含み声と喘鳴は窒息へのカウントダウン―急性喉頭蓋炎で「まず」やるべきこと
第107回医師国家試験 I問題 第50問
国試問題にチャレンジ
43歳の男性。2日前からの嚥下痛と呼吸困難とを主訴に来院した。含み声だが嗄声は認めない。胸部聴診で肺音は正常だが,喘鳴を認める。糖尿病に対し経口血糖降下薬を内服している。体温38.5℃。喉頭内視鏡像を別に示す。 まず行うべき対応はどれか。

- a.胃管挿入
- b.気道確保
- c.切開排膿
- d.自宅での安静指示
- e.副腎皮質ステロイドの吸入
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクターまとめ
発熱と強い嚥下痛に、嗄声を伴わない含み声と吸気性喘鳴(肺音は正常)が加われば、声門上の上気道狭窄を考え、喉頭内視鏡で喉頭蓋の発赤・腫脹を確認して急性喉頭蓋炎と診断します。急性喉頭蓋炎は数時間で窒息に至りうるため、呼吸困難や喘鳴があればまず気道確保を行い、挿管困難に備えて輪状甲状間膜切開・気管切開の準備を整えます。抗菌薬やステロイドの全身投与は重要ですが即効性はなく、気道確保の後または並行して行うもので、胃管挿入や切開排膿を先行させたり帰宅させたりしてはいけません。Hibワクチン普及後は成人例が中心で、糖尿病など易感染性の背景は重症化の危険因子です。口腔所見に比べて嚥下痛が強い患者で喉頭を観察する習慣と、治療より先に気道を守るという原則は、救急の現場で命を救う基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・2日前からの嚥下痛:飲み込むときの強い痛みで、咽頭から喉頭にかけての炎症を示す。 ・呼吸困難と喘鳴があり、胸部聴診で肺音は正常:下気道(気管支・肺)ではなく、上気道の狭窄が原因と考えられる。上気道狭窄の喘鳴は吸気時に目立つ(吸気性喘鳴、stridor)。 ・含み声(口の中に物を含んだようなこもった声)だが嗄声はない:声帯より上方の構造(咽頭・喉頭蓋・声門上部)の腫脹を示唆する。声帯そのものに病変があれば嗄声になるため、嗄声がないことは声門上の病変を考える手がかりになる。 ・体温38.5℃:感染性の炎症。 ・糖尿病で内服治療中:易感染性の背景で、重症化しやすい。 ・喉頭内視鏡像:喉頭蓋が発赤し著しく腫れ上がっている。
診断に至るプロセス
嚥下痛を来す疾患には急性咽頭炎、急性扁桃炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、咽頭癌などがある。口腔から見える咽頭所見が乏しいのに嚥下痛が強い場合は、喉頭・下咽頭の病変を疑い、内視鏡で観察することが重要である。本例では内視鏡で喉頭蓋の高度な腫脹を認め、発熱・嚥下痛・含み声・吸気性喘鳴という臨床像とあわせて急性喉頭蓋炎と診断する。
設問の考え方
急性喉頭蓋炎は、腫れた喉頭蓋が喉頭の入口をふさぎ、短時間で窒息に至りうる緊急疾患である。本例ではすでに呼吸困難と喘鳴という上気道狭窄の徴候が出ており、「まず行うべき対応」は、原因治療(抗菌薬・ステロイド)よりも先に、窒息を防ぐための気道確保である。
選択肢考察
- ×a. 胃管挿入
胃管は胃内容の吸引・減圧や、経口摂取できない場合の経管栄養に用いる。急性喉頭蓋炎では嚥下痛で食事がとれなくなることがあるが、それは気道の安全を確保してから考える問題である。気道が狭い状態で咽頭・喉頭を刺激すると、咳や嘔吐反射、分泌物の増加によりかえって気道閉塞を誘発しかねない。まず行う対応ではない。
- ○b. 気道確保
呼吸困難と吸気性喘鳴があり、上気道狭窄が進行している。急性喉頭蓋炎は数時間の単位で急激に悪化し窒息に至ることがあるため、最優先で気道を確保する。腫脹した喉頭蓋のため通常の経口気管挿管は困難なことが多く、ファイバースコープ下の挿管を試みつつ、失敗に備えて輪状甲状間膜切開や気管切開をすぐ行える体制を整えて実施する。気道確保と並行して、あるいはその後に、抗菌薬とステロイドの点滴静注を行う。
- ×c. 切開排膿
切開排膿は膿瘍に対する治療である。急性喉頭蓋炎で喉頭蓋膿瘍を形成した場合には行うことがあるが、第一に行う処置ではない。本例の内視鏡像はびまん性の腫脹が主体であり、何より呼吸困難がある状況では気道確保が先決である。気道確保前の口腔・咽頭操作は気道閉塞を悪化させる危険がある。
- ×d. 自宅での安静指示
急性喉頭蓋炎は急速に進行して窒息死に至りうる疾患であり、呼吸困難や喘鳴が出ている本例を帰宅させることは論外である。気道狭窄の徴候がない軽症例であっても、原則として入院のうえで気道を厳重に観察し、急変時に直ちに気道確保できる環境で治療する。
- ×e. 副腎皮質ステロイドの吸入
副腎皮質ステロイドは喉頭蓋の浮腫を軽減する目的で用いられ、全身投与(点滴静注)が中心であるが、ネブライザー吸入が併用されることもある。ただし効果の発現には時間がかかり、すでに呼吸困難と喘鳴を呈している本例では、気道確保より優先すべき処置ではない。
急性喉頭蓋炎の概要
・喉頭蓋を中心とした声門上部の急性細菌感染症で、喉頭蓋の高度な腫脹により上気道閉塞を起こす。 ・起炎菌:かつては小児のインフルエンザ菌b型(Hib)感染が代表であったが、Hibワクチンの普及で小児例は激減し、現在は成人例が中心である。成人ではインフルエンザ菌のほか、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌なども原因となる。糖尿病など易感染性の背景は重症化の危険因子である。
症状
・激しい咽頭痛・嚥下痛(口腔から見える咽頭所見に比べて痛みが強いのが特徴)。 ・含み声(hot potato voice)、流涎(唾液を飲み込めない)、発熱。 ・吸気性喘鳴、呼吸困難。重症例では前かがみに座って顎を突き出す姿勢(sniffing position、tripod position)をとり、臥位になれない。
診断
・喉頭ファイバースコープ(内視鏡)で喉頭蓋の発赤・腫脹を直接確認する。 ・頸部側面X線写真では、腫大した喉頭蓋が親指のように見える thumb sign が有名である。 ・小児では舌圧子による咽頭診察や啼泣が急激な気道閉塞を誘発しうるため、不用意な診察は避け、気道確保の準備を整えた上で観察する。
治療
1. 気道の確保:呼吸困難・喘鳴など気道狭窄の徴候があれば最優先。気管挿管が難しい場合は輪状甲状間膜切開や気管切開を行う。 2. 入院のうえで経過観察:気道狭窄の徴候がなくても急変の可能性がある。 3. 抗菌薬の点滴静注:第三世代セフェム系(セフトリアキソンなど)が用いられることが多い。 4. 副腎皮質ステロイドの全身投与:浮腫の軽減を目的とする。 5. 喉頭蓋膿瘍を形成した場合は切開排膿を考慮する。
POINT
・嚥下痛・発熱・含み声・吸気性喘鳴(嗄声なし)→ 急性喉頭蓋炎を疑い、内視鏡で喉頭蓋の腫脹を確認する。 ・口腔内所見が軽いのに嚥下痛が強い場合は喉頭の観察を忘れない。 ・窒息の危険があり、呼吸困難・喘鳴があればまず気道確保(挿管困難時は輪状甲状間膜切開・気管切開)。 ・治療は入院管理、抗菌薬とステロイドの全身投与。帰宅させてはならない。 ・頸部側面X線の thumb sign が特徴的。
