こすった跡に同じ皮疹が出る―尋常性乾癬とKöbner現象、人名のついた徴候を整理する
第109回医師国家試験 B問題 第45問
国試問題にチャレンジ
34歳の男性。全身の皮疹を主訴に来院した。数年前から白色の鱗屑を伴う紅斑が体幹と四肢とに多数みられ痒みを伴っていた。1か月前から皮疹が増加したため受診した。背部の写真を別に示す。 この患者でみられるのはどれか。

- a.Darier徴候
- b.Köbner現象
- c.Leser-Trélat徴候
- d.Nikolsky現象
- e.Tinel徴候
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
境界明瞭で銀白色の厚い鱗屑を伴う紅斑が体幹・四肢に慢性に多発していれば尋常性乾癬を考え、痒みを伴うことも珍しくありません。乾癬では、摩擦や掻破などの刺激を受けた正常皮膚に同じ皮疹が生じるKöbner現象(同形反応)がみられ、伸側や衣服の擦れる部位に皮疹が多いことの説明にもなります。機械的刺激で誘発される所見は、膨疹ならDarier徴候(肥満細胞症)、表皮剥離・水疱ならNikolsky現象(天疱瘡、SSSS、TENなど)と、生じるものの違いで整理すると混同を防げます。Leser-Trélat徴候は内臓悪性腫瘍を示すデルマドローム、Tinel徴候は末梢神経障害の所見です。蝋片現象・Auspitz現象・Munro微小膿瘍とあわせて押さえておくと、乾癬の診断と患者指導の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
34歳男性。数年来、体幹と四肢に白色の鱗屑(皮膚表面から剥がれ落ちる角質片)を伴う紅斑が多発し、痒みもある。最近1か月で皮疹が増えている。背部の写真では、厚い銀白色の鱗屑をのせた、周囲の皮膚との境界がはっきりした紅斑(局面)が多数みられる。
診断へのプロセス
・境界明瞭で、やや盛り上がった紅斑の上に銀白色の厚い鱗屑がのる → 乾癬に典型的な皮疹 ・慢性の経過で、体幹・四肢(特に伸側)に多発 → 尋常性乾癬の好発部位と一致 ・膿疱がなく、発熱など全身症状の記載もない → 膿疱性乾癬や乾癬性紅皮症ではない 鑑別として、湿疹・皮膚炎(境界がやや不明瞭で鱗屑は薄い)、体部白癬(環状で中心治癒傾向があり、KOH直接鏡検で菌糸を認める)、ジベルばら色粃糠疹(襟飾り状の薄い鱗屑で、数週~数か月で自然に治まる)などが挙がるが、数年来の経過と厚い銀白色鱗屑を伴う境界明瞭な局面から、尋常性乾癬と診断できる。なお乾癬は痒みを伴わないと思われがちだが、実際には半数以上の患者が痒みを訴える。
設問の考え方
選択肢はいずれも皮膚科・神経領域の「人名のついた徴候・現象」である。それぞれがどのような手技で誘発され、どの疾患で陽性となるかを整理しておけば、尋常性乾癬にみられるものを選べる。乾癬では、健常にみえる皮膚をこすったり傷つけたりした部位に新たな乾癬の皮疹が生じる。この現象が問われている。
選択肢考察
- ×a. Darier徴候
Darier徴候は、肥満細胞症(皮膚型では色素性蕁麻疹と呼ばれる)の褐色の色素斑を指などでこすると、その部位が赤くなって膨疹(蕁麻疹様の盛り上がり)を生じる現象である。皮膚に異常に集まった肥満細胞が機械的刺激で脱顆粒し、ヒスタミンなどを放出するために起こる。乾癬ではみられない。
- ○b. Köbner現象
Köbner現象(同形反応)は、一見正常な皮膚に摩擦・引っかき・外傷・手術創・日焼けなどの刺激が加わると、その部位に、患者がもともと持っている病変と同じ皮疹が生じる現象である。尋常性乾癬で代表的にみられ、衣服やベルトでこすれる部位、肘・膝など外力を受けやすい伸側に皮疹が多いことの説明にもなる。本例は痒みがあり、掻破がきっかけとなって皮疹が増えた可能性もある。乾癬のほか、扁平苔癬、尋常性白斑、自家感作性皮膚炎、青年性扁平疣贅(ウイルスが引っかき傷に沿って広がる)などでも認められる。
- ×c. Leser-Trélat徴候
Leser-Trélat徴候は、脂漏性角化症(いわゆる老人性いぼ)が短期間に急速に多発・増大する現象で、しばしば痒みを伴う。胃癌などの消化器癌をはじめとする内臓悪性腫瘍の合併が多く、内臓疾患を示唆する皮膚症状(デルマドローム)の一つとされる。乾癬の皮疹とは関係がない。
- ×d. Nikolsky現象
Nikolsky現象は、一見正常な皮膚を指で強くこすると、表皮がずれて剥がれたり、水疱が生じたりする現象である。表皮細胞どうしの接着が弱まっている病態を反映し、尋常性天疱瘡、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、中毒性表皮壊死症(TEN)などで陽性となる。水疱性疾患の所見であり、鱗屑を伴う紅斑を呈する乾癬ではみられない。
- ×e. Tinel徴候
Tinel徴候は、末梢神経の障害部位(あるいは再生しつつある神経の先端部)を指やハンマーで軽く叩くと、その神経の支配領域にビリッとしたしびれや放散痛が走る現象である。手根管症候群で手関節掌側の正中神経を叩くと母指~環指橈側に放散するのが代表例で、肘部管症候群や神経損傷後の再生の評価にも用いられる。皮膚疾患の徴候ではない。
尋常性乾癬の概要
・表皮の角化細胞が過剰に増殖し、ターンオーバー(通常約4週)が数日程度にまで短縮する慢性炎症性角化症である。IL-23/Th17系を中心とする免疫異常が発症に深く関わる。 ・好発部位は頭部、肘・膝の伸側、腰臀部など外力を受けやすい部位。爪の点状陥凹や爪甲剥離、関節炎(乾癬性関節炎)を合併することがある。 ・悪化因子として、物理的刺激(Köbner現象)、感染症(特に溶連菌感染は滴状乾癬の誘因)、肥満・メタボリックシンドローム、喫煙・飲酒、薬剤(β遮断薬、リチウム、インターフェロンなど)が知られる。
乾癬に特徴的な現象・所見
・蝋片現象:鱗屑をこすると、ろうそくを削ったように白い鱗屑が剥がれる。 ・Auspitz現象:鱗屑を剥がし続けると点状の出血がみられる(真皮乳頭の毛細血管が表皮直下まで伸びているため)。 ・Köbner現象:刺激部位に同じ皮疹が出現する。 ・病理組織:表皮の不全角化(角層に核が残る)、表皮突起の規則的な延長、角層内の好中球の集まり(Munro微小膿瘍)。
治療の概略
・外用:副腎皮質ステロイド、活性型ビタミンD3(およびその配合剤)。 ・光線療法:ナローバンドUVB、PUVA。 ・内服:エトレチナート(レチノイド、催奇形性に注意)、シクロスポリン、メトトレキサート、アプレミラスト(PDE4阻害薬)など。 ・生物学的製剤:TNF-α阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬など。重症例や関節症状を伴う例に用いる。
機械的刺激で誘発される徴候の整理
・同じ皮疹が出る → Köbner現象(乾癬、扁平苔癬、尋常性白斑など) ・膨疹が出る → Darier徴候(肥満細胞症) ・表皮が剥がれる・水疱ができる → Nikolsky現象(天疱瘡、SSSS、TENなど) ・線状に膨疹が出る → 皮膚描記症(蕁麻疹) ・針を刺した部位に無菌性の膿疱が出る → 針反応(Behçet病)
POINT
・厚い銀白色の鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑が体幹・四肢伸側に多発 → 尋常性乾癬 ・乾癬で問われやすい所見:Köbner現象、蝋片現象、Auspitz現象、Munro微小膿瘍、爪の点状陥凹 ・Darier徴候=肥満細胞症、Nikolsky現象=天疱瘡・SSSS・TEN、Leser-Trélat徴候=内臓悪性腫瘍、Tinel徴候=末梢神経障害(手根管症候群など)
