二つに分かれた子宮腔―子宮卵管造影が映し出すMüller管の物語
第109回医師国家試験 B問題 第47問
国試問題にチャレンジ
35歳の女性。未経妊。挙児を希望して来院した。月経周期は28日型,整。基礎体温は二相性。既往歴に特記すべきことはない。経腟超音波検査で子宮に異常を認める。子宮卵管造影像を別に示す。 最も考えられる疾患はどれか。

- a.子宮奇形
- b.子宮筋腫
- c.子宮腺筋症
- d.子宮内膜炎
- e.子宮内膜ポリープ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
排卵が保たれ(基礎体温二相性)、卵管の疎通性も良好な不妊女性で、子宮卵管造影上、子宮腔が左右二つの角に分かれていれば、Müller管の癒合障害や隔壁吸収障害による子宮奇形(双角子宮または中隔子宮)を考えます。両者は造影像だけでは区別が難しく、MRIや3D超音波で子宮底部外表面の陥凹の有無を評価して鑑別します。粘膜下筋腫や内膜ポリープは腔内の円形の造影欠損、子宮腺筋症は子宮腔のびまん性拡大として描出される点が鑑別の手がかりです。子宮奇形は流産・早産の原因として重要で、中隔子宮では子宮鏡下中隔切除術が選択肢となり、腎・尿路奇形の合併にも注意が必要です。造影像を「欠損か、拡大か、形の異常か」で読み分ける視点は、不妊診療の基本的な考え方として役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・35歳、未経妊で挙児希望 → 不妊症の精査として来院している(一般に、避妊せず性交渉をもって1年妊娠しない状態を不妊症という)。 ・月経周期28日型で整、基礎体温が二相性 → 排卵があり、黄体機能もおおむね保たれていると推定される。つまり排卵障害(内分泌的な原因)は考えにくい。 ・既往歴に特記事項なし → 骨盤内感染症や子宮内操作(人工妊娠中絶など)の既往がなく、卵管因子や子宮腔癒着(Asherman症候群)を疑う背景に乏しい。 ・経腟超音波で子宮に異常 → 子宮そのものの形態異常が疑われる。
子宮卵管造影(HSG)の読影
子宮卵管造影は、子宮頸管から造影剤を注入し、子宮腔の形と卵管の通り具合(疎通性)をX線で観察する検査である。本例では、子宮頸部から上方に向かう子宮腔が途中から左右二つに分かれ、V字(Y字)状に開いた二つの角のような内腔として描出されている(矢印)。正常の子宮腔は底部が平坦かわずかに凸の逆三角形であり、これとは明らかに異なる。両側の卵管は細い線状に造影され、先端から造影剤が腹腔内へ流れ出して拡散している(腹腔内への造影剤の拡散像)ことから、両側卵管の疎通性は保たれている。子宮腔内に丸く抜ける造影欠損(充盈欠損)はない。
診断
子宮腔が左右に二分された形態は、胎生期に左右のMüller管(中腎傍管)が癒合する過程、あるいは癒合後に中央の隔壁が吸収される過程の異常によって生じる子宮奇形の像である。候補は双角子宮または中隔子宮であり、本例のように二つの角の開きが大きい像は双角子宮を思わせる。ただし、両者は子宮腔の形だけでは確実に区別できない。区別には子宮の外側の輪郭(子宮底部の外表面に深い陥凹があるか)を、MRI、3D経腟超音波、腹腔鏡などで評価する必要がある。いずれにせよ、選択肢の中で最も考えられるのは子宮奇形である。
選択肢考察
- ○a. 子宮奇形
子宮卵管造影で子宮腔が左右二つの角に分かれた像を示しており、Müller管の癒合障害または中隔吸収障害による子宮奇形(双角子宮または中隔子宮)と考えられる。排卵は保たれ(基礎体温二相性)、卵管の疎通性も良好で、腫瘤による造影欠損もないことから、子宮の形態異常が最も考えやすい。子宮奇形は不妊よりもむしろ習慣流産・早産・胎位異常の原因として重要で、特に中隔子宮は流産率が高く、子宮鏡下中隔切除術で改善が期待できる。双角子宮と中隔子宮の鑑別は、MRIや3D超音波で子宮底部の外表面の陥凹の有無を確認して行う。
- ×b. 子宮筋腫
子宮筋腫は子宮の平滑筋から生じる良性腫瘍で、生殖年齢女性の約20~30%にみられるとされる。子宮卵管造影では、粘膜下筋腫が子宮腔内に突出して、辺縁の滑らかな円形の造影欠損として描出されたり、筋層内筋腫により子宮腔が圧排されて変形・伸展したりする。本例の像は円形の欠損ではなく、子宮腔そのものが左右に分かれた形態であり、筋腫では説明しにくい。また過多月経・月経痛などの症状の記載もない。
- ×c. 子宮腺筋症
子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が子宮筋層内に入り込んで増殖する疾患で、子宮がびまん性に腫大・硬化し、強い月経痛(しばしば進行性)や過多月経を伴う。子宮卵管造影では子宮腔が全体的に拡大することがあり、ときに造影剤が筋層内へしみ込む像がみられるが、子宮腔が二分される形態にはならない。本例では月経痛などの症状もなく、該当しない。
- ×d. 子宮内膜炎
子宮内膜炎は、分娩・流産後や子宮内操作後、性感染症(クラミジア、淋菌など)に伴って生じる子宮内膜の感染・炎症で、急性期には発熱、下腹部痛、帯下の増加などを示す。子宮腔の形そのものを変える疾患ではなく、子宮腔が左右に分かれた本例の造影像とは関係がない。なお、急性の骨盤内感染症が疑われる時期の子宮卵管造影は感染を広げるおそれがあり禁忌である。
- ×e. 子宮内膜ポリープ
子宮内膜ポリープは、子宮内膜が局所的に増殖して子宮腔内へ突出した良性病変で、不正出血や過多月経の原因となり、着床を妨げて不妊の一因にもなる。子宮卵管造影では、子宮腔内の比較的小さな類円形の造影欠損として描出され、診断・治療には子宮鏡が有用である。本例では子宮腔内の造影欠損はなく、子宮腔全体の形態異常であるため該当しない。
子宮の発生と子宮奇形
子宮・卵管・腟上部は左右一対のMüller管から発生する。左右のMüller管が正中で癒合し、その後、癒合部の中央に残った隔壁が吸収されて単一の子宮腔が完成する。この過程のどの段階で障害が起こるかにより、次のような奇形が生じる。 ・発生そのものの障害:子宮欠損(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群など)、単角子宮 ・癒合の障害:重複子宮(子宮体部も頸部も完全に二つ)、双角子宮(子宮底部の外表面に深い陥凹があり、体部が左右に分かれる) ・隔壁吸収の障害:中隔子宮(外形は正常で、内部を隔壁が仕切る)、弓状子宮(子宮底部の内腔がわずかにへこむ軽度の形態) Müller管の異常は、同じ中胚葉由来の中腎管の発生異常を伴いやすく、片側腎無形成など腎・尿路奇形の合併に注意する。一方、卵巣はMüller管とは別に発生するため、卵巣機能は通常正常であり、本例のように月経周期や排卵は保たれる。
双角子宮と中隔子宮の鑑別
・子宮卵管造影ではどちらも子宮腔が二分された像となり、区別は困難である(左右の角の開きが大きいほど双角子宮を、小さいほど中隔子宮を示唆するが、決め手にはならない)。 ・MRIや3D経腟超音波で子宮底部の外側の輪郭を評価し、外表面に深い陥凹があれば双角子宮、外形が平坦ないし軽度の凹みにとどまれば中隔子宮と判断する。腹腔鏡と子宮鏡の併用でも確認できる。 ・臨床的意義:中隔子宮は隔壁部の血流が乏しく着床に不利で、流産率が高い。子宮鏡下中隔切除術により妊娠成績の改善が期待できる。双角子宮は流産・早産・胎位異常の原因となり、反復流産例では子宮形成術(Strassmann手術)が検討される。
子宮卵管造影でわかること
・子宮腔の形態:奇形、粘膜下筋腫・内膜ポリープによる造影欠損、子宮腔癒着による不整な欠損 ・卵管の疎通性:閉塞部位、卵管留水腫(卵管の膨らみと腹腔内拡散の欠如) ・腹腔内の造影剤の拡散パターン:拡散が偏る場合は卵管周囲癒着を疑う ・検査後に一時的に妊娠しやすくなる(卵管の通過性改善)効果も知られる ・禁忌:妊娠の可能性、急性骨盤内感染症、ヨードアレルギーなど
不妊症の主な原因の整理
・排卵因子:基礎体温一相性、多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症など ・卵管因子:クラミジア感染後の卵管閉塞・癒着、子宮内膜症 ・子宮因子:子宮奇形、粘膜下筋腫、内膜ポリープ、子宮腔癒着 ・頸管因子、男性因子、原因不明
POINT
・子宮卵管造影で子宮腔が左右二つに分かれている → 子宮奇形(双角子宮または中隔子宮) ・双角子宮と中隔子宮は子宮卵管造影だけでは区別困難で、MRIや3D超音波で子宮底部外表面の陥凹の有無をみる ・子宮奇形はMüller管の癒合・隔壁吸収の障害で生じ、卵巣機能は正常(基礎体温二相性)で、腎奇形を合併しやすい ・粘膜下筋腫・内膜ポリープは円形の造影欠損、子宮腺筋症は子宮腔のびまん性拡大として描出される
