StudyMed医師国家試験

眠っている間に忍び寄る危険―多系統萎縮症と自律神経障害による突然死

第109回医師国家試験 B問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第19問

自律神経障害による突然死に最も注意すべきなのはどれか。

  1. a.多系統萎縮症
  2. b.多発性硬化症
  3. c.周期性四肢麻痺
  4. d.Alzheimer型認知症
  5. e.筋萎縮性側索硬化症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、神経疾患のなかで「自律神経の障害そのもの」が突然死につながる病気はどれか、という問題だ。ポイントは、自律神経障害が病気の中核にあるかどうか、そしてそれが命に関わる形で現れるかどうか。まず、自律神経障害と聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
起立性低血圧や排尿障害、発汗異常あたりです。生理学の講義で、交感神経と副交感神経が血圧や心拍を無意識に調節していると習いました。
ドクタードクター
その通り。血圧、心拍、呼吸リズム、排尿、発汗といった「意識しなくても勝手に整えられている機能」を担うのが自律神経だ。これが重く障害されると、夜間に呼吸が止まったり、循環の調節が破綻したりして、突然死につながりうる。選択肢のなかで、自律神経障害が中核症状の一つで、しかも睡眠中の突然死が臨床上の大きな問題になる疾患はどれだと思う?
医学生医学生
自律神経障害が目立つ神経変性疾患というと、Parkinson病が真っ先に浮かびますが、選択肢にはありませんね。似た系統でいうと多系統萎縮症でしょうか。
ドクタードクター
正解だ。多系統萎縮症は、小脳性運動失調、Parkinson症状、自律神経障害をさまざまな組み合わせで示す孤発性の神経変性疾患だよ。病理ではα-シヌクレインがオリゴデンドログリアに蓄積して、グリア細胞質内封入体をつくるのが特徴だ。
医学生医学生
Parkinson病ではα-シヌクレインが神経細胞内のLewy小体として溜まるのに対して、多系統萎縮症ではグリアに溜まる、という違いですね。病理学の講義で対比して覚えました。
ドクタードクター
いい整理だね。では、なぜ多系統萎縮症で突然死が起こるのか。大きく3つの機序がある。1つ目は声帯外転麻痺。声帯を開く後輪状披裂筋が麻痺して、睡眠中に声門が狭くなり、いびきのような高い音の吸気性喘鳴が出る。2つ目は脳幹の呼吸中枢の障害による中枢性睡眠時無呼吸や呼吸リズムの異常。3つ目は循環調節の破綻だ。
医学生医学生
いびきだと思って家族が見過ごしてしまいそうで怖いですね。喘鳴が出たら気管切開をすれば安心なのでしょうか。
ドクタードクター
そこは大事な落とし穴。喘鳴が出てきたら気管切開や非侵襲的陽圧換気を検討するけれど、気管切開で上気道の閉塞は解除できても、中枢性の呼吸障害による突然死は完全には防げないんだ。家族への説明でも、このことはきちんと伝える必要がある。
医学生医学生
なるほど。では多発性硬化症はどうですか。脳幹にも病変ができるので、呼吸に影響しそうな気もしました。
ドクタードクター
多発性硬化症は中枢神経に脱髄病変が時間的・空間的に多発し、再発と寛解を繰り返す自己免疫性疾患だね。視力障害や運動麻痺、感覚障害が主体で、脊髄病変に伴って膀胱直腸障害が出ることはある。ただ、自律神経障害を機序とする突然死が典型的な問題になる疾患ではないよ。
医学生医学生
周期性四肢麻痺は低カリウム血症で不整脈を起こすと聞いたことがあるので、突然死はありそうに思えます。
ドクタードクター
鋭いね。でもそれは電解質異常による不整脈であって、自律神経障害が原因ではない。周期性四肢麻痺は血清カリウムの変動に関連して四肢の弛緩性麻痺が発作的に起こる病気で、わが国では甲状腺機能亢進症に伴うものが代表的だ。感覚障害や自律神経障害は伴わない。設問の「自律神経障害による」という部分をきちんと読むことが大切だね。
医学生医学生
Alzheimer型認知症は、末期には寝たきりになって誤嚥性肺炎で亡くなるイメージです。
ドクタードクター
その理解で合っている。老人斑と神経原線維変化を特徴とする記憶障害中心の疾患で、自律神経障害は病像の中心ではない。逆に、同じ認知症でもLewy小体型認知症では起立性低血圧などの自律神経障害が目立つので、区別しておこう。
医学生医学生
筋萎縮性側索硬化症は、CBTの勉強で「陰性徴候」を覚えました。感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡がみられにくいんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。上位・下位運動ニューロンが選択的に障害される疾患で、膀胱直腸障害、つまり自律神経障害は原則としてみられない。死因の多くは呼吸筋麻痺による呼吸不全や誤嚥性肺炎で、自律神経障害による突然死とは機序が違うんだ。
医学生医学生
同じ「呼吸」が問題になる病気でも、筋力が落ちて呼吸できなくなるのか、自律的な呼吸の調節が壊れるのかで違うということですね。
ドクタードクター
まさにそこが本質だ。最後に多系統萎縮症の周辺知識をまとめておこう。主症状で小脳性運動失調が主体のMSA-Cと、Parkinson症状が主体のMSA-Pに分けられ、わが国ではMSA-Cが多い。かつてはオリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、Shy-Drager症候群と呼び分けていたけれど、いずれも経過中に自律神経障害が出てくるので、今は一括して多系統萎縮症と呼ぶ。孤発性の脊髄小脳変性症の大部分を占める病気でもあるよ。
医学生医学生
MRIでは橋の十字サイン、hot cross bun signが有名ですよね。神経内科の実習で実際の画像を見せてもらいました。
ドクタードクター
そう。ほかに小脳や中小脳脚の萎縮、T2強調像での被殻外側の線状高信号も手がかりになる。MSA-PはL-ドパへの反応が乏しい点も、Parkinson病との鑑別で役立つ。そして臨床では、外来で「夜中にいびきが変わった」「呼吸が止まっているようだ」という家族の話を聞き逃さないことが、突然死の予防につながるんだ。

まとめ

自律神経障害による突然死で最も注意すべき神経疾患は多系統萎縮症です。多系統萎縮症はα-シヌクレインがオリゴデンドログリアに蓄積する神経変性疾患で、小脳性運動失調・Parkinson症状・自律神経障害を組み合わせて示し、声帯外転麻痺による夜間の吸気性喘鳴、中枢性睡眠時無呼吸、循環調節障害が睡眠中の突然死の原因となります。気管切開を行っても中枢性の呼吸障害による突然死は完全には防げない点も重要です。一方、多発性硬化症やAlzheimer型認知症では自律神経障害は病像の中心でなく、周期性四肢麻痺の不整脈は電解質異常によるもの、筋萎縮性側索硬化症では膀胱直腸障害がみられにくく死因は呼吸筋麻痺が中心です。突然死の「機序」まで意識して疾患を整理することが、病態理解と患者・家族への説明の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はaです

問われていること

神経疾患のうち、自律神経系の障害そのものが原因となって突然死を起こしうる代表的疾患を選ぶ問題である。

考え方

自律神経障害とは、交感神経・副交感神経による無意識の調節(血圧・心拍・呼吸リズム・排尿・発汗など)が損なわれた状態を指す。これが重篤になると、夜間の呼吸停止や致死的な循環調節破綻につながり得る。 選択肢の中で、自律神経障害が中核症状の一つであり、しかも睡眠中の突然死が臨床上の重要な問題として知られているのは多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)である。MSAでは起立性低血圧・排尿障害などの自律神経症状に加え、声帯を開く筋(後輪状披裂筋)の麻痺による吸気性喘鳴(声帯外転麻痺)や、脳幹の呼吸中枢障害による中枢性睡眠時無呼吸が生じ、夜間に突然死することがある。 他の選択肢は、自律神経障害が目立たないか、あっても膀胱直腸障害などにとどまり、自律神経障害を機序とする突然死は典型的ではない。「自律神経障害+突然死」と来たらMSAを想起するのが基本である。

選択肢考察

  1. ○a.  多系統萎縮症

    MSAはα-シヌクレインがオリゴデンドログリアに蓄積する(グリア細胞質内封入体)孤発性の神経変性疾患で、小脳性運動失調、Parkinson症状、自律神経障害をさまざまな組み合わせで示す。自律神経障害として起立性低血圧、排尿障害、発汗障害、勃起障害などがみられ、さらに声帯外転麻痺による睡眠中の吸気性喘鳴(いびき様の高調音)、中枢性の睡眠時無呼吸や呼吸リズム異常を合併する。これらにより夜間睡眠中の窒息や呼吸停止、循環調節破綻による突然死が起こり得るため、最も注意すべき疾患である。喘鳴が出現した場合は気管切開や非侵襲的陽圧換気が検討されるが、気管切開後も中枢性の呼吸障害による突然死は完全には防げない点も重要である。

  2. ×b.  多発性硬化症

    多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は中枢神経(大脳、小脳、脳幹、視神経、脊髄)に脱髄病変が時間的・空間的に多発し、再発と寛解を繰り返す自己免疫性疾患である。視力障害、運動麻痺、感覚障害、Lhermitte徴候などが主症状で、脊髄病変に伴う膀胱直腸障害などの自律神経症状が進行例でみられることはある。しかし自律神経障害を機序とする突然死は典型的な問題とはならない。

  3. ×c.  周期性四肢麻痺

    周期性四肢麻痺は、血清カリウム値の変動(低カリウム性が多く、わが国では甲状腺機能亢進症に伴うものが代表的)に関連して四肢の弛緩性麻痺が発作的に出現する骨格筋のイオンチャネル異常・代謝異常である。感覚障害や膀胱直腸障害などの自律神経障害は伴わない。重度の低カリウム血症による不整脈には注意が必要だが、これは電解質異常によるもので、自律神経障害による突然死ではない。

  4. ×d.  Alzheimer型認知症

    Alzheimer型認知症は記憶障害を中心に進行する神経変性疾患で、アミロイドβの沈着(老人斑)とタウ蛋白の蓄積(神経原線維変化)を病理学的特徴とする。自律神経障害は病像の中心ではない。末期には無動・寝たきりとなり、誤嚥性肺炎や尿路感染症などの感染症が主な死因となる。なお、同じく認知症をきたすLewy小体型認知症では起立性低血圧などの自律神経障害が目立つため、区別して覚えておくとよい。

  5. ×e.  筋萎縮性側索硬化症

    筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は上位および下位運動ニューロンが選択的に障害される疾患である。感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害(自律神経障害)、褥瘡は原則としてみられず、「陰性徴候」として知られる。死因の多くは呼吸筋麻痺による呼吸不全や誤嚥性肺炎であり、自律神経障害による突然死は典型的ではない(人工呼吸器装着下の長期経過例では自律神経症状が出ることもあるが、本問の趣旨とは異なる)。

多系統萎縮症(MSA)の概要

・脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)のうち孤発性のものの大部分を占め、わが国のSCD全体でも最も多い病型である。 ・病理:オリゴデンドログリア内のα-シヌクレイン陽性封入体(glial cytoplasmic inclusion:GCI)。 ・病型:現在は主症状により2型に分けられる。  MSA-C:小脳性運動失調が主体(かつてのオリーブ橋小脳萎縮症〈OPCA〉に相当)。わが国で多い。  MSA-P:Parkinson症状が主体(かつての線条体黒質変性症〈SND〉に相当)。L-ドパへの反応は乏しい。  かつて自律神経症状が前景に立つものはShy-Drager症候群と呼ばれたが、現在はいずれの病型でも経過中に自律神経障害が出現することからMSAとして一括される。 ・自律神経症状:起立性低血圧、排尿障害(残尿・尿失禁)、勃起障害、発汗低下、便秘など。 ・呼吸関連:声帯外転麻痺による夜間の吸気性喘鳴、閉塞性・中枢性睡眠時無呼吸、呼吸リズム異常。これらが突然死の主要な原因となる。 ・画像:MRIで橋の十字サイン(hot cross bun sign)、小脳・中小脳脚の萎縮、被殻外側の線状高信号(T2強調像)など。

自律神経障害が目立つ主な神経疾患

MSA、Parkinson病、Lewy小体型認知症、純粋自律神経不全症、Guillain-Barré症候群(不整脈・血圧変動)、糖尿病性ニューロパチー、家族性アミロイドポリニューロパチーなど。

POINT

・自律神経障害による突然死で最も注意すべき神経疾患は多系統萎縮症(MSA)である。 ・MSAの突然死の背景:声帯外転麻痺(夜間の吸気性喘鳴)、中枢性睡眠時無呼吸、循環調節障害。 ・MSAは小脳症状・Parkinson症状・自律神経障害を組み合わせて呈し、MSA-CとMSA-Pに分類される。 ・ALSでは膀胱直腸障害などの自律神経障害は原則みられない(陰性徴候)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。