過剰か、欠乏か―下垂体疾患の症候は「ホルモンの作用」から逆算せよ
第108回医師国家試験 A問題 第20問
国試問題にチャレンジ
疾患とその症候の組合せで正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.先端巨大症 ―― 睡眠時無呼吸
- b.中枢性尿崩症 ―― 低張性脱水
- c.Sheehan症候群 ―― 乳汁漏出
- d.Cushing病 ―― 筋力低下
- e.プロラクチノーマ ―― 不妊
対話形式の解説
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ドクターまとめ
下垂体疾患の症候は、各疾患で「どのホルモンが過剰か欠乏か」を決め、そのホルモンの生理作用から逆算すると正しく判断できます。先端巨大症では軟部組織の肥大による上気道狭窄で睡眠時無呼吸を、Cushing病ではコルチゾールの蛋白異化作用により近位筋優位の筋力低下を、プロラクチノーマではGnRH抑制を介した性腺機能低下により男女とも不妊をきたします。一方、中枢性尿崩症(AVP欠乏症)は自由水を失うため高張性脱水傾向となり、Sheehan症候群はプロラクチン欠乏による乳汁分泌不全が初期症状で、乳汁漏出とは逆の病態です。過剰症と欠乏症を「対」で整理しておくことは、内分泌疾患全般の症候理解と、臨床での的確な鑑別につながります。
解答・解説
正解はa, d, eです
本問は、視床下部・下垂体を中心とした内分泌疾患について、ホルモンの過剰または欠乏が体にどのような症候をもたらすかを問う問題である。正誤を判断するには、各疾患について次の2点を順に考えるとよい。 1. どのホルモンが「過剰」なのか「欠乏」しているのか。 2. そのホルモンの生理作用から、どのような症候が生じるか。 先端巨大症は成長ホルモン(GH)過剰、中枢性尿崩症はバソプレシン(抗利尿ホルモン:ADH)欠乏、Sheehan症候群は下垂体前葉ホルモンの欠乏、Cushing病は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)過剰を介したコルチゾール過剰、プロラクチノーマはプロラクチン(PRL)過剰である。このように整理すると、「ホルモンが足りない病態に過剰症状が組み合わされている」「水が失われる病態に対して脱水の種類が逆」といった誤りを見抜ける。
選択肢考察
- ○a. 先端巨大症 ―― 睡眠時無呼吸
先端巨大症は、主に下垂体のGH産生腺腫によりGHとその作用を仲介するインスリン様成長因子-1(IGF-1)が過剰になる疾患である。骨・軟骨だけでなく軟部組織も肥大し、巨大舌、咽頭・喉頭の軟部組織や粘膜の肥厚、下顎の突出などにより上気道が狭くなる。その結果、いびき、声の変化(低音化)、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)をきたしやすい。さらに呼吸中枢の調節異常による中枢性睡眠時無呼吸を伴うこともある。睡眠時無呼吸は先端巨大症の高頻度な合併症であり、組合せとして正しい。
- ×b. 中枢性尿崩症 ―― 低張性脱水
中枢性尿崩症では視床下部・下垂体後葉からのバソプレシン分泌が低下し、腎集合管での水の再吸収ができなくなる。そのため、薄い尿(低張尿)が大量に出る。体からは電解質よりも自由水が多く失われるので、血漿浸透圧・血清Na濃度は上昇し、生じる脱水は高張性脱水(水欠乏性脱水)である。通常は口渇による多飲で代償されるため血液濃縮は軽度にとどまることが多いが、視床下部の病変で口渇中枢も障害された場合や、意識障害などで自由に水を飲めない場合には著明な高Na血症を伴う高張性脱水となる。低張性脱水はNaの喪失が水の喪失を上回る状態(嘔吐・下痢で水だけを補った場合、副腎不全など)で起こるものであり、組合せとして誤りである。なお、中枢性尿崩症は近年、「アルギニンバソプレシン(AVP)分泌低下症」(AVP欠乏症)という名称に改められている。
- ×c. Sheehan症候群 ―― 乳汁漏出
Sheehan症候群は、分娩時の大量出血やショックにより、妊娠中に腫大して血流需要が高まっていた下垂体が虚血・壊死に陥り、下垂体前葉機能低下症をきたす病態である。プロラクチン分泌も低下するため、産褥期に乳汁が出ない(乳汁分泌不全)ことが初期の重要な症状となる。そのほか、無月経、恥毛・腋毛の脱落、易疲労感、低血圧、低血糖(ACTH・コルチゾール欠乏)、寒がり(TSH欠乏による甲状腺機能低下)などがみられる。乳汁漏出は高プロラクチン血症(プロラクチノーマ、ドパミン拮抗薬の服用、原発性甲状腺機能低下症など)でみられる症候であり、プロラクチンが欠乏するSheehan症候群とは逆である。
- ○d. Cushing病 ―― 筋力低下
Cushing病は、下垂体のACTH産生腺腫によってACTHが過剰に分泌され、副腎皮質からのコルチゾールが過剰になる病態である(コルチゾール過剰による症候群全体をCushing症候群と呼び、そのうち下垂体性のものをCushing病という)。コルチゾールは筋肉の蛋白質を分解(蛋白異化)してアミノ酸を糖新生に回すため、筋萎縮と筋力低下が起こる。特に大腿や上腕などの近位筋が障害されやすく、しゃがみ立ちや階段昇降が困難になる(ステロイドミオパチー)。低K血症を伴う場合は筋力低下がさらに増悪しうる。四肢が細くなる一方で体幹に脂肪がつく中心性肥満と合わせて、Cushing病の代表的な症候であり、組合せとして正しい。
- ○e. プロラクチノーマ ―― 不妊
プロラクチノーマはプロラクチンを産生する下垂体腺腫で、下垂体腺腫の中で最も頻度が高い。過剰なプロラクチンは視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の拍動性分泌を抑制し、その結果、黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌が低下して性腺機能低下症をきたす。女性では排卵が障害され、月経不順・無月経、乳汁漏出を呈し、不妊の原因となる(無月経・乳汁漏出症候群)。男性では性欲低下、勃起障害、精子形成障害をきたし、やはり不妊の原因となる。男性は症状が気づかれにくく、腫瘍が大きくなって視野障害などで発見されることが多い。組合せとして正しい。
下垂体前葉ホルモンの過剰症と欠乏症
・GH:過剰→先端巨大症(骨端線閉鎖後)・下垂体性巨人症(骨端線閉鎖前)。先端巨大症では手足の肥大、顔貌変化、巨大舌、睡眠時無呼吸、発汗過多、耐糖能異常、高血圧、心肥大、大腸ポリープなど。欠乏→小児では成長障害、成人ではGH分泌不全症(体脂肪増加、活力低下など)。 ・ACTH:過剰→Cushing病(中心性肥満、満月様顔貌、赤色皮膚線条、近位筋の筋力低下、高血圧、耐糖能異常、骨粗鬆症、易感染性など)。欠乏→続発性副腎皮質機能低下症(低血圧、低血糖、低Na血症。ACTHが低いので原発性と違い色素沈着はない)。 ・PRL:過剰→無月経・乳汁漏出・不妊、男性の性機能低下。欠乏→産褥期の乳汁分泌不全(Sheehan症候群など)。 ・LH/FSH:欠乏→無月経、二次性徴の欠如、性欲低下、恥毛・腋毛の脱落。 ・TSH:欠乏→続発性甲状腺機能低下症。
下垂体後葉ホルモン
・バソプレシン:欠乏→中枢性尿崩症(AVP欠乏症)。多尿(1日3L以上が目安)・口渇・多飲、低張尿、高張性脱水傾向。過剰→抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)で低Na血症。
脱水の分類
・高張性脱水(水欠乏型):水の喪失が主体。高Na血症、口渇が強い。尿崩症、発汗過多、飲水不能など。 ・低張性脱水(Na欠乏型):Naの喪失が主体。低Na血症、循環血液量減少による症状が目立つ。嘔吐・下痢後に水のみ補給、副腎不全、利尿薬など。
Sheehan症候群の典型的経過
分娩時大量出血→産褥期の乳汁分泌不全→無月経の持続→恥毛・腋毛の脱落、易疲労、低血圧、低血糖、低Na血症など。
POINT
・先端巨大症では軟部組織の肥大(巨大舌、上気道の肥厚)により閉塞性睡眠時無呼吸をきたしやすい。 ・中枢性尿崩症(AVP欠乏症)は自由水が失われるため、低張尿の多尿と高張性脱水(高Na血症)の傾向を示す。 ・Sheehan症候群は下垂体前葉機能低下症であり、プロラクチン欠乏による乳汁分泌不全が初期症状。乳汁漏出は高プロラクチン血症の症候である。 ・Cushing病ではコルチゾールによる蛋白異化で近位筋優位の筋萎縮・筋力低下をきたす。 ・プロラクチノーマではGnRH分泌抑制による性腺機能低下から、男女とも不妊の原因となる。
