しびれ・紫斑・赤血球円柱―バラバラの症状をつなぐ「小さな血管」の炎症
第108回医師国家試験 D問題 第33問
国試問題にチャレンジ
76歳の女性。両下肢のしびれ感を主訴に来院した。5週前に両足先のしびれ感を自覚し,その後しびれ感は徐々に上行した。3週前から37℃台の発熱,10日前から両足に紫斑が出現した。5日前からは歩行困難を自覚したため受診した。体温37.2℃。脈拍76/分,整。血圧148/88 mmHg。眼瞼結膜は貧血様である。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。両側の膝下から足先までの痛覚と触覚の低下,両側の足の振動覚と位置覚の低下を認める。徒手筋力テストで右足関節の背屈は2,底屈は4,左足関節の背屈は3,底屈は4と低下している。両側の膝蓋腱反射とアキレス腱反射は消失している。病的反射はない。尿所見:蛋白2+,潜血2+,沈渣に赤血球円柱1~4 / 1視野。血液所見:赤血球318万,Hb 10.1 g/dL,Ht 31%,白血球9,980(分葉核好中球49%,好酸球5%,単球6%,リンパ球40%),血小板21万。血液生化学所見:総蛋白7.4 g/dL,アルブミン3.2 g/dl,IgG 1,980 mg/dL(基準960~1,960),IgA 297 mg/dL(基準110~410),IgM 113 mg/dL(基準65~350),AST 28 IU/L,ALT 16 IU/L,LD 177 IU/L(基準176~353),CK 27 IU/L(基準30~140),尿素窒素21 mg/dL,クレアチニン1.1 mg/dL,Na 135 mEq/L,K 4.4 mEq/L,Cl 98 mEq/L。CRP 2.9 mg/dL。下肢の写真を別に示す。 診断として考えられるのはどれか。

- a.老人性紫斑
- b.Goodpasture症候群
- c.顕微鏡的多発血管炎
- d.巨細胞性動脈炎〈側頭動脈炎〉
- e.アレルギー性肉芽腫性血管炎〈Churg-Strauss症候群〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
発熱・炎症反応に加えて、紫斑、多発性単神経炎を思わせる末梢神経障害、赤血球円柱を伴う糸球体腎炎がそろえば、複数臓器の小さな血管を侵す小型血管炎を考えます。高齢者で気管支喘息や好酸球増多がなく、腎と末梢神経が障害されていれば、日本で最も多いANCA関連血管炎である顕微鏡的多発血管炎が第一候補で、MPO-ANCA測定や生検で確定し、肺病変の評価も行います。喘息先行と好酸球増多があれば好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、肺胞出血と腎炎で抗GBM抗体陽性ならGoodpasture症候群と鑑別し、紫斑や糸球体腎炎を起こさない大型血管炎は除外できます。症状を「侵される血管の太さ」に結びつけて考える習慣は、血管炎全体の理解と早期診断の土台になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・高齢女性に、約5週の経過で足先から上行するしびれ感が出現し、5日前からは歩行困難に至っている。亜急性に進行する経過である。 ・3週前から微熱(37℃台)が続き、CRP 2.9 mg/dLと炎症反応が陽性である。全身性の炎症性疾患を考える手がかりとなる。 ・10日前から両足に紫斑が出現している(下肢の写真で両下腿〜足に紫斑を確認する)。血小板は21万と正常で、凝固異常をうかがわせる所見もないため、血管壁そのものの障害(血管炎)による紫斑が疑われる。 ・神経所見:膝下から足先の痛覚・触覚(表在覚)と、振動覚・位置覚(深部覚)がともに低下し、足関節の背屈・底屈に筋力低下があり、膝蓋腱反射・アキレス腱反射が消失し、病的反射はない。感覚・運動・反射がそろって遠位優位に障害され、上位運動ニューロン徴候がないことから末梢神経障害である。さらに足関節背屈の筋力が右2・左3と左右差があり、背屈優位(腓骨神経領域)に強い障害がみられる点は、血管炎による多発性単神経炎(個々の神経が栄養血管の閉塞で次々に障害される病態)が重なり合った像として矛盾しない。 ・尿所見:蛋白2+、潜血2+に加え、赤血球円柱を認める。赤血球円柱は糸球体からの出血を意味し、糸球体腎炎の存在を強く示す。クレアチニンは1.1 mg/dLだが、高齢女性で筋肉量が少ないこと(CK低値もこれを反映)を考えると腎機能は見かけより低下している可能性がある。 ・軽度の正球性貧血(Hb 10.1 g/dL)とIgGの軽度上昇は慢性炎症を反映すると考えられる。好酸球は5%(約500/μL)で、著明な増多はない。
診断へのプロセス
発熱・炎症反応を伴い、①皮膚(紫斑)、②末梢神経(多発性単神経炎様の末梢神経障害)、③腎(赤血球円柱を伴う糸球体腎炎)という複数の臓器が同時に障害されている。このような多臓器障害をひとつで説明するのは全身性血管炎であり、紫斑と糸球体腎炎が生じていることから、細動脈・毛細血管・細静脈を侵す小型血管炎が最も考えやすい。小型血管炎のうち、気管支喘息の既往や著明な好酸球増多がなく、高齢者に発症し、腎と末梢神経を侵している点から、顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)と診断する。確定のためにはMPO-ANCA(ミエロペルオキシダーゼに対する抗好中球細胞質抗体)の測定、腎生検や皮膚・神経生検による壊死性血管炎の確認を行い、あわせて胸部CTで間質性肺炎や肺胞出血の有無を評価する。
選択肢考察
- ×a. 老人性紫斑
老人性紫斑は、加齢による真皮の膠原線維の減少で血管の支持組織が弱くなり、軽い外力で皮下出血が起こるものである。前腕や手背など日光にさらされる部位に好発し、発熱・炎症反応は伴わない。本例のような進行性の末梢神経障害や、赤血球円柱を伴う糸球体腎炎は説明できない。
- ×b. Goodpasture症候群
Goodpasture症候群は、糸球体基底膜と肺胞基底膜に共通する抗原(Ⅳ型コラーゲンα3鎖)に対する抗糸球体基底膜抗体(抗GBM抗体)によって、急速進行性糸球体腎炎と肺胞出血(血痰・喀血)を来す疾患である。糸球体腎炎は本例にも合うが、末梢神経障害や下肢の紫斑は通常みられない。また呼吸音に異常がなく、肺胞出血を示唆する所見もない。
- ○c. 顕微鏡的多発血管炎
MPAは小型血管を侵すANCA関連血管炎で、高齢者(とくに日本では60〜70歳代)に多く、日本ではANCA関連血管炎の中で最も頻度が高い。発熱・体重減少などの全身症状に加え、壊死性糸球体腎炎(急速進行性糸球体腎炎の原因となる)、肺病変(間質性肺炎・肺胞出血)、多発性単神経炎、皮膚の紫斑などを来す。本例は発熱・CRP上昇に、紫斑、末梢神経障害、赤血球円柱を伴う糸球体腎炎がそろっており、MPAとして最も整合的である。MPO-ANCA陽性が診断の大きな手がかりとなる。
- ×d. 巨細胞性動脈炎〈側頭動脈炎〉
巨細胞性動脈炎は大動脈とその主要分枝(とくに浅側頭動脈などの頸動脈分枝)を侵す大型血管炎で、50歳以上に発症する。拍動性の側頭部痛、側頭動脈の怒張・圧痛、顎跛行(咀嚼時の顎の痛み)、失明に至りうる視力障害、リウマチ性多発筋痛症の合併などが特徴である。小型血管は侵さないため、紫斑や糸球体腎炎は起こさず、本例の所見とは合わない。
- ×e. アレルギー性肉芽腫性血管炎〈Churg-Strauss症候群〉
現在は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)と呼ばれる。小型血管炎であり、多発性単神経炎や紫斑を高頻度に来すため本例と共通点はある。しかし、気管支喘息やアレルギー性鼻炎が先行し、末梢血の著明な好酸球増多(しばしば白血球の10%以上、数千/μL)やIgE高値を伴うのが特徴である。本例には喘息の病歴がなく、好酸球は5%と増多していないため否定的である。またEGPAでは腎障害は比較的軽いことが多い。
血管炎の分類(Chapel Hill分類 2012 の概要)
・大型血管炎:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎 ・中型血管炎:結節性多発動脈炎、川崎病 ・小型血管炎 ANCA関連血管炎:顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA、旧Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA、旧Churg-Strauss症候群) 免疫複合体性小型血管炎:抗GBM病(Goodpasture症候群)、クリオグロブリン血症性血管炎、IgA血管炎(旧Henoch-Schönlein紫斑病)など
侵される血管の大きさと症状の対応
小型血管(細動脈・毛細血管・細静脈)が障害されると、皮膚では触知可能な紫斑、腎では糸球体腎炎(糸球体は毛細血管の塊)、肺では肺胞出血が生じる。一方、大型血管炎では血管の狭窄・閉塞による脈拍の左右差、血管雑音、虚血症状などが中心となる。中型血管炎(結節性多発動脈炎)では皮下結節、網状皮斑、腎梗塞・腎血管性高血圧などがみられ、糸球体腎炎は起こさない。
ANCA関連血管炎3疾患の比較
・MPA:MPO-ANCA陽性が多い。肉芽腫なし。壊死性糸球体腎炎と間質性肺炎・肺胞出血が多い。日本で最多、高齢者に多い。 ・GPA:PR3-ANCA(c-ANCA)陽性が多い(日本ではMPO-ANCA陽性例も少なくない)。上気道(鼻・副鼻腔・中耳)→肺→腎の順に障害される。壊死性肉芽腫性炎症を伴う。 ・EGPA:気管支喘息・アレルギー性鼻炎が先行し、好酸球増多、IgE高値。MPO-ANCA陽性は約半数以下。多発性単神経炎が高頻度。
血管炎による末梢神経障害
神経を栄養する小血管(神経栄養血管)の炎症・閉塞によって、個々の末梢神経が非対称に障害される多発性単神経炎が典型である。障害が多数の神経に及ぶと、手袋・靴下型に近い対称性の多発ニューロパチーのように見えることもある。下垂足(腓骨神経障害)はその代表的な症状である。
MPAの治療
寛解導入には副腎皮質ステロイドにシクロホスファミドまたはリツキシマブを併用する。重症の腎障害や肺胞出血では血漿交換を検討することがある。寛解維持にはアザチオプリンやリツキシマブなどが用いられる。近年はステロイド減量を目的に補体C5a受容体拮抗薬(アバコパン)も使用される。
POINT
・発熱+紫斑+多発性単神経炎(末梢神経障害)+糸球体腎炎(赤血球円柱)→ 小型血管炎、とくにANCA関連血管炎を考える。 ・喘息や好酸球増多がなく、高齢者で腎・神経障害を伴えば顕微鏡的多発血管炎(MPO-ANCA陽性)。 ・喘息先行+好酸球増多ならEGPA、上気道病変+PR3-ANCAならGPA、肺胞出血+腎炎で抗GBM抗体陽性ならGoodpasture症候群。 ・紫斑・糸球体腎炎は小型血管炎の所見であり、大型血管炎(巨細胞性動脈炎・高安動脈炎)では起こらない。 ・赤血球円柱は糸球体性出血(糸球体腎炎)の証拠である。
