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黒い便は「蛋白の食事」―タール便でBUNが上がる理由

第109回医師国家試験 C問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第109回 C問題 第6問

タール便の患者で高値を示す血液検査項目はどれか。

  1. a.LD
  2. b.ALP
  3. c.尿素窒素
  4. d.アルブミン
  5. e.クレアチニン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、タール便から上部消化管出血を想定し、そのとき血液検査のどの項目が上がるかを考える問題だ。ポイントは「消化管の中に出た血液が、体の中でどう処理されるか」。暗記より仕組みで理解すると忘れないよ。
医学生医学生
タール便は上部消化管出血のサインと習いました。黒くなるのは胃酸のせいでしたっけ。
ドクタードクター
そうだね。おおむねTreitz靱帯より口側の食道・胃・十二指腸からの出血で、ヘモグロビンが胃酸や腸内細菌の作用で変性し、ヘマチンなどになって黒く粘稠な便になる。ではここで考えてほしい。消化管の中に大量の血液がある状態は、体から見ると何に近いと思う?
医学生医学生
血液は蛋白質の塊なので……大量の蛋白質を食べたのと似ている、ということでしょうか。
ドクタードクター
その発想がまさに核心だ。血液中のヘモグロビンなどの蛋白質が腸管で消化・吸収されてアミノ酸になり、脱アミノで生じたアンモニアが肝臓の尿素回路で尿素に変わる。その結果、血中尿素窒素、BUNが上昇する。だから正解は尿素窒素だ。
医学生医学生
生化学の講義で習った尿素回路が、こんなところでつながるんですね。
ドクタードクター
さらにもう一つの要因がある。出血で循環血液量が減ると腎血流が低下して、腎前性に尿素の尿細管再吸収が増える。蛋白負荷による産生増加と、腎前性の要素、この2つでBUNが上がるんだ。
医学生医学生
腎血流が下がるなら、クレアチニンも一緒に上がりそうな気がします。
ドクタードクター
そこが大事な分かれ目だ。クレアチニンは筋肉のクレアチンの最終代謝産物で、産生量はほぼ筋肉量で決まり、蛋白負荷の影響を受けにくい。だから上部消化管出血では、通常クレアチニンはあまり変わらず、BUNだけが相対的に高くなる。つまりBUN/クレアチニン比が上昇するのが特徴だ。もちろん大量出血でショックになり急性腎障害を合併すれば上がりうるけれど、タール便に特徴的な所見ではない。
医学生医学生
LDはどうでしょう。赤血球が関係するので、溶血と同じように上がるかと一瞬思いました。
ドクタードクター
間違えやすいところだね。LDは全身のほぼあらゆる細胞に含まれていて、溶血では赤血球が血管内で壊れて中身が漏れ出すから上がる。でも消化管出血では、赤血球は血管の外、つまり消化管の内腔へ失われるだけで、血中で壊れるわけではない。だから指標にはならないんだ。
医学生医学生
ALPは肝胆道系や骨の酵素なので、出血とは関係なさそうですね。
ドクタードクター
その通り。胆汁うっ滞や骨芽細胞の活動亢進、妊娠などで上がるもので、消化管出血そのものでは上昇しない。アルブミンについても、出血で血漿成分が失われ、輸液で希釈もされるから、上がるどころかむしろ下がりうる。高値になるのは脱水による濃縮くらいだね。
医学生医学生
BUNだけが上がってクレアチニンが正常なら、腎臓そのものより腎臓の外に原因がある、と考えればいいわけですね。
ドクタードクター
そう、腎外性のBUN上昇という考え方だ。BUN/クレアチニン比は普段10前後で、20以上なら脱水や心不全などの腎前性要因、上部消化管出血、高蛋白食、発熱・熱傷・ステロイド投与などの異化亢進を考える。逆に比が低いときは肝不全や低蛋白食を思い浮かべるといい。
医学生医学生
消化器内科を回ったとき、吐血の患者さんで緊急内視鏡になった症例がありました。原因はやはり潰瘍が多いんですか。
ドクタードクター
上部消化管出血の原因で最も多いのは消化性潰瘍だね。ほかに食道・胃静脈瘤破裂、Mallory-Weiss症候群、急性胃粘膜病変、胃癌などがある。診断と止血の両面で緊急上部消化管内視鏡が中心になる。臨床では、黒色便を訴える患者さんでBUN/クレアチニン比が高ければ、上部からの出血をより強く疑う手がかりになるよ。下部消化管からの出血では、血液が吸収される前に排出されやすいので、BUN上昇は目立ちにくいんだ。

まとめ

タール便は主にTreitz靱帯より口側の上部消化管出血を示唆し、ヘモグロビンが胃酸などで変性して黒色便となります。消化管内の血液は大量の蛋白負荷として消化・吸収され、肝臓の尿素回路で尿素が産生されることに加え、循環血液量減少による腎前性の再吸収増加も重なって、血中尿素窒素(BUN)が上昇します。クレアチニンは筋肉量で産生量がほぼ決まり蛋白負荷の影響を受けにくいため、BUN/クレアチニン比の上昇が上部消化管出血の特徴となり、下部消化管出血との鑑別の手がかりにもなります。LDは溶血など細胞障害で、ALPは胆汁うっ滞や骨疾患で上昇し、アルブミンは出血や輸液でむしろ低下しうる点もあわせて整理しておきましょう。BUNを「産生」と「排泄」のバランスで捉える視点は、脱水や異化亢進、腎不全など幅広い病態の検査値解釈に役立ちます。

解答・解説

正解はcです

タール便(黒色便)は、上部消化管(おおむねTreitz靱帯より口側の食道・胃・十二指腸)からの出血を示唆する所見である。血液中のヘモグロビンが胃酸や腸内細菌の作用で変性し、ヘマチンなどとなって黒く粘稠な便になる。 本問では、消化管内に出た血液が体内でどのように処理され、どの検査値に反映されるかを考える。消化管内の血液は大量の蛋白質(主にヘモグロビンなどの血漿・血球蛋白)を含む「蛋白負荷」であり、これが腸管で消化・吸収されると、アミノ酸の脱アミノで生じたアンモニアが肝臓の尿素回路で尿素に変換される。その結果、血中尿素窒素(BUN: blood urea nitrogen)が上昇する。さらに出血による循環血液量の減少で腎血流量が低下すると、腎前性に尿素の再吸収が増えることもBUN上昇に寄与する。 一方、クレアチニンは筋肉由来で蛋白負荷の影響を受けにくいため、上部消化管出血ではBUNだけが相対的に高くなり、BUN/クレアチニン比が上昇する(一般に20〜30以上になることが多い)。この「クレアチニンが正常なのにBUNだけが高い」というパターンを腎外性BUN上昇として理解しておくことが正解を導く鍵である。

選択肢考察

  1. ×a.  LD

    LD(乳酸脱水素酵素、LDHとも表記)は解糖系の酵素で、肝臓・心筋・骨格筋・腎臓・赤血球など全身のほぼあらゆる細胞に含まれる。そのため肝炎、心筋梗塞、筋疾患、溶血、白血病・悪性リンパ腫などの悪性腫瘍といった細胞障害や細胞増殖が盛んな病態で上昇する。溶血では赤血球内のLDが血中に漏れ出して上昇するが、消化管出血では赤血球は血管外(消化管内腔)へ失われるだけで血中で壊れるわけではないため、タール便の指標とはならない。

  2. ×b.  ALP

    ALP(アルカリホスファターゼ)は肝・胆道系、骨、小腸、胎盤などに分布する酵素である。閉塞性黄疸などの胆汁うっ滞、肝疾患、骨芽細胞活動が亢進する病態(成長期、骨転移、副甲状腺機能亢進症など)、妊娠などで上昇する。消化管出血そのものでは上昇しない。

  3. ○c.  尿素窒素

    上部消化管出血では、消化管内に流出した血液の蛋白質が消化・吸収されてアミノ酸となり、肝臓で代謝されて尿素が大量に産生される。加えて出血に伴う循環血液量減少で腎血流が低下し、腎前性に尿素の再吸収が増える。これらによりBUNが上昇する。クレアチニンはほとんど変化しないためBUN/クレアチニン比が上昇するのが特徴で、下部消化管出血との鑑別の手がかりにもなる(下部の出血では血液が吸収される前に排出されやすく、BUN上昇は目立ちにくい)。

  4. ×d.  アルブミン

    アルブミンは血清総蛋白の約50〜70%を占める蛋白で、肝臓で合成される。膠質浸透圧の維持や物質の運搬を担う。低栄養・吸収不良、肝硬変などの合成能低下、ネフローゼ症候群や蛋白漏出性胃腸症などの喪失、甲状腺機能亢進症などの異化亢進で低下する。消化管出血では血漿成分も失われ、さらに輸液による希釈もあるため、上昇することはなくむしろ低下しうる。高値を示すのは脱水による濃縮くらいである。

  5. ×e.  クレアチニン

    クレアチニンは筋肉中のクレアチン(クレアチンリン酸)の最終代謝産物で、糸球体で濾過された後ほとんど再吸収されずに尿中へ排泄される。このため糸球体濾過量(GFR)をよく反映し、腎機能の指標として用いられる。腎不全、脱水、心不全などの腎血流低下、筋肉量の多い人(先端巨大症など)で上昇する。産生量は筋肉量でほぼ決まり、食事や消化管内の蛋白負荷の影響を受けにくいため、消化管出血では通常ほとんど変化しない。大量出血でショックとなり急性腎障害を合併すれば上昇しうるが、タール便に特徴的な所見ではない。

BUNが上昇する病態の整理

BUNは「尿素の産生量」と「腎からの排泄量」のバランスで決まる。基準値はおおよそ8〜20 mg/dLである。 ・腎性:腎不全、糸球体腎炎など(クレアチニンも上昇) ・腎前性:脱水、心不全、ショックなど腎血流の低下(尿素の尿細管再吸収が増え、BUN/Cr比が上昇) ・産生増加:上部消化管出血、高蛋白食、異化亢進(発熱、重症感染症、熱傷、甲状腺機能亢進症、飢餓、副腎皮質ステロイド投与など)、テトラサイクリン系抗菌薬 ・腎後性:尿路閉塞 逆にBUNが低下するのは、重症肝不全(尿素合成の低下)、低蛋白食、妊娠(GFR増加と蛋白同化)、尿崩症や多尿などである。

BUN/クレアチニン比

通常は約10前後である。20以上に上昇していれば、腎前性の要因(脱水・心不全)や上部消化管出血、異化亢進などの腎外性因子を考える。10未満では肝不全、低蛋白食などを考える。

上部消化管出血の主な原因

消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)が最多で、ほかに食道・胃静脈瘤破裂、Mallory-Weiss症候群、急性胃粘膜病変(AGML)、胃癌などがある。緊急上部消化管内視鏡検査が診断と止血の両面で中心となる。

関連する生化学検査

AST・ALT(肝細胞障害)、γ-GT(胆汁うっ滞・アルコール)、ビリルビン(黄疸)なども、どの臓器のどの病態を反映する項目かをあわせて整理しておくとよい。

POINT

・タール便は上部消化管出血を示唆する。 ・消化管内の血液蛋白が吸収・代謝されて尿素産生が増え、さらに循環血液量減少で腎前性要素も加わるため、BUNが上昇する。 ・クレアチニンは蛋白負荷の影響を受けにくく、BUN/クレアチニン比が上昇する(20以上)のが上部消化管出血の特徴である。 ・BUN高値でクレアチニン正常なら、腎機能障害以外に消化管出血・脱水・異化亢進・高蛋白食を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。