StudyMed医師国家試験

中心窩にぽっかり空いた穴―黄斑円孔は「引っ張り」を外して閉じる

第108回医師国家試験 D問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第38問

71歳の男性。左眼で物がゆがんで見えることを主訴に来院した。3か月前に気付いたが回復しないという。矯正視力は右1.2,左0.4。左眼の眼底写真(A)と光干渉断層法〈OCT〉の結果(B)を別に示す。  左眼の治療法として適切なのはどれか。

第108回 D問題 第38問の問題画像
  1. a.硝子体手術
  2. b.放射線治療
  3. c.網膜光凝固
  4. d.抗凝固薬内服
  5. e.炭酸脱水酵素阻害薬内服

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者が「物がゆがんで見える」と訴えてきたときに、どの黄斑疾患かを見極め、治療法を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、眼底写真とOCTが示す黄斑中心部の形の変化。そして、その病変がなぜ生じたのかという成り立ちだよ。
医学生医学生
ゆがんで見える、つまり変視症と視力低下なので、黄斑の病気ですよね。高齢者なら加齢黄斑変性がまず浮かびました。
ドクタードクター
黄斑に目を付けたのはいいね。変視症と中心視力の低下は、網膜の中心にある黄斑、とくにその真ん中の中心窩の障害を示すサインだ。ただ、高齢者の変視症の鑑別は加齢黄斑変性だけじゃない。黄斑上膜、黄斑浮腫、黄斑円孔も挙げておこう。
医学生医学生
眼科の臨床実習で、Amslerチャートの格子がゆがむと教わりました。でも、どの病気でもゆがむなら画像で区別するしかないですね。
ドクタードクター
そこでOCTの出番だ。近赤外光で網膜の断面を描き出す検査で、黄斑疾患の診断には欠かせない。今回のOCTでは、中心窩で網膜が全層にわたって途切れていて、穴の縁の網膜は嚢胞状に厚くなって持ち上がっている。眼底写真でも、黄斑の中心に境界のはっきりした丸い赤い欠損が見える。
医学生医学生
網膜に本当に穴が空いているということは、黄斑円孔ですか。
ドクタードクター
その通り。全層欠損をOCTで確認できれば黄斑円孔と診断できる。加齢黄斑変性ならドルーゼンや網膜下出血、脈絡膜新生血管が見えるはずだし、黄斑上膜なら網膜表面に膜が張り付いてしわが寄るけれど、網膜は全層では欠けていない。黄斑浮腫は糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などを背景に網膜内に液体がたまる病態で、今回は背景疾患がない。
医学生医学生
そもそも、どうして網膜に穴が空くんでしょうか。外傷もないのに不思議です。
ドクタードクター
いい疑問だね。主役は硝子体だ。年をとると硝子体はゲル状から液化して縮み、網膜からはがれていく。これが後部硝子体剥離。ところが中心窩に硝子体がくっついたままだと、縮む硝子体が中心窩を前後や横方向に引っ張り、ついには穴が空いてしまう。これが特発性黄斑円孔の成り立ちだ。
医学生医学生
原因が引っ張りなら、治療はその引っ張りを取り除くこと、つまり硝子体手術になりますね。
ドクタードクター
正解。硝子体手術が標準治療だ。硝子体を切除して後部硝子体剥離をつくり、牽引を外す。さらに網膜の最内層にある内境界膜をはがして網膜を伸びやすくし、最後に眼内の液体をガスに置き換える。術後はうつむき姿勢を保って、ガスの浮力で円孔の縁を押さえて閉鎖を促すんだ。内境界膜剥離を併用すると閉鎖率は90%以上と高い。
医学生医学生
網膜光凝固は、網膜裂孔のときに使うと習いました。穴なら同じように塞げないんですか。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、ここが大事な違いだ。光凝固はレーザーで網膜を焼いて瘢痕をつくり、周囲を固める治療。網膜裂孔では網膜剥離の予防に、糖尿病網膜症では無灌流領域に使う。でも中心窩を焼けば中心視力が不可逆的に失われるし、穴そのものを閉じることもできない。だから黄斑円孔には行わないんだ。
医学生医学生
放射線治療や薬の内服は、病態からして効きそうにないですね。
ドクタードクター
その通り。眼科の放射線治療は脈絡膜悪性黒色腫などの腫瘍が対象で、機械的な牽引でできた穴には意味がない。抗凝固薬は血栓・塞栓症の予防や治療に使う薬で、黄斑円孔の病態とは関係ない。炭酸脱水酵素阻害薬は房水産生を抑えて眼圧を下げる薬で、急性緑内障発作などに使う。黄斑円孔を閉じる内服薬は存在しないと覚えておこう。
医学生医学生
ちなみに、黄斑円孔は全部すぐ手術するんですか。
ドクタードクター
病期によるよ。Gass分類では、1期は中心窩に嚢胞や剥離ができた切迫円孔の段階で、自然に治ることもあるから経過観察が主体。2期以降、全層円孔になったら手術の適応だ。今回は3か月続いて視力が0.4まで落ちているから、自然閉鎖は期待しにくく手術が妥当だね。
医学生医学生
術後のうつむき姿勢は、患者さんにとってかなり大変そうです。
ドクタードクター
本当にそうで、数日間ほぼ下を向いて過ごすので、事前の説明と理解が欠かせない。ほかに術後の白内障進行、網膜剥離、眼圧上昇といった合併症にも注意が必要で、高齢者では白内障手術を同時に行うことも多い。それから、強度近視の人に生じる黄斑円孔は網膜剥離を合併しやすく、これも硝子体手術の対象になる。もう片方の眼にも起こりうるので、健眼のチェックも忘れないようにしよう。

まとめ

高齢者の変視症と中心視力低下は黄斑疾患を示し、加齢黄斑変性・黄斑上膜・黄斑浮腫・黄斑円孔を鑑別します。OCTで中心窩の網膜全層欠損を認めれば黄斑円孔と診断でき、その本態は加齢で液化・収縮した硝子体による中心窩の牽引です。治療は硝子体手術で、硝子体切除と内境界膜剥離で牽引を解除し、ガスタンポナーデと術後のうつむき姿勢で円孔の閉鎖を図り、高い閉鎖率が得られます。網膜光凝固は中心視力を失わせるうえ円孔を閉じられず、放射線治療や内服薬にも効果はありません。病態の成り立ちから治療法を導く考え方は、ほかの網膜硝子体疾患を理解するうえでも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・71歳の男性。左眼の変視症(物がゆがんで見える)を主訴とし、3か月前から持続して改善しない。一過性の障害ではなく、器質的な病変が考えられる。 ・矯正視力は右1.2、左0.4であり、左眼のみ中心視力が低下している。 ・変視症と中心視力低下は、網膜の中心部である黄斑(特にその中央の中心窩)の障害を示す典型的な症状である。 ・眼底写真(A)では黄斑中心部に境界明瞭な円形の赤い欠損様病変がみられる。光干渉断層法(OCT:近赤外光を用いて網膜の断面を高解像度で描出する検査)(B)では、中心窩で網膜が全層にわたって途切れており、円孔の縁の網膜は嚢胞状に肥厚して持ち上がっている。

診断へのプロセス

高齢者に変視症と視力低下をきたす黄斑疾患として、加齢黄斑変性、黄斑上膜(黄斑前膜)、黄斑浮腫、黄斑円孔などが鑑別に挙がる。 ・加齢黄斑変性:ドルーゼン、網膜下出血、脈絡膜新生血管、網膜色素上皮剥離などがみられるはずだが、本例ではこれらを認めない。 ・黄斑上膜:網膜表面に膜状組織ができ、網膜にしわ(皺襞)が寄る。偽円孔を呈することもあるが、OCTでは網膜の全層欠損はなく、網膜表面に付着した高反射の膜がみられる。 ・黄斑浮腫:糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、白内障術後などを背景に網膜内に液体が貯留する。本例には背景疾患がなく、全層欠損を説明できない。 ・黄斑円孔:OCTで中心窩の網膜全層欠損を確認すれば診断が確定する。 以上から、左眼の(特発性)黄斑円孔と診断する。

設問の考え方

特発性黄斑円孔は、加齢に伴い液化・収縮した硝子体が中心窩に接線方向・前後方向の牽引をかけることで生じる。自然閉鎖することもあるが、3か月間持続して視力0.4まで低下した全層円孔では自然閉鎖は期待しにくく、治療の適応となる。有効な薬物療法はなく、硝子体手術によって牽引を解除し円孔を閉鎖させることが標準治療である。

選択肢考察

  1. ○a.  硝子体手術

    黄斑円孔に対する標準治療である。硝子体を切除して後部硝子体剥離を作成し、黄斑への硝子体牽引を取り除く。さらに網膜の最内層にある内境界膜(ILM)を剥離して網膜の伸展性を高め、最後に眼内の液体をガス(空気やSF6などの膨張性ガス)に置き換える(ガスタンポナーデ)。術後はうつむき姿勢を一定期間保ち、ガスの浮力と表面張力で円孔縁を押さえて閉鎖を促す。内境界膜剥離の併用により円孔閉鎖率は90%以上と高く、閉鎖後は変視症や視力の改善が期待できる。

  2. ×b.  放射線治療

    眼科領域の放射線治療は、脈絡膜悪性黒色腫などの眼内悪性腫瘍や眼窩リンパ腫などが対象である。黄斑円孔は硝子体の機械的な牽引によって生じる網膜の欠損であり、放射線治療の適応はない。

  3. ×c.  網膜光凝固

    網膜光凝固はレーザーで網膜を凝固・瘢痕化させる治療で、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の無灌流領域、網膜裂孔(網膜剥離の予防)などに用いる。かつては黄斑円孔の周囲を凝固して網膜剥離を予防する試みがあったが、中心窩を凝固すると中心視力が不可逆的に失われるうえ、円孔自体を閉鎖させることはできないため、現在は行われない。

  4. ×d.  抗凝固薬内服

    抗凝固薬は血栓・塞栓症の予防や治療に用いる薬剤であり、網膜動脈閉塞症や静脈閉塞症の背景にある血栓性疾患の管理などで問題になることはあるが、黄斑円孔の病態(硝子体牽引による網膜欠損)には作用しない。黄斑円孔に有効な内服薬は存在しない。

  5. ×e.  炭酸脱水酵素阻害薬内服

    炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミドなど)は毛様体での房水産生を抑えて眼圧を下げる薬剤で、急性緑内障発作などに用いられる。網膜色素上皮のポンプ機能を高める作用から一部の嚢胞様黄斑浮腫に用いられることもあるが、黄斑円孔を閉鎖させる効果はなく、適応はない。

特発性黄斑円孔の概要

・中高年(60歳代に多い)に好発し、女性にやや多い。多くは片眼性だが、他眼にも生じることがある。 ・発症機序:加齢で硝子体が液化・収縮し、後部硝子体剥離が進む過程で、中心窩に癒着した硝子体皮質が網膜を牽引して円孔を生じる。 ・症状:変視症、中心視力低下、中心暗点。Amslerチャート(方眼紙状の検査表)で中心のゆがみや欠損を自覚する。 ・病期分類(Gass分類):1期(切迫円孔、中心窩の嚢胞・剥離)、2期(小さな全層円孔)、3期(円孔の完成、後部硝子体剥離は未完成)、4期(後部硝子体剥離が完成した全層円孔)。1期は自然軽快することがあり経過観察が主体で、2期以降が手術の適応となる。 ・眼底所見:中心窩に境界明瞭な円形の赤色病変、周囲の網膜剥離による灰白色の輪(fluid cuff)、円孔底の黄色小点など。 ・OCTは診断と病期判定に最も有用な検査であり、黄斑上膜による偽円孔や分層円孔(網膜の一部の層のみの欠損)との鑑別も容易である。

硝子体手術の流れ

硝子体切除 → 後部硝子体剥離の作成 → 内境界膜剥離 → 液空気置換・ガスタンポナーデ → 術後うつむき姿勢。術後の合併症として、白内障の進行、網膜剥離、眼圧上昇などがある。高齢者では白内障手術を同時に行うことも多い。

関連事項

強度近視眼に生じる黄斑円孔は網膜剥離(黄斑円孔網膜剥離)を合併しやすく、これも硝子体手術の適応となる。

POINT

・高齢者の変視症+中心視力低下 → 黄斑疾患(黄斑円孔、黄斑上膜、加齢黄斑変性、黄斑浮腫)を鑑別する。 ・OCTで中心窩の網膜全層欠損 → 黄斑円孔と診断。 ・原因は硝子体による黄斑の牽引。治療は硝子体手術(硝子体切除+内境界膜剥離+ガスタンポナーデ+術後うつむき姿勢)。 ・薬物療法・光凝固・放射線治療は無効である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。