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ショックの外傷には「太く短く」―肘窩の静脈が第一選択になる理由

第108回医師国家試験 F問題 第10問

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第108回 F問題 第10問

ショックを呈する成人外傷患者において,第一選択となる輸液路はどれか。

  1. a.鎖骨下静脈
  2. b.肘正中皮静脈
  3. c.手背静脈網
  4. d.大腿静脈
  5. e.脛骨骨髄

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ショック状態の成人外傷患者で、最初にどこに輸液路を確保するかを問う問題だ。着眼点は2つ。「どれだけ早く確実に取れるか」と「どれだけ速く大量に入れられるか」。まず、外傷患者のショックの原因として一番多いのは何かな。
医学生医学生
出血による循環血液量減少性ショックだと思います。救急科の実習で、JATECのPrimary surveyのABCDEを教わりました。
ドクタードクター
その通り。Cの循環の段階で、出血源を探すのと並行して静脈路を確保し、加温した細胞外液補充液を急速投与して、必要なら輸血を始める。ここで聞きたいんだけど、大量に速く入れたいなら、どんなルートが有利だと思う?
医学生医学生
重症なので、やっぱり中心静脈カテーテルでしょうか。太い血管に直接入るので一番速そうです。
ドクタードクター
直感的にはそう思うよね。でも、ここで思い出してほしいのがポアズイユの法則だ。管を流れる流量は半径の4乗に比例して、長さに反比例する。中心静脈カテーテルは長くて内腔も比較的細いから、上肢の末梢静脈に入れた14〜18G程度の太くて短い留置針のほうが、実はずっと速く輸液できるんだ。
医学生医学生
生理学で習った式が、こんなところで効いてくるんですね。血管の太さより、カテーテルの太さと長さが問題なんだ。
ドクタードクター
そういうこと。しかも中心静脈穿刺は清潔操作の準備に時間がかかるうえ、気胸や動脈誤穿刺といった合併症もある。だから鎖骨下静脈はショック初期の第一選択にならない。循環が落ち着いてから、中心静脈圧の測定や昇圧薬の投与のために入れることが多いよ。
医学生医学生
大腿静脈も中心静脈なので同じ理由ですね。でも鎖骨下より穿刺しやすそうな気もします。
ドクタードクター
手技としては比較的取り組みやすいけれど、準備と時間がかかる点は同じだ。外傷ならではの問題もある。骨盤骨折や腹部の血管損傷があると、下肢から入れた輸液が損傷部から漏れて、心臓まで有効に届かないおそれがあるんだ。
医学生医学生
なるほど、損傷部位より上流から入れないと意味がないんですね。では、普段の点滴でよく使う手背の静脈はどうですか。
ドクタードクター
ショックでは交感神経が緊張して末梢血管が強く収縮するから、細い手背の静脈は虚脱して見えなくなることが多い。入ったとしても細いゲージしか使えず、大量輸液には向かない。
医学生医学生
そうすると、肘窩にある肘正中皮静脈が正解ですね。採血実習でもまずここを探しました。
ドクタードクター
正解だ。肘正中皮静脈は比較的太い表在静脈で、ショックで血管が収縮していても虚脱しにくく、見つけやすく刺しやすい。太い留置針を入れれば短時間で確保でき、急速輸液・輸血にも対応できる。上肢の太い末梢静脈に、18G以上で2本以上の静脈路を取るのが外傷ショックの基本なんだ。
医学生医学生
脛骨の骨髄路はどうでしょう。小児の蘇生の講義で、早く確保できると聞きました。
ドクタードクター
いいところを突くね。骨髄路は骨髄腔の静脈叢を介して体循環に届けられる方法で、短時間で確保できるし、小児や心停止例では特に役立つ。ただ流量に限界があって、加圧しても大量の急速輸液には向かない。だから末梢静脈路が取れないときの代替手段という位置づけだ。同じ側の下肢に骨折があるときには使わないことも覚えておこう。
医学生医学生
第一選択は上肢の太い末梢静脈、取れなければ骨髄路や中心静脈路、という順番ですね。
ドクタードクター
その通り。臨床での注意点も押さえておこう。輸液は39℃程度に加温した細胞外液補充液を、成人なら1〜2L急速投与して反応を見る。外傷では低体温・アシドーシス・凝固障害が「死の三徴」と呼ばれ、冷たい輸液を大量に入れると低体温を助長してしまう。大量出血が疑われれば早めに輸血を始めることも大切だ。
医学生医学生
血圧が下がってから気づくのでは遅い、ということも実習で言われました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。血圧低下はショックの遅い徴候だから、頻脈、冷汗、皮膚の蒼白、毛細血管再充満時間の延長などから早めに認識する。それと、透析用シャントのある腕や、腋窩リンパ節郭清をした側の腕、外傷や熱傷のある四肢は穿刺を避けるという原則も、実際の現場ではとても重要だよ。

まとめ

ショックを呈する成人外傷患者では、出血による循環血液量減少が主体であり、迅速かつ確実に確保でき、大量の輸液・輸血を急速に投与できる輸液路が求められます。ポアズイユの法則により流量はカテーテル半径の4乗に比例し長さに反比例するため、肘正中皮静脈など上肢の太い末梢静脈に太く短い留置針を2本以上入れるのが第一選択です。鎖骨下静脈や大腿静脈などの中心静脈路は時間と合併症のリスクがあり、大腿静脈では骨盤・腹部損傷による輸液の漏出も懸念されます。手背静脈はショック時に虚脱しやすく、骨髄路は末梢路が取れない場合の代替手段で大量輸液には限界があります。加温輸液や早期輸血で外傷死の三徴を防ぐ視点も含め、外傷初期診療の流れを理解しておくことが救急対応の土台になります。

解答・解説

正解はbです

本問は、ショック状態にある成人外傷患者で、最初に確保すべき輸液路(静脈路)がどこかを問う問題である。

外傷によるショックの考え方

外傷患者のショックの大部分は出血による循環血液量減少性ショックである。日本の外傷初期診療ガイドライン(JATEC)では、Primary survey(生命を脅かす異常を見つけて処置する初期評価)の「C:循環」の段階で、出血源の検索と並行して静脈路を確保し、加温した細胞外液補充液(乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液など)を急速に投与し、必要に応じて輸血を開始する。

輸液路に求められる条件

この場面で求められる輸液路の条件は次の2つである。 1. 迅速かつ確実に確保できること:処置に時間がかかれば、その間に循環がさらに悪化する。 2. 大量の輸液・輸血を急速に投与できること。 2について、カテーテルを流れる液体の流量はポアズイユの法則により、内径の4乗に比例し、長さに反比例する。したがって、太くて短いカテーテルほど速く輸液できる。上肢の太い末梢静脈に留置した太径(14〜18G程度)の短い留置針は、細く長い中心静脈カテーテルよりもむしろ速く輸液できる。

結論

以上から、外傷によるショックでは、上肢の比較的太い末梢静脈(肘正中皮静脈など肘窩の静脈)に太い留置針を用い、2本以上の静脈路を確保するのが第一選択となる。肘窩の静脈は、ショックで末梢血管が収縮していても比較的太さが保たれ、視認・触知しやすいため穿刺しやすい。末梢静脈路の確保が困難な場合に、骨髄路や中心静脈路(静脈切開を含む)を次の手段として考える。

選択肢考察

  1. ×a.  鎖骨下静脈

    鎖骨下静脈は中心静脈路である。中心静脈穿刺は清潔操作の準備やカテーテル挿入に時間がかかり、気胸や動脈誤穿刺などの合併症の危険もある。また、中心静脈カテーテルは細く長いため、太い末梢留置針より急速輸液に向かない。ショックの初期対応では第一選択とならず、循環が安定した後や、中心静脈圧測定・昇圧薬投与が必要になった段階で確保することが多い。

  2. ○b.  肘正中皮静脈

    肘正中皮静脈は肘窩を走る比較的太い表在静脈で、ショックで末梢血管が収縮していても虚脱しにくく、見つけやすく穿刺しやすい。太いゲージの短い留置針を入れれば、短時間で確保でき、大量の輸液・輸血を急速に投与できる。中心静脈に近く、投与した薬剤も速やかに中心循環に届く。外傷のショックでは、この上肢の末梢静脈に2本以上の静脈路を確保するのが第一選択である。

  3. ×c.  手背静脈網

    手背の静脈は細く、ショック時には交感神経の緊張による末梢血管収縮のため虚脱して穿刺が難しい。細いゲージの針しか入らないことが多く、急速大量輸液にも不向きである。日常の点滴では用いられる部位だが、外傷によるショックの第一選択にはならない。

  4. ×d.  大腿静脈

    大腿静脈も中心静脈路であり、穿刺・カテーテル留置に準備と時間を要するため、第一選択とはならない。また外傷では、骨盤骨折や腹部の血管損傷があると、下肢から投与した輸液が損傷部位から漏れて循環に有効に届かない可能性がある。上肢の末梢静脈路が確保できない場合の代替手段の一つとして考える。

  5. ×e.  脛骨骨髄

    骨髄路(骨髄内輸液)は、骨髄腔の豊富な静脈叢を通じて薬剤や輸液を体循環に届ける方法で、末梢静脈路の確保が困難または不可能な場合の代替手段として有用である。穿刺は比較的短時間で可能だが、流量に限界があり、加圧しても大量の急速輸液には向かない。そのため第一選択にはならない。脛骨近位部が代表的な穿刺部位だが、同側下肢の骨折では用いない。

外傷初期診療における循環の管理(JATECの概要)

・Primary survey(ABCDE:気道、呼吸、循環、意識、体温・脱衣)で生理学的異常を評価・処置する。 ・循環の評価では、皮膚所見(冷汗・蒼白)、脈拍、血圧、毛細血管再充満時間(CRT)、意識レベルなどからショックを早期に認識する。血圧低下はショックの遅い徴候であり、頻脈や皮膚所見に注意する。 ・上肢の末梢静脈に18G以上の太い留置針で2本以上の静脈路を確保し、39℃程度に加温した細胞外液補充液を1〜2L(小児では20mL/kg)急速投与して反応を評価する。 ・大量出血が疑われる場合は早期に輸血を開始する。低体温・アシドーシス・凝固障害(外傷死の三徴)を避けることが重要である。

末梢静脈路確保が困難な場合の代替手段

・骨髄路:脛骨近位部、上腕骨近位部などに骨髄針を刺入する。短時間で確保でき、小児や心停止例で特に有用。 ・中心静脈路:大腿静脈、鎖骨下静脈、内頸静脈など。 ・静脈切開:伏在静脈などを切開して直接カテーテルを挿入する。

末梢静脈穿刺を避けるべき部位

・下肢の静脈(血栓症のリスク、外傷では骨盤・腹部損傷の影響を受ける) ・透析用シャントのある腕 ・熱傷・外傷・感染などの病変部位の四肢 ・乳癌手術で腋窩リンパ節郭清を行った側の上肢(リンパ浮腫の誘発・悪化の懸念)

ポアズイユの法則

流量は管の半径の4乗に比例し、長さと粘度に反比例する。そのため、急速輸液には「太く短い」カテーテルが有利である。

POINT

・外傷によるショックの輸液路の第一選択は、上肢の比較的太い末梢静脈(肘正中皮静脈など)に太い留置針で2本以上確保すること。 ・流量は内径の4乗に比例し長さに反比例するため、太く短い末梢留置針は中心静脈カテーテルより急速輸液に有利である。 ・中心静脈穿刺は時間と合併症のリスクがあり、ショック初期の第一選択ではない。 ・手背の静脈はショック時に虚脱して穿刺困難。 ・骨髄路は末梢静脈路が確保できないときの代替手段で、大量輸液には限界がある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。