そのホルモンは「何を守るため」に出る?―分泌の目的から作用を読み解く内分泌の基本
第108回医師国家試験 B問題 第32問
国試問題にチャレンジ
ホルモンとその生理作用の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.グルカゴン ―― 糖新生の促進
- b.インスリン ―― グリコーゲン分解の促進
- c.バソプレシン ―― 腎における水再吸収の促進
- d.アルドステロン ―― 腎におけるNa再吸収の抑制
- e.副甲状腺ホルモン ―― 腎におけるP再吸収の促進
対話形式の解説
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医学生まとめ
ホルモンの作用は「何を守るために分泌されるか」から考えると整理しやすくなります。グルカゴンは血糖を上げるために肝でグリコーゲン分解と糖新生を促進し、インスリンはグリコーゲン合成を促して分解を抑える唯一の血糖降下ホルモンです。バソプレシンは集合管のV2受容体からアクアポリン2を介して水再吸収を促進し、アルドステロンはNa再吸収を促進してK・H+の分泌を増やします。PTHは腎でCa再吸収を促進する一方、P再吸収は抑制して血中Pを下げるため、原発性副甲状腺機能亢進症では高Ca・低P血症となります。分泌の目的と作用の向きを結びつけておくことは、尿崩症やSIADH、原発性アルドステロン症など内分泌疾患の病態や電解質異常を読み解く土台になります。
解答・解説
正解はa, cです
代表的なホルモンについて、標的臓器での主な生理作用を正しく覚えているかを問う問題である。
考え方
ホルモンの作用は、そのホルモンが「何を守るために分泌されるか」を軸に整理すると混乱しにくい。 ・血糖を上げたいとき:グルカゴン(空腹時・低血糖時に分泌)→ 肝臓で糖を作り、放出させる。 ・血糖を下げたいとき:インスリン(食後に分泌)→ 糖を細胞内へ取り込ませ、貯蔵させる。 ・血漿浸透圧が上がったとき:バソプレシン → 腎で水を回収して体液を薄める。 ・循環血液量が減ったとき:アルドステロン → 腎でNaを回収し、水も一緒に保持させる。 ・血中Caが下がったとき:副甲状腺ホルモン(PTH)→ 血中Caを上げ、同時にPは尿へ捨てさせる。 この枠組みに照らすと、各選択肢の作用が分泌の目的と一致しているかどうかで正誤を判断できる。
選択肢考察
- ○a. グルカゴン ―― 糖新生の促進
グルカゴンは膵Langerhans島のα細胞から、低血糖や空腹時に分泌される。主な標的は肝臓で、肝細胞のグルカゴン受容体に結合し、cAMPを介して①グリコーゲン分解の促進と、②アミノ酸・乳酸・グリセロールなどを材料にブドウ糖を新たに作る糖新生の促進を起こし、血糖を上昇させる。脂肪組織では脂肪分解を、肝臓ではケトン体の産生を促す作用もある。したがって「糖新生の促進」という組合せは正しい。
- ×b. インスリン ―― グリコーゲン分解の促進
インスリンは膵島β細胞から分泌される、唯一の血糖降下ホルモンである。筋・脂肪組織ではGLUT4(インスリン依存性のブドウ糖輸送体)を細胞膜へ移動させてブドウ糖の取り込みを増やし、肝臓・筋肉ではグリコーゲン合成を促進してグリコーゲン分解を抑制する。さらに糖新生や脂肪分解も抑える、いわゆる同化ホルモンである。グリコーゲン分解の促進はグルカゴンやアドレナリンの作用であり、インスリンの作用はその逆である。
- ○c. バソプレシン ―― 腎における水再吸収の促進
バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)は視床下部の視索上核・室傍核で合成され、下垂体後葉から分泌される。血漿浸透圧のわずかな上昇(1〜2%程度)に鋭敏に反応して分泌されるほか、循環血液量の大きな減少でも分泌される。腎集合管主細胞の基底側膜にあるV2受容体に結合し、cAMPを介して水チャネルであるアクアポリン2を管腔側膜へ移動させる。これにより集合管の水透過性が高まり、水の再吸収が増えて尿は濃縮される。したがって正しい組合せである。分泌が不足すると中枢性尿崩症、作用が過剰だとSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)となる。
- ×d. アルドステロン ―― 腎におけるNa再吸収の抑制
アルドステロンは副腎皮質球状層で産生される鉱質コルチコイドで、レニン-アンジオテンシン系や高K血症によって分泌が刺激される。主に遠位尿細管の後半から集合管の主細胞に作用し、管腔側の上皮型Naチャネル(ENaC)と基底側膜のNa+/K+-ATPaseを増やす。その結果Naの再吸収が促進され、それと引き換えにK(およびH+)の分泌が促進される。Naとともに水も保持されるため循環血液量が増える。つまりNa再吸収を「抑制」するのではなく「促進」する。原発性アルドステロン症で高血圧・低K血症・代謝性アルカローシスがみられるのはこのためである。
- ×e. 副甲状腺ホルモン ―― 腎におけるP再吸収の促進
副甲状腺ホルモン(PTH)は血中Ca濃度の低下を感知して分泌される。腎では、遠位尿細管でCaの再吸収を促進する一方、近位尿細管ではNa依存性リン輸送体(NaPi-IIa、NaPi-IIc)を減らしてPの再吸収を抑制し、P排泄を増やす。さらに近位尿細管の1α水酸化酵素を活性化して活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D)の産生を増やし、腸管からのCa吸収を高める。骨では骨吸収を促してCaとPを血中に放出させる。まとめると、PTHは血中Caを上げ、Pを下げる方向に働く。したがって「P再吸収の促進」は誤りである。原発性副甲状腺機能亢進症で高Ca血症と低P血症がみられるのはこの作用による。
血糖を調節するホルモン
・血糖を下げる:インスリンのみ ・血糖を上げる:グルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなど(インスリン拮抗ホルモン) グルカゴンとアドレナリンは主にグリコーゲン分解と糖新生を、コルチゾールは主に糖新生を促進する。
腎に作用する主なホルモンと作用部位
・バソプレシン:集合管(V2受容体、アクアポリン2)→ 水再吸収↑ ・アルドステロン:遠位尿細管後半〜集合管(ENaC、Na+/K+-ATPase)→ Na再吸収↑、K・H+分泌↑ ・心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP):集合管などでNa再吸収↓、糸球体濾過量↑ → アルドステロンと逆向きに働く ・PTH:近位尿細管でP再吸収↓・1α水酸化↑、遠位尿細管でCa再吸収↑ ・FGF23(線維芽細胞増殖因子23):骨細胞から分泌され、近位尿細管でP再吸収↓・1α水酸化↓
Pの再吸収に関わるホルモン
PTHとFGF23はPの再吸収を抑制して血中Pを下げる。一方、成長ホルモン(およびIGF-1)は近位尿細管でのP再吸収を促進するため、先端巨大症では血清P濃度が上昇する。副甲状腺機能低下症では、PTHの作用が不足してPが尿へ排泄されにくくなり、低Ca血症とともに高P血症を示す。
POINT
・グルカゴン:肝でグリコーゲン分解と糖新生を促進し、血糖を上げる。 ・インスリン:グリコーゲン合成を促進し、分解を抑制する(唯一の血糖降下ホルモン)。 ・バソプレシン:集合管のV2受容体→アクアポリン2→水再吸収↑。 ・アルドステロン:Na再吸収↑、K・H+分泌↑。 ・PTH:Ca再吸収↑、P再吸収↓(リン利尿)、活性型ビタミンD産生↑。原発性副甲状腺機能亢進症では高Ca・低P。
