StudyMed医師国家試験

4,000 Hzの谷が告げるもの―高い音ほど耳を壊す騒音性難聴

第108回医師国家試験 I問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第18問

騒音性難聴の特徴はどれか。

  1. a.混合性難聴である。
  2. b.補充現象は陰性である。
  3. c.短時間曝露では発生しない。
  4. d.曝露を中止すると回復する。
  5. e.高周波数騒音で発生しやすい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は騒音性難聴の特徴を問う問題だ。押さえるべきは「どこが壊れるのか」「壊れたら戻るのか」「どんな音が危ないのか」の3点。障害部位がわかれば、選択肢の多くは自然に判断できるよ。まず、騒音性難聴でダメージを受けるのはどこだと思う?
医学生医学生
大きな音で鼓膜が傷むイメージがあるので、伝音系も関わるのかなと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実際に傷むのは内耳、つまり蝸牛の有毛細胞、特に外有毛細胞なんだ。鼓膜や耳小骨といった音を伝える外耳・中耳は正常に保たれる。だから純粋な感音難聴で、伝音難聴と感音難聴が合わさった混合性難聴ではない。純音聴力検査では気導と骨導の閾値がほぼ同じように上がって、気骨導差は見られない。
医学生医学生
なるほど、爆発で鼓膜が破れるのとは別の話なんですね。では補充現象はどうなりますか。生理学で習った気がするんですが、陽性か陰性かがいつも混乱します。
ドクタードクター
理屈で覚えると忘れにくいよ。外有毛細胞は、小さい音を増幅する「アンプ」の役割をしている。これが壊れると、小さな音は聞こえにくくなる。でも大きな音はもともと増幅がいらないから、健常耳と同じくらいの大きさに聞こえる。結果として、音を大きくしていくと感じる大きさが急に立ち上がる。これが補充現象で、外有毛細胞が傷む内耳性難聴では陽性になるんだ。
医学生医学生
騒音性難聴は外有毛細胞の障害だから陽性、ということですね。逆に陰性になるのは聴神経腫瘍のような後迷路性難聴でしたっけ。
ドクタードクター
その通り。補充現象はSISI検査で高得点になることなどで確認でき、内耳性と後迷路性の鑑別に使われる。次に、短時間の曝露では起こらない、という考え方はどうだろう。
医学生医学生
騒音性難聴は工場などで何年も働いて起こるので、短時間では起こらない気がしますが……。
ドクタードクター
典型例は確かに年単位の長期曝露で緩徐に進むものだ。ただ、爆発音や銃声、ロックコンサートのような非常に強大な音なら、短時間や一瞬でも有毛細胞が一気に損傷して難聴が起こる。これを音響外傷、急性音響性難聴と呼び、長期曝露によるものと合わせて音響性聴覚障害と総称する。だから「短時間では起こらない」とは言えないんだ。
医学生医学生
ライブの後に耳がキーンとして、翌日には戻ったことがあります。あれは治ったということですか。
ドクタードクター
いい例だね。それは一過性閾値上昇と呼ばれる状態で、数時間から翌日には回復することがある。でも曝露を繰り返すと有毛細胞が失われ、永続的閾値上昇になる。哺乳類の有毛細胞は再生しないから、いったん確立した騒音性難聴は騒音から離れても回復しないし、有効な治療法もない。曝露を中止すれば回復する、という考え方は誤りだ。
医学生医学生
そうなると、残るのは高い周波数の騒音で起こりやすい、という特徴ですね。
ドクタードクター
正解。同じ音圧なら、低い音より高い音のほうが内耳を傷めやすい。外耳道が約3,000 Hz付近で共鳴して音圧を増幅することや、高音を感じる蝸牛の基底回転が機械的・代謝的に傷つきやすいことなどが理由として考えられている。その結果、障害は4,000 Hz付近から始まるんだ。
医学生医学生
それがc5dipですね!耳鼻科の実習で、オージオグラムに4,000 Hzだけ谷のように落ち込んだ波形を見せてもらいました。
ドクタードクター
まさにそれ。初期は4,000 Hz付近に限局した谷状の閾値上昇で、進行すると高音域全体、さらに会話音域の500〜2,000 Hzへと広がっていく。両側性でほぼ左右対称、耳鳴を伴うことも多い。初期は会話音域が保たれるから本人は気づきにくく、健康診断の4,000 Hzの聴力検査で見つかることが多いんだ。
医学生医学生
自覚がないうちに進むなら、見つかったときにはもう戻らないということですよね。予防が大事なのがよくわかります。
ドクタードクター
その通り。だから対策の中心は予防で、耳栓やイヤーマフなどの防音保護具、騒音源への対策、作業時間の管理、定期的な聴力検査が柱になる。日本では騒音障害防止のためのガイドラインに基づいて騒音作業者の健康診断が行われている。おおむね85 dB以上の騒音に長期間さらされることが目安とされるよ。
医学生医学生
最近は若い人のヘッドホンでの大音量も問題になっていますよね。
ドクタードクター
臨床ではそこも大切な視点だ。急性に発症した音響性難聴では早期にステロイド治療が試みられることもあるけれど、回復しないこともある。問診で職業歴や趣味、イヤホンの使い方を聞くことが、診断にも予防の指導にもつながるんだ。

まとめ

騒音性難聴は、強い騒音への曝露で蝸牛の外有毛細胞が障害される両側性の感音難聴で、外耳・中耳は正常なため混合性難聴ではなく、内耳性難聴として補充現象は陽性となります。同じ音圧なら高周波数の音ほど内耳を傷めやすく、オージオグラムでは初期に4,000 Hz付近が谷状に落ち込むc5dipが特徴で、進行すると高音域から会話音域へ広がります。一過性閾値上昇は回復しうるものの、有毛細胞は再生しないため確立した難聴は不可逆で、強大音であれば短時間の曝露でも音響外傷として発症します。治療法がない以上、防音保護具の使用や曝露管理、定期的な聴力検査による早期発見が最も重要です。障害部位から検査所見と経過を導く考え方は、ほかの感音難聴の鑑別や産業保健の実践にも役立ちます。

解答・解説

正解はeです

騒音性難聴は、強い騒音に繰り返し・長期間さらされることで内耳(蝸牛)の有毛細胞、とくに外有毛細胞が傷み、聴力が徐々に低下していく感音難聴である。職業性疾患の代表例であり、工場・建設現場・鉱山などの作業者に多い。 本問を解くには、次の3点を押さえておけばよい。 1) 障害部位は内耳(蝸牛)であり、伝音系(外耳・中耳)は正常であるため感音難聴になる。 2) 内耳性(迷路性)の感音難聴では補充現象(リクルートメント現象)が陽性となる。 3) 有毛細胞は一度失われると再生しないため、永続的な聴力低下は不可逆である。 さらに、騒音の性質と障害の関係として、同じ音圧でも低い周波数の音より高い周波数の音のほうが内耳を傷めやすいことが知られている。オージオグラムでは初期に4,000 Hz付近だけが谷のように落ち込む「c5dip(C5ディップ)」が特徴であり、進行すると高音域全体、さらに会話音域(500〜2,000 Hz)へと障害が広がる。これらを踏まえると、各選択肢の正誤を判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  混合性難聴である。

    誤り。混合性難聴とは伝音難聴と感音難聴が合併したものを指す。騒音性難聴で障害されるのは蝸牛の有毛細胞であり、音を内耳まで伝える外耳・中耳(鼓膜・耳小骨)には異常がない。したがって純粋な感音難聴であり、純音聴力検査では気導閾値と骨導閾値がほぼ同程度に上昇し、気骨導差(air-bone gap)はみられない。

  2. ×b.  補充現象は陰性である。

    誤り。補充現象(リクルートメント現象)とは、小さな音は聞こえにくいのに、音を大きくしていくと健常耳と同じかそれ以上に急激に大きく感じられる現象で、外有毛細胞による蝸牛の増幅機能が失われた内耳性難聴に特徴的である。騒音性難聴は外有毛細胞の障害であるため補充現象は陽性となる。SISI検査(Short Increment Sensitivity Index、小さな音の強さの変化を聞き分ける検査)で高得点を示すことなどで確認される。補充現象が陰性となるのは、聴神経腫瘍などの後迷路性(神経性)難聴である。

  3. ×c.  短時間曝露では発生しない。

    誤り。典型的な騒音性難聴は長期間の曝露で緩徐に進行するが、爆発音・銃声・ロックコンサートなどの非常に強大な音であれば、短時間あるいは一瞬の曝露でも有毛細胞が一挙に損傷されて難聴が生じる(音響外傷、急性音響性難聴)。これらはまとめて音響性聴覚障害と呼ばれ、「短時間では起こらない」とはいえない。

  4. ×d.  曝露を中止すると回復する。

    誤り。騒音に曝露した直後には一時的に聴こえが悪くなり、耳閉塞感や耳鳴を伴うが、数時間〜翌日には元に戻ることがある。これを一過性閾値上昇(temporary threshold shift:TTS)という。しかし曝露を繰り返すと有毛細胞が失われ、永続的閾値上昇(permanent threshold shift:PTS)となる。哺乳類の有毛細胞は再生しないため、いったん確立した騒音性難聴は騒音から離れても回復せず、有効な治療法もない。したがって対策の中心は耳栓・イヤーマフの装着、曝露時間の短縮、定期的な聴力検査による早期発見といった予防である。

  5. ○e.  高周波数騒音で発生しやすい。

    正しい。同じ音圧レベルであれば、低周波数の音よりも高周波数の音のほうが内耳への障害性が高い。これは外耳道の共鳴特性(約3,000 Hz付近で音圧が増幅される)や、蝸牛の基底回転(高音を感じる部位)が機械的・代謝的に傷つきやすいことなどによると考えられている。その結果、騒音の種類にかかわらず、障害は4,000 Hz付近から始まり(c5dip)、高音域から中音域へと広がっていく。

騒音性難聴の概要

・原因:おおむね85 dB以上の騒音に長期間(年単位)さらされることで生じる。騒音の強さ・曝露時間・周波数・個人の感受性が発症に関与する。 ・病態:蝸牛の外有毛細胞の障害から始まり、進行すると内有毛細胞や支持細胞にも障害が及ぶ。 ・経過:初期には作業後に耳閉塞感・耳鳴・難聴が生じて翌日には回復する一過性閾値上昇を繰り返す。曝露が続くと永続的閾値上昇となり不可逆となる。 ・症状:両側性・左右ほぼ対称性の感音難聴で、耳鳴を伴うことが多い。初期は会話音域が保たれるため自覚に乏しく、健康診断の聴力検査(4,000 Hz)で見つかることが多い。 ・オージオグラム:4,000 Hz付近に限局した谷状の閾値上昇(c5dip)が初期の特徴。進行すると高音漸傾型となり、2,000 Hz以下にも障害が及ぶと会話の聞き取りが困難になる。 ・検査所見:補充現象陽性(SISI高値、ABLBで補充現象を認めるなど)。語音明瞭度は高音障害の程度に応じて低下する。 ・対策:治療法はなく、予防が最重要である。耳栓・イヤーマフなどの防音保護具の使用、騒音源の対策、作業時間の管理、定期的な聴力検査が行われる(わが国では「騒音障害防止のためのガイドライン」に基づき騒音作業者の健康診断が行われる)。

音響外傷(急性音響性難聴)との関係

爆発音・銃声など瞬間的な強大音や、コンサート・ヘッドホンなどでの短時間の大音量曝露でも急性に感音難聴が起こる。長期曝露による騒音性難聴とあわせて音響性聴覚障害と総称される。急性の場合は早期にステロイド治療が試みられることがあるが、回復しないこともある。

補充現象の考え方

内耳性難聴では外有毛細胞による「小さい音を増幅する機能」が失われるため、閾値付近の音は聞こえないが、大きな音では増幅不要となるため健常耳と同じ大きさに聞こえる。そのため音の大きさの感じ方が急に立ち上がる。これが補充現象であり、内耳性(迷路性)難聴と後迷路性難聴の鑑別に用いられる。

POINT

・騒音性難聴は内耳(外有毛細胞)障害による両側性の感音難聴である。 ・補充現象は陽性(内耳性難聴の特徴)。 ・初期は4,000 Hz付近の限局性閾値上昇(c5dip)で、高音域から中音域へ進行する。 ・高周波数の騒音ほど障害を起こしやすい。 ・強大音なら短時間曝露でも起こる(音響外傷)。 ・一過性閾値上昇は回復するが、確立した難聴は不可逆で治療法がないため予防が重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。