StudyMed医師国家試験

産褥熱はどこから燃える?―胎盤剥離面という「大きな傷」に注目せよ

第108回医師国家試験 I問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第1問

産褥熱の感染巣として最も多い部位はどれか。

  1. a.外陰
  2. b.腟
  3. c.子宮頸管
  4. d.子宮内膜
  5. e.卵管

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産褥熱の感染巣を問う知識問題だ。ポイントは、分娩直後の母体のどこに「細菌が入りやすく、増えやすい環境」ができるかを考えること。まず、産褥熱の定義は覚えているかな。
医学生医学生
産後に熱が出ること全般……ではないですよね。産婦人科の講義で日数の条件があったような気がします。
ドクタードクター
そう、日本では分娩終了後24時間以降、産褥10日以内に38℃以上の発熱が2日以上続くものとされている。分娩後24時間以内の発熱は、脱水や分娩時の侵襲による一過性のものが多いから除いているんだ。それに、乳腺炎や尿路感染症のような性器以外の感染は、狭義の産褥熱には含めない。
医学生医学生
つまり産道の傷に細菌が感染して起こる熱、ということですね。産道というと、会陰切開の傷がまず思い浮かびます。
ドクタードクター
会陰の創部感染は確かに起こりうる。でも外陰の傷は目で見て確認でき、処置もしやすいから、重症化する前に対応できることが多い。頻度の面でも主役ではないんだ。では、分娩後の産道でいちばん大きな傷はどこだと思う?
医学生医学生
胎盤が剥がれたあとの子宮の内側でしょうか。
ドクタードクター
その通り。胎盤剥離面は血管が露出した広い創面だ。しかも産褥期は子宮頸管が開いていて、子宮内には悪露がたまる。悪露は血液や分泌物だから、細菌にとっては格好の培地になる。腟や頸管にいる常在菌が上行して、この広い創面に感染する。だから最も多い感染巣は子宮内膜、つまり産褥熱の大部分は産褥子宮内膜炎なんだ。
医学生医学生
腟や子宮頸管も細菌がいる場所なので、そこ自体が感染巣になりやすいのかと思っていました。
ドクタードクター
いい疑問だね。腟壁裂傷や頸管裂傷が感染の入り口になることはある。ただ、腟は常在菌の「供給源」、頸管は細菌が子宮内へ上がっていく「通り道」という役割が大きく、それ自体が主な感染巣になることは少ない。問題になるのは、細菌が広い創面をもつ子宮内膜にたどり着いたときなんだ。
医学生医学生
卵管はどうでしょう。病理の講義で、骨盤内炎症性疾患は卵管炎が中心だと習いました。
ドクタードクター
性感染症に由来する骨盤内炎症性疾患ではそうだね。でも産褥熱の場合、卵管などの付属器炎は、子宮内膜炎が子宮筋層、子宮傍結合組織へと広がった先で二次的に起こるものがほとんど。最初の感染巣になることはまれだ。進展の順番は、子宮内膜炎から筋層炎、傍結合組織炎、付属器炎、骨盤腹膜炎、そして敗血症へと考えると整理しやすい。
医学生医学生
出発点は子宮内膜で、ほかの部位はそこからの波及か、頻度の低い局所感染ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。では臨床像も押さえよう。産褥子宮内膜炎では、発熱に加えて子宮の圧痛、悪臭のある膿性の悪露、子宮復古不全がみられる。子宮復古不全は、子宮が大きく柔らかいまま戻らない状態だ。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、産褥回診のときに子宮底の高さと悪露の性状を毎日チェックしていたのは、そのためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。危険因子では帝王切開が最大で、経腟分娩よりリスクが大きく高まる。ほかに前期破水や長時間の破水、遷延分娩、頻回の内診、胎盤用手剥離、胎盤・卵膜遺残なども重要だ。
医学生医学生
原因菌は何が多いんですか。
ドクタードクター
腟・頸管や腸管由来の菌による複数菌感染が多い。大腸菌などのグラム陰性桿菌、B群溶血性レンサ球菌、腸球菌、バクテロイデスなどの嫌気性菌だね。だから治療は嫌気性菌もカバーする広域抗菌薬が基本で、子宮収縮薬で悪露の排出を促し、遺残があれば除去する。特に注意したいのがA群溶血性レンサ球菌で、急激に進行して劇症型溶血性レンサ球菌感染症を起こすことがある。
医学生医学生
抗菌薬を使っても熱が下がらない場合はどう考えますか。
ドクタードクター
膿瘍形成や、骨盤内血栓性静脈炎の合併を考える。それから、産褥期の発熱では乳腺炎、腎盂腎炎、帝王切開創の感染、深部静脈血栓症なども並行して評価することが大切だ。最後に歴史の話をひとつ。19世紀にゼンメルワイスは、医師が手指を消毒するだけで産褥熱による死亡が大きく減ることを示した。手指衛生の原点は、まさにこの病気なんだよ。
医学生医学生
OSCEで手指衛生を何度も練習させられた理由が、少し実感できました。

まとめ

産褥熱は、分娩後24時間以降、産褥10日以内に38℃以上の発熱が2日以上続くもので、産道の創傷への細菌感染が原因です。最も多い感染巣は子宮内膜で、血管が露出した胎盤剥離面に、開いた頸管を通って腟・頸管の常在菌が上行し、悪露を培地として増殖することで産褥子宮内膜炎が起こります。外陰・腟・頸管の局所感染は頻度が低く、卵管などの付属器炎は子宮内膜炎からの二次的な波及がほとんどです。発熱、子宮圧痛、悪臭のある悪露、子宮復古不全が典型的な所見で、帝王切開が最大の危険因子、原因菌は嫌気性菌を含む複数菌であり、A群溶連菌による劇症化には特に注意が必要です。感染が「どこから始まり、どう広がるか」を解剖と病態から理解しておくことが、産褥期の発熱を的確に評価する土台になります。

解答・解説

正解はdです

産褥熱とは

産褥熱は、分娩の際に生じた産道(性器)の創傷に細菌が感染して起こる発熱性疾患である。日本では、分娩終了後24時間以降、産褥10日以内に、38℃以上の発熱が2日以上続くものと定義される。分娩後24時間以内の発熱は、脱水や分娩時の侵襲による一過性のものが多いため、定義から除かれている。また乳腺炎や尿路感染症など性器以外の感染による発熱は、産褥期に起こっても狭義の産褥熱には含めない。

最も多い感染巣を考える

胎盤が剥がれた後の子宮内面(胎盤剥離面)は、血管が露出した大きな創面になっている。さらに産褥期は子宮頸管が開いており、悪露(子宮内から排出される血液や分泌物)が細菌の格好の培地となる。このため、腟や子宮頸管に常在する細菌が子宮内へ上行し、子宮内膜に感染を起こしやすい。産褥熱の感染巣として最も多いのは子宮内膜であり、産褥熱の大部分は産褥子宮内膜炎である。 子宮内膜炎が進むと、炎症は子宮筋層(子宮筋層炎)、子宮傍結合組織、付属器(卵管・卵巣)、骨盤腹膜へと広がり、さらには敗血症や骨盤内血栓性静脈炎に至ることもある。つまり、他の部位の感染は多くの場合、子宮内膜炎から二次的に波及したものであり、出発点としては子宮内膜が圧倒的に多い。

選択肢考察

  1. ×a.  外陰

    会陰切開創や会陰裂傷に感染が起こることはあるが、局所の発赤・腫脹・疼痛が主体で、産褥熱の感染巣としての頻度は子宮内膜に比べて低い。外陰の創部は目で見て確認・処置がしやすく、重症化する前に対応できることが多い。

  2. ×b.  腟

    腟には常在菌が存在し、分娩時の腟壁裂傷が感染の入り口となることはある。しかし腟そのものが産褥熱の主な感染巣となることは少なく、腟の細菌は子宮内へ上行して子宮内膜炎を起こす供給源としての役割が大きい。

  3. ×c.  子宮頸管

    分娩時の頸管裂傷が感染の入り口となることはあるが、子宮頸管は主に腟から子宮内へ細菌が上行する通り道であり、頸管自体が産褥熱の主な感染巣となることは少ない。感染が問題となるのは、頸管を通過した細菌が広い創面をもつ子宮内膜に達した場合である。

  4. ○d.  子宮内膜

    胎盤剥離面は血管が露出した広い創面であり、産褥期は頸管が開いて悪露が貯留するため、腟・頸管の常在菌が上行して感染を起こしやすい。産褥熱の大部分は子宮内膜炎であり、最も多い感染巣である。症状として、発熱、子宮の圧痛、悪臭のある悪露、子宮復古不全(子宮の収縮が悪く、大きく柔らかいまま戻らない状態)がみられる。帝王切開後は経腟分娩後に比べて発症の危険が大きく高まる。

  5. ×e.  卵管

    卵管の炎症(付属器炎)は、多くの場合、子宮内膜炎や子宮筋層炎が進展した結果として起こる二次的な病変である。卵管が最初の感染巣となることはまれであり、最も多い感染巣とはいえない。

産褥熱の定義

分娩終了後24時間以降、産褥10日以内に、38℃以上の発熱が2日以上続くもの。原因は産道の創傷からの細菌感染(産褥感染症)である。

病態の広がり

子宮内膜炎 → 子宮筋層炎 → 子宮傍結合組織炎 → 付属器炎 → 骨盤腹膜炎 → 汎発性腹膜炎・敗血症、という順に進展しうる。骨盤内血栓性静脈炎を合併すると、抗菌薬に反応しにくい発熱が続くことがある。

原因菌

腟・頸管や腸管由来の菌による複数菌感染が多い。大腸菌などのグラム陰性桿菌、B群溶血性レンサ球菌(GBS)、腸球菌、バクテロイデスなどの嫌気性菌が代表的である。A群溶血性レンサ球菌による感染は急激に進行して劇症型溶血性レンサ球菌感染症(トキシックショック様症候群)を起こすことがあり、特に注意を要する。

危険因子

帝王切開(最大の危険因子)、前期破水・長時間の破水、遷延分娩、頻回の内診、胎盤用手剥離、胎盤・卵膜遺残、分娩時の大量出血、貧血、肥満、糖尿病など。

症状と所見

発熱、下腹部痛、子宮の圧痛、悪臭のある膿性の悪露、子宮復古不全。重症例では頻脈、血圧低下などの敗血症の徴候を示す。

治療

広域スペクトラムの抗菌薬(嫌気性菌もカバーするもの)を投与する。子宮収縮薬で悪露の排出を促し、胎盤・卵膜の遺残があれば除去する。膿瘍を形成した場合はドレナージを考慮する。

産褥期の発熱で鑑別すべき疾患

乳腺炎(産褥2〜3週頃に多い)、尿路感染症(腎盂腎炎)、帝王切開創の感染、深部静脈血栓症などがある。これらは性器感染ではないため狭義の産褥熱には含まれないが、臨床では並行して評価する。

歴史的背景

19世紀にゼンメルワイスが、医師が手指を消毒することで産褥熱による死亡が大きく減ることを示し、院内感染予防としての手指衛生の重要性を明らかにした。

POINT

・産褥熱:分娩後24時間以降、産褥10日以内に38℃以上の発熱が2日以上続くもの。 ・最も多い感染巣は子宮内膜(産褥子宮内膜炎)で、胎盤剥離面への上行感染による。 ・最大の危険因子は帝王切開。前期破水、遷延分娩、頻回の内診、胎盤遺残も危険因子。 ・所見は発熱、子宮圧痛、悪臭のある悪露、子宮復古不全。 ・原因菌は複数菌(大腸菌、GBS、嫌気性菌など)で、A群溶連菌は劇症化に注意。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。