尿が増える理由は「溶質」か「水」か―多尿を機序で見分ける
第108回医師国家試験 C問題 第5問
国試問題にチャレンジ
浸透圧利尿による多尿をきたすのはどれか。
- a.高血圧
- b.糖尿病
- c.尿崩症
- d.慢性腎盂腎炎
- e.うっ血性心不全
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
多尿は、再吸収されない溶質が水を尿細管腔に引き留める「浸透圧利尿」と、自由水の再吸収が障害される「水利尿」に分けて考えます。浸透圧利尿の代表は糖尿病で、血糖が排泄閾値を超えて尿糖が出ると口渇・多飲・多尿を生じ、ほかにマンニトール、急性腎障害の利尿期や高タンパク栄養による尿素、造影剤などが原因となります。尿崩症(中枢性・腎性)や慢性腎盂腎炎による濃縮力障害は低張尿を特徴とする水利尿であり、心不全や高血圧の夜間多尿は体液の再分布や圧利尿によるもので浸透圧利尿ではありません。多尿をみたらまず尿浸透圧を測定し、水制限試験やデスモプレシン試験へと進める流れを理解しておくと、腎・内分泌領域の病態生理と臨床推論が一本の線でつながります。
解答・解説
正解はbです
多尿とは、1日尿量がおおむね3L(あるいは2.5L)を超える状態を指す。多尿は機序から大きく「水利尿」と「浸透圧利尿(溶質利尿)」に分けて考えると整理しやすい。 【水利尿】自由水(溶質を含まない水)の再吸収が障害され、薄い尿が大量に出る状態である。尿浸透圧は血漿より低く(おおむね300 mOsm/kg未満、典型例では100〜200 mOsm/kg以下)、抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の分泌不足(中枢性尿崩症)、腎のADH反応性低下(腎性尿崩症)、腎髄質の浸透圧勾配の障害、多量の飲水(心因性多飲)などが原因となる。 【浸透圧利尿】尿細管腔内に再吸収しきれない溶質が大量に存在し、その浸透圧によって水の再吸収が妨げられる状態である。尿浸透圧は血漿と同程度かそれ以上(おおむね300 mOsm/kg以上)となる。原因物質としてはグルコース(コントロール不良の糖尿病)、尿素(急性腎障害の回復期〈利尿期〉、高タンパク経管栄養)、マンニトールなどの浸透圧利尿薬、造影剤などがある。 本問では、尿中に大量に排泄される溶質によって多尿となる疾患を選べばよい。高血糖により近位尿細管のグルコース再吸収能を超えた糖が尿中に出る糖尿病が該当する。
選択肢考察
- ×a. 高血圧
高血圧で夜間頻尿や夜間多尿がみられることはあるが、浸透圧利尿によるものではない。高血圧、特に夜間に血圧が下がらないタイプでは、圧利尿(血圧上昇に伴いNa排泄が増える現象)により夜間のNa・水排泄が増えることが一因と考えられている。また、交感神経系やカテコラミンの関与も指摘されている。いずれにせよ尿中の非再吸収性溶質が増えるわけではなく、原発性アルドステロン症に伴う低K血症による腎性の濃縮力障害など一部の二次性高血圧を除けば、1日尿量が大きく増える多尿となることは通常ない。
- ○b. 糖尿病
血糖値が腎のグルコース排泄閾値(おおむね160〜180 mg/dL)を超えると、糸球体で濾過されたグルコースを近位尿細管のナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT2など)が再吸収しきれなくなり、尿糖が出現する。尿細管腔内に残ったグルコースは浸透圧を発揮して水を管腔内に引き留めるため、水の再吸収が妨げられて尿量が増える。これが浸透圧利尿であり、口渇・多飲・多尿という糖尿病の典型症状の原因である。高度になると脱水を招き、高浸透圧高血糖状態や糖尿病ケトアシドーシスの病態を悪化させる。なお、SGLT2阻害薬は同じ機序で尿糖排泄を増やすため、服用中は浸透圧利尿による多尿や脱水に注意が必要である。
- ×c. 尿崩症
尿崩症はADHの作用不足によって集合管での水再吸収ができなくなる疾患で、多尿の機序は水利尿である。下垂体後葉からのADH分泌が低下する中枢性尿崩症と、ADHは分泌されているが腎(集合管のV2受容体やアクアポリン2)が反応しない腎性尿崩症がある。尿は低張(尿浸透圧が血漿浸透圧より低い)で、溶質の排泄量はむしろ正常である点が浸透圧利尿と異なる。中枢性ではデスモプレシン投与で尿量が減少し、尿浸透圧が上昇する。
- ×d. 慢性腎盂腎炎
慢性腎盂腎炎は、細菌感染を繰り返すことで腎の間質や髄質が障害される尿細管間質性疾患である。髄質が障害されると、ヘンレループの対向流系によって形成される髄質の高浸透圧(浸透圧勾配)を維持できなくなり、ADHが作用しても集合管で水を十分に再吸収できない。その結果、尿の濃縮力が低下して低張尿が増える。これは水利尿(腎性の濃縮力障害)に分類され、浸透圧利尿ではない。早期から夜間多尿や等張尿〜低張尿がみられるのが特徴である。
- ×e. うっ血性心不全
心不全では心拍出量が低下して腎血流量が減るため、日中は腎での水・Na貯留が進み、尿量はむしろ減少する(浮腫の原因となる)。一方、夜間に臥位になると下肢などに貯留していた間質液が血管内に戻り、静脈還流量と心臓への負荷が増える。これにより腎血流量や糸球体濾過量が増加し、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分泌も促されて夜間多尿となる。これは体液の再分布に伴う現象であり、尿中の溶質による浸透圧利尿ではない。
多尿の鑑別の進め方
多尿をみたら、まず尿浸透圧を測定し、水利尿か浸透圧利尿かを見分ける。 ・尿浸透圧が低い(血漿浸透圧未満)→ 水利尿:中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症など ・尿浸透圧が高い(おおむね300 mOsm/kg以上)→ 浸透圧利尿:糖尿病(グルコース)、マンニトール投与、急性腎障害の利尿期や高タンパク食・経管栄養(尿素)、造影剤など
水利尿の鑑別
水制限試験では、心因性多飲症では尿が濃縮されるが、尿崩症では濃縮されない。続いてデスモプレシン(バソプレシン誘導体)を投与し、尿浸透圧が上昇すれば中枢性、反応しなければ腎性と判断する。高張食塩水負荷試験でADH分泌を評価する方法もある。
腎性の濃縮力障害をきたす主な原因
慢性腎盂腎炎や間質性腎炎などの尿細管間質障害、低K血症、高Ca血症、リチウム製剤、閉塞性尿路疾患の解除後などが挙げられる。
夜間多尿
夜間の尿量が1日尿量の約33%を超える状態をいう(高齢者の目安)。心不全、高血圧、睡眠時無呼吸症候群、夕方以降の過剰な水分摂取、加齢に伴う夜間のADH分泌低下などが原因となる。
POINT
・多尿は「水利尿」と「浸透圧利尿」に分けて考える ・浸透圧利尿の代表は糖尿病(尿糖)、マンニトール、急性腎障害の利尿期(尿素) ・尿崩症(中枢性・腎性)と慢性腎盂腎炎は尿濃縮力の障害による水利尿 ・浸透圧利尿では尿浸透圧が高め、水利尿では低張尿となる ・心不全や高血圧による夜間多尿は体液の再分布や圧利尿によるもので、浸透圧利尿ではない
