煙は子どもの眠りまで脅かす―受動喫煙と乳幼児突然死症候群
第108回医師国家試験 I問題 第17問
国試問題にチャレンジ
受動喫煙によって発症リスクが増加する小児の疾患はどれか。
- a.水頭症
- b.髄膜腫
- c.虫垂炎
- d.内耳炎
- e.乳幼児突然死症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
受動喫煙は呼出煙と副流煙を周囲の人が吸い込むことで、呼吸器が未熟で体重あたりの呼吸量が多い小児は特に影響を受けやすくなります。小児で受動喫煙との関連が確立している疾患には、乳幼児突然死症候群(SIDS)、気管支喘息、気管支炎・肺炎、中耳炎などがあり、内耳炎ではなく中耳炎である点はひっかけとして要注意です。SIDSは生後2〜6か月の睡眠中に多い原因不明の突然死で、うつぶせ寝、周囲の喫煙、人工栄養が三大危険因子とされ、あおむけ寝・母乳育児・妊娠中や乳児周囲での禁煙が予防の柱です。SIDSは除外診断であり、窒息や虐待との鑑別も欠かせません。受動喫煙の影響を疾患単位で整理しておくことは、国家試験対策だけでなく、保護者への禁煙指導という日常診療の実践にも直結します。
解答・解説
正解はeです
受動喫煙とは、他人が吸うたばこの煙(喫煙者が吐き出す煙である呼出煙と、たばこの先端から立ち上る副流煙)を吸い込むことである。副流煙には一酸化炭素、ニコチン、多環芳香族炭化水素などの有害物質が主流煙より高い濃度で含まれるものもあり、呼吸器が未熟で体重あたりの呼吸量が多い小児は特に影響を受けやすい。 小児において受動喫煙との関連が確立している疾患は、大きく次のように整理できる。 ・突然死:乳幼児突然死症候群(SIDS) ・呼吸器疾患:気管支喘息の発症・増悪、急性下気道感染症(気管支炎・肺炎)、呼吸機能の低下 ・耳鼻科疾患:中耳炎(急性中耳炎、滲出性中耳炎) ・胎児期の母体喫煙・受動喫煙:低出生体重、早産など 本問の選択肢のうち、この枠組みに入るのは乳幼児突然死症候群である。内耳炎は中耳炎と名前が似ているが、受動喫煙との関連が示されているのは中耳炎である点に注意する。
選択肢考察
- ×a. 水頭症
誤り。水頭症は脳脊髄液の産生・循環・吸収の障害によって脳室が拡大する病態であり、小児では先天奇形(中脳水道狭窄症、キアリ奇形、二分脊椎に伴うものなど)、脳室内出血後、髄膜炎後などが主な原因である。受動喫煙によって発症リスクが高まるという関連は確立していない。
- ×b. 髄膜腫
誤り。髄膜腫はくも膜細胞に由来する良性腫瘍で、中高年の女性に多く、小児ではまれである。確立した危険因子としては頭部への放射線照射や神経線維腫症2型(NF2)が知られているが、受動喫煙との関連は示されていない。
- ×c. 虫垂炎
誤り。虫垂炎は糞石やリンパ組織の過形成などによる虫垂内腔の閉塞と、それに続く細菌感染によって起こる。小児の急性腹症の代表だが、受動喫煙が発症リスクを高めるという確立した関連はない。
- ×d. 内耳炎
誤り。内耳炎は中耳炎や髄膜炎からの炎症の波及、ウイルス感染などで起こり、難聴やめまいをきたすが、受動喫煙との直接の関連は確立していない。受動喫煙で発症リスクが高まるのは中耳炎(急性中耳炎・滲出性中耳炎)である。煙の刺激で鼻咽腔の粘膜に炎症が起こり、線毛運動が低下して耳管機能が障害されることが機序と考えられている。「中耳」と「内耳」の取り違えを狙った選択肢である。
- ○e. 乳幼児突然死症候群
正しい。乳幼児突然死症候群(SIDS: sudden infant death syndrome)は、それまでの健康状態や既往歴から予測できず、死亡状況の調査や解剖を行っても原因が特定できない乳幼児の突然死である。父母などの喫煙はSIDSの主要な危険因子の一つで、国内の研究では両親が喫煙する場合の発症リスクは非喫煙の場合の約4.7倍と報告されている。たばこの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素が、呼吸・覚醒を調節する脳幹の機能に影響し、低酸素状態からの覚醒反応を鈍らせることなどが機序として考えられている。
乳幼児突然死症候群(SIDS)の概要
主として睡眠中に発症し、生後2〜6か月ころに多い。まれに1歳以上でも起こる。日本の乳児死亡の主要な死因の一つであり、発症数は予防キャンペーンの普及とともに減少している。診断には解剖による他の死因の除外が必要であり、窒息や虐待などとの鑑別が重要となる。
SIDSの危険因子
・うつぶせ寝 ・周囲の喫煙(妊娠中の母親の喫煙、出生後の養育者の喫煙による受動喫煙) ・人工栄養(母乳栄養でないこと) ・そのほか、男児、早産・低出生体重、柔らかい寝具・過度の暖め、冬季など
SIDS予防のために推奨されていること(厚生労働省)
1. 1歳になるまでは、寝かせるときはあおむけに寝かせる。 2. できるだけ母乳で育てる。 3. 妊娠中や赤ちゃんの周囲ではたばこを吸わない。
受動喫煙と小児の健康影響の整理
・胎児期(妊婦の喫煙・受動喫煙):低出生体重、早産、胎児発育不全、SIDSのリスク上昇 ・乳幼児期〜小児期:SIDS、気管支喘息の発症・増悪、気管支炎・肺炎、中耳炎、呼吸機能の発達の低下
制度面
2018年の健康増進法改正(2020年4月全面施行)により、多数の人が利用する施設での原則屋内禁煙が定められ、学校・病院・児童福祉施設などは敷地内禁煙(屋外に特定屋外喫煙場所の設置は可能)となった。
POINT
・受動喫煙で発症リスクが上がる小児疾患:SIDS、気管支喘息、気管支炎・肺炎、中耳炎。 ・SIDSの三大危険因子:うつぶせ寝、周囲の喫煙、人工栄養。 ・予防:あおむけ寝、母乳育児、妊娠中・乳児周囲での禁煙。 ・受動喫煙との関連があるのは「中耳炎」であり「内耳炎」ではない。
