心臓は元気なのに血が回らない―閉塞性ショック3大原因を見抜く
第109回医師国家試験 B問題 第38問
国試問題にチャレンジ
閉塞性ショックをきたすのはどれか。3つ選べ。
- a.肺塞栓症
- b.消化管出血
- c.緊張性気胸
- d.心タンポナーデ
- e.アナフィラキシー
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ショックは、循環血液量減少性、心原性、心外閉塞・拘束性(閉塞性)、血液分布異常性の4つに分類されます。閉塞性ショックは心臓自体は正常でも、心臓の外で血流がせき止められたり心臓の拡張が妨げられたりして心拍出量が低下するもので、代表は肺塞栓症、緊張性気胸、心タンポナーデです。消化管出血は循環血液量減少性ショック、アナフィラキシーは血管拡張と血管透過性亢進による血液分布異常性ショックに分類されます。閉塞性ショックは頸静脈怒張を伴いやすく、輸液や昇圧薬だけでは改善しにくいため、血栓への治療、胸腔穿刺による脱気、心嚢穿刺といった原因の解除が救命の鍵です。頸静脈や皮膚温などの身体所見から病態を推定する力は、救急診療の現場で即座に役立つ基本技能といえます。
解答・解説
正解はa, c, dです
ショックの病態別分類のうち、閉塞性ショック(心外閉塞・拘束性ショック)の原因疾患を選ぶ問題である。
ショックとは
ショックは、全身の組織への血流(酸素供給)が不足し、臓器の機能障害が起こる状態である。血圧は「心拍出量×末梢血管抵抗」で決まり、心拍出量は「前負荷(心臓に戻る血液量)」「心臓のポンプ機能」「後負荷」に左右される。どこが障害されたかによって、ショックは次の4つに分けられる。 ・循環血液量減少性ショック:出血や脱水で、循環する血液そのものが減る。 ・心原性ショック:心筋や弁、調律の異常で心臓のポンプ機能が落ちる。 ・心外閉塞・拘束性ショック(閉塞性ショック):心臓自体は正常でも、心臓の外にある原因で血液の流れがせき止められたり、心臓の拡張が妨げられたりして心拍出量が落ちる。 ・血液分布異常性ショック:血管が過度に拡張したり血管透過性が高まったりして、血液が末梢にたまり有効な循環血液量が減る。
閉塞性ショックの考え方
閉塞性ショックでは、心臓の外で「血液の通り道が塞がる」か「心臓が外から押さえつけられて広がれない」ことにより、左心室に戻ってくる血液(前負荷)が大きく減る。代表的な原因は肺塞栓症(肺動脈の閉塞)、緊張性気胸(胸腔内圧の上昇による静脈還流の障害)、心タンポナーデ(心嚢内の液体貯留による拡張障害)の3つである。いずれも頸静脈怒張(静脈圧の上昇)を伴いやすく、原因を取り除く処置(血栓溶解・カテーテル治療、胸腔穿刺・ドレナージ、心嚢穿刺)を行わなければ、輸液や昇圧薬だけでは改善しにくいのが特徴である。
選択肢考察
- ○a. 肺塞栓症
正しい。多くは下肢などの深部静脈血栓が遊離して肺動脈に詰まる。主幹部に近い太い肺動脈が閉塞すると、右心室から肺を通って左心房へ戻る血流が途絶え、左心室への流入血液が激減して心拍出量が落ちる。同時に肺動脈圧が急上昇して右心室が拡大し、心室中隔が左室側へ押されて左室の拡張がさらに妨げられる。臨床的には、頸静脈怒張、低酸素血症、心エコーでの右室拡大などがみられる。
- ×b. 消化管出血
誤り。大量の消化管出血では循環血液量そのものが失われるため、循環血液量減少性ショックとなる。外傷による出血、胸腔内・腹腔内出血、高度の脱水なども同じ分類に入る。静脈圧は低下するため頸静脈は虚脱し、輸液・輸血による補充と止血が治療の中心となる。
- ○c. 緊張性気胸
正しい。胸膜の損傷部が一方向弁のようにはたらき、吸気のたびに空気が胸腔にたまって胸腔内圧が著しく上昇する。上・下大静脈や心臓が圧迫され、縦隔も反対側へ偏位するため、右心への静脈還流が妨げられて心拍出量が低下する。患側の呼吸音減弱、打診での鼓音、頸静脈怒張、気管の健側への偏位などがみられる。臨床所見で診断し、画像を待たずに胸腔穿刺による脱気を行い、続いて胸腔ドレナージを行う。
- ○d. 心タンポナーデ
正しい。心嚢(心膜腔)に血液や滲出液が急速にたまると心膜腔内圧が上がり、心臓が外から圧迫されて拡張できなくなる。心室に十分な血液が入らないため心拍出量が低下する。低血圧・頸静脈怒張・心音減弱のBeckの三徴や、吸気時に収縮期血圧が10 mmHg以上低下する奇脈が特徴で、心エコーで心嚢液貯留と右室の拡張期虚脱を確認する。治療は心嚢穿刺(ドレナージ)である。
- ×e. アナフィラキシー
誤り。アナフィラキシーはIgEを介するⅠ型アレルギーなどにより、肥満細胞・好塩基球からヒスタミンなどの化学伝達物質が一気に放出されて起こる。全身の血管拡張と血管透過性の亢進により血液が末梢に偏り、血漿が血管外へ漏れ出るため、血液分布異常性ショックに分類される。治療はアドレナリンの筋肉内注射(成人0.3〜0.5 mgを大腿前外側に)と大量輸液が基本である。
ショックの4分類と代表的な原因
・循環血液量減少性:出血(外傷、消化管出血、胸腔・腹腔内出血、大動脈瘤破裂)、脱水、広範囲熱傷 ・心原性:急性心筋梗塞、劇症型心筋炎、重症不整脈、急性の弁膜症(乳頭筋断裂など) ・心外閉塞・拘束性:肺塞栓症、緊張性気胸、心タンポナーデ(ほかに収縮性心膜炎など) ・血液分布異常性:敗血症、アナフィラキシー、神経原性ショック(脊髄損傷など) 覚え方として、各分類の頭文字を並べた「HOCK」(Hypovolemic、Obstructive、Cardiogenic、血液分布異常性)が使われる。
身体所見による見分け方の目安
・頸静脈:怒張していれば心原性か閉塞性、虚脱していれば循環血液量減少性か血液分布異常性を考える。 ・皮膚:循環血液量減少性・心原性・閉塞性では末梢血管が収縮して冷たく湿った皮膚(cold shock)となりやすい。敗血症の初期やアナフィラキシーでは末梢が温かいこと(warm shock)がある。 ・神経原性ショックでは交感神経が遮断されるため、ショックなのに徐脈となるのが特徴である。
補足
閉塞性ショックや血液分布異常性ショックも、長引くと心筋の虚血などから心収縮力が落ち、心原性の要素が加わることがある。しかし初期の主病態は心臓の外にあるため、原因の除去が最優先となる。
POINT
・閉塞性ショックの3大原因:肺塞栓症、緊張性気胸、心タンポナーデ。 ・閉塞性ショックは頸静脈怒張を伴いやすく、原因の解除(血栓への治療、胸腔穿刺、心嚢穿刺)が治療の要である。 ・消化管出血は循環血液量減少性ショック。 ・アナフィラキシーは血液分布異常性ショック(治療はアドレナリン筋注)。
