典型的で、まず角膜上皮障害を疑う。
設問の考え方
角膜上皮障害の有無・範囲・程度を最初に、しかも簡便かつ短時間に確認できる検査を選ぶ。フルオレセインで涙液を染め、細隙灯顕微鏡でコバルトブルー光を当てると、上皮が欠けた部分が鮮やかな緑色に光って見える。この検査で上皮欠損を確認し、角膜浸潤(白い濁り)や前房内の炎症など感染を疑う所見がないかもあわせて評価する。
選択肢考察
- ×a. 角膜知覚検査
誤り。角膜知覚検査は、Cochet-Bonnet角膜知覚計などで角膜に触れて知覚の低下を調べる検査である。角膜ヘルペス(単純ヘルペスウイルス角膜炎)、糖尿病、三叉神経障害による神経麻痺性角膜症、長期のコンタクトレンズ装用などで知覚が低下する。本症例は強い痛みを訴えており、角膜知覚はむしろ保たれていると考えられる。急性期に最初に行う検査ではない。
- ×b. 涙液分泌検査
誤り。涙液分泌検査の代表はSchirmer試験で、下眼瞼に濾紙をはさみ5分間で濡れた長さを測る。5 mm以下を分泌低下とし、ドライアイ、Sjögren症候群、Stevens-Johnson症候群などの評価に用いる。本症例は流涙があり、急性の角膜上皮障害が疑われる状況で、まず行う検査ではない。強い痛みと上皮障害がある眼に濾紙を入れること自体も負担となる。
- ×c. 角膜曲率測定
誤り。角膜曲率測定はケラトメーター(角膜曲率計)で角膜前面のカーブを測る検査で、乱視の評価、コンタクトレンズの処方(ベースカーブの決定)、白内障手術時の眼内レンズ度数計算などに用いる。急性の眼痛の原因を調べる検査ではない。
- ×d. 角膜擦過培養検査
誤り。角膜擦過培養検査は、角膜浸潤や潰瘍があって細菌・真菌・アカントアメーバなどによる感染性角膜炎が疑われるときに、病巣を擦過して起炎微生物を同定するための検査である。コンタクトレンズ装用者は感染性角膜炎のリスクが高いため、細隙灯検査で感染を疑う所見があれば行うべきである。しかし本症例は、レンズを外した直後に両眼同時に発症しており、まず疑うのは非感染性の上皮障害である。感染の有無を判断するためにも、まずはフルオレセイン染色を含む細隙灯検査を行う。
- ○e. フルオレセイン染色検査
正しい。フルオレセイン染色検査は、フルオレセイン試験紙などで涙液を染め、細隙灯顕微鏡のコバルトブルー光で角膜を観察する検査である。正常な上皮はほとんど染まらないが、上皮が欠損した部分には色素がしみ込んで緑色の蛍光を発するため、角膜上皮剥離・びらんや点状表層角膜症の部位と範囲を一目で評価できる。簡便で侵襲が少なく短時間で行えるため、コンタクトレンズ関連の急性眼痛でまず行うべき検査である。
コンタクトレンズによる角膜障害
・角膜上皮は涙液を介して大気中の酸素を取り込み、活発に細胞分裂して再生している。酸素透過性の低いレンズの長時間装用や装用したままの睡眠は角膜の低酸素を招き、上皮浮腫、点状表層角膜症、上皮びらん・剥離、角膜内皮障害、角膜新生血管などの原因になる。 ・レンズを外した直後に強い痛みが出る急性型は、オーバーウェア症候群として知られる。 ・ソフトコンタクトレンズ、特に頻回交換型・使い捨てレンズの不適切な使用(洗浄不足、水道水でのすすぎ、装用期間の超過)では、緑膿菌などによる細菌性角膜炎やアカントアメーバ角膜炎といった重い感染症を起こしやすい。
角膜上皮剥離の治療の概要
・レンズの装用を中止する。 ・感染予防の抗菌点眼薬と、上皮の修復を促す点眼(ヒアルロン酸など)を用いる。必要に応じて眼軟膏や眼帯を用いる。 ・上皮は通常数日以内に修復される。 ・点眼麻酔薬は診察時の疼痛緩和には使うが、上皮の修復を妨げ角膜障害を悪化させるため、患者に持ち帰らせて使わせてはならない。
主な外眼部検査の整理
・フルオレセイン染色:角膜上皮障害の検出(緑色に光る)。涙液層破壊時間(BUT)の測定にも使う。 ・Schirmer試験:涙液分泌量の評価(5分間で5 mm以下を低下とする)。 ・角膜知覚検査:ヘルペス性角膜炎、神経麻痺性角膜症、糖尿病などでの知覚低下の評価。 ・角膜曲率測定:乱視の評価、コンタクトレンズ処方、眼内レンズ度数計算。 ・角膜擦過物の塗抹・培養:感染性角膜炎の起炎微生物の同定。
POINT
・コンタクトレンズを装用したまま就寝し、外した直後から強い両眼痛と流涙 → 低酸素による角膜上皮剥離(オーバーウェア症候群)を疑う。 ・角膜上皮障害の評価にまず行うのはフルオレセイン染色検査で、上皮欠損部はコバルトブルー光で緑色に光る。 ・角膜浸潤など感染を疑う所見があれば、角膜擦過物の塗抹・培養を追加する。 ・点眼麻酔薬を患者に処方してはならない。
