見えているのに育たない視力―小児の弱視は「感受性期にくっきり映るか」で見抜く
第109回医師国家試験 A問題 第15問
国試問題にチャレンジ
小児の弱視の原因になるのはどれか。2つ選べ。
- a.遠視
- b.近視
- c.偽内斜視
- d.乳児内斜視
- e.間欠性外斜視
対話形式の解説
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ドクターまとめ
弱視は、視覚の感受性期(おおむね6〜8歳まで)に網膜へ鮮明な像が届かない、あるいは片眼の像が脳で抑制されることで視覚中枢の発達が妨げられ、器質的病変がないのに矯正視力が出ない状態です。遠視はどの距離でもピントが合いにくく屈折異常弱視や不同視弱視の原因となり、乳児内斜視のような恒常性斜視では非固視眼の像が抑制されて斜視弱視を生じます。一方、軽度〜中等度の近視は近方視で視力が育ち、間欠性外斜視は普段正位を保つため弱視になりにくく、偽内斜視は眼位が正常で弱視の原因になりません。弱視には斜視弱視・不同視弱視・屈折異常弱視・形態覚遮断弱視があり、原因除去、完全矯正眼鏡、健眼遮閉で治療しますが、効果は感受性期内ほど高いため3歳児健診などでの早期発見が鍵になります。「感受性期にくっきりした像が両眼から脳に届いているか」という視点は、小児眼科の疾患を理解するうえでの基本になります。
解答・解説
正解はa, dです
弱視とは、視覚の発達期(感受性期)に網膜へ鮮明な像が届かない状態(視性刺激遮断)や、左右の眼からの情報がうまく統合されない状態(異常な両眼相互作用)が続いたために、視覚中枢(外側膝状体〜視覚野)の発達が妨げられて生じる視力低下である。眼球そのものには視力低下を説明する器質的病変がなく、眼鏡で屈折を矯正しても視力が十分に出ないことが特徴である。 ヒトの視力は出生時には0.02程度しかなく、はっきり見える刺激を受け続けることで発達し、おおむね3歳までが最も感受性が高く、6〜8歳頃までに完成する。この時期に鮮明な像が入らないと視力が育たない。 したがって本問は、各選択肢の状態が「感受性期に、片眼または両眼の網膜中心窩へ持続的にぼけた像しか届かない、あるいは片眼の像が脳で抑制される」状況を生むかどうかで判断する。 ・遠視は遠くも近くもピントが合わず、どの距離でも鮮明な像を得にくい → 弱視の原因になる。 ・恒常的な斜視(乳児内斜視)は、斜視眼の像が複視や混乱視を避けるために常に抑制される → 斜視弱視の原因になる。 ・一方、軽度〜中等度の近視は近くがよく見えるため視力が育ち、間欠性外斜視は多くの時間を正位で過ごせるため、弱視になりにくい。偽内斜視は見かけ上の内斜視で眼位は正常である。
選択肢考察
- ○a. 遠視
正しい。遠視では平行光線が網膜より後方に結像するため、遠方でも近方でも調節(毛様体筋の収縮による水晶体の厚みの増加)を働かせなければピントが合わない。中等度以上の遠視では調節で補いきれず、どの距離でもぼけた像しか網膜に届かないため、両眼性なら屈折異常弱視、左右差があれば遠視の強い眼に不同視弱視を生じる。さらに強い調節は輻湊を伴うため、調節性内斜視を合併して斜視弱視の原因にもなる。感受性期のうちに調節麻痺薬(アトロピンなど)を用いた屈折検査で遠視の程度を正確に測り、完全矯正眼鏡を常用させることが治療の基本である。
- ×b. 近視
誤り(本問の正解にはならない)。近視では遠くは見えにくいが近くには焦点が合うため、乳幼児期の生活の中心である近方視で鮮明な像が得られ、視力は発達する。そのため軽度〜中等度の近視は弱視の原因になりにくい。ただし強度近視や、左右差の大きい近視(不同視)では弱視を生じることがあるので、近視が決して弱視をきたさないわけではない。代表的な原因として問われているのは遠視である。
- ×c. 偽内斜視
誤り。偽内斜視(仮性内斜視)とは、乳幼児の鼻根部が低く幅広いことや内眼角贅皮(上眼瞼の皮膚が目頭を半月状に覆う状態。Down症候群などでもみられる)のために、内側の白目が隠れて内斜視のように見えるだけの状態である。実際の眼位は正位であり、角膜反射(ペンライトの光の反射)が両眼とも瞳孔中央にあることや、遮閉試験(カバーテスト)で眼の動きがないことで真の斜視と区別できる。両眼とも正しく固視しているので弱視の原因にはならず、成長して鼻根部が高くなると目立たなくなる。
- ○d. 乳児内斜視
正しい。乳児内斜視は生後6か月以内に発症する恒常性の内斜視で、斜視角が大きいのが特徴である。一方の眼が常に内側にずれているため、ずれた眼の中心窩には固視眼と異なる像が入り、複視や混乱視を避けるために脳がその眼の像を抑制する。これが感受性期に続くと、ずれた眼(非固視眼)の視力が発達しない斜視弱視となる。左右交互に固視する交代固視であれば弱視になりにくいが、片眼固視の場合は弱視をきたしやすい。治療として、弱視があれば健眼遮閉(アイパッチ)などで弱視訓練を行い、両眼視機能の獲得を目指して早期(おおむね2歳頃まで)に斜視手術を行う。
- ×e. 間欠性外斜視
誤り。間欠性外斜視は、普段は融像(左右の像を一つにまとめる働き)によって正位を保っているが、疲労時、眠いとき、ぼんやり遠くを見たときなどに融像が破れて外斜視が顕在化するものである。小児の斜視の中で最も頻度が高い。多くの時間は両眼で正しく固視しているため、両眼の中心窩に鮮明な像が入り、弱視にはなりにくい。明るい屋外でまぶしそうに片目をつぶる(羞明)ことが特徴的な訴えである。
弱視の定義
視覚の発達期に視性刺激遮断あるいは異常な両眼相互作用によって生じる片眼または両眼の視力低下で、眼の検査で器質的病変がみつからず、適切な症例では予防・治療が可能なものをいう。
弱視の分類
・斜視弱視:恒常性斜視により、ずれた眼(非固視眼)の像が抑制されて生じる。片眼性。 ・不同視弱視:左右の屈折度数の差が大きく(遠視・乱視で2D程度以上が目安)、屈折異常の強い眼に生じる。片眼性で、見た目に異常がないため発見が遅れやすい。 ・屈折異常弱視:両眼の中等度以上の遠視や乱視(または強度近視)で生じる。両眼性。 ・形態覚遮断弱視:先天白内障、角膜混濁、眼瞼下垂、眼瞼腫瘍(血管腫など)のほか、乳幼児期の長期眼帯使用などで視覚刺激が遮断された眼に生じる。最も重篤で、早期の原因除去が必要である。
治療
・原因の除去:白内障手術、眼瞼下垂手術など。 ・屈折矯正:調節麻痺下の屈折検査に基づき完全矯正眼鏡を常用させる。 ・健眼遮閉(アイパッチ)やアトロピン点眼によるペナリゼーション(健眼をあえて見えにくくする)で弱視眼を使わせる。 ・治療効果は感受性期内ほど高く、早期発見が重要である。3歳児健康診査での視力検査や屈折検査(フォトスクリーナーなど)が発見の機会となる。
関連する斜視
・調節性内斜視:中等度以上の遠視に伴う強い調節が過剰な輻湊を引き起こして生じる。1〜3歳頃に発症し、遠視の完全矯正眼鏡で眼位が改善する。 ・偽内斜視:見かけ上の内斜視。角膜反射やカバーテストで正位を確認する。
POINT
・弱視=感受性期(〜6〜8歳)に鮮明な像が網膜に届かない、または片眼の像が抑制されることで視力が発達しない状態。器質的病変はない。 ・原因:斜視(恒常性、片眼固視)、遠視・乱視、不同視、形態覚遮断(先天白内障、眼瞼下垂、眼帯など)。 ・軽度〜中等度の近視は近方視で視力が育つので弱視になりにくい。 ・間欠性外斜視は普段正位のため弱視になりにくい。偽内斜視は眼位正常で弱視にならない。 ・治療は原因除去、完全矯正眼鏡、健眼遮閉。早期発見(3歳児健診)が重要。
