右心は前、左心は後ろ―立体で捉える心臓解剖と弁を支える腱索の働き
第108回医師国家試験 B問題 第31問
国試問題にチャレンジ
心臓・脈管の構造と機能について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.左心系は右心系の左後方に位置する。
- b.健常成人の心膜液は200~300 mLである。
- c.Valsalva洞は大動脈弁直下の左室内に存在する。
- d.左冠動脈は房室結節の血流の主たる供給源である。
- e.房室弁に付着する腱索は心室収縮時に牽引される。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
心臓は長軸のまわりに回旋して胸腔内にあるため、右心系は前方、左心系は後方に位置し、胸骨の直後には右室が、最後部には食道に接する左房があります。正常の心膜液は50 mL以下で、心タンポナーデの発症は貯留量よりも貯留速度に左右されます。Valsalva洞は大動脈弁の直上(大動脈側)にあって冠動脈の起始部となり、弁直下の左室内は左室流出路です。房室結節枝は多くの人で右冠動脈から出るため、下壁梗塞では房室ブロックや徐脈に注意が必要です。心室収縮時には乳頭筋が収縮して腱索を牽引し房室弁の反転を防いでおり、その断裂は急性僧帽弁閉鎖不全症を招くため、解剖と生理を結びつけた理解が心筋梗塞の合併症や画像診断の判断に直結します。
解答・解説
正解はa, eです
心臓の立体的な位置関係、心膜腔、大動脈基部、冠動脈の支配領域、房室弁の支持装置という、循環器の基礎となる解剖・生理をまとめて問う問題である。
考え方
心臓は胸腔内で長軸が右後上方から左前下方へ向かい、さらに長軸のまわりに回旋した状態で置かれている。このため「右心系=右」「左心系=左」と単純に並んでいるわけではなく、右心系(右房・右室)は前方寄りに、左心系(左房・左室)は後方寄りに位置する。胸骨のすぐ裏に接しているのは右室であり、左房は心臓の最も後ろで食道に接している。 そのほか、心膜液の生理的な量(50 mL以下)、Valsalva洞の位置(大動脈弁の直上、大動脈側)、房室結節枝の起始(多くは右冠動脈)、腱索と乳頭筋の働き(心室収縮時に弁尖が心房側へ反転しないよう引き留める)を一つずつ確認すれば、正しい記述を2つ選べる。
選択肢考察
- ○a. 左心系は右心系の左後方に位置する。
心臓は回旋した状態で胸腔内にあるため、右心系が前方、左心系が後方に位置する。胸骨の直後に接するのは右室で、左房は心臓の最後部にあり食道と接する(経食道心エコーで左房や僧帽弁がよく観察できるのはこのためである)。大血管でも、右室から出る肺動脈弁は、左室から出る大動脈弁より前方・左方にある。したがって左心系は右心系の左後方にあるといえ、この記述は正しい。
- ×b. 健常成人の心膜液は200~300 mLである。
心膜腔(臓側心膜と壁側心膜の間)には、心臓の動きを滑らかにする潤滑液として健常成人でも少量の心膜液があるが、その量は15〜50 mL程度で、50 mLを超えない。200〜300 mLは明らかな心膜液貯留(心嚢液貯留)であり、心エコーで容易に描出され、穿刺吸引も可能な量である。貯留が急速であれば100〜200 mL程度でも心膜腔内圧が上がって心タンポナーデを起こしうる。一方、ゆっくり増えた場合は心膜が伸展して順応するため、かなりの量でもタンポナーデにならないことがある。
- ×c. Valsalva洞は大動脈弁直下の左室内に存在する。
Valsalva洞(大動脈洞)は、大動脈弁の3枚の弁尖それぞれの直上で大動脈壁が外側へふくらんだ部分であり、左室内ではなく大動脈側にある。左冠尖・右冠尖の上のValsalva洞からそれぞれ左冠動脈・右冠動脈が起始し、残りが無冠尖(冠動脈が出ない)である。大動脈弁の直下で左室内にある部分は左室流出路と呼ばれ、閉塞性肥大型心筋症で狭窄が生じる部位である。なお、Valsalva洞が拡張・破裂する疾患としてValsalva洞動脈瘤・Valsalva洞動脈瘤破裂がある。
- ×d. 左冠動脈は房室結節の血流の主たる供給源である。
房室結節を栄養する房室結節枝は、心臓後面の房室間溝と心室間溝が交わる部分(crux)付近から出る。約80〜90%の人は右冠動脈が後下行枝を出す右冠動脈優位型であり、その場合房室結節枝も右冠動脈から出る。左回旋枝から出るのは左冠動脈優位型の少数例に限られる。このため、右冠動脈閉塞による下壁梗塞では、房室ブロックや徐脈がみられやすい。洞結節枝も約60%が右冠動脈から出る。したがって、房室結節の主な血流源は右冠動脈である。
- ○e. 房室弁に付着する腱索は心室収縮時に牽引される。
房室弁(僧帽弁・三尖弁)の弁尖は、腱索という細い線維束で心室内の乳頭筋につながっている。心室が収縮して心室圧が心房圧を上回ると房室弁は閉じるが、高い心室圧に押されて弁尖が心房側へ反転(逸脱)してしまう恐れがある。これを防ぐため、心筋である乳頭筋も心室と同時に収縮して腱索を引っ張り、弁尖を閉鎖位置に保つ。したがって腱索は心室収縮時に牽引されており、この記述は正しい。心筋梗塞で乳頭筋が断裂したり、腱索が断裂したりすると弁尖が逸脱し、急性の房室弁逆流(急性僧帽弁閉鎖不全症など)となる。
心臓の位置関係のまとめ
・最も前方(胸骨の直後):右室 ・最も後方(食道に接する):左房 ・右縁をつくる:右房(胸部X線の右第2弓) ・左縁をつくる:大動脈弓、肺動脈、左心耳、左室(胸部X線の左第1〜4弓) ・心尖部:左室(左第5肋間・鎖骨中線付近)
心膜と心膜液
心膜は、心臓表面に密着する臓側心膜(心外膜)と、外側の壁側心膜からなる二重の袋で、その間の心膜腔に少量(15〜50 mL程度)の漿液がある。心膜液の貯留が問題になるのは量そのものよりも増える速さであり、急速な貯留ではわずかな量でも心タンポナーデを起こす。心タンポナーデでは頸静脈怒張、血圧低下、心音減弱(Beckの三徴)や奇脈がみられる。
冠動脈と刺激伝導系の血流
・洞結節枝:右冠動脈から約60%、左回旋枝から約40% ・房室結節枝:右冠動脈優位型(約80〜90%)では右冠動脈から ・His束・脚:主に左前下行枝の中隔枝から(右冠動脈からも一部を受ける) 下壁梗塞(右冠動脈閉塞)では洞性徐脈や房室ブロックが、前壁中隔梗塞(左前下行枝閉塞)では脚ブロックや高度房室ブロックが起こりやすい。
房室弁の支持装置
弁輪・弁尖・腱索・乳頭筋をまとめて弁複合体と呼ぶ。僧帽弁には前乳頭筋と後乳頭筋があり、後乳頭筋は右冠動脈(または回旋枝)の1本だけから血流を受けることが多いため、梗塞で断裂しやすい。
POINT
・右心系は前方、左心系は後方にある。最前部は右室、最後部は左房(食道に接する)。 ・生理的な心膜液は50 mL以下。タンポナーデになるかどうかは貯留の速さで決まる。 ・Valsalva洞は大動脈弁の直上(大動脈側)にあり、冠動脈の起始部である。弁の直下は左室流出路。 ・房室結節枝の多くは右冠動脈から出る → 下壁梗塞で房室ブロックが起こりやすい。 ・心室収縮時には乳頭筋が収縮して腱索を引き、房室弁が心房側へ反転するのを防ぐ。
