「病気」ではなく「暮らし」を測る―高齢者総合機能評価〈CGA〉の視点
第109回医師国家試験 E問題 第31問
国試問題にチャレンジ
高齢者総合機能評価〈CGA〉に含まれない内容はどれか。
- a.意欲
- b.認知機能
- c.手段的日常生活動作〈IADL〉
- d.バイタルサイン
- e.日常生活動作〈ADL〉
- f.情緒と気分
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
高齢者総合機能評価〈CGA〉は、高齢者を病気の有無だけでなく、生活機能・精神心理機能・社会環境から多面的に評価し、QOLの維持・向上につなげる手法です。主な評価項目は基本的ADL(Barthel Index、Katz Index)、IADL(Lawtonの尺度)、認知機能(HDS-R、MMSE)、意欲(Vitality Index)、情緒・気分(GDS)と、家族・介護者や住環境などの社会的側面です。バイタルサインは診療の基本として重要ですが、全身状態を把握する生理学的指標であり、生活機能を評価するCGAの項目には含まれません。外来では7項目の簡易版CGA7でスクリーニングし、問題のある領域を詳しい尺度で評価します。「その人がどう暮らせているか」を多職種で捉える視点は、高齢者の治療方針や退院支援を考えるうえでの土台になります。
解答・解説
正解はdです
高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は、高齢者を「病気の有無」だけでなく、生活機能・精神心理機能・社会環境といった多面的な視点から評価し、その人の生活の質(quality of life:QOL)の維持・向上につなげるための評価法である。高齢者では複数の疾患を抱えていることが多く、同じ病気でも生活への影響は人によって大きく異なる。そこで、医師だけでなく看護師、リハビリテーション専門職、ソーシャルワーカーなど多職種で、本人が「何ができて、何に困っているか」を系統的に把握し、ケアや治療方針、退院後の生活支援を計画する。 CGAで評価する主な領域は次のとおりである。 ・身体的・生活機能:基本的日常生活動作(ADL)、手段的日常生活動作(IADL) ・精神心理機能:認知機能、意欲、情緒・気分(抑うつ) ・社会的側面:家族構成、介護者、住環境、経済状況、利用中のサービスなど 本問の選択肢のうち、意欲、認知機能、IADL、ADL、情緒と気分はいずれもCGAの評価項目である。一方、血圧・脈拍・体温・呼吸数などのバイタルサインは、通常の身体診察で把握する生理学的指標であり、CGAが目的とする生活機能の評価項目には含まれない。したがって、含まれない内容はバイタルサインである。
選択肢考察
- ×a. 意欲
意欲はCGAの評価項目に含まれる。意欲が低下すると活動量が減り、廃用や生活機能の低下につながるため重要である。評価尺度としてはVitality Index(起床、意思疎通、食事、排泄、リハビリ・活動への参加の5項目)がよく用いられる。簡易版のCGA7では「診察時に自分から進んで挨拶するか」で評価する。
- ×b. 認知機能
認知機能はCGAの中心的な評価項目の一つである。認知機能障害は服薬管理や意思決定、自立生活の可否に大きく影響する。評価には改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)が用いられる。CGA7では、3つの単語を復唱させる項目と、しばらく後に思い出させる遅延再生の項目で評価する。
- ×c. 手段的日常生活動作〈IADL〉
IADL(instrumental activities of daily living)はCGAに含まれる。買い物、食事の支度、洗濯・家事、金銭管理、服薬管理、電話の使用、交通機関の利用など、地域で自立して暮らすために必要な、より複雑な生活動作を指す。ADLより早期に低下しやすく、軽度の認知機能低下の発見にも役立つ。Lawtonの尺度が代表的で、CGA7では「外来まで交通機関や自家用車を使って自分で来られたか」を確認する。
- ○d. バイタルサイン
血圧、脈拍、体温、呼吸数、意識状態などのバイタルサインは、全身状態や急性疾患を把握するための生理学的指標であり、診療の基本として毎回確認すべきものである。しかし、CGAは日常生活の自立度や精神心理状態、社会環境といった「生活機能」を評価する枠組みであり、バイタルサインはその評価項目には含まれない。したがって、本問の正解である。
- ×e. 日常生活動作〈ADL〉
ADL(activities of daily living)はCGAに含まれる。ここでのADLは基本的日常生活動作(basic ADL:BADL)を指し、食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行(移動)、階段昇降、更衣、排便・排尿の管理など、身の回りの基本的な動作である。Barthel IndexやKatz Indexで評価する。CGA7では入浴と排泄の自立をそれぞれ確認する。
- ×f. 情緒と気分
情緒・気分(抑うつの有無)はCGAに含まれる。高齢者のうつは頻度が高いにもかかわらず、加齢や認知症によるものと誤解されて見逃されやすく、生活機能やQOLを大きく低下させる。評価にはGeriatric Depression Scale(GDS、高齢者用うつ尺度)が用いられ、15項目の短縮版(GDS-15)が普及している。CGA7では「自分が無力だと思うか」を尋ね、否定すれば問題なしとする。
CGAの主な評価領域と代表的な尺度
・基本的ADL:Barthel Index、Katz Index ・手段的ADL:Lawtonの尺度 ・認知機能:HDS-R、MMSE ・意欲:Vitality Index ・情緒・気分(抑うつ):GDS(GDS-15) ・社会的側面:家族・介護者の状況、住環境、経済状況、介護保険サービスの利用状況など
CGA7(簡易スクリーニング)
外来などで短時間に行えるよう、CGAを7項目に絞ったものである。 1. 意欲:自分から進んで挨拶をするか 2. 認知機能(復唱):3つの単語を復唱できるか 3. 手段的ADL:外来まで交通機関や自家用車を使って来たか 4. 認知機能(遅延再生):先ほどの3単語を思い出せるか 5. 基本的ADL:一人で入浴できるか 6. 基本的ADL:失禁なくトイレで排泄できるか 7. 情緒:自分が無力だと思うか 問題があった項目については、上記の詳しい尺度を用いて評価を深める。
CGAの意義
CGAに基づいて多職種でケアを計画することで、施設入所の減少や機能低下の予防などの効果が報告されており、老年医学の基本的な手法とされている。
POINT
・CGA=高齢者の生活機能・精神心理機能・社会環境を多面的に評価し、QOL向上につなげる手法。 ・主な評価項目:ADL(BADL)、IADL、認知機能、意欲、情緒・気分、社会環境。 ・代表的尺度:Barthel Index(ADL)、Lawton(IADL)、HDS-R・MMSE(認知)、Vitality Index(意欲)、GDS(抑うつ)。 ・バイタルサインは生理学的指標であり、CGAの評価項目には含まれない。
