「先生にお任せします」の落とし穴―医学的に正しいだけでは足りない、パターナリズムの本質
第109回医師国家試験 C問題 第1問
国試問題にチャレンジ
治療方針の検討段階における医師のパターナリズムに該当するのはどれか。
- a.患者の治療に対する価値観や感情を尊重する。
- b.患者の家庭・社会生活に関する背景を尊重する。
- c.患者の状態に対する医学的な適切性を優先する。
- d.治療が患者に与える影響を患者とともに検討する。
- e.治療に対する患者の希望や解釈モデルを尊重する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクターまとめ
パターナリズム(父権主義)とは、医師が患者の利益になると考えて、患者本人の意思や価値観を十分に確かめないまま治療方針を決める態度をいい、医学的な適切性を患者の意向より優先する疾患中心の考え方がその典型です。これに対し、患者の価値観や感情の尊重(自律尊重)、家庭・社会生活背景の考慮(生物・心理・社会モデル)、治療の影響を患者とともに検討すること(共同意思決定)、希望や解釈モデルの尊重は、いずれも患者中心の医療の要素です。医療倫理の四原則でみると、パターナリズムは善行を重んじるあまり自律尊重を損なう危険をはらみますが、判断能力のない救急患者などではある程度やむをえない場面もあります。医師-患者関係にはパターナリズム、情報提供、共同意思決定のモデルがあり、現在は医学的根拠と患者の価値観を持ち寄って一緒に決める共同意思決定が推奨されています。医学的に正しい判断を患者一人ひとりの人生にどう生かすかという視点は、医療面接から治療方針の説明まで、あらゆる臨床場面の土台となります。
解答・解説
正解はcです
パターナリズム(paternalism:父権主義、温情的干渉主義)とは、専門知識をもつ医師が「患者のためになる」と考えて、患者本人の意思や価値観を十分に確かめないまま治療方針を決めてしまう態度をいう。父親が子どものためを思って物事を決めるような関係になぞらえた言葉である。 本問では、治療方針を検討する場面で、パターナリズムらしい姿勢を示す選択肢を選ぶ。判断のポイントは、方針を決める基準が「医師側の医学的判断」だけなのか、それとも「患者側の価値観・生活背景・希望」を取り入れているのか、である。 5つの選択肢のうち4つは、患者の価値観・感情、生活背景、希望・解釈モデルを尊重したり、患者と一緒に考えたりする内容であり、患者中心の医療(patient-centered medicine)や共同意思決定(shared decision making:SDM)の考え方に当たる。一方、医学的な適切性を最優先する姿勢は、患者の意向よりも医師の専門的判断を上位に置くものであり、パターナリズムの典型である。
選択肢考察
- ×a. 患者の治療に対する価値観や感情を尊重する。
治療に対する患者自身の価値観や感情を尊重することは、医療倫理の四原則のうち「自律尊重(respect for autonomy)」に当たる。患者を自ら判断する主体として扱う姿勢であり、医師が一方的に決めるパターナリズムとは反対の立場である。
- ×b. 患者の家庭・社会生活に関する背景を尊重する。
病気は生物学的要因だけでなく、心理的・社会的要因も絡み合って生じ、経過にも影響するという「生物・心理・社会モデル(bio-psycho-social model)」に基づく姿勢である。家族構成、仕事、経済状況などを考慮すれば、同じ病気でも患者ごとに最適な方針は変わりうる。疾患だけを見るパターナリズムには当たらない。
- ○c. 患者の状態に対する医学的な適切性を優先する。
医学的に最も適切な治療を優先して決めるという考え方は、「同じ病気なら誰にとっても最善の治療は同じ」という疾患中心(disease-centered)の見方に基づく。患者の価値観や生活背景、希望が方針に反映されにくく、専門家である医師の判断が患者の意向より上に置かれる。これはパターナリズムの特徴そのものである。医学的な適切性の検討は医療に欠かせないが、それを「優先」して患者の意向を後回しにすることが、パターナリズムに該当する。
- ×d. 治療が患者に与える影響を患者とともに検討する。
治療が生活や心理面に与える影響を患者と一緒に考えるのは、共同意思決定(SDM)の姿勢である。医師は医学的な情報と選択肢を示し、患者は自分の価値観や生活の事情を伝え、両者で合意を作っていく。医師が一方的に方針を決めるパターナリズムとは異なる。
- ×e. 治療に対する患者の希望や解釈モデルを尊重する。
解釈モデル(explanatory model)とは、患者が自分の病気の原因・意味・経過・望む治療について抱いている考えのことである。これを聞き取り尊重することは患者中心の医療の基本であり、患者自身の価値判断を大切にする態度である。パターナリズムには当たらない。
医師-患者関係のモデル
・パターナリズム(父権主義)モデル:医師が患者の利益を考えて最善と判断した方針を決め、患者はそれに従う。救急など時間的余裕がなく患者に判断能力がない場面では、ある程度やむをえないこともある。 ・情報提供モデル(informative model):医師は情報を示すだけで、決定は患者に任せる。患者が情報の多さに戸惑い、支援が不足しやすい。 ・共同意思決定(SDM):医師は医学的根拠と選択肢を、患者は価値観や希望を持ち寄り、話し合って一緒に方針を決める。現在推奨される考え方である。
医療倫理の四原則(Beauchamp & Childress)
自律尊重、善行(患者の利益を図る)、無危害(害を与えない)、正義(公平な資源配分)。パターナリズムは「善行」を重んじるあまり「自律尊重」を損なう危険をはらむ。
患者中心の医療
疾患(disease:生物医学的な異常)だけでなく、病い(illness:患者が体験している苦しみや意味づけ)にも目を向ける。そのために、患者の解釈モデル、感情、生活への影響、期待を聞き取る。インフォームド・コンセント(十分な説明を受けたうえでの同意)もこの流れの中に位置づけられる。
パターナリズムの問題点
患者を「治療の対象」とみなし、「意思をもつ一人の人間」とみる視点が欠けやすい。その結果、心理・社会的背景を考えないまま、生物医学的な価値判断を患者に押しつけることになりやすい。
POINT
・パターナリズム=医師が患者の利益のためと考え、患者の意思と関係なく方針を決める態度。 ・「医学的な適切性を優先する」疾患中心の考え方はパターナリズムの特徴。 ・価値観・感情の尊重(自律尊重)、生活背景の考慮(生物・心理・社会モデル)、患者とともに検討(SDM)、解釈モデルの尊重は、いずれも患者中心の医療の要素である。
