「酸素を増やせば安心」の落とし穴―CO2ナルコーシスは肺胞低換気から始まる
第109回医師国家試験 E問題 第30問
国試問題にチャレンジ
CO2ナルコーシスについて正しいのはどれか。
- a.低酸素血症は伴わない。
- b.病初期には徐脈を呈する。
- c.進行期には散瞳を呈する。
- d.肺胞低換気は原因となる。
- e.急速にPaCO2を低下させる必要がある。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
CO2ナルコーシスは高度の高CO2血症による意識障害で、その原因は肺胞低換気によるCO2貯留です。基盤はCOPDや肺結核後遺症などの慢性II型呼吸不全で、低酸素血症を伴うのが通常であり、急性増悪・鎮静薬・不用意な高濃度酸素投与が誘因となります。初期は交感神経刺激による頻脈・血圧上昇・発汗・皮膚紅潮・羽ばたき振戦がみられ、進行すると傾眠から昏睡に至り、縮瞳を呈するとされます。治療では代償性にHCO3−が上昇しているため、PaCO2を急速に下げるとアルカレミアを招くので、pHを見ながら段階的に是正し、酸素は中止せず目標SpO2 88〜92%程度で調節します。換気とガス交換の生理から症状と治療上の注意点まで一貫して理解することが、呼吸器救急での安全な酸素療法につながります。
解答・解説
正解はdです
CO2ナルコーシスとは、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が高度に上昇した結果、意識障害をはじめとする中枢神経症状を呈する病態である。典型的には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺結核後遺症、胸郭変形、神経筋疾患など、もともと高二酸化炭素血症を伴う慢性II型呼吸不全(PaO2≦60 Torrに加えPaCO2>45 Torr)の患者に起こる。 誘因として重要なのは、気道感染などによる呼吸不全の急性増悪、鎮静薬・睡眠薬の投与、そして不用意な高濃度酸素投与である。慢性的に高CO2状態にある患者では、CO2に対する呼吸中枢の反応が鈍くなり、低酸素が呼吸を促す刺激として相対的に大きな役割を担っている。ここに高濃度の酸素を与えると、換気が抑制されるうえ、低酸素性肺血管収縮が解除されて換気血流比の不均等が悪化することなどにより、肺胞低換気が進んでCO2がさらに貯留する。 CO2が蓄積すると、初期には交感神経が刺激されて頭痛、発汗、頻脈、血圧上昇、皮膚の紅潮、手のふるえ(羽ばたき振戦)などが現れる。さらに進むと傾眠から昏睡に至り、縮瞳、呼吸抑制を呈する。 本問は、その原因が肺胞低換気によるCO2貯留であること、低酸素血症を伴うのが通常であること、症状の経過、そして治療上の注意点(PaCO2を急激に下げない)を正しく理解しているかを問うている。
選択肢考察
- ×a. 低酸素血症は伴わない。
肺胞低換気ではCO2が排出されないと同時に、肺胞内の酸素も補充されない。そのため高二酸化炭素血症と低酸素血症は通常同時に存在し、CO2ナルコーシスの基盤となるのはII型呼吸不全である。酸素投与中に発症した場合はPaO2が見かけ上保たれていることもあるが、病態の本質は低換気であり、「低酸素血症を伴わない」という記述は誤りである。
- ×b. 病初期には徐脈を呈する。
CO2が貯留し始める病初期には、交感神経系が刺激されてカテコラミン分泌が増え、頻脈や血圧上昇、発汗がみられる。また、CO2には末梢血管を拡張させる作用があるため、皮膚が温かく紅潮する。徐脈ではなく頻脈が正しい。
- ×c. 進行期には散瞳を呈する。
CO2ナルコーシスが進行して意識レベルが低下すると、縮瞳がみられるのが特徴とされる。散瞳ではない。高度の高CO2血症では脳血管拡張による頭蓋内圧上昇から乳頭浮腫を伴うこともある。
- ○d. 肺胞低換気は原因となる。
PaCO2は肺胞換気量に反比例する(PaCO2 ∝ CO2産生量/肺胞換気量)。したがって、肺胞低換気が起こるとCO2が体内に貯留し、PaCO2が上昇する。COPDの急性増悪、呼吸筋疲労、鎮静薬による呼吸抑制、高濃度酸素投与による換気抑制などはいずれも肺胞低換気を介してPaCO2を上昇させ、CO2ナルコーシスを引き起こす。原因として正しい記述である。
- ×e. 急速にPaCO2を低下させる必要がある。
慢性II型呼吸不全の患者では、腎臓が重炭酸イオン(HCO3−)を再吸収して呼吸性アシドーシスを代償しており、血中HCO3−が高値となっている。人工呼吸などでPaCO2を急速に下げると、HCO3−は短時間では低下しないため急激なアルカレミア(代謝性アルカローシス)となり、不整脈、血圧低下、けいれんなどを来しうる。脳血流の急な減少も起こる。そのため、PaCO2はpHを確認しながら徐々に低下させることが原則であり、誤りである。
呼吸不全の分類
・呼吸不全:室内気吸入時のPaO2が60 Torr以下となる状態。 ・I型呼吸不全:PaCO2が45 Torr以下。換気血流比不均等、拡散障害、シャントなどが主な原因(間質性肺炎、肺水腫など)。 ・II型呼吸不全:PaCO2が45 Torrを超える。肺胞低換気が主因(COPD、肺結核後遺症、神経筋疾患、胸郭変形、薬剤性呼吸抑制など)。
CO2ナルコーシスの症状の流れ
・初期:頭痛、発汗、頻脈、血圧上昇、皮膚の温感・紅潮、羽ばたき振戦 ・進行期:傾眠、意識障害、昏睡、縮瞳、呼吸抑制
予防と治療
・慢性II型呼吸不全患者への酸素投与は、低流量(鼻カニュラで0.5〜1 L/分程度)やベンチュリーマスクなど吸入酸素濃度を調節しやすい方法で開始し、SpO2 88〜92%程度を目標として、動脈血ガスでPaCO2の上昇がないか確認しながら調節する。 ・低酸素を恐れて酸素を中止してはならない。高度の低酸素は致死的であり、酸素投与は必要量を慎重に続ける。 ・意識障害や呼吸性アシドーシスの進行がある場合は、非侵襲的陽圧換気(NPPV)や気管挿管による人工呼吸で換気を補助する。 ・人工呼吸の際もPaCO2は急激に下げず、pHを指標に段階的に是正する。
POINT
・CO2ナルコーシス=高度の高CO2血症による意識障害。原因は肺胞低換気によるCO2貯留。 ・基盤は慢性II型呼吸不全(COPD、肺結核後遺症など)で、低酸素血症を伴う。 ・誘因:急性増悪、鎮静薬、高濃度酸素投与。 ・初期は頻脈・血圧上昇・発汗・紅潮、進行すると意識障害と縮瞳。 ・治療ではPaCO2を急速に下げない(代償性HCO3−上昇によるアルカレミアの危険)。
