StudyMed医師国家試験

心臓移植は「誰に」行うのか―限られた心臓を生かすための適応と除外条件

第109回医師国家試験 A問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第5問

我が国で心臓移植の適応とならないのはどれか。

  1. a.拡張型心筋症
  2. b.拘束型心筋症
  3. c.虚血性心筋症
  4. d.拡張相の肥大型心筋症
  5. e.薬物依存症(中毒)に伴う心筋症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心臓移植の適応となる疾患と、移植を行わない条件を問う問題だ。着眼点は「病気の種類」だけでなく、「移植後の治療をきちんと続けられるか」という視点。まず、心臓移植とはどういう位置づけの治療か、考えてみよう。
医学生医学生
薬もデバイスも手術もやり尽くして、それでも助からない重症心不全に対する最後の手段、というイメージです。
ドクタードクター
その通り。そして大事なのは、脳死ドナーから提供される心臓は極めて少ないこと、移植後は免疫抑制薬を生涯飲み続け、厳重な自己管理が必要になることだ。だから我が国では、日本循環器学会の心臓移植委員会の基準に沿って、長期の生存と生活の質の改善が見込めるか、移植後の治療を確実に続けられるかという観点で適応を判断している。
医学生医学生
循環器内科の講義で、日本の移植患者の原因疾患は拡張型心筋症が一番多いと聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。拡張型心筋症は心室が拡大して収縮力が落ち、進行性の心不全や致死性不整脈を起こす。薬物治療や心臓再同期療法を尽くしても重症心不全が続けば移植を検討する、代表的な適応疾患だ。
医学生医学生
拘束型心筋症は収縮が保たれているので、移植まではいかないのかなと思ったのですが……。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。拘束型心筋症は心室壁が硬くて広がらない拡張障害の病気で、収縮能が比較的保たれていても心不全をきたす。まれだけれど確立した根本的治療がなく予後不良なので、小児も含めて移植の適応になるんだ。
医学生医学生
虚血性心筋症は、カテーテル治療やバイパス術で治せるイメージがありました。
ドクタードクター
血行再建で改善する例はもちろん多い。でも心筋梗塞を繰り返したり広範な虚血が続いたりして、心筋そのものが傷んでしまうと、血管を通しても心機能は戻らない。その結果、重症心不全や致死性不整脈を繰り返すなら移植の適応となる。
医学生医学生
肥大型心筋症は壁が厚い病気なのに、拡張相というのはどういう状態ですか。
ドクタードクター
肥大型心筋症の一部は、経過とともに厚かった壁が薄くなり、内腔が拡大して収縮力が落ちていく。これが拡張相肥大型心筋症で、拡張型心筋症に似た病態になる。いったんこの段階に入ると有効な治療が乏しく予後不良だから、これも適応疾患に含まれる。
医学生医学生
となると、残る薬物依存症に伴う心筋症が適応外ということですね。心筋症としては重症でも外れるのはなぜでしょう。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。薬物依存症は、アルコール性心筋疾患も含めて絶対的除外条件とされている。依存が続いていると、免疫抑制薬の確実な服用や定期通院、生活上の制限が守られない危険が大きい。拒絶反応で移植心を失ったり、依存物質で再び心筋が傷んだりするおそれがあるんだ。
医学生医学生
限られたドナー心臓を本当に生かせる人に届ける、という考え方なんですね。精神科の実習で、依存症は再発しやすい病気だと教わったのとつながりました。
ドクタードクター
いいつながりだね。ほかの絶対的除外条件も押さえておこう。不可逆的な肝・腎機能障害、サイトメガロウイルス感染症を含む活動性感染症、悪性腫瘍、HIV抗体陽性、そして薬物で下がらない肺高血圧症だ。
医学生医学生
肺高血圧症が除外になるのは意外です。心臓を替えれば良くなりそうですが。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。肺血管抵抗が高いまま固定していると、新しく植えた心臓の右心室がその抵抗に耐えられず、移植直後に右心不全を起こしてしまう。だから術前に右心カテーテルで肺血管抵抗を評価するんだ。なお、腎・肝機能障害の程度、合併症のある糖尿病、重度の肥満、高齢などは相対的除外条件として個別に判断される。
医学生医学生
日本はドナーが少ないので、待機期間も長いと聞きました。
ドクタードクター
そうなんだ。待機は年単位になることが多く、その間の循環を支えるために植込み型の左室補助人工心臓が移植への橋渡しとして広く使われている。臨床では、移植の適応評価は病気の重さだけでなく、本人と家族が治療を理解し、移植後の生活に協力できるかまで含めて行われることを覚えておいてほしい。

まとめ

心臓移植は、既存の内科的・外科的治療を尽くしても救命が難しい重症心不全に対する最終的な治療であり、我が国では拡張型心筋症が最多で、拡張相肥大型心筋症、虚血性心筋症、拘束型心筋症なども適応となります。一方、薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む)は、免疫抑制薬の内服や自己管理の継続が難しく、移植心喪失や再発のリスクが高いため絶対的除外条件です。ほかに不可逆的な肝・腎機能障害、活動性感染症、悪性腫瘍、HIV抗体陽性、薬物で改善しない肺高血圧症も絶対的除外条件に挙げられています。ドナー不足のため待機期間は長く、植込み型補助人工心臓が移植への橋渡しとして用いられます。「限られた心臓で長期の生存と生活の質を得られるか」という視点で適応を考えることは、移植医療の倫理と臨床判断を理解する基本となります。

解答・解説

正解はeです

テーマ

心臓移植の適応疾患と除外条件(移植を行わない条件)を問う問題である。

心臓移植の考え方

心臓移植は、あらゆる内科的治療や外科的治療を尽くしても改善しない重症心不全に対する最終的な治療法である。一方で、脳死ドナーから提供される心臓は極めて限られており、移植後は免疫抑制薬の生涯にわたる内服と厳重な自己管理が必要となる。そのため我が国では、日本循環器学会の心臓移植委員会が定めた基準に基づき、「移植によって長期の生存と生活の質の改善が見込めるか」「移植後の治療を確実に継続できるか」という観点から適応が判断される。

正解を導く考え方

適応となる疾患は、拡張型心筋症、拡張相の肥大型心筋症、虚血性心筋症をはじめとする、従来の治療で救命・延命が期待できない重症の心疾患である。拘束型心筋症も有効な治療法がなく、適応に含まれる。 これに対し、薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む)は絶対的な除外条件に挙げられている。依存症が続くと、移植後に必要な免疫抑制薬の確実な内服や生活管理が守られない可能性が高く、移植心の喪失や再発につながるためである。したがって、薬物依存症に伴う心筋症は心臓移植の適応とならない。

選択肢考察

  1. ×a.  拡張型心筋症

    拡張型心筋症は、左室(または両心室)の拡大と収縮力の低下を特徴とし、進行性の心不全や致死性不整脈を起こす。我が国で心臓移植を受ける患者の原因疾患として最も多く、代表的な適応疾患である。薬物治療や心臓再同期療法などを尽くしても重症心不全が続く場合に移植が検討される。

  2. ×b.  拘束型心筋症

    拘束型心筋症は、心室壁が硬くなって拡張しにくくなり(拡張障害)、心室の大きさや収縮能は比較的保たれるにもかかわらず心不全をきたす疾患である。拡張型心筋症や肥大型心筋症に比べてまれであるが、確立した根本的治療法がなく予後不良であり、小児例も含めて心臓移植の適応となる。

  3. ×c.  虚血性心筋症

    虚血性心筋症は、心筋梗塞の反復や広範な心筋虚血によって心筋が障害され、左室の拡大と高度の収縮不全をきたした状態である。冠動脈インターベンション(ステント留置など)や冠動脈バイパス術を行っても心機能が回復せず、重症心不全や致死性不整脈を繰り返す場合には、心臓移植の適応となる。

  4. ×d.  拡張相の肥大型心筋症

    肥大型心筋症の一部は、経過とともに肥大していた心室壁が薄くなり、内腔が拡大して収縮力が低下する。これを拡張相肥大型心筋症と呼び、拡張型心筋症に似た病態となる。一度この状態に至ると有効な治療法に乏しく予後不良であるため、心臓移植の適応疾患に含まれる。

  5. ○e.  薬物依存症(中毒)に伴う心筋症

    我が国の心臓移植の適応基準では、薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む)は絶対的除外条件とされている。依存症が持続している患者では、移植後に不可欠な免疫抑制薬の確実な服用、定期的な通院、生活上の制限などが守られない危険が大きい。拒絶反応による移植心の喪失や、依存物質による心筋障害の再発を招くおそれがあり、限られたドナー心臓を有効に生かすという観点からも移植の対象とはならない。

我が国の心臓移植の適応(概要)

・対象となる状態:従来の治療法では救命・延命が期待できない重症の心疾患。長期間または繰り返しの入院治療を必要とする心不全、β遮断薬やACE阻害薬などを含む標準的な治療を行っても重症度の高い心不全が続く場合、薬物療法や植込み型除細動器などでも制御困難な致死性不整脈がある場合など ・主な適応疾患:拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、虚血性心筋症、拘束型心筋症、その他(心筋炎後の心筋症、心サルコイドーシスなどの二次性心筋症、先天性心疾患の一部など) ・本人および家族が移植治療を理解し、移植後の治療に協力できることも条件となる

絶対的除外条件

・肝臓、腎臓の不可逆的な機能障害 ・活動性の感染症(サイトメガロウイルス感染症を含む) ・肺高血圧症(肺血管抵抗が高く、薬物などで下がらないもの。移植された心臓の右心室が高い肺血管抵抗に耐えられず右心不全を起こすため) ・薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む) ・悪性腫瘍 ・HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体陽性

相対的除外条件の例

腎機能障害や肝機能障害、活動性の消化性潰瘍、合併症を伴う糖尿病、重度の肥満、精神神経疾患、高齢などは、個々に慎重な判断が必要な条件とされる。

移植までの橋渡し

ドナー不足のため、移植を待つ間に長期間を要することが多い。その間の循環を維持するため、植込み型補助人工心臓(左室補助人工心臓:LVAD)が「移植への橋渡し」として広く用いられている。

POINT

・心臓移植の主な適応:拡張型心筋症(最多)、拡張相肥大型心筋症、虚血性心筋症、拘束型心筋症など、既存治療で救命困難な重症心疾患。 ・絶対的除外条件:不可逆的な肝・腎機能障害、活動性感染症、固定した肺高血圧症、薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む)、悪性腫瘍、HIV抗体陽性。 ・薬物依存症が除外されるのは、移植後の免疫抑制療法や自己管理の継続が困難で、再発・移植心喪失のリスクが高いため。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。