StudyMed医師国家試験

聴き逃したら「一度ゼロに戻す」―聴診法血圧測定の正しい作法

第108回医師国家試験 C問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第108回 C問題 第6問

聴診法による血圧測定について正しいのはどれか。

  1. a.マンシェットの中に聴診器のチェストピース全体を差し込んで測定する。
  2. b.上腕動脈の上に聴診器を置き,血管雑音を確認してから加圧を開始する。
  3. c.70 mmHgまで速やかに加圧し,その後10 mmHgずつ加圧しながら測定する。
  4. d.Korotkoff音の第1点が確認できない時は,一度完全に減圧してから再度測定する。
  5. e.減圧を進めてKorotkoff音が消失したら,すぐにバルブを全開にして急速に減圧する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、聴診法による血圧測定の手順を問う問題だ。毎日のように行う手技だけれど、「どこに聴診器を置くか」「どこまで加圧するか」「どう減圧するか」「失敗したらどうするか」という各段階に、きちんと理由がある。その理由を一つずつ確認していこう。
医学生医学生
OSCEの練習で何度もやりましたが、正直、手順を丸暗記していただけで、理由までは意識していませんでした。
ドクタードクター
それで十分なスタートだよ。まず原理から。カフで上腕動脈を圧迫して血流をいったん止め、カフ圧を下げていくと、血液が断続的に流れ始めて血管音が生じる。これがKorotkoff音だ。音が聴こえ始めた点が収縮期血圧、消えた点が拡張期血圧になる。
医学生医学生
つまり、測定は加圧しながらではなく、減圧しながら行うんですね。
ドクタードクター
その通り。だから、一定の値まで加圧してから10 mmHgずつ加圧しながら測る、という手順は原理からして誤りだ。加圧の目標も一律の数字ではなく、まず触診法で橈骨動脈の脈が消える圧を確かめ、その値より約30 mmHg高い圧まで速やかに加圧する。
医学生医学生
わざわざ触診法を先にやるのはなぜですか。最初から聴診器を当てればいい気もします。
ドクタードクター
いい疑問だね。理由は聴診間隙という現象にある。高齢者や動脈硬化の強い人では、収縮期と拡張期の間で一時的に音が消えることがあるんだ。加圧が足りないと、間隙より下で再び聴こえた音を収縮期血圧と勘違いして、血圧を低く見積もってしまう。触診法で上限の目安を押さえておけば、それを防げる。
医学生医学生
なるほど。加圧前に上腕動脈で血管雑音を確認する、というのも手順にはないんですね。
ドクタードクター
そう。正常の上腕動脈では、加圧前に雑音は聴こえない。もし聴こえたら、高安動脈炎のような動脈狭窄を疑う異常所見であって、測定の準備として確認するものではないんだ。加圧前にやるべきは、さっきの触診法による目標値の設定だね。
医学生医学生
聴診器の置き場所はどうでしょう。カフの中に差し込むと固定されて楽そうですが。
ドクタードクター
それをやると、チェストピースの厚みでカフと腕の間に段差ができて、圧が動脈に均一にかからない。カフに押し付けられて雑音も入る。正しくは、カフ下端より遠位の肘窩側で、上腕動脈の拍動を触れる位置に軽く当てる。強く押し付けすぎると拡張期血圧が低めに出るので注意しよう。
医学生医学生
では正解は、Korotkoff音の第1点が確認できなければ一度完全に減圧して測り直す、ですね。
ドクタードクター
正解。ここが今回の核心だ。聴き逃して途中から再加圧すると、カフより末梢の静脈に血液がうっ滞して、Korotkoff音が小さく聴き取りにくくなる。その結果、収縮期を低く、拡張期を高く読み誤るおそれがある。だから一度カフ圧を完全に抜き、うっ血が取れるまで1〜2分ほど待ってから測り直すのが原則だ。
医学生医学生
臨床実習の病棟で、聴き逃してすぐポンプを握り直していました…。あれは良くなかったんですね。
ドクタードクター
誰もが一度はやることだよ。測り直すときは、チェストピースが動脈の上にあるか、カフの巻き方が適切かも見直そう。最後の選択肢、音が消えたらすぐバルブ全開、というのはどうかな。
医学生医学生
聴診間隙で一時的に消えただけかもしれないので、まだ早いということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。音が消えた後も10〜20 mmHgほどはゆっくり減圧を続け、再び聴こえないことを確かめてから急速に減圧する。減圧速度は1拍あたり、あるいは1秒あたり2〜3 mmHg程度が目安だ。速すぎると、出現点も消失点も正確に読み取れない。
医学生医学生
Korotkoff音には相があると生理学で習いました。拡張期は必ず音が消えた点でいいんですか。
ドクタードクター
原則は第V相、つまり消失点だ。ただし妊婦、甲状腺機能亢進症、大動脈弁閉鎖不全症、高度の貧血など心拍出が多い状態では、カフ圧が0近くまで音が消えないことがある。その場合は音が急に小さくこもる第IV相を拡張期血圧として記録する。
医学生医学生
測定値がずれる要因も、国試ではよく問われますよね。
ドクタードクター
よく出るね。カフが腕に対して細すぎると高く、太すぎると低く出る。ゴム嚢の幅は上腕周囲長の約40%が目安だ。腕が心臓より低いと高く、高いと低く出るし、カフを緩く巻いても高く出る。会話や喫煙、カフェイン、運動直後、膀胱充満も血圧を上げる。自動血圧計が普及した今でも、異常値が出たときに聴診法で確かめる場面は多いから、理由とセットで身につけておこう。

まとめ

聴診法では、触診法でおおよその収縮期血圧を把握し、その約30 mmHg上まで速やかに加圧した後、1拍(1秒)あたり2〜3 mmHgでゆっくり減圧しながら、Korotkoff音の出現点を収縮期血圧、消失点を拡張期血圧として読み取ります。聴診器はカフに差し込まず、カフ下端より遠位の上腕動脈上に軽く当て、音の消失後も10〜20 mmHgはゆっくり減圧して再出現がないことを確認します。第1点を聴き逃したときは途中から再加圧せず、静脈うっ血を避けるために一度完全に減圧し、少し時間をおいてから測り直すのが原則です。聴診間隙、高心拍出状態での第IV相の扱い、カフの幅や腕の高さによる誤差など、各手順の背景にある理由を理解しておくことが、正確な血圧測定と国試の正答の両方につながります。

解答・解説

正解はdです

聴診法は、上腕に巻いたカフ(マンシェット)で上腕動脈を圧迫して血流を止め、カフ圧を下げていく過程で聴こえる血管音(Korotkoff音)の出現点と消失点から収縮期血圧と拡張期血圧を求める方法である。正確な値を得るには、決められた手順を守ることが欠かせない。 標準的な手順は次のとおりである。 1. 座位で数分安静にし、カフを心臓の高さに合わせる。カフのゴム嚢の中央が上腕動脈の上にくるように置き、カフの下端が肘窩(肘の内側のくぼみ)の約2〜3 cm上になるように巻く。 2. まず触診法で橈骨動脈を触れながら加圧し、脈が触れなくなる圧(おおよその収縮期血圧)を確認する。 3. いったん減圧した後、聴診器のチェストピースをカフの下端より遠位の上腕動脈上に軽く当て、触診法で得た収縮期血圧より約30 mmHg高い圧まで速やかに加圧する。 4. 1拍あたり(または1秒あたり)2〜3 mmHg程度の速さでゆっくり減圧し、Korotkoff音が聴こえ始めた点を収縮期血圧、音が消失した点を拡張期血圧とする。 5. 音の消失後もさらに10〜20 mmHg程度はゆっくり減圧して音が再び聴こえないことを確かめ、その後急速に減圧する。 本問は、この手順のうち「うまく測れなかったときにどうするか」を含めて、正しい手技を選ぶ問題である。測定に失敗したときに加圧を途中から繰り返すと、上腕の静脈がうっ血してKorotkoff音が聴き取りにくくなり、値も不正確になる。そのため、いったんカフ圧を完全に抜いてから測り直すのが原則である。

選択肢考察

  1. ×a.  マンシェットの中に聴診器のチェストピース全体を差し込んで測定する。

    チェストピースをカフの下に差し込むと、その厚みの分だけカフと腕の間に隙間や段差ができ、カフ圧が上腕動脈に均一に伝わらなくなる。また、チェストピースがカフで押し付けられることで雑音が入り、Korotkoff音の判定も不正確になる。チェストピースはカフの下端より遠位(肘窩側)で、上腕動脈の拍動を触れる位置に軽く当てるのが正しい。強く押し付けすぎると動脈が圧迫され、拡張期血圧が低めに測定される原因となる。

  2. ×b.  上腕動脈の上に聴診器を置き,血管雑音を確認してから加圧を開始する。

    加圧前の上腕動脈では、正常では血管雑音は聴取されない。加圧前に雑音が聴こえる場合は、大動脈炎症候群(高安動脈炎)などによる動脈狭窄を疑う異常所見であり、血圧測定の手順として雑音の確認を行うわけではない。加圧を始める前に行うべきことは、触診法によっておおよその収縮期血圧を把握し、聴診時に加圧する目標値(触診法の収縮期血圧+約30 mmHg)を決めることである。

  3. ×c.  70 mmHgまで速やかに加圧し,その後10 mmHgずつ加圧しながら測定する。

    聴診法では加圧しながら測定するのではなく、十分に加圧した後に減圧しながら測定する。加圧の目標は一律の値ではなく、触診法で求めた収縮期血圧より約30 mmHg高い圧である。そこまで速やかに加圧した後、1拍(または1秒)あたり2〜3 mmHg程度の速さでゆっくり減圧し、Korotkoff音の出現と消失を聴き取る。10 mmHgずつといった大きな刻みでは、音の出現点・消失点を正確に読み取れない。目標値を高めに設定するのは、聴診間隙(収縮期血圧と拡張期血圧の間で一時的に音が消える現象)があっても真の収縮期血圧を見逃さないためである。

  4. ○d.  Korotkoff音の第1点が確認できない時は,一度完全に減圧してから再度測定する。

    Korotkoff音の第1点(音が聴こえ始める点で、収縮期血圧に相当する)を聴き逃した場合、減圧を中断して途中から再加圧すると、カフより末梢の静脈に血液がうっ滞し、Korotkoff音が小さくなって聴き取りにくくなる。その結果、収縮期血圧を低く、拡張期血圧を高く読み誤るおそれがある。したがって、いったんカフ圧を完全に抜き、うっ血が解消するまで少し(1〜2分程度)時間をおいてから測り直す。その際、聴診器のチェストピースの位置が上腕動脈上にあるか、カフの巻き方が適切かなど、技術的な問題がないかも確認する。

  5. ×e.  減圧を進めてKorotkoff音が消失したら,すぐにバルブを全開にして急速に減圧する。

    音が消えた直後にすぐ急速減圧すると、聴診間隙による一時的な消失を拡張期血圧と誤認するおそれがあり、音が本当に消失したのかを確認できない。Korotkoff音が消失した後も、さらに10〜20 mmHg程度はゆっくり減圧を続けて音が再び聴こえないことを確かめ、そのうえで急速に減圧するのが正しい手順である。

Korotkoff音の相

減圧に伴い、Korotkoff音は次のように変化する。 ・第I相:澄んだ叩くような音が聴こえ始める(この点が収縮期血圧) ・第II相:音が濁り、雑音様になる ・第III相:再び音が大きく明瞭になる ・第IV相:音が急に小さく、こもった音になる ・第V相:音が消失する(この点が拡張期血圧) 妊婦、甲状腺機能亢進症、大動脈弁閉鎖不全症、高度の貧血など高心拍出状態では、カフ圧が0近くまで音が消えないことがあり、その場合は第IV相を拡張期血圧として記録する。

聴診間隙

第I相と第II相の間などで、一時的にKorotkoff音が聴こえなくなる現象である。高齢者や高血圧、動脈硬化の強い人でみられやすい。加圧が不十分だと、間隙の下で再出現した音を収縮期血圧と誤認し、血圧を低く見積もってしまう。触診法を先に行い、その値+約30 mmHgまで加圧するのはこれを防ぐためである。

測定値に影響する要因

・カフが腕の太さに比べて細すぎる(ゴム嚢が小さい)と高く、太すぎると低く測定される。ゴム嚢の幅は上腕周囲長の約40%、長さは約80%以上が目安とされる。 ・腕の位置が心臓より低いと高く、高いと低く測定される。 ・カフを緩く巻くと高く測定される。 ・会話、喫煙、カフェイン摂取、運動直後、膀胱充満などは血圧を上昇させる。

触診法

橈骨動脈を触れながら加圧し、脈が触れなくなった後、減圧して脈が再び触れた点を収縮期血圧とする。拡張期血圧は測定できない。

POINT

・聴診器はカフの下に差し込まず、カフ下端より遠位の上腕動脈上に軽く当てる ・まず触診法で収縮期血圧を把握し、その値+約30 mmHgまで速やかに加圧する ・減圧は1拍(1秒)あたり2〜3 mmHgでゆっくり行い、減圧しながら測定する ・Korotkoff音の出現点が収縮期血圧、消失点(第V相)が拡張期血圧 ・音の消失後も10〜20 mmHgはゆっくり減圧して再出現がないことを確認する ・測り直すときは途中から再加圧せず、完全に減圧してから行う(静脈うっ血を避ける)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。