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その高カリウム、本物ですか?―溶血が生む「偽性高カリウム血症」の落とし穴

第108回医師国家試験 C問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第108回 C問題 第10問

採血時の溶血によって異常値を示すのはどれか。

  1. a.Na
  2. b.K
  3. c.Cl
  4. d.Ca
  5. e.P

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、採血の手技や検体の扱いが検査値にどう影響するかを問う問題だ。ポイントは「赤血球の中と外で、どの成分の濃度が大きく違うか」。そこさえ押さえれば迷わず解けるよ。まず、溶血すると何が起こるか説明できるかな。
医学生医学生
赤血球が壊れて、中身が血清に出てくるんですよね。
ドクタードクター
その通り。だから、赤血球の中に血漿よりずっと多く含まれている成分ほど、見かけ上の高値、いわゆる偽高値になる。では電解質のうち、細胞内に圧倒的に多いのはどれだろう。
医学生医学生
生理学の講義で、細胞内液はK、細胞外液はNaが主役だと習いました。だからカリウムですか。
ドクタードクター
正解。赤血球内のカリウム濃度はおよそ100mEq/L前後で、血漿の基準値3.5〜5.0mEq/Lの20〜30倍に達する。わずかな溶血でも血清カリウムはぐっと上がり、実際は正常なのに高カリウム血症と誤認されることがある。これを偽性高カリウム血症という。
医学生医学生
ナトリウムやクロールはどうなんでしょう。溶血で薄まって下がったりしませんか。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。ナトリウムもクロールも細胞外液の主要な電解質で、赤血球内の濃度はむしろ血漿より低い。高度の溶血ならわずかに下がりうる程度で、臨床的に問題になることはまずない。
医学生医学生
カルシウムは細胞内でシグナル伝達に使われるので、中に多いのかと思っていました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。細胞質のカルシウム濃度はむしろ非常に低く保たれていて、だからこそ少し上がるだけでシグナルになる。赤血球内にもごく微量しかないので、溶血してもほとんど変わらない。血清カルシウムの解釈では、むしろ低アルブミン血症による補正に気を配るべきだね。
医学生医学生
リンはどうですか。赤血球には2,3-DPGやATPみたいなリン酸化合物がありますよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。だからリンは溶血でやや上昇傾向を示すことはある。ただ上昇幅はカリウムほど大きくなく、異常値として問題になることは少ない。溶血の影響を最も強く受ける電解質として選ぶべきはカリウムだ。
医学生医学生
電解質以外にも、溶血で上がる項目はありますか。
ドクタードクター
LDやAST、酸性ホスファターゼ、遊離ヘモグロビンが代表的だ。特にLDとASTは赤血球内の濃度が高いので影響を受けやすい。溶血性貧血でLDが上がるのと同じ理屈だね。
医学生医学生
OSCEの採血練習で、細い針で強く引かないように言われたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
まさに。細い針で強い陰圧をかける、駆血帯を長く強く締める、採血中に手の握り開きを繰り返させる、シリンジから針を付けたまま勢いよく採血管に注入する、採血管を激しく振る、全血のまま冷蔵や長時間放置する――どれも溶血やカリウム上昇の原因になる。
医学生医学生
臨床実習で、検査室から「溶血あり」とコメントが付いた結果を見たことがあります。カリウムが高くても慌てなくていいんですね。
ドクタードクター
慌てる必要はないが、無視もしてはいけない。真の高カリウム血症ならテント状T波やQRS幅の拡大といった心電図変化、腎不全や薬剤などの背景があることが多い。まず心電図や病歴を確認しつつ、再採血して真の値を確かめる。溶血検体の値だけで治療を始めないことが大切だ。
医学生医学生
溶血がなくても偽性高カリウム血症になることはありますか。
ドクタードクター
あるよ。著明な血小板増多症や白血球増多症では、採血後に血液が凝固する過程で細胞からカリウムが放出され、血清カリウムが高く出る。この場合はヘパリン採血の血漿で測ると正常になるのが手がかりだ。検査値は常に、どんな検体でどう採られたかとセットで解釈しよう。

まとめ

採血時に溶血が起こると赤血球内の成分が血清中へ漏れ出し、細胞内濃度が血漿の20〜30倍に及ぶカリウムは見かけ上の高値、すなわち偽性高カリウム血症を示します。ナトリウム・クロール・カルシウムは赤血球内に少ないため溶血の影響をほとんど受けず、リンも軽度上昇しうる程度です。電解質以外ではLDやASTが溶血で偽高値となる代表的な項目です。溶血検体で高カリウム値が出た場合は、心電図変化や基礎疾患の有無を確認しつつ再採血で真の値を確かめ、血小板・白血球著増による偽性高カリウム血症にも注意します。検査値を採血手技や検体条件と結びつけて解釈する姿勢は、不要な治療を避け、本当に危険な異常を見逃さないための基本です。

解答・解説

正解はbです

採血の手技や検体の扱いが原因で赤血球が壊れる(溶血する)と、赤血球の中身が血漿(血清)中に漏れ出す。このため、赤血球内の濃度が血漿中の濃度よりはるかに高い成分ほど、溶血によって見かけ上の高値(偽高値)を示す。 電解質のうち、細胞内に圧倒的に多いのはカリウム(K)である。赤血球内のK濃度はおよそ100mEq/L前後と、血漿中(基準値およそ3.5〜5.0mEq/L)の20〜30倍に達する。したがって、わずかな溶血でも血清K値は大きく上昇し、実際には正常なのに高カリウム血症と誤認されることがある。これを偽性高カリウム血症という。 一方、ナトリウム(Na)やクロール(Cl)は細胞外液の主な電解質であり、赤血球内の濃度は血漿よりむしろ低い。カルシウム(Ca)も赤血球内にはごく少量しか存在しない。これらは溶血でほとんど変化しない。リン(P)は赤血球内にも比較的多く含まれるため溶血でやや上昇しうるが、Kほど顕著ではない。以上から、溶血で異常値を示す代表的な項目はKである。

選択肢考察

  1. ×a.  Na

    Naは細胞外液の主要な陽イオンで、血漿中濃度(約135〜145mEq/L)に比べ赤血球内の濃度は低い。溶血しても血清中へ加わる量はわずかで、測定値はほとんど変わらない(高度の溶血では希釈によりわずかに低下しうる程度である)。

  2. ○b.  K

    Kは細胞内の主要な陽イオンで、赤血球内濃度は血漿中の数十倍に及ぶ。溶血すると赤血球内のKが血清中へ流出し、血清K値が見かけ上高くなる(偽性高カリウム血症)。溶血検体で高K値が出た場合は、心電図変化の有無などを確認しつつ再採血して真の値を確かめる必要がある。

  3. ×c.  Cl

    Clは細胞外液に多い陰イオンで、赤血球内の濃度は血漿中より低い。溶血による測定値への影響は臨床的に問題とならない程度である。

  4. ×d.  Ca

    Caは赤血球内にはごく微量しか存在せず、溶血しても血清Ca値はほとんど変化しない。むしろ血清Ca値の解釈では、低アルブミン血症の影響(アルブミン補正)に注意が必要である。

  5. ×e.  P

    赤血球内にはリン酸化合物が含まれるため、溶血によって血清無機リンはやや上昇傾向を示すことがある。しかし上昇幅はKほど大きくなく、異常値として問題になることは少ない。溶血の影響を最も強く受ける電解質として選ぶべきはKである。

溶血の原因となる採血・検体処理

・細い針を用いて強い陰圧で吸引する ・駆血帯による長時間・強い締め付け、採血中のクレンチング(手の握り開き)の繰り返し ・シリンジから採血管へ針を付けたまま勢いよく注入する ・採血管を激しく振る、全血のまま冷蔵・長時間放置する

溶血で高値となる主な項目

赤血球内に多い成分が偽高値となる。K、LD(乳酸脱水素酵素)、AST、酸性ホスファターゼ、遊離ヘモグロビンなどが代表で、LDとASTは赤血球内濃度が高いため特に影響を受けやすい。

溶血以外の偽性高カリウム血症

著明な血小板増多症や白血球増多症では、採血後の凝固過程で細胞からKが放出され、血清K値が高くなることがある。この場合、血漿(ヘパリン採血)でK値を測定すると正常となる。

真の高カリウム血症との見分け

真の高カリウム血症では、テント状T波、QRS幅の拡大などの心電図変化や、腎不全・薬剤など原因となる病態を伴うことが多い。溶血検体の値だけで治療を開始せず、再検を行う。

POINT

・採血時の溶血では、赤血球内に多いKが血清中へ漏れ出し、偽性高カリウム血症を来す。 ・Na、Cl、Caは溶血の影響をほとんど受けない。Pは軽度上昇しうる程度である。 ・K以外に、LDやASTも溶血で偽高値となる代表的な項目である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。