StudyMed医師国家試験

その胸痛、心臓から?―冷汗と圧痛が教える「危険度」と「痛みの出どころ」

第108回医師国家試験 E問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第36問

胸痛の原因を推論する際の考え方として正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.多量の冷汗を伴う胸痛は緊急性が高い。
  2. b.吸気時に増強する胸痛は冠動脈疾患の可能性が高い。
  3. c.胸痛部位に圧痛を示す場合は冠動脈疾患の可能性が低い。
  4. d.夕方に胸痛を訴える場合は冠攣縮性狭心症の可能性が高い。
  5. e.ニトログリセリン錠を舌下投与後1時間で胸痛が軽快しはじめる場合は労作性狭心症の可能性が高い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は特定の症例ではなく、胸痛を前にしたときの「考え方」そのものを問う問題だ。着眼点は2つ。ひとつは「今すぐ動くべき胸痛か」という緊急度、もうひとつは「その痛みがどこから来ているか」という発生源の推定だ。まず、胸痛を訴える患者さんを前にして最初に何を考える?
医学生医学生
原因を絞り込むことより先に、見逃すと命に関わる疾患を除外することだと思います。
ドクタードクター
その通り。急性冠症候群、急性大動脈解離、急性肺血栓塞栓症、緊張性気胸の4つは真っ先に頭に浮かべたい。食道破裂や心タンポナーデも忘れずにね。では、緊急性を見積もるうえで役立つ随伴症状は何だろう。
医学生医学生
救急科の実習で、指導医の先生が真っ先に「冷や汗かいてる?」と聞いていたのが印象に残っています。
ドクタードクター
いいところを見ているね。冷汗は交感神経が強く興奮しているサインで、ショックや末梢循環不全、強い痛みに対する体の反応だ。心筋梗塞や大動脈解離、肺塞栓では多量の冷汗を伴うことが多い。だから冷汗を伴う胸痛は緊急性が高いと判断して、すぐにバイタルと心電図を確認する。顔面蒼白、血圧低下、意識障害、呼吸困難も同じく警告サインだ。
医学生医学生
では次に、痛みの出どころですね。押して痛いかどうかは関係ありますか。
ドクタードクター
大いに関係する。ここで内臓痛と体性痛の区別を思い出してほしい。心筋虚血の痛みは内臓痛で、「締めつけられる」「圧迫される」と表現され、場所を一点で示しにくく、左肩や顎に放散することもある。押しても再現されない。一方、押すと同じ痛みが再現されるなら、皮膚・筋肉・肋骨・肋軟骨・肋間神経といった胸壁由来の体性痛と考えられる。
医学生医学生
生理学の講義で習った内臓痛と体性痛の違いが、こんなふうに臨床で使えるんですね。圧痛があれば冠動脈疾患の可能性は低い、と。
ドクタードクター
そう。肋軟骨炎、肋間神経痛、打撲や肋骨骨折、帯状疱疹の前駆痛などが候補になる。ただし「可能性が低い」であって「否定できる」ではない。危険因子が多い人なら心電図は取っておく、という慎重さは持っておこう。
医学生医学生
吸気で痛みが強くなる場合も、心臓が原因だと思っていました。心臓も胸の中で動くので……。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。吸気で強まる胸痛は、呼吸で動く胸膜や心膜が刺激されて起こる体性痛だ。気胸、胸膜炎、急性心膜炎、胸膜に及んだ肺梗塞を伴う肺塞栓などを考える。心膜炎なら前かがみで楽になり、仰臥位で悪化するのが特徴だ。虚血の痛みは呼吸でほとんど変わらないから、吸気で増強するなら冠動脈疾患の可能性はむしろ下がる。
医学生医学生
時間帯の話もありましたね。冠攣縮性狭心症は夕方に多いんでしたっけ。
ドクタードクター
惜しい、そこは逆だよ。冠攣縮性狭心症は夜間から早朝、特に明け方の安静時に起こりやすい。自律神経の日内変動や血管内皮機能が関わるとされ、喫煙・飲酒・寒冷・過換気も誘因になる。発作時にST上昇を示すものは異型狭心症と呼ばれる。「夜中から明け方に、安静にしているのに胸が苦しくなる」というのが典型的な訴えだ。
医学生医学生
CBTの問題で「早朝の安静時胸痛」から冠攣縮を選ぶ問題を解いたのを思い出しました。では、ニトログリセリンの効き方はどう考えますか。
ドクタードクター
ニトログリセリンは舌下粘膜から速やかに吸収されて、1〜2分で効いてくる。労作性狭心症の発作は、静脈拡張で前負荷が下がり心筋の酸素需要が減ることで、数分以内に改善するのが普通だ。そもそも労作性狭心症は安静にするだけで数分から15分程度で治まる。投与から1時間たってようやく軽快しはじめるなら、薬が効いたとは考えにくい。
医学生医学生
むしろ30分以上続く胸痛として、心筋梗塞など別の病態を疑うべきなんですね。
ドクタードクター
その通り。まとめると、冷汗を伴う胸痛は緊急性が高い、圧痛で再現される胸痛は冠動脈疾患の可能性が低い、この2つが正しい考え方だ。発展として、狭心症の分類と治療の違いも押さえよう。労作性狭心症は器質的狭窄による需要増大型、冠攣縮性狭心症は攣縮による供給低下型で、後者の予防にはカルシウム拮抗薬や硝酸薬を使う。β遮断薬の単独投与は攣縮を悪化させうるので避けるのがポイントだ。
医学生医学生
同じ狭心症でも、機序が違えば薬の選び方も変わるんですね。
ドクタードクター
そう。そして臨床で大切なのは、典型的でない訴えを軽視しないこと。高齢者や糖尿病の患者さんでは、心筋梗塞でも胸痛がはっきりしないことがある。病歴の特徴は確率を上げ下げする道具であって、最終判断は心電図やトロポニン、画像と組み合わせて行う、という姿勢を忘れないでほしい。

まとめ

胸痛の診療では、まず急性冠症候群、急性大動脈解離、急性肺血栓塞栓症、緊張性気胸などの致死的疾患を念頭に置き、緊急度を見積もることが出発点です。多量の冷汗は交感神経の強い興奮やショックを示す警告サインであり、冷汗を伴う胸痛は緊急性が高いと判断します。心筋虚血の痛みは局在のあいまいな内臓痛で、押しても再現されないため、圧痛で再現される胸痛は胸壁由来の体性痛と考えられ冠動脈疾患の可能性は低くなります。吸気で増強する痛みは胸膜・心膜由来、冠攣縮性狭心症は夜間〜早朝の安静時に好発し、ニトログリセリンは数分以内に効くため、効かない・長く続く胸痛は心筋梗塞などを疑います。痛みの性質・時間帯・随伴症状・治療反応を組み合わせて推論する力は、救急外来での初期対応の土台となります。

解答・解説

正解はa, cです

胸痛は日常診療で頻度の高い訴えであり、原因は心血管・呼吸器・消化器・胸壁(筋骨格・皮膚・神経)・心因性と多岐にわたる。診察ではまず、見逃すと短時間で死亡しうる疾患を優先して考える。代表的なものは急性冠症候群(ACS:急性心筋梗塞と不安定狭心症)、急性大動脈解離、急性肺血栓塞栓症、緊張性気胸であり、特発性食道破裂や心タンポナーデも重要である。

病歴・身体所見から推論するときの着眼点

・随伴症状とバイタルサイン: 冷汗、顔面蒼白、血圧低下、意識障害、呼吸困難はショックや重篤な病態を示す警告サインである。 ・痛みの性質と誘因: 狭心症や心筋梗塞の痛みは心筋虚血による内臓痛で、「締めつけられる」「圧迫される」と表現され、部位を一点で示しにくく、左肩・左腕・顎へ放散することがある。呼吸・体位・圧迫で痛みが変化する場合は、胸膜・心膜・胸壁など体性痛の要素を考える。 ・発症時間帯: 労作時か、安静時か、夜間から早朝か。 ・持続時間と治療反応: 狭心症発作は数分〜15分程度で治まり、ニトログリセリン舌下で数分以内に改善する。30分以上続く場合は心筋梗塞を考える。 本問では、これらの基本的な考え方を正しく述べた選択肢を2つ選ぶ。冷汗は重篤な病態のサインであり(a)、圧痛のある胸痛は胸壁由来の体性痛を示唆するので冠動脈疾患の可能性は低い(c)。

選択肢考察

  1. ○a.  多量の冷汗を伴う胸痛は緊急性が高い。

    冷汗は交感神経が強く興奮したときに生じる症状で、心拍出量の低下や強い痛みに対する生体の反応を示す。急性心筋梗塞、急性大動脈解離、急性肺血栓塞栓症などでは、心原性あるいは閉塞性のショックや末梢循環不全を伴って多量の冷汗がみられることが多い。したがって冷汗を伴う胸痛は、重篤な疾患を念頭に置き、心電図・バイタルサインの確認などを直ちに行うべき緊急性の高い状態と判断する。

  2. ×b.  吸気時に増強する胸痛は冠動脈疾患の可能性が高い。

    吸気で強まる胸痛(胸膜痛)は、呼吸に伴って動く胸膜や心膜に炎症・刺激がある場合に起こる体性痛である。気胸、胸膜炎、急性心膜炎(前かがみで軽快し仰臥位で増悪することが多い)、胸膜に達した肺梗塞を伴う肺血栓塞栓症などを考える。気胸では片側の突然の胸痛と呼吸困難が典型的である。冠動脈疾患による虚血性の痛みは呼吸によってほとんど変化しないため、この記述は誤りである。

  3. ○c.  胸痛部位に圧痛を示す場合は冠動脈疾患の可能性が低い。

    押すと痛みが再現される(圧痛がある)場合、痛みの発生源は皮膚・筋肉・肋骨・肋軟骨・肋間神経など胸壁にあると考えられる。これは部位がはっきりした体性痛であり、肋間神経痛、肋軟骨炎(Tietze症候群など)、打撲や肋骨骨折、帯状疱疹の前駆痛などが原因となる。一方、心筋虚血の痛みは内臓痛で、局在があいまいで押しても再現されない。よって圧痛があれば冠動脈疾患の可能性は低くなる。ただし完全に否定できるわけではないため、危険因子や心電図などとあわせて判断する。

  4. ×d.  夕方に胸痛を訴える場合は冠攣縮性狭心症の可能性が高い。

    冠攣縮性狭心症(冠動脈が一過性に強く収縮して虚血を起こす狭心症)は、夜間から早朝の安静時、特に明け方(午前4〜6時頃)に発作が起こりやすいのが特徴である。自律神経の日内変動や血管内皮機能の低下が関与するとされ、喫煙・飲酒・寒冷・過換気も誘因となる。発作中の心電図でST上昇を示すものは異型狭心症と呼ばれる。夕方に多いという特徴はないため誤りである。

  5. ×e.  ニトログリセリン錠を舌下投与後1時間で胸痛が軽快しはじめる場合は労作性狭心症の可能性が高い。

    ニトログリセリンは舌下の粘膜から速やかに吸収され、1〜2分で効果が現れる。労作性狭心症の発作は、静脈拡張による前負荷の軽減などで心筋酸素需要が下がり、通常は数分以内に改善する。そもそも労作性狭心症の発作は安静にすれば数分〜15分程度で治まる。1時間たってようやく軽快しはじめる胸痛は、ニトログリセリンの効果とは考えにくく、急性心筋梗塞など持続する虚血やほかの疾患を疑うべきである。

胸痛の鑑別:まず除外すべき致死的疾患

・急性冠症候群: 前胸部の締めつけ感・圧迫感が20〜30分以上持続し、冷汗・悪心を伴う。心電図、心筋トロポニンで評価する。 ・急性大動脈解離: 突然発症の引き裂かれるような激痛で、背部へ移動・放散する。血圧の左右差、縦隔拡大、造影CTで評価する。 ・急性肺血栓塞栓症: 突然の呼吸困難と胸痛、頻呼吸、低酸素血症。長期臥床や術後、下肢深部静脈血栓症が危険因子。Dダイマー、造影CTで評価する。 ・緊張性気胸: 片側の呼吸音減弱、気管の偏位、頸静脈怒張、血圧低下。直ちに胸腔の減圧が必要である。

狭心症の分類(発症様式による)

・労作性狭心症: 冠動脈の器質的狭窄により、運動などで酸素需要が増えたときに発作が起こる。安静やニトログリセリンで数分以内に改善する。 ・冠攣縮性狭心症: 冠動脈の攣縮による。夜間〜早朝の安静時に多い。治療・予防にはカルシウム拮抗薬や硝酸薬を用い、β遮断薬の単独投与は攣縮を悪化させうるので避ける。

内臓痛と体性痛

内臓痛は臓器の伸展や虚血で生じ、局在があいまいで、関連痛(放散痛)を伴いやすい。体性痛は皮膚・筋・壁側胸膜などから生じ、部位が明確で、圧迫や体動・呼吸で変化しやすい。胸痛の性質を聞き分けることは、心臓由来かどうかを推定する手がかりになる。

POINT

・冷汗・血圧低下・意識障害を伴う胸痛は緊急性が高い。 ・圧痛で再現される胸痛は胸壁由来(体性痛)で、冠動脈疾患の可能性は低い。 ・吸気で増強する胸痛は胸膜・心膜由来(気胸、胸膜炎、心膜炎、肺塞栓症など)を考える。 ・冠攣縮性狭心症は夜間〜早朝の安静時に好発する。 ・ニトログリセリンは数分以内に効く。効かない・30分以上続く胸痛は心筋梗塞を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。