P波は休まない、QRSが休む―2:1伝導で読み解くII度房室ブロック
第108回医師国家試験 I問題 第20問
国試問題にチャレンジ
72歳の男性。今朝,起床時から全身倦怠感が出現しているため来院した。心電図を別に示す。 認められる所見はどれか。

- a.洞停止
- b.心房粗動
- c.Ⅰ度房室ブロック
- d.Ⅱ度房室ブロック
- e.心室固有調律
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
不整脈の心電図では、P波とQRS波を別々に追い、その対応関係を確認するのが基本です。洞調律のP波が規則正しく出ているのに1拍おきにQRS波が続かない2:1伝導はII度房室ブロックに分類されますが、PR間隔の変化を比べられないため、Wenckebach型かMobitz II型かは心電図だけでは判別できず、QRS幅などが手がかりになります。洞停止ではP波ごとQRS・T波が消え、心房粗動では鋸歯状のF波、I度房室ブロックではPR延長のみ、心室固有調律では幅広QRSがP波と無関係に出現する点で区別できます。症候性の高度な徐脈はペースメーカの適応となりうるため、薬剤・電解質・虚血などの可逆的原因の検索とあわせて評価することが重要です。T波に隠れたP波まで探す読み方は、あらゆる不整脈判読の土台となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
72歳の男性が、起床時からの全身倦怠感を訴えて受診した。全身倦怠感はそれだけでは原因を絞り込めない非特異的な症状である。ただし徐脈性不整脈によって心拍数が減り、心拍出量が低下した場合にも十分起こりうるため、心電図を丁寧に読む必要がある。
心電図の読み方
不整脈の心電図では、まずP波(心房の興奮)とQRS波(心室の興奮)をそれぞれ独立に追い、両者の関係を確認するのが基本である。 ・QRS波:幅は狭く(正常な形)、RR間隔は規則的で、心拍数は徐脈である。 ・P波:Ⅱ・Ⅲ・aVFで陽性の、形のそろったP波が規則正しく現れており、洞調律と考えられる。QRS波の直後のT波に続いて、次のQRS波との中間にもう1つP波がみられる。つまりP波は、QRS波の2倍の頻度で規則正しく出現している。 ・P波とQRS波の関係:QRS波の直前にあるP波とのPR(PQ)間隔は一定で、QRS波はそのP波に連結している。一方、T波の後にある1つおきのP波の後にはQRS波が続かず、心室へ伝わっていない。 以上より、洞結節からの興奮は規則正しく出ているものの、房室結節以下で2回に1回伝導が途絶えている。すなわち「2:1房室伝導(2:1房室ブロック)」の状態であり、Ⅱ度房室ブロックに分類される。
設問への考え方
P波が脱落しているのか(洞停止など洞結節の問題)、P波はあるのにQRS波が続かないのか(房室ブロック)、そもそも心房波がP波ではなく鋸歯状波なのか(心房粗動)を区別できれば正解にたどりつける。
選択肢考察
- ×a. 洞停止
誤り。洞停止は洞結節からの興奮が一時的に止まる状態で、心電図ではP波がQRS波・T波とともにまとめて消失し、長い休止期(ポーズ)が生じる。休止期の長さは直前のPP間隔の整数倍にならない(整数倍になるものは洞房ブロック)。本例では規則正しいP波が途切れることなく出現しており、脱落しているのはQRS波のほうであるため、洞停止ではない。
- ×b. 心房粗動
誤り。心房粗動では、心房内をリエントリー(興奮の旋回)が回ることにより、P波の代わりに約250〜350/分(典型的には約300/分)の規則的な鋸歯状の粗動波(F波)が基線上に連続してみられ、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導で見やすい。房室伝導比が2:1、3:1、4:1であれば、心室レートはそれぞれ約150/分、100/分、75/分となる。本例では基線が平坦で、心房波は正常な形のP波であり、心拍数も遅いため当てはまらない。
- ×c. Ⅰ度房室ブロック
誤り。Ⅰ度房室ブロックは房室伝導に時間がかかる状態で、PR(PQ)間隔が0.20秒を超えて延長するが、すべてのP波は心室に伝わるため、QRS波の脱落は起こらない。本例ではP波の2回に1回がQRS波を伴っておらず、伝導の途絶がみられるため、Ⅰ度ではなくⅡ度房室ブロックに相当する。
- ○d. Ⅱ度房室ブロック
正しい。Ⅱ度房室ブロックは、心房の興奮の一部が心室に伝わらず、QRS波が間欠的に脱落する状態である。本例では、洞調律のP波が規則正しく出現しているにもかかわらず、1拍おきにQRS波が続かない(2:1伝導)。伝導されたP波ではPR間隔が一定で、QRS波の形も正常である。P波とQRS波が2:1で連結していることから、Ⅱ度房室ブロック(2:1房室ブロック)と判断できる。
- ×e. 心室固有調律
誤り。心室固有調律(idioventricular rhythm)は、上位の刺激伝導系からの興奮が心室に届かないときに、心室筋やPurkinje線維が自ら興奮して生じる補充調律である。興奮が正規の伝導路を通らないため、QRS波は幅広く変形し、心拍数は通常20〜40/分程度と遅い。P波が存在しても、QRS波とは無関係に出現する(房室解離)。本例のQRS波は幅が狭く正常な形であり、直前のP波と一定のPR間隔で連結しているため、心室固有調律ではない。なお、急性心筋梗塞の再灌流後などに心室固有調律のレートが上昇したもの(おおむね50〜110/分程度)は、促進型心室固有調律(accelerated idioventricular rhythm:AIVR)と呼ばれる。
房室ブロックの分類
・Ⅰ度:PR間隔の延長(0.20秒を超える)のみで、QRS波の脱落はない。 ・Ⅱ度 Wenckebach型(MobitzⅠ型):PR間隔が1拍ごとに徐々に延長し、ついにQRS波が1つ脱落する。これを周期的に繰り返す。障害部位は多くが房室結節内で、迷走神経緊張でも起こり、予後は比較的良好である。 ・Ⅱ度 MobitzⅡ型:PR間隔は一定のまま、予告なくQRS波が突然脱落する。障害部位はHis束以下のことが多く、完全房室ブロックへ進行する危険が高いため、ペースメーカ植込みの適応となりうる。 ・2:1房室ブロック:P波2つに1つしかQRS波が続かない。脱落前のPR間隔の変化を比べられないため、心電図だけではWenckebach型かMobitzⅡ型かを区別できない。QRS幅が狭ければ房室結節レベル(Wenckebach型寄り)、脚ブロックなどでQRS幅が広ければHis束以下(MobitzⅡ型寄り)を疑う手がかりとなる。確定にはHis束心電図や、運動・アトロピン投与に対する反応が参考になる(房室結節レベルのブロックなら改善しやすい)。 ・高度房室ブロック:3:1以上の伝導比など、連続して2拍以上のQRS波が脱落する。 ・Ⅲ度(完全)房室ブロック:心房と心室の興奮がまったく無関係になる(房室解離)。PP間隔とRR間隔はそれぞれ規則的だが、PR間隔はばらばらとなる。心室は補充調律(接合部調律または心室固有調律)で拍動する。
徐脈と症状
徐脈で心拍出量が低下すると、全身倦怠感、息切れ、めまい、失神(Adams-Stokes発作)、心不全症状が出現する。症状を伴う高度の徐脈性不整脈(症候性のⅡ度・高度・Ⅲ度房室ブロックなど)は、一時的ペーシングや恒久的ペースメーカ植込みの対象となる。高齢者では刺激伝導系の変性(線維化)が房室ブロックの原因として多いが、急性心筋梗塞(特に下壁梗塞)、薬剤(β遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ジギタリスなど)、高カリウム血症、心サルコイドーシスなども確認すべき原因である。
P波とQRS波の関係から考える鑑別の整理
・P波が消える(QRS波も一緒に消える):洞停止、洞房ブロック ・P波の代わりに鋸歯状波:心房粗動 ・P波の代わりに不規則な細動波で、RR間隔が不規則:心房細動 ・P波はあるがQRS波が続かないことがある:Ⅱ度以上の房室ブロック ・P波とQRS波が無関係:Ⅲ度房室ブロック(房室解離)
POINT
・不整脈の心電図はP波とQRS波を別々に追い、両者の対応関係をみる。 ・P波が規則正しく出ているのにQRS波が間欠的に脱落すれば、Ⅱ度以上の房室ブロックである。 ・2:1房室ブロックはⅡ度房室ブロックに分類されるが、Wenckebach型かMobitzⅡ型かは心電図だけでは判別できない。 ・洞停止ではP波ごとQRS・T波が消える。心房粗動では鋸歯状波(F波)がみられる。Ⅰ度房室ブロックはPR延長のみ。心室固有調律では幅広QRSで、P波と無関係に出現する。
