StudyMed医師国家試験

胎盤を越える唯一の抗体―母の抗SS-A抗体が胎児の心拍を遅くする理由

第109回医師国家試験 B問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第22問

母体の抗SS-A抗体のクラスで新生児の心拍数に異常をきたすのはどれか。

  1. a.IgA
  2. b.IgD
  3. c.IgE
  4. d.IgG
  5. e.IgM

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、母親の自己抗体が胎児・新生児の心臓に影響を与える仕組みを問う問題だ。ポイントはシンプルで、母体の抗体が赤ちゃんに悪さをするには、まず何を越えなければならないか、という点に注目してほしい。
医学生医学生
胎盤ですね。胎盤を通過できる抗体のクラスを選べばいいということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。5種類の免疫グロブリンのうち、胎盤を通過できるのはどれだったかな。
医学生医学生
IgGだけ、と免疫学の講義で習いました。CBTでも何度も見た気がします。
ドクタードクター
正解。IgGは胎盤の合胞体栄養膜細胞にある新生児型Fc受容体、FcRnに結合して、胎児側へ能動的に運ばれる。この輸送は妊娠中期以降に増えて、妊娠後期には胎児血中のIgG濃度が母体と同等かそれ以上になるんだ。
医学生医学生
受動的に漏れ出すのではなく、わざわざ運ばれているんですね。赤ちゃんを感染から守るための仕組みだと思うと納得です。
ドクタードクター
そう、本来は生後しばらくの感染防御のための仕組みだ。ところが、母体が抗SS-A抗体のような自己抗体をIgGとして持っていると、それも一緒に運ばれてしまう。では、胎児の心臓で何が起こると思う?
医学生医学生
心拍数の異常ということは、頻脈でしょうか。
ドクタードクター
逆なんだ。抗SS-A抗体や抗SS-B抗体が胎児心臓の刺激伝導系、特に房室結節に炎症と線維化を起こして、先天性房室ブロック、多くは完全房室ブロックになる。だから現れるのは徐脈だ。妊娠16〜24週頃に胎児徐脈として見つかることが多い。これが新生児ループスの代表的な病態だよ。
医学生医学生
なるほど。では、ほかの抗体クラスが外れる理由も整理させてください。IgAは母乳に多く含まれていましたよね。
ドクタードクター
そう、分泌型IgAは二量体で粘膜免疫を担い、母乳を通じて赤ちゃんの腸管粘膜を守る。でも胎盤は通過しないし、全身循環に入って心臓を障害することはない。
医学生医学生
IgMは五量体で大きいから通らない、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。臨床的に大事なのは、IgMが胎盤を通らないからこそ、臍帯血や新生児の血中でIgMが高ければ、それは胎児自身が作ったもの、つまり子宮内感染を示唆するという点だ。TORCH症候群の評価で使う考え方だね。
医学生医学生
IgDとIgEはどうでしょう。IgEはアレルギーのイメージしかありません。
ドクタードクター
IgEは肥満細胞や好塩基球の受容体に結合して、I型アレルギーや寄生虫に対する防御に関わる。IgDは血中濃度がとても低く、主にナイーブB細胞表面の抗原受容体として働いている。どちらも胎盤は通過しないから、胎児の心拍には影響しないんだ。
医学生医学生
胎盤を通るのはIgGだけ、という1点で答えが決まる問題なんですね。新生児ループスでは、心臓以外にも症状がありましたっけ。
ドクタードクター
あるよ。眼の周りを中心とした顔面の環状紅斑、肝機能障害、血小板減少などだ。母体由来のIgGはおおむね生後6か月前後で消えるから、これらは一過性で自然に軽快する。ところが刺激伝導系の線維化は不可逆で、完全房室ブロックは残ってしまう。高度の徐脈ではペースメーカが必要になるし、胎児水腫を合併すると予後不良だ。
医学生医学生
抗体が消えても、壊れた伝導系は戻らないということですね。産婦人科の実習で、Sjögren症候群合併妊娠の方を担当したことがありますが、胎児心拍をこまめに確認していた理由が分かりました。
ドクタードクター
まさにそれが妊娠管理のポイントだ。母親はSjögren症候群やSLEのことが多いけれど、妊娠時点では無症状で抗体だけ陽性という人も少なくない。抗SS-A抗体陽性妊婦から生まれた児での発症は約1〜2%とされ、前の子が罹患していると再発率は十数%程度に上がる。だから妊娠中期に胎児心拍数や胎児心エコーで房室伝導を監視していくんだ。

まとめ

母体の抗体が胎児に影響するには胎盤を通過する必要があり、それが可能なのはFcRnを介して能動輸送されるIgGだけです。母体のIgG型抗SS-A抗体・抗SS-B抗体は胎児心臓の房室結節周囲に炎症と線維化を起こし、先天性完全房室ブロックによる胎児・新生児の徐脈を生じます(新生児ループス)。皮疹・肝障害・血小板減少は母体由来IgGの消失とともに一過性に改善しますが、房室ブロックは不可逆で、ペースメーカが必要になることもあります。IgA・IgM・IgD・IgEは胎盤を通過せず、とくに新生児のIgM高値は子宮内感染を示唆する所見として臨床で役立ちます。免疫グロブリンの基礎知識が周産期管理に直結する好例であり、抗SS-A抗体陽性妊婦での胎児心拍モニタリングの意義まで理解しておくことが大切です。

解答・解説

正解はdです

問われていること

母体がもつ抗SS-A抗体(抗Ro抗体)が胎児・新生児の心臓に作用し、心拍数の異常(徐脈)を起こすとき、その抗体はどの免疫グロブリンクラスか、という問題である。

考え方

母体の抗体が胎児に影響を与えるためには、まず胎盤を通過して胎児循環に入る必要がある。5種類の免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)のうち、胎盤を通過できるのはIgGのみである。IgGは胎盤の合胞体栄養膜細胞に発現する新生児型Fc受容体(FcRn)に結合し、能動的に胎児側へ輸送される。この輸送は妊娠中期以降に増加し、妊娠後期には胎児血中のIgG濃度が母体と同等かそれ以上になる。 抗SS-A抗体(および抗SS-B抗体)がIgGとして胎児に移行すると、胎児心臓の刺激伝導系(特に房室結節)に炎症と線維化を起こし、先天性完全房室ブロックを生じる。これが胎児・新生児の徐脈として現れる。これは新生児ループス(neonatal lupus erythematosus:NLE)の代表的な病態である。したがって正解はIgGである。

選択肢考察

  1. ×a.  IgA

    IgAは血中では主に単量体、粘膜や外分泌液中では二量体の分泌型IgAとして存在し、粘膜免疫を担う。胎盤は通過しない。母乳中に分泌型IgAが多く含まれ、新生児の消化管粘膜を感染から守るが、全身循環には入らず心臓の刺激伝導系を障害することはない。

  2. ×b.  IgD

    IgDは血中濃度がきわめて低く、主に成熟したナイーブB細胞の表面に抗原受容体として発現している。胎盤は通過せず、母体の抗SS-A抗体による胎児・新生児の病態には関与しない。

  3. ×c.  IgE

    IgEは肥満細胞や好塩基球の高親和性Fcε受容体に結合し、即時型(I型)アレルギーや寄生虫に対する防御に関わる。胎盤は通過しないため、母体由来のIgEが胎児の心拍数に影響することはない。

  4. ○d.  IgG

    IgGは胎盤を通過できる唯一の免疫グロブリンクラスである。胎盤のFcRnを介して胎児側に能動輸送されるため、母体のIgG型抗SS-A抗体・抗SS-B抗体は胎児循環に入り、胎児心臓の房室結節周囲に炎症・線維化を起こして先天性房室ブロック(多くは完全房室ブロック)を生じる。胎児期の徐脈として妊娠16〜24週頃に発見されることが多い。これが新生児の心拍数異常の原因となる。

  5. ×e.  IgM

    IgMは血中では五量体として存在する大きな分子で、胎盤を通過しない。感染初期に最初に産生される抗体である。胎盤を通過しないことから、新生児の臍帯血などでIgMが高値であれば、それは胎児自身が産生したもの、すなわち子宮内感染(先天性感染)を示唆する所見となる。

新生児ループス(NLE)

・母体の抗SS-A抗体(抗Ro抗体)、抗SS-B抗体(抗La抗体)がIgGとして胎盤を通過し、胎児・新生児に症状を起こす受動免疫性の疾患である。 ・母体はSjögren症候群や全身性エリテマトーデス(SLE)の患者であることが多いが、妊娠時点で無症状(抗体のみ陽性)の場合も少なくない。 ・主な症状:  心臓:先天性房室ブロック(多くは完全房室ブロック)、心筋症。抗SS-A抗体陽性妊婦から生まれた児での発生頻度は約1〜2%とされ、前児が罹患している場合は再発率が高くなる(十数%程度)。  皮膚:顔面(特に眼周囲)の環状紅斑。  その他:肝機能障害、血小板減少など。 ・経過:母体由来IgGは生後数か月(おおむね6か月前後)で消失するため、皮膚・肝・血液の症状は一過性で自然軽快する。一方、刺激伝導系の線維化は不可逆で、完全房室ブロックは永続し、重度の徐脈ではペースメーカ植込みが必要となる。胎児水腫を合併すると予後不良である。 ・妊娠管理:抗SS-A抗体陽性妊婦では妊娠中期に胎児心拍数や胎児心エコーで房室伝導を監視する。

免疫グロブリンの特徴の整理

・IgG:血中で最多。胎盤通過性あり。二次免疫応答の主体。 ・IgA:分泌型は二量体。粘膜免疫、母乳中に豊富。 ・IgM:五量体。一次免疫応答で最初に産生。胎盤通過性なし。 ・IgD:B細胞表面の抗原受容体。 ・IgE:I型アレルギー、寄生虫免疫。

POINT

・胎盤を通過する免疫グロブリンはIgGのみ(FcRnを介した能動輸送)。 ・母体の抗SS-A抗体(IgG)は胎児の先天性完全房室ブロックを起こし、胎児・新生児徐脈の原因となる(新生児ループス)。 ・新生児ループスの皮疹・肝障害・血小板減少は一過性だが、完全房室ブロックは不可逆である。 ・新生児のIgM高値は子宮内感染を示唆する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。