反抗する14歳に薬は要るか―「社会生活が回っているか」で見極める思春期の心
第108回医師国家試験 B問題 第47問
国試問題にチャレンジ
14歳の男子。家庭や学校で反抗的な態度が目立つことを主訴に学校から勧められ,母親に伴われて来院した。半年前から特に母親に対して反抗的で,注意をすると怒鳴り,家具を叩くことが多いという。学校でも担任教師に時々反抗的な態度をとるが,暴力を振るうことはない。欠席はなく成績は中程度であり,バスケットボール部の活動には積極的に参加している。診察場面では礼節は保たれており,穏やかに会話をする。身体診察では異常所見を認めない。 対応として適切なのはどれか。
- a.カウンセリングを行う。
- b.中枢神経刺激薬を処方する。
- c.ベンゾジアゼピン系薬を処方する。
- d.ノルアドレナリン再取り込み阻害薬を処方する。
- e.選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉を処方する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
思春期の反抗的態度を評価するときは、症状の目立ち方よりも、登校・学業・部活動・対人関係といった社会的機能が保たれているかに注目します。機能障害を伴わない親や教師への反発は、自立と自我同一性の確立に向かう正常な第二反抗期であることが多く、ADHD、思春期のうつ病、素行症などを示唆する所見がなければ、まずは本人への傾聴と親への助言を中心としたカウンセリングで対応します。中枢神経刺激薬やアトモキセチンはADHDの治療薬、SSRIはうつ病・不安症・強迫症の治療薬であり、ベンゾジアゼピン系薬は小児で奇異反応や依存の懸念があるため、適応のない処方は避けるべきです。反抗挑発症と診断される場合でも治療の中心はペアレントトレーニングなどの心理社会的介入であり、経過中に不登校や意欲低下が現れたら改めて精神疾患を評価します。「正常発達と病気の境目を機能で判断する」という視点は、小児・思春期の精神科診療全般に通じる大切な考え方です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・14歳男子、思春期のまっただ中である。 ・半年前から、とくに母親に対して反抗的になり、注意されると怒鳴ったり家具を叩いたりする。担任教師にも時に反抗するが、人に暴力を振るうことはない。 ・欠席はなく、成績は中程度で、部活動(バスケットボール部)にも積極的に参加している。つまり学業・対人関係・課外活動といった社会的機能は保たれている。 ・診察時は礼節が保たれ、落ち着いて会話ができる。身体所見にも異常はない。
鑑別の考え方
反抗的態度を主訴とする思春期の子どもでは、次のような病態を念頭に置いて評価する。 ・注意欠如・多動症(ADHD):不注意・多動・衝動性が12歳以前から複数の場面でみられる。本例では幼少期からの不注意や多動の記載がなく、診察場面でも落ち着いており、積極的に疑う根拠はない。 ・うつ病・適応障害などの気分の問題:思春期のうつでは抑うつ気分の代わりに易怒性(いらいら)が前景に出ることがあるが、多くは不登校、成績低下、部活動をやめるなどの意欲低下・興味の喪失を伴う。本例は登校・部活動とも保たれている。 ・素行症(行為障害):人や動物への攻撃、器物の破壊、窃盗・虚言、家出など重大な規則違反が反復する。本例では他人への暴力も非行もない。 ・知的能力障害:成績は中程度で否定的である。 ・反抗挑発症(反抗挑戦性障害):怒りっぽさ・口論・挑発的行動が6か月以上持続し、苦痛や機能障害をもたらす状態である。本例は持続期間は満たしうるが、学校生活や部活動への支障は乏しい。 ・正常な第二反抗期:思春期には自我の確立に伴い、親、とくに身近な親への反発が強まるのはごく一般的な発達過程である。 本例は、機能障害を伴わない思春期の反抗的態度であり、正常範囲の第二反抗期、あるいはそれに近い軽度の反抗挑発症の範囲と考えられる。いずれにしても、薬物療法の対象となる精神疾患(ADHD、不安症、うつ病など)を示す所見はない。
設問への考え方
このような場合にまず行うべきは、本人の話をよく聴き、反抗の背景にある気持ちや困りごと(親子関係、学校での人間関係、ストレスなど)を理解することである。あわせて、母親に対しても思春期の心理や接し方について助言する。すなわちカウンセリング(心理社会的支援)が第一選択であり、症状の少ない段階で向精神薬を用いる理由はない。
選択肢考察
- ○a. カウンセリングを行う。
本例は社会的機能が保たれた思春期の反抗的態度で、薬物治療を要する精神疾患の所見はない。まず本人の話を傾聴し、反抗的な言動の背景にある不満・葛藤・ストレスを把握することが大切である。また母親に対しては、思春期に親への反発が強まるのは発達上よくあることを説明し、叱責を繰り返すよりも本人の気持ちを受け止める関わり方を助言する(親ガイダンス)。反抗挑発症と診断される場合でも、治療の中心はペアレントトレーニングや本人への心理社会的介入であり、カウンセリングが最も適切な対応である。
- ×b. 中枢神経刺激薬を処方する。
メチルフェニデート徐放錠やリスデキサンフェタミンなどの中枢神経刺激薬は、ADHDの治療薬である。本例では不注意・多動・衝動性の持続的なエピソードがなく、診察場面でも落ち着いて会話できているため、ADHDを示唆する所見に乏しい。適応がないうえ、食欲低下・不眠・依存などの副作用もあり、処方は不適切である。
- ×c. ベンゾジアゼピン系薬を処方する。
ベンゾジアゼピン系薬は抗不安作用・催眠作用・抗けいれん作用をもち、不安症、不眠症、てんかん発作(けいれん重積)などに用いられる。本例には強い不安や不眠はない。さらに小児・思春期では、依存形成や、かえって興奮・攻撃性が増す奇異反応(脱抑制)のおそれがあり、反抗的態度に対して用いるべきではない。
- ×d. ノルアドレナリン再取り込み阻害薬を処方する。
選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のアトモキセチンは、非中枢神経刺激薬のADHD治療薬である。前頭前野のノルアドレナリンやドパミンの濃度を高め、不注意や衝動性を改善する。本例はADHDを示唆する所見がないため適応はない。
- ×e. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉を処方する。
SSRIはシナプス間隙でのセロトニン再取り込みを阻害してその作用を高める薬で、うつ病、パニック症、社交不安症、強迫症などに用いられる。本例には抑うつ気分や意欲低下、病的な不安・強迫症状はなく適応がない。なお、若年者ではSSRIなどの抗うつ薬で自殺念慮・自殺関連行動や激越(アクチベーション症候群)が増えるおそれがあり、慎重な投与が求められる。
第二反抗期
幼児期(2〜3歳頃)の第一反抗期に対し、思春期(おおむね小学校高学年〜中学生頃)の自立に向かう時期にみられる親や大人への反発を第二反抗期という。親からの心理的な自立と自我同一性の確立に向かう正常な発達過程であり、学業・友人関係などの社会生活が保たれていれば病的とはみなさない。
反抗挑発症(反抗挑戦性障害)
DSM-5では、次の3群の症状が少なくとも6か月持続し、そのうち4つ以上が、きょうだい以外の少なくとも1人との関わりでみられるものとされる。 ・怒りっぽく/易怒的な気分:しばしばかんしゃくを起こす、しばしば神経過敏またはいらいらさせられやすい、しばしば怒り腹を立てる ・口論好き/挑発的行動:しばしば権威ある人物(子どもでは大人)と口論する、しばしば権威ある人物の要求や規則に従うことに積極的に反抗または拒否する、しばしば故意に人をいらだたせる、しばしば自分の失敗や不作法を他人のせいにする ・執念深さ:過去6か月に少なくとも2回、意地悪で執念深い 加えて、行動が本人または周囲に苦痛を与えるか、社会的・学業的機能に悪影響を及ぼしていることが必要である。また、発達水準や文化から見て正常範囲の行動と区別し、5歳以上では少なくとも週1回程度の頻度で症状がみられることが目安とされる。旧版(DSM-IV)では8項目中4項目以上とされていた。治療はペアレントトレーニングなど親への支援と、本人への心理社会的介入が中心である。ADHDとの併存が多く、一部は素行症へ移行しうる。
素行症(行為障害)
人や動物への攻撃、所有物の破壊、嘘や窃盗、重大な規則違反(夜間の無断外出、家出、怠学など)が反復・持続する状態である。反抗挑発症より重く、他人の基本的権利を侵害する点が特徴である。
小児・思春期の精神疾患と代表的な特徴
・自閉スペクトラム症:対人相互交流・コミュニケーションの障害、限局された興味とこだわり、感覚の過敏または鈍麻 ・ADHD:不注意(忘れ物・なくし物が多い)、多動(着席していられない)、衝動性(順番を待てない、他人にちょっかいを出す) ・トゥレット症:多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上続く ・反抗挑発症:大人への反抗、かんしゃく、規則に従うことの拒否 ・素行症:非行、いじめ・脅迫、嘘・窃盗、無断外泊
ADHD治療薬(日本)
中枢神経刺激薬:メチルフェニデート徐放錠、リスデキサンフェタミン 非中枢神経刺激薬:アトモキセチン(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、グアンファシン(α2A受容体作動薬)
POINT
・機能障害を伴わない思春期の反抗的態度は、第二反抗期として正常範囲のことが多い。 ・欠席なし、成績保たれる、部活動に積極的、診察時は礼節が保たれる → ADHD、うつ病、素行症などを示唆しない。 ・対応はまず本人への傾聴・カウンセリングと、親への助言である。 ・反抗挑発症でも治療の中心は心理社会的介入(ペアレントトレーニングなど)であり、薬物療法は第一選択ではない。 ・中枢神経刺激薬(メチルフェニデート、リスデキサンフェタミン)とアトモキセチンはADHDの治療薬である。
