StudyMed医師国家試験

その事業、根拠法はどれ?―健康増進法が定める「健診の指針」と「国民健康・栄養調査」

第109回医師国家試験 B問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第30問

健康増進法に規定されているのはどれか。2つ選べ。

  1. a.健康診査の実施
  2. b.母子健康手帳の交付
  3. c.市町村保健センターの設置
  4. d.国民健康・栄養調査の実施
  5. e.認知症の予防に関する調査研究

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、公衆衛生の事業がどの法律に基づいているかを問う問題だ。保健医療の制度はいくつもの法律に分かれていて、似たような事業でも根拠法が違うことがある。だから「分野ごとに法律を思い浮かべる」のがコツなんだ。まず健康増進法がどんな法律か、知っているかな。
医学生医学生
健康日本21の根拠になっている法律ですよね。あと、受動喫煙の防止もこの法律だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。健康増進法は平成14年に制定、翌15年に施行された法律で、それまでの栄養改善法を引き継いで発展させたものだ。国の基本方針、都道府県や市町村の健康増進計画、国民健康・栄養調査、食事摂取基準、受動喫煙防止、特定給食施設、特別用途表示などを定めている。
医学生医学生
栄養改善法が前身ということは、国民健康・栄養調査はこの法律に入っていそうですね。
ドクタードクター
その通り、それが正解の1つだ。国民健康・栄養調査は厚生労働大臣が毎年実施する調査で、もともとは栄養改善法に基づく国民栄養調査だった。無作為に抽出した地区の世帯員を対象に、身長・体重・腹囲・血圧・血液検査などの身体状況、栄養素等の摂取量、生活習慣の3つを調べる。
医学生医学生
健康診査の実施も健康増進法でいいんでしょうか。健診って、特定健診や学校健診など、法律がバラバラなイメージがあります。
ドクタードクター
いい疑問だね。実はそのバラバラさこそがポイントなんだ。健康増進法では、厚生労働大臣が「健康診査の実施等に関する指針」を定めることが規定されている。いろいろな実施者が別々の法律で行っている健診を、共通の考え方で行い、結果を生涯にわたって活用できるようにするための全体の基準なんだ。さらに市町村の健康増進事業として、がん検診、歯周疾患検診、骨粗鬆症検診、肝炎ウイルス検診なども行われている。だからこれが2つ目の正解だ。
医学生医学生
じゃあ、特定健診も健康増進法ですか。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだね。40〜74歳が対象の特定健康診査・特定保健指導は、高齢者の医療の確保に関する法律、いわゆる高齢者医療確保法が根拠だ。職場の一般健康診断は労働安全衛生法、学校の健康診断は学校保健安全法に基づく。
医学生医学生
CBTの勉強でごちゃごちゃになったところです。母子健康手帳は母子保健法で合っていますよね。
ドクタードクター
合っている。妊娠した人が市町村長に妊娠の届出をして、市町村が母子健康手帳を交付する、という流れが母子保健法に定められている。1歳6か月児健診や3歳児健診、低出生体重児の届出、未熟児養育医療も同じ法律だ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、妊婦健診のたびに手帳に記録しているのを見ました。市町村保健センターは、名前からして健康増進法っぽい気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも市町村保健センターは地域保健法に規定されていて、「設置することができる」という任意設置なんだ。健康相談や保健指導、健診など住民に身近な対人サービスの拠点だね。一方、より広域的・専門的な業務を担う保健所も地域保健法で、都道府県や指定都市、中核市、特別区などが設置する。
医学生医学生
保健所と保健センターはセットで地域保健法、ですね。認知症の予防に関する調査研究は介護保険法でしょうか。
ドクタードクター
正解。介護保険法には、国や地方公共団体が認知症の知識の普及や、予防・診断・治療・介護方法に関する調査研究の推進に努めることが定められている。さらに令和5年には認知症基本法が成立し、令和6年に施行された。この法律でも認知症の予防や診断・治療に関する研究の推進が基本的施策の一つになっている。
医学生医学生
母子は母子保健法、地域の拠点は地域保健法、介護や認知症は介護保険法、と分野で分ければ消去できますね。
ドクタードクター
その整理で十分戦える。発展として健康日本21も押さえておこう。健康増進法に基づく基本方針として国が定める健康づくり運動で、第2次では健康寿命の延伸と健康格差の縮小が最上位の目標になった。令和6年度からは第3次が始まっている。また平成30年の法改正で、多くの人が利用する施設は原則屋内禁煙となり、病院や学校などは敷地内禁煙になった。
医学生医学生
病院の敷地内に喫煙所がないのは、この法律が根拠だったんですね。
ドクタードクター
そういうこと。臨床では、患者さんに健診やがん検診を勧めるとき、その人がどの制度の対象かを知っていると具体的に案内できる。根拠法の知識は、制度を使いこなすための地図なんだ。

まとめ

健康増進法は栄養改善法を引き継いで平成15年に施行された法律で、健康診査の実施等に関する指針や国民健康・栄養調査、健康日本21の基本方針、受動喫煙防止などを定めています。一方、母子健康手帳の交付は母子保健法、市町村保健センターや保健所は地域保健法、認知症に関する調査研究は介護保険法(および認知症基本法)が根拠です。特定健診は高齢者医療確保法、職場健診は労働安全衛生法、学校健診は学校保健安全法と、健診の根拠法が実施者ごとに異なる点は頻出の落とし穴です。事業を「母子・地域保健・介護」など分野で整理すると根拠法を効率よく見分けられ、患者に適切な制度や検診を案内する実践的な力にもつながります。

解答・解説

正解はa, dです

問われていること

公衆衛生に関する事業や制度が、どの法律に基づいているかを問う問題である。保健医療の制度は複数の法律に分かれて定められており、似た事業でも根拠となる法律が異なることがある。国試では、この法律と事業の対応関係がよく問われる。

健康増進法の概要

健康増進法は平成14年(2002年)に制定され、翌平成15年に施行された。それまでの栄養改善法を引き継いで発展させた法律である。国民の健康づくりを総合的に進めるための基本的な枠組みを定めており、主に次の内容を含む。 ・国の基本方針(これに基づき「健康日本21」が策定される) ・都道府県・市町村の健康増進計画 ・健康診査の実施等に関する指針 ・国民健康・栄養調査 ・食事摂取基準 ・市町村による健康増進事業(保健指導、各種検診など) ・特定給食施設 ・受動喫煙の防止 ・特別用途表示

解き方

各選択肢について、「その事業の根拠となる法律は何か」を考える。母子に関することは母子保健法、保健所・保健センターといった地域保健の体制は地域保健法、認知症や介護に関することは介護保険法など、分野ごとに法律を思い浮かべるとよい。そうすれば、健康増進法に規定されているものを選び出せる。

選択肢考察

  1. ○a.  健康診査の実施

    健康増進法第9条では、厚生労働大臣が「健康診査の実施等に関する指針(健康増進事業実施者に対する健康診査の実施等に関する指針)」を定めることが規定されている。健康診査は、各種の医療保険者や事業者、市町村などが、それぞれ別の法律に基づいて行っている。この指針は、それらの健診が共通の考え方で実施され、結果が生涯を通じて活用されるよう、全体の基準を示すものである。また、同法に基づく市町村の健康増進事業として、歯周疾患検診、骨粗鬆症検診、肝炎ウイルス検診、がん検診などが行われている。したがって、健康増進法に規定されているものである。なお、40〜74歳を対象とした特定健康診査・特定保健指導の根拠は、高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)である。事業者が行う一般健康診断は労働安全衛生法、学校での健康診断は学校保健安全法に基づく。

  2. ×b.  母子健康手帳の交付

    母子健康手帳の交付は、母子保健法第16条に規定されている。妊娠した者は市町村長へ妊娠の届出を行い(同法第15条)、市町村はその届出をした者に母子健康手帳を交付する。手帳には、妊娠・出産の経過、乳幼児の健康診査や予防接種の記録などが記載される。母子保健法には、このほか妊産婦・乳幼児の保健指導、1歳6か月児健康診査と3歳児健康診査、低出生体重児の届出、未熟児養育医療などが定められている。したがって、健康増進法の規定ではない。

  3. ×c.  市町村保健センターの設置

    市町村保健センターは、地域保健法第18条で「市町村は、市町村保健センターを設置することができる」と規定されている。設置は義務ではなく任意である。市町村保健センターは、健康相談、保健指導、健康診査など、住民に身近な対人保健サービスを行う拠点である。一方、保健所は、より広域的・専門的な業務を担う行政機関で、都道府県、指定都市、中核市、その他の政令で定める市、特別区が設置する。保健所の設置も地域保健法に規定されている。したがって、健康増進法の規定ではない。

  4. ○d.  国民健康・栄養調査の実施

    国民健康・栄養調査は、健康増進法第10条に基づき、厚生労働大臣が毎年実施する調査である。国民の身体の状況、栄養素等の摂取量、生活習慣の状況を明らかにし、健康増進の総合的な推進に必要な基礎資料を得ることを目的としている。調査は、無作為に抽出された地区の世帯員を対象とし、身体状況調査票(身長、体重、腹囲、血圧、血液検査など)、栄養摂取状況調査票、生活習慣調査票の3つで構成される。この調査は、もとは栄養改善法に基づく「国民栄養調査」として行われていた。健康増進法の施行に伴い、平成15年から現在の名称で実施されている。したがって、健康増進法に規定されているものである。

  5. ×e.  認知症の予防に関する調査研究

    認知症の予防などに関する調査研究の推進は、介護保険法第5条の2(認知症に関する施策の総合的な推進等)に規定されている。同条では、国と地方公共団体が、認知症についての知識の普及や啓発、予防・診断・治療・介護方法に関する調査研究の推進などに努めることが定められている。また、令和5年(2023年)には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立し、翌令和6年に施行された。この法律でも、認知症の予防や診断・治療などに関する研究の推進が、基本的施策の一つとされている。したがって、健康増進法の規定ではない。

主な保健事業と根拠法の対応

・健康増進法:基本方針(健康日本21)、健康増進計画、健康診査の実施等に関する指針、国民健康・栄養調査、食事摂取基準、市町村の健康増進事業(歯周疾患検診、骨粗鬆症検診、肝炎ウイルス検診、がん検診など)、特定給食施設、受動喫煙防止、特別用途表示 ・高齢者医療確保法:特定健康診査、特定保健指導(40〜74歳)、後期高齢者医療制度 ・母子保健法:妊娠の届出、母子健康手帳、乳幼児健康診査、未熟児養育医療 ・地域保健法:保健所、市町村保健センター、地域保健対策の基本指針 ・労働安全衛生法:事業者による一般健康診断、特殊健康診断、ストレスチェック ・学校保健安全法:就学時健康診断、児童生徒等の健康診断 ・介護保険法:要介護認定、介護サービス、地域支援事業、認知症施策 ・がん対策基本法:がん対策推進基本計画

健康日本21

健康日本21は、健康増進法に基づく基本方針として国が定める国民健康づくり運動である。第1次は平成12年度から、第2次は平成25年度から開始され、第2次では健康寿命の延伸と健康格差の縮小が最上位の目標とされた。令和6年度(2024年度)からは第3次が始まっている。第3次では「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」をビジョンに掲げ、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を引き続き目標としている。

受動喫煙対策

平成30年(2018年)の健康増進法改正で、多くの人が利用する施設では原則屋内禁煙とされ、令和2年(2020年)4月に全面施行された。学校、病院、行政機関などは敷地内禁煙(屋外に喫煙場所を設置することは可能)となっている。

POINT

・健康増進法には、健康診査の実施等に関する指針(第9条)と、国民健康・栄養調査(第10条)が規定されている。 ・母子健康手帳は母子保健法に、市町村保健センターは地域保健法に規定されている。 ・認知症に関する調査研究は介護保険法に規定されており、認知症基本法でも推進されている。 ・特定健康診査の根拠法は、健康増進法ではなく高齢者医療確保法である。 ・健康日本21は健康増進法に基づき、令和6年度から第3次が始まっている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。