ショックの外傷には「太く短く」―肘窩の静脈が第一選択になる理由
第108回医師国家試験 F問題 第10問
国試問題にチャレンジ
ショックを呈する成人外傷患者において,第一選択となる輸液路はどれか。
- a.鎖骨下静脈
- b.肘正中皮静脈
- c.手背静脈網
- d.大腿静脈
- e.脛骨骨髄
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ショックを呈する成人外傷患者では、出血による循環血液量減少が主体であり、迅速かつ確実に確保でき、大量の輸液・輸血を急速に投与できる輸液路が求められます。ポアズイユの法則により流量はカテーテル半径の4乗に比例し長さに反比例するため、肘正中皮静脈など上肢の太い末梢静脈に太く短い留置針を2本以上入れるのが第一選択です。鎖骨下静脈や大腿静脈などの中心静脈路は時間と合併症のリスクがあり、大腿静脈では骨盤・腹部損傷による輸液の漏出も懸念されます。手背静脈はショック時に虚脱しやすく、骨髄路は末梢路が取れない場合の代替手段で大量輸液には限界があります。加温輸液や早期輸血で外傷死の三徴を防ぐ視点も含め、外傷初期診療の流れを理解しておくことが救急対応の土台になります。
解答・解説
正解はbです
本問は、ショック状態にある成人外傷患者で、最初に確保すべき輸液路(静脈路)がどこかを問う問題である。
外傷によるショックの考え方
外傷患者のショックの大部分は出血による循環血液量減少性ショックである。日本の外傷初期診療ガイドライン(JATEC)では、Primary survey(生命を脅かす異常を見つけて処置する初期評価)の「C:循環」の段階で、出血源の検索と並行して静脈路を確保し、加温した細胞外液補充液(乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液など)を急速に投与し、必要に応じて輸血を開始する。
輸液路に求められる条件
この場面で求められる輸液路の条件は次の2つである。 1. 迅速かつ確実に確保できること:処置に時間がかかれば、その間に循環がさらに悪化する。 2. 大量の輸液・輸血を急速に投与できること。 2について、カテーテルを流れる液体の流量はポアズイユの法則により、内径の4乗に比例し、長さに反比例する。したがって、太くて短いカテーテルほど速く輸液できる。上肢の太い末梢静脈に留置した太径(14〜18G程度)の短い留置針は、細く長い中心静脈カテーテルよりもむしろ速く輸液できる。
結論
以上から、外傷によるショックでは、上肢の比較的太い末梢静脈(肘正中皮静脈など肘窩の静脈)に太い留置針を用い、2本以上の静脈路を確保するのが第一選択となる。肘窩の静脈は、ショックで末梢血管が収縮していても比較的太さが保たれ、視認・触知しやすいため穿刺しやすい。末梢静脈路の確保が困難な場合に、骨髄路や中心静脈路(静脈切開を含む)を次の手段として考える。
選択肢考察
- ×a. 鎖骨下静脈
鎖骨下静脈は中心静脈路である。中心静脈穿刺は清潔操作の準備やカテーテル挿入に時間がかかり、気胸や動脈誤穿刺などの合併症の危険もある。また、中心静脈カテーテルは細く長いため、太い末梢留置針より急速輸液に向かない。ショックの初期対応では第一選択とならず、循環が安定した後や、中心静脈圧測定・昇圧薬投与が必要になった段階で確保することが多い。
- ○b. 肘正中皮静脈
肘正中皮静脈は肘窩を走る比較的太い表在静脈で、ショックで末梢血管が収縮していても虚脱しにくく、見つけやすく穿刺しやすい。太いゲージの短い留置針を入れれば、短時間で確保でき、大量の輸液・輸血を急速に投与できる。中心静脈に近く、投与した薬剤も速やかに中心循環に届く。外傷のショックでは、この上肢の末梢静脈に2本以上の静脈路を確保するのが第一選択である。
- ×c. 手背静脈網
手背の静脈は細く、ショック時には交感神経の緊張による末梢血管収縮のため虚脱して穿刺が難しい。細いゲージの針しか入らないことが多く、急速大量輸液にも不向きである。日常の点滴では用いられる部位だが、外傷によるショックの第一選択にはならない。
- ×d. 大腿静脈
大腿静脈も中心静脈路であり、穿刺・カテーテル留置に準備と時間を要するため、第一選択とはならない。また外傷では、骨盤骨折や腹部の血管損傷があると、下肢から投与した輸液が損傷部位から漏れて循環に有効に届かない可能性がある。上肢の末梢静脈路が確保できない場合の代替手段の一つとして考える。
- ×e. 脛骨骨髄
骨髄路(骨髄内輸液)は、骨髄腔の豊富な静脈叢を通じて薬剤や輸液を体循環に届ける方法で、末梢静脈路の確保が困難または不可能な場合の代替手段として有用である。穿刺は比較的短時間で可能だが、流量に限界があり、加圧しても大量の急速輸液には向かない。そのため第一選択にはならない。脛骨近位部が代表的な穿刺部位だが、同側下肢の骨折では用いない。
外傷初期診療における循環の管理(JATECの概要)
・Primary survey(ABCDE:気道、呼吸、循環、意識、体温・脱衣)で生理学的異常を評価・処置する。 ・循環の評価では、皮膚所見(冷汗・蒼白)、脈拍、血圧、毛細血管再充満時間(CRT)、意識レベルなどからショックを早期に認識する。血圧低下はショックの遅い徴候であり、頻脈や皮膚所見に注意する。 ・上肢の末梢静脈に18G以上の太い留置針で2本以上の静脈路を確保し、39℃程度に加温した細胞外液補充液を1〜2L(小児では20mL/kg)急速投与して反応を評価する。 ・大量出血が疑われる場合は早期に輸血を開始する。低体温・アシドーシス・凝固障害(外傷死の三徴)を避けることが重要である。
末梢静脈路確保が困難な場合の代替手段
・骨髄路:脛骨近位部、上腕骨近位部などに骨髄針を刺入する。短時間で確保でき、小児や心停止例で特に有用。 ・中心静脈路:大腿静脈、鎖骨下静脈、内頸静脈など。 ・静脈切開:伏在静脈などを切開して直接カテーテルを挿入する。
末梢静脈穿刺を避けるべき部位
・下肢の静脈(血栓症のリスク、外傷では骨盤・腹部損傷の影響を受ける) ・透析用シャントのある腕 ・熱傷・外傷・感染などの病変部位の四肢 ・乳癌手術で腋窩リンパ節郭清を行った側の上肢(リンパ浮腫の誘発・悪化の懸念)
ポアズイユの法則
流量は管の半径の4乗に比例し、長さと粘度に反比例する。そのため、急速輸液には「太く短い」カテーテルが有利である。
POINT
・外傷によるショックの輸液路の第一選択は、上肢の比較的太い末梢静脈(肘正中皮静脈など)に太い留置針で2本以上確保すること。 ・流量は内径の4乗に比例し長さに反比例するため、太く短い末梢留置針は中心静脈カテーテルより急速輸液に有利である。 ・中心静脈穿刺は時間と合併症のリスクがあり、ショック初期の第一選択ではない。 ・手背の静脈はショック時に虚脱して穿刺困難。 ・骨髄路は末梢静脈路が確保できないときの代替手段で、大量輸液には限界がある。
