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「病気」ではなく「暮らし」を測る―高齢者総合機能評価〈CGA〉の視点

第109回医師国家試験 E問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第31問

高齢者総合機能評価〈CGA〉に含まれない内容はどれか。

  1. a.意欲
  2. b.認知機能
  3. c.手段的日常生活動作〈IADL〉
  4. d.バイタルサイン
  5. e.日常生活動作〈ADL〉
  6. f.情緒と気分

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高齢者総合機能評価、CGAに何が含まれるかを問う問題だ。ポイントは、CGAが何を評価するための枠組みなのかを理解すること。そこがわかれば、仲間外れの選択肢は自然に見えてくる。CGAという言葉は聞いたことがあるかな。
医学生医学生
老年医学の講義で出てきました。高齢者をいろいろな面から評価する方法、くらいの理解です。
ドクタードクター
それで大丈夫。CGAは、高齢者を病気の有無だけでなく、生活機能、精神心理機能、社会環境という多面的な視点から評価して、QOLの維持・向上につなげるための方法なんだ。高齢者は複数の病気を抱えていることが多く、同じ病気でも生活への影響は人によって全く違うからね。
医学生医学生
診断名だけでは、その人が家でちゃんと暮らせるかはわからない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。だから医師だけでなく、看護師、リハビリ職、ソーシャルワーカーなど多職種で、本人が何ができて何に困っているかを系統的に把握する。では、まず生活機能から。ADLとIADLの違いは説明できる?
医学生医学生
ADLは食事やトイレ、入浴みたいな身の回りの動作で、IADLは買い物や料理みたいな、もう少し複雑な動作ですよね。
ドクタードクター
よく整理できているね。基本的ADLはBarthel IndexやKatz Indexで評価する。IADLには買い物、食事の支度、金銭管理、服薬管理、電話、交通機関の利用などがあり、Lawtonの尺度が代表的だ。IADLはADLより早く低下しやすいから、軽い認知機能低下に気づくきっかけにもなる。どちらもCGAの柱だよ。
医学生医学生
臨床実習で総合診療科を回ったとき、「最近お金の管理が怪しくなった」という家族の話から認知症の評価につながった患者さんがいました。
ドクタードクター
まさにIADLの低下がサインになった例だね。次は精神心理機能。認知機能はどう評価する?
医学生医学生
HDS-RやMMSEです。OSCEの医療面接の練習でも少し触れました。
ドクタードクター
そうだね。認知機能は服薬管理や意思決定、独居の可否に直結するから、CGAの中心的な項目だ。精神心理面にはほかに意欲と情緒・気分もある。
医学生医学生
意欲も評価するんですか。気分と同じものかと思っていました。
ドクタードクター
似ているけれど別に扱う。意欲が落ちると活動量が減って、廃用や生活機能の低下につながるからね。Vitality Indexという尺度で、起床、意思疎通、食事、排泄、リハビリや活動への参加を見る。情緒・気分は主に抑うつの評価で、Geriatric Depression Scale、特に15項目の短縮版がよく使われるよ。
医学生医学生
高齢者のうつは、年のせいとか認知症と思われて見逃されやすいと精神科の講義で聞きました。
ドクタードクター
その通りで、だからこそ系統的にチェックする意味がある。さて、残るのはバイタルサインだ。これはどうだろう。
医学生医学生
血圧や脈拍は高齢者でも大事だから入っていそうですが……生活機能とは違う気がします。
ドクタードクター
いい感覚だね。バイタルサインは全身状態や急性疾患を把握するための生理学的指標で、診療の基本として毎回確認すべきものだ。でも、CGAが目的とする生活機能の評価項目には含まれない。だから今回の正解はバイタルサインになる。
医学生医学生
大事かどうかではなく、CGAという枠組みが何を測るのか、で考えればいいんですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、外来で短時間に行える簡易版のCGA7も知っておこう。自分から進んで挨拶をするかで意欲、3単語の復唱と遅延再生で認知機能、外来まで自分で来られたかでIADL、入浴と排泄の自立でADL、自分が無力だと思うかで情緒を見る。問題があった項目だけ詳しい尺度で掘り下げるんだ。
医学生医学生
それなら忙しい外来でも使えそうです。社会的な面も評価するんですよね。
ドクタードクター
そう、家族構成や介護者、住環境、経済状況、介護保険サービスの利用状況なども含まれる。CGAに基づいて多職種でケアを計画すると、施設入所の減少や機能低下の予防などの効果が報告されている。退院支援を考えるときにも必ず役立つ視点だよ。

まとめ

高齢者総合機能評価〈CGA〉は、高齢者を病気の有無だけでなく、生活機能・精神心理機能・社会環境から多面的に評価し、QOLの維持・向上につなげる手法です。主な評価項目は基本的ADL(Barthel Index、Katz Index)、IADL(Lawtonの尺度)、認知機能(HDS-R、MMSE)、意欲(Vitality Index)、情緒・気分(GDS)と、家族・介護者や住環境などの社会的側面です。バイタルサインは診療の基本として重要ですが、全身状態を把握する生理学的指標であり、生活機能を評価するCGAの項目には含まれません。外来では7項目の簡易版CGA7でスクリーニングし、問題のある領域を詳しい尺度で評価します。「その人がどう暮らせているか」を多職種で捉える視点は、高齢者の治療方針や退院支援を考えるうえでの土台になります。

解答・解説

正解はdです

高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は、高齢者を「病気の有無」だけでなく、生活機能・精神心理機能・社会環境といった多面的な視点から評価し、その人の生活の質(quality of life:QOL)の維持・向上につなげるための評価法である。高齢者では複数の疾患を抱えていることが多く、同じ病気でも生活への影響は人によって大きく異なる。そこで、医師だけでなく看護師、リハビリテーション専門職、ソーシャルワーカーなど多職種で、本人が「何ができて、何に困っているか」を系統的に把握し、ケアや治療方針、退院後の生活支援を計画する。 CGAで評価する主な領域は次のとおりである。 ・身体的・生活機能:基本的日常生活動作(ADL)、手段的日常生活動作(IADL) ・精神心理機能:認知機能、意欲、情緒・気分(抑うつ) ・社会的側面:家族構成、介護者、住環境、経済状況、利用中のサービスなど 本問の選択肢のうち、意欲、認知機能、IADL、ADL、情緒と気分はいずれもCGAの評価項目である。一方、血圧・脈拍・体温・呼吸数などのバイタルサインは、通常の身体診察で把握する生理学的指標であり、CGAが目的とする生活機能の評価項目には含まれない。したがって、含まれない内容はバイタルサインである。

選択肢考察

  1. ×a.  意欲

    意欲はCGAの評価項目に含まれる。意欲が低下すると活動量が減り、廃用や生活機能の低下につながるため重要である。評価尺度としてはVitality Index(起床、意思疎通、食事、排泄、リハビリ・活動への参加の5項目)がよく用いられる。簡易版のCGA7では「診察時に自分から進んで挨拶するか」で評価する。

  2. ×b.  認知機能

    認知機能はCGAの中心的な評価項目の一つである。認知機能障害は服薬管理や意思決定、自立生活の可否に大きく影響する。評価には改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)が用いられる。CGA7では、3つの単語を復唱させる項目と、しばらく後に思い出させる遅延再生の項目で評価する。

  3. ×c.  手段的日常生活動作〈IADL〉

    IADL(instrumental activities of daily living)はCGAに含まれる。買い物、食事の支度、洗濯・家事、金銭管理、服薬管理、電話の使用、交通機関の利用など、地域で自立して暮らすために必要な、より複雑な生活動作を指す。ADLより早期に低下しやすく、軽度の認知機能低下の発見にも役立つ。Lawtonの尺度が代表的で、CGA7では「外来まで交通機関や自家用車を使って自分で来られたか」を確認する。

  4. ○d.  バイタルサイン

    血圧、脈拍、体温、呼吸数、意識状態などのバイタルサインは、全身状態や急性疾患を把握するための生理学的指標であり、診療の基本として毎回確認すべきものである。しかし、CGAは日常生活の自立度や精神心理状態、社会環境といった「生活機能」を評価する枠組みであり、バイタルサインはその評価項目には含まれない。したがって、本問の正解である。

  5. ×e.  日常生活動作〈ADL〉

    ADL(activities of daily living)はCGAに含まれる。ここでのADLは基本的日常生活動作(basic ADL:BADL)を指し、食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行(移動)、階段昇降、更衣、排便・排尿の管理など、身の回りの基本的な動作である。Barthel IndexやKatz Indexで評価する。CGA7では入浴と排泄の自立をそれぞれ確認する。

  6. ×f.  情緒と気分

    情緒・気分(抑うつの有無)はCGAに含まれる。高齢者のうつは頻度が高いにもかかわらず、加齢や認知症によるものと誤解されて見逃されやすく、生活機能やQOLを大きく低下させる。評価にはGeriatric Depression Scale(GDS、高齢者用うつ尺度)が用いられ、15項目の短縮版(GDS-15)が普及している。CGA7では「自分が無力だと思うか」を尋ね、否定すれば問題なしとする。

CGAの主な評価領域と代表的な尺度

・基本的ADL:Barthel Index、Katz Index ・手段的ADL:Lawtonの尺度 ・認知機能:HDS-R、MMSE ・意欲:Vitality Index ・情緒・気分(抑うつ):GDS(GDS-15) ・社会的側面:家族・介護者の状況、住環境、経済状況、介護保険サービスの利用状況など

CGA7(簡易スクリーニング)

外来などで短時間に行えるよう、CGAを7項目に絞ったものである。 1. 意欲:自分から進んで挨拶をするか 2. 認知機能(復唱):3つの単語を復唱できるか 3. 手段的ADL:外来まで交通機関や自家用車を使って来たか 4. 認知機能(遅延再生):先ほどの3単語を思い出せるか 5. 基本的ADL:一人で入浴できるか 6. 基本的ADL:失禁なくトイレで排泄できるか 7. 情緒:自分が無力だと思うか 問題があった項目については、上記の詳しい尺度を用いて評価を深める。

CGAの意義

CGAに基づいて多職種でケアを計画することで、施設入所の減少や機能低下の予防などの効果が報告されており、老年医学の基本的な手法とされている。

POINT

・CGA=高齢者の生活機能・精神心理機能・社会環境を多面的に評価し、QOL向上につなげる手法。 ・主な評価項目:ADL(BADL)、IADL、認知機能、意欲、情緒・気分、社会環境。 ・代表的尺度:Barthel Index(ADL)、Lawton(IADL)、HDS-R・MMSE(認知)、Vitality Index(意欲)、GDS(抑うつ)。 ・バイタルサインは生理学的指標であり、CGAの評価項目には含まれない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。