「予防」の名がついても一次とは限らない―対象者と目的で見抜く予防の3段階
第108回医師国家試験 B問題 第30問
国試問題にチャレンジ
一次予防に該当するのはどれか。2つ選べ。
- a.がん検診の受診
- b.難病患者への生活支援
- c.脳卒中予防のための減塩指導
- d.心筋梗塞既往者へのアスピリン投与
- e.性感染症予防のためのコンドームの使用
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
予防は疾病の自然史のどこに働きかけるかで3段階に分かれ、一次予防は健康な人の発症そのものを防ぐもの(減塩指導などの健康増進、コンドーム使用や予防接種などの特異的予防)、二次予防は無症状の段階での早期発見・早期治療(がん検診や健康診断)、三次予防は発症後の重症化・再発の防止と機能回復・社会復帰支援(再発予防の投薬、リハビリテーション、難病患者の生活支援)です。判断のコツは「対象者がすでに発症しているか」と「目的は何か」の2点を確認することです。循環器領域では再発予防を「二次予防」と呼ぶ慣習があるものの、公衆衛生学の区分では三次予防にあたる点に注意が必要です。また、どの疾患を基準にするかで分類が変わることがあり、ピロリ菌除菌や降圧治療は脳卒中や胃がんから見れば一次予防とみなせます。予防段階を正しく捉えることは、保健指導や患者説明の目的を明確にする臨床の基本となります。
解答・解説
正解はc, eです
予防医学では、疾病の自然史(健康な状態→発症前の段階→発症→進行→回復・障害・死亡)のどの段階に働きかけるかによって、予防を一次・二次・三次の3段階に分ける(Leavell & Clarkの考え方)。 ・一次予防:まだ病気になっていない人を対象に、病気の発生そのものを防ぐ。健康増進(生活習慣の改善、健康教育、栄養指導など)と特異的予防(予防接種、感染予防策、事故防止、職業病対策など)からなる。 ・二次予防:病気は始まっているが自覚症状がない、または軽い段階で見つけ出し、早期治療によって進行を防ぐ。健康診断、がん検診、スクリーニング検査などが該当する。 ・三次予防:すでに発症した病気について、重症化・合併症・後遺症・再発を防ぎ、機能を回復させて社会復帰を支える。リハビリテーション、再発予防の治療、患者の生活支援・就労支援などが含まれる。 各選択肢については、「その行為の対象者は誰か(健康な人か、未発見の病気をもつ人か、すでに診断・発症した人か)」と「何を目的としているか(発生を防ぐのか、早く見つけるのか、悪化・再発を防ぎ生活を支えるのか)」の2点で判断すると迷わない。この観点から、健康な人を対象に病気の発生を防ぐものを選べばよい。
選択肢考察
- ×a. がん検診の受診
がん検診は、症状のない人の中からすでに存在しているがん(またはその前がん病変)を見つけ出し、早期治療につなげることを目的とする。がんの発生自体を防ぐものではなく、早期発見・早期治療による進行防止であるため二次予防に該当する。なお、がんの一次予防としては禁煙、節酒、食生活の改善、B型肝炎ウイルスやヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチン接種、ピロリ菌の除菌などが挙げられる。
- ×b. 難病患者への生活支援
すでに難病を発症した患者を対象に、療養生活を支え、身体機能や生活の質(QOL)の低下を防ぎ、社会参加や就労を支援する取り組みである。病気の発生予防でも早期発見でもなく、発症後の機能障害・能力低下を防ぎ社会復帰を図るものであるため、三次予防に該当する。
- ○c. 脳卒中予防のための減塩指導
食塩の過剰摂取は高血圧の主要な原因であり、高血圧は脳出血・脳梗塞の最大の危険因子である。脳卒中をまだ発症していない人に減塩を指導して血圧上昇を防ぐことは、生活習慣の改善を通じて病気の発生を未然に防ぐ健康増進・健康教育にあたり、一次予防に該当する。わが国の食塩摂取目標量は、日本人の食事摂取基準(2025年版)で成人男性7.5g/日未満、成人女性6.5g/日未満、高血圧治療ガイドラインでは高血圧患者に6g/日未満とされている。
- ×d. 心筋梗塞既往者へのアスピリン投与
すでに心筋梗塞を発症した人に対して、抗血小板薬であるアスピリンを投与し、冠動脈内の血栓形成を抑えて心筋梗塞の再発を防ぐものである。公衆衛生学の予防段階の区分では、発症後の再発防止は三次予防に該当する。ただし循環器の臨床では、初発の予防を「一次予防」、再発の予防を「二次予防」と呼ぶ慣習がある(例:冠動脈疾患の二次予防)ため、用語の文脈に注意が必要である。いずれにしても、一次予防には当たらない。
- ○e. 性感染症予防のためのコンドームの使用
コンドームは性行為の際の粘膜同士の接触や体液の交換を物理的に遮断し、HIV感染症、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、梅毒などの性感染症への感染を防ぐ。まだ感染していない人が病原体への曝露そのものを防ぐ手段であり、特定の病気に対する特異的予防として一次予防に該当する。予防接種(HPVワクチン、B型肝炎ワクチンなど)も同じく性感染症の一次予防である。
予防の3段階と具体例
・一次予防(発生の防止) 健康増進:健康教育、栄養指導(減塩など)、運動習慣の指導、禁煙指導、節酒 特異的予防:予防接種、手洗い・マスク・コンドームなどの感染予防策、環境衛生の改善、労働衛生での有害物質対策(局所排気装置、保護具)、事故防止、ヨード添加塩やフッ化物応用 ・二次予防(早期発見・早期治療) 健康診断、特定健康診査、がん検診、新生児マススクリーニング、職場の特殊健康診断、接触者検診、早期治療 ・三次予防(悪化・再発防止、機能回復) リハビリテーション、再発予防の治療(心筋梗塞後の抗血小板薬など)、合併症予防、社会復帰支援、就労支援、患者会・難病患者の療養支援
紛らわしい点
・「予防」という言葉が付いていても、対象者がすでにその病気を発症していれば三次予防であることが多い。 ・健診で見つかった高血圧に対する降圧治療は、高血圧から見れば早期治療(二次予防)だが、脳卒中から見れば発症を防ぐ一次予防とみなすこともある。どの疾患を基準にするかで分類が変わる。 ・臨床医学では「二次予防=再発予防」という用法が一般的であり、公衆衛生学の区分とは異なる。国家試験の予防段階の問題では、公衆衛生学の区分(再発予防=三次予防)で答える。
ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ
集団全体の危険因子を少しずつ下げる働きかけ(例:食品の減塩化、たばこ税)をポピュレーションアプローチ、危険因子の多い人を選んで働きかける方法をハイリスクアプローチという。いずれも一次予防の戦略として用いられる。
POINT
・一次予防:発生の防止(健康増進・健康教育・栄養指導・予防接種・感染予防策)。 ・二次予防:早期発見・早期治療(健診・がん検診・スクリーニング)。 ・三次予防:悪化・再発防止と機能回復・社会復帰(リハビリテーション、再発予防、生活支援)。 ・判断のコツは「対象者がすでに発症しているか」と「目的」の2点。 ・臨床での「二次予防(再発予防)」と公衆衛生学での区分の違いに注意。
