黒く広がる脳室―胎児超音波で水頭症を見抜く「どこに液体があるか」の視点
第108回医師国家試験 E問題 第23問
国試問題にチャレンジ
妊娠29週の胎児の頭部超音波像を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.水頭症
- b.胎児水腫
- c.脊髄空洞症
- d.正中頸嚢胞
- e.頭蓋骨早期癒合症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胎児頭部超音波で左右の側脳室が低エコーに大きく拡張し、脳実質が圧排されていれば胎児水頭症を考えます。脳室の評価は側脳室三角部の幅で行い、週数にかかわらず10mm以上で脳室拡大、15mm以上で高度拡大です。胎児水腫は皮下浮腫や胸腹水など頭蓋外の液体貯留、脊髄空洞症は脊髄、正中頸嚢胞は頸部、頭蓋骨早期癒合症は頭蓋の形の異常であり、「どの部位に何が起きているか」で鑑別できます。水頭症を見つけたら、脊髄髄膜瘤(Chiari II型奇形)や胎内感染、染色体異常などの合併検索を行い、分娩方法や出生後の治療につなげることが大切です。
解答・解説
正解はaです
画像の読み取り
妊娠29週の胎児頭部の横断像(水平断)である。頭蓋内の大部分を占めるように、左右の側脳室が低エコー(黒く抜けた領域)として大きく拡張しており、周囲の脳実質は薄く圧排されている。頭蓋外、すなわち頭皮の下に液体貯留による肥厚(皮下浮腫)は認めない。
考え方
胎児超音波で脳室の拡大(脳室拡大 ventriculomegaly)を認めた場合、まず胎児水頭症を考える。胎児期の脳室の評価には、側脳室三角部(後角付近)の幅(atrial width)が用いられ、妊娠週数にかかわらず正常はおおむね10mm未満である。10mm以上を脳室拡大とし、15mm以上は高度拡大とされる。本画像のように脳実質を押しのけるほど側脳室が拡張していれば、水頭症と判断できる。 選択肢の他の疾患は、胎児全身の体液貯留(胎児水腫)、脊髄の病変(脊髄空洞症)、頸部の病変(正中頸嚢胞)、頭蓋縫合の異常(頭蓋骨早期癒合症)であり、頭部断面での脳室拡大という所見とは結びつかない。
選択肢考察
- ○a. 水頭症
正しい。画像では左右の側脳室が著明に拡張し、脳実質が菲薄化している。これは脳脊髄液(髄液)の産生・流通・吸収のどこかが障害され、脳室内に髄液が過剰にたまった状態、すなわち水頭症の所見である。胎児期の水頭症の原因には、中脳水道狭窄症、Chiari II型奇形(脊髄髄膜瘤に合併)、Dandy-Walker症候群、胎内感染(トキソプラズマ、サイトメガロウイルスなど)、染色体異常、脳内出血などがある。
- ×b. 胎児水腫
誤り。胎児水腫は、胎児の皮下浮腫・胸水・腹水・心嚢液のうち2か所以上に異常な液体貯留を認める状態である。皮下浮腫は皮膚の厚さ5mm以上を目安とする。頭部の断面であれば頭皮下の著明な肥厚として描出されるはずだが、本画像ではそれを認めず、液体は頭蓋内(脳室内)にたまっている。原因は免疫性(血液型不適合による胎児貧血)と非免疫性(心疾患、不整脈、染色体異常、パルボウイルスB19感染など)に分けられる。
- ×c. 脊髄空洞症
誤り。脊髄空洞症は脊髄の中に髄液を含む空洞ができ、内側から脊髄を圧迫して、宙吊り型の温痛覚障害(解離性感覚障害)や筋萎縮などの神経症状を起こす疾患である。Chiari I型奇形に伴うものが多く、症状は通常、小児期〜成人期に明らかになる。病変は脊髄にあるため、胎児頭部の断面像から診断することはできない。
- ×d. 正中頸嚢胞
誤り。正中頸嚢胞は甲状舌管嚢胞ともいい、甲状腺が舌根部から頸部へ下降する際の通り道(甲状舌管)が消えずに残ってできる嚢胞である。舌骨付近の頸部正中に腫瘤を形成し、嚥下や舌の突出で上下に動くのが特徴である。病変部位が頸部であり、頭蓋内の脳室拡大とは関係しない。
- ×e. 頭蓋骨早期癒合症
誤り。頭蓋骨早期癒合症は、1本または複数の頭蓋縫合が本来より早く癒合してしまうため、癒合した縫合と直角方向への頭蓋の成長が妨げられ、頭蓋変形や頭蓋内圧亢進をきたす疾患である。最も多いのは矢状縫合の早期癒合による舟状頭(前後に長い頭)である。Crouzon症候群やApert症候群など症候群性のものもある。主な所見は頭蓋の形の異常であり、本画像のような著明な脳室拡大は特徴ではない。
胎児脳室拡大の評価
・側脳室三角部の幅(atrial width)を、頭部横断面で測定する。妊娠中期以降、正常ではほぼ一定で10mm未満。 ・10〜15mm:軽度〜中等度の脳室拡大(予後は比較的良好なことが多いが、他の異常の合併検索が必要) ・15mm以上:高度脳室拡大(水頭症として扱う) ・脳室拡大を見つけたら、脊髄髄膜瘤(二分脊椎)などの合併奇形、染色体異常、胎内感染の検索を行う。脊髄髄膜瘤では、後頭蓋窩の小脳が変形する「バナナサイン」や前頭骨が陥凹する「レモンサイン」が知られている。
胎児水頭症の管理
・経時的に超音波やMRIで評価する。 ・児頭が大きくなりすぎると経腟分娩が困難になり、帝王切開を選択することがある。 ・出生後は脳室腹腔シャント術(V-Pシャント)や内視鏡的第三脳室開窓術などが行われる。
胎児の頭部に関連した超音波計測
・児頭大横径(BPD: biparietal diameter)は胎児の発育評価や妊娠週数推定に用いる代表的な計測値で、透明中隔腔や視床が描出される断面で測定する。水頭症では週数に比べてBPDが大きくなることがある。
POINT
・胎児頭部超音波で側脳室が低エコーに大きく拡張 → 胎児水頭症。 ・脳室拡大は側脳室三角部の幅10mm以上、15mm以上で高度。 ・胎児水腫は皮下浮腫・胸水・腹水・心嚢液のうち2か所以上の液体貯留(皮下浮腫は皮膚厚5mm以上)。 ・水頭症を見たら脊髄髄膜瘤(Chiari II型奇形)、胎内感染、染色体異常の合併を探す。
