タバコが「原因」になる病気、「なりにくくする」病気―COPDを軸に呼吸器疾患と喫煙を整理する
第108回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
喫煙が発症のリスクファクターとなるのはどれか。
- a.過敏性肺炎
- b.肺胞蛋白症
- c.サルコイドーシス
- d.慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉
- e.肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
COPDは、たばこ煙などの有害物質を長期間吸入することで起こる肺の炎症性疾患で、気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満の気流閉塞を特徴とし、喫煙が最大の危険因子です。過敏性肺炎とサルコイドーシスは免疫反応が病態の中心で、むしろ喫煙者で発症が少ないとされ、肺胞蛋白症は抗GM-CSF自己抗体、LAMはTSC遺伝子変異とエストロゲンが関与するため、いずれも喫煙は確立した危険因子ではありません。喫煙関連の呼吸器疾患には、COPDのほか肺癌、RB-ILD、DIP、肺ランゲルハンス細胞組織球症、特発性肺線維症、自然気胸などがあります。疾患ごとの「本当の原因」を押さえておくことは、鑑別診断だけでなく、禁煙支援をはじめとする予防医学の実践にも直結します。
解答・解説
正解はdです
本問は、呼吸器疾患のうち、喫煙が発症の危険因子(リスクファクター)として確立しているものを選ぶ問題である。
喫煙と呼吸器疾患の関係
たばこの煙には多数の有害物質(酸化物質、タール、一酸化炭素など)が含まれ、気道や肺胞に慢性的な炎症を起こす。この慢性炎症によって、気道壁の肥厚や粘液の過剰分泌、肺胞壁の破壊(肺気腫)が進行し、息を吐き出しにくくなる気流閉塞が生じる。これが慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)であり、喫煙との関係が最も明確な疾患である。 一方で、呼吸器疾患の中には喫煙と関係が乏しいもの、あるいは逆に喫煙者で少ないことが知られているものがある。代表例が過敏性肺炎とサルコイドーシスで、いずれも免疫反応(アレルギーや肉芽腫形成)が病態の中心であり、喫煙による免疫応答の抑制が関係すると考えられている。
解き方
各疾患の原因・病態を思い出し、「喫煙が発症の主な原因として確立しているか」で判断する。COPDの最大の原因は喫煙であり、COPD患者の大多数(約9割)に喫煙歴がある。他の選択肢は、抗原曝露、自己免疫、遺伝子変異など、喫煙以外の原因が病態の中心にある。
選択肢考察
- ×a. 過敏性肺炎
過敏性肺炎は、真菌(トリコスポロンなど)、鳥の羽毛や糞に含まれる蛋白質、細菌、化学物質などの抗原を繰り返し吸入することで感作され、III型・IV型アレルギー反応により肺胞や細気管支に炎症が起こる疾患である。原因は抗原曝露であり、喫煙は危険因子ではない。むしろ喫煙者では発症が少ないことが知られており、喫煙による免疫応答の抑制が関与すると考えられている。
- ×b. 肺胞蛋白症
肺胞蛋白症は、肺胞内にサーファクタント(肺胞表面活性物質)由来の蛋白・脂質が異常に貯留する疾患である。成人例の大部分は自己免疫性で、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する自己抗体が肺胞マクロファージの機能を妨げ、サーファクタントを処理できなくなることが原因である。患者に喫煙者が多いとの報告はあるが、発症の主たる原因はこの自己抗体であり、喫煙がCOPDのように確立した危険因子とはいえない。
- ×c. サルコイドーシス
サルコイドーシスは、肺・縦隔リンパ節(両側肺門リンパ節腫脹:BHL)、眼、皮膚、心臓など全身の臓器に乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が形成される原因不明の疾患である。何らかの抗原に対する過剰な免疫反応(Th1型)が関与すると考えられ、アクネ菌(Cutibacterium acnes)との関連が示唆されている。喫煙者では発症が少ないとする報告が多く(日本では患者の喫煙率が高いとの報告もあるが一定しない)、喫煙は危険因子とはされていない。
- ○d. 慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉
COPDは、たばこ煙を主とする有害物質を長期間吸入することで生じる肺の炎症性疾患で、気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1秒率(FEV1/FVC)が70%未満となる、完全には元に戻らない気流閉塞を特徴とする。最大の危険因子は喫煙であり、患者の大多数に喫煙歴がある。喫煙量(パックイヤー)が多いほど発症リスクが高まり、禁煙は呼吸機能低下の進行を遅らせる最も有効な介入である。喫煙以外にも受動喫煙、大気汚染、職業性の粉じん、α1-アンチトリプシン欠損症(日本ではまれ)などが危険因子となる。
- ×e. 肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉
リンパ脈管筋腫症(LAM:lymphangioleiomyomatosis)は、LAM細胞と呼ばれる平滑筋様の腫瘍細胞が肺やリンパ節(体軸リンパ系)で増殖し、肺に多数の薄壁嚢胞を形成する疾患である。ほぼ妊娠可能年齢の女性に発症し、結節性硬化症の原因遺伝子(TSC1またはTSC2、主にTSC2)の変異が関与する。結節性硬化症に合併する場合と、単独で発症する孤発性の場合がある。女性ホルモン(エストロゲン)が病勢に影響するとされるが、喫煙は危険因子ではない。気胸の反復や乳び胸を契機に見つかることが多い。
喫煙が関連する主な呼吸器疾患
・慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・肺癌(特に扁平上皮癌、小細胞癌で関連が強い) ・呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD) ・剥離性間質性肺炎(DIP) ・肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH):若年〜中年の喫煙者に多く、上肺野優位の結節と嚢胞を形成する。 ・気腫合併肺線維症(CPFE)、特発性肺線維症(IPF)の危険因子 ・自然気胸(喫煙者で発生率が高い)
喫煙者で少ないとされる疾患
・過敏性肺炎 ・サルコイドーシス いずれも免疫反応が病態の中心であり、喫煙による免疫応答の抑制が関与すると考えられている。ただし、喫煙者で発症した場合は重症化・慢性化しやすいとの報告もあり、喫煙を推奨する理由にはならない。
COPDの要点
・定義:たばこ煙などの有害物質の長期吸入曝露による肺の炎症性疾患で、完全には可逆的でない気流閉塞を示す。 ・診断:気管支拡張薬吸入後の1秒率(FEV1/FVC)が70%未満で、他の気流閉塞をきたす疾患を除外する。 ・病型:肺胞壁の破壊が主体の気腫型(気腫優位型)と、気道病変が主体の非気腫型(気道病変優位型)がある。 ・治療:禁煙が最も重要。薬物療法の中心は長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)の吸入である。そのほか呼吸リハビリテーション、インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン接種、進行例では在宅酸素療法を行う。 ・日本では40歳以上の約8.6%(推計500万人以上)がCOPDに該当すると推定されているが、診断・治療を受けているのはごく一部にとどまる。
POINT
・COPDの最大の危険因子は喫煙であり、禁煙が最も有効な予防・治療介入である。 ・喫煙関連の呼吸器疾患:COPD、肺癌、RB-ILD、DIP、肺ランゲルハンス細胞組織球症、IPF、気胸など。 ・過敏性肺炎とサルコイドーシスは、むしろ喫煙者で発症が少ないとされる。 ・肺胞蛋白症(成人の大部分)は抗GM-CSF自己抗体による自己免疫性。 ・LAMは妊娠可能年齢の女性に多く、TSC遺伝子変異が関与する。
