「いつ発症したか」と「出血したことはあるか」―t-PAを使う前に必ず聞くべき2つの質問
第107回医師国家試験 I問題 第35問
国試問題にチャレンジ
急性期の虚血性脳血管障害の患者にt-PA〈tissue plasminogen activator〉治療を行う上で聴取すべきことはどれか。2つ選べ。
- a.発症の時刻
- b.最終飲食の時刻
- c.高血圧症の既往
- d.歯科治療の既往
- e.頭蓋内出血の既往
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
t-PA静注療法は閉塞した脳動脈の血栓を溶かし、ペナンブラを救う治療ですが、最大の合併症は症候性頭蓋内出血です。そのため問診では「時間の条件(発症4.5時間以内)」と「出血リスク(禁忌となる既往)」を最優先で確認し、発症時刻と頭蓋内出血の既往が必須の聴取事項となります。発症時刻は発見時刻ではなく最終健常確認時刻とし、非外傷性頭蓋内出血の既往は時期を問わず禁忌です。高血圧は既往ではなく投与時の血圧(降圧後も185/110 mmHg以上なら禁忌)で判断し、歯科治療や最終飲食の時刻は適否を左右しません。薬の作用と危険から逆算して聞くべきことを導く考え方は、救急外来での迅速な脳卒中診療の基本となります。
解答・解説
正解はa, eです
t-PA(組織型プラスミノゲンアクチベータ、国内ではアルテプラーゼ)の静脈内投与は、閉塞した脳動脈の血栓を溶かして血流を再開させる治療である。閉塞した血管の灌流域で、まだ壊死に至っていない可逆的な部分(ペナンブラ)を救うことが狙いである。一方、最大の合併症は症候性頭蓋内出血であり、投与しない場合に比べて数倍に増えることが知られている。 したがって、t-PAを使うかどうか決めるときに問診で最優先で確かめるべきことは次の2点に集約される。 1)時間の条件を満たすか:発症から4.5時間以内に投与を開始できるか。 2)出血の危険が高すぎないか:禁忌にあたる既往歴(非外傷性頭蓋内出血、最近の脳梗塞・手術・外傷・消化管出血など)がないか。 問診ではこれらを短時間で確かめ、並行して血圧測定、血液検査(血糖・血小板・凝固能)、頭部CTまたはMRIを行い、適応を判断する。本問では、時間の条件にかかわる「発症の時刻」と、時期を問わず絶対的な禁忌となる「頭蓋内出血の既往」を選ぶ。
選択肢考察
- ○a. 発症の時刻
t-PA静注療法は発症から4.5時間以内に開始できる例が対象である(国内承認時の2005年は3時間以内だったが、2012年に4.5時間以内へ拡大された)。時間内であっても開始が早いほど転帰がよいため、発症時刻は適応判断にも治療を急ぐ理由にも直結する。注意点として、「発見された時刻」は発症時刻ではない。起床時に気づいた場合や目撃者がいない場合は、最後に症状がないことを確認された時刻(最終健常確認時刻)を発症時刻とみなす。なお現在の指針では、発症時刻が不明でも、MRIで拡散強調画像(DWI)に病変がありFLAIR画像では目立たない所見(DWI-FLAIRミスマッチ)があれば、発症4.5時間以内と推定して投与を考慮できるとされている。
- ×b. 最終飲食の時刻
t-PAの適応・禁忌・慎重投与のいずれの項目にも、食事や飲水の時刻は含まれていない。気管挿管や全身麻酔下での処置が必要になる場合には、誤嚥の危険を評価するために確認することがあるが、t-PA投与の可否を決める事項ではない。
- ×c. 高血圧症の既往
t-PA投与で問題になるのは、高血圧症という既往歴ではなく「投与する時点の血圧」である。降圧治療を行っても収縮期血圧185 mmHg以上または拡張期血圧110 mmHg以上が続く場合は禁忌となる。逆に、高血圧症の既往があっても、降圧によりこの値未満にコントロールできれば投与できる。既往を聞くこと自体は診療上有用だが、適応判断のために必須の聴取事項ではない。
- ×d. 歯科治療の既往
禁忌にあたる既往歴として挙げられているのは、非外傷性頭蓋内出血、1か月以内の脳梗塞、3か月以内の重篤な頭部・脊髄の外傷や手術、21日以内の消化管出血・尿路出血、14日以内の大手術や頭部以外の重篤な外傷、薬剤への過敏症である。一般的な歯科治療の既往はここに含まれず、t-PAの適否を決めるために聴取すべき事項ではない。
- ○e. 頭蓋内出血の既往
非外傷性の頭蓋内出血(脳出血やくも膜下出血など)の既往は、それがいつであったかにかかわらずt-PA静注療法の禁忌である。出血を起こした素因(高血圧性の小血管病変、脳アミロイド血管症、脳動脈瘤、脳血管奇形など)が残っている可能性が高く、血栓溶解薬により致命的な再出血を招くおそれがあるためである。頭部CTで現在の出血は確認できるが、過去の出血は画像だけで判断できないことも多く、問診で必ず確認する。
t-PA静注療法の主な禁忌(適応外)
既往歴:非外傷性頭蓋内出血(時期を問わない)、1か月以内の脳梗塞(一過性脳虚血発作は除く)、3か月以内の重篤な頭部・脊髄外傷または手術、21日以内の消化管出血または尿路出血、14日以内の大手術または頭部以外の重篤な外傷、薬剤過敏症。 臨床所見:くも膜下出血(疑いを含む)、急性大動脈解離の合併、出血の合併(頭蓋内・消化管・尿路・後腹膜・喀血)、降圧治療後も収縮期185 mmHg以上または拡張期110 mmHg以上、重篤な肝障害、急性膵炎、感染性心内膜炎。 血液所見:血糖50 mg/dL未満または400 mg/dL超、血小板10万/μL以下、抗凝固療法中や凝固異常でPT-INR 1.7超・APTTの明らかな延長、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の最終服用から4時間以内。 画像所見:広範な早期虚血性変化(early CT sign)、正中構造の偏位などの圧排所見。
治療の流れ
来院後は問診・神経診察(NIHSS:脳卒中の重症度を点数化する評価尺度)・採血・画像検査を並行して進め、来院から投与開始まで可能な限り短時間(目標60分以内)で行う。アルテプラーゼは0.6 mg/kg(最大60 mg)を用い、10%を急速静注、残りを1時間で点滴する。国内の用量は欧米の0.9 mg/kgより少ない。投与後24時間は抗血栓薬を控え、血圧と神経症状を厳重に観察する。
関連事項
主幹動脈閉塞例では、t-PAに加えてカテーテルで血栓を取り除く機械的血栓回収療法が行われ、発症から6時間以内が基本で、画像で救える組織が残っていれば最大24時間まで適応となりうる。
POINT
・t-PA静注療法は発症4.5時間以内が原則。発見時刻ではなく最終健常確認時刻を発症時刻とする。 ・非外傷性頭蓋内出血の既往は時期を問わず禁忌。 ・高血圧は既往歴ではなく投与時の血圧(185/110 mmHg以上が持続すれば禁忌)で判断する。 ・問診では「時間」と「出血リスク」を最優先で確認する。
